※ 騎士舎の門を出て数ブロック。 路地の奥に灯りが見える酒場を通り過ぎ、更に進んだ先は行き止まりだった。 石壁に、レオンが手を翳す。 淡い橙の光が広がり――次の瞬間、壁が静かに揺らいだ。 重厚な木の扉が、そこに現れる。レオンが取っ手に手をかけ、押し開けた。 ヴィクトルも続いた。 中は、魔法石の灯りに照らされた静かな酒場だった。 柔らかな光が揺れ、外の喧騒とは切り離された空気が流れている。 奥行きはそれほどない。 壁に沿うように、磨かれた長いカウンターが一本。 客はレオンとヴィクトル二人だけだった。 背後で、扉が静かに閉まる音がしてヴィクトルが振り返る。そこには、先ほどまであったはずの扉はなく、ただの石壁があるだけだった。 「麦酒とつまみはチーズでいいですか?」 「ああ……こんな店があるんだな」 レオンの隣に座ったヴィクトルは、周囲を見渡した。 「ここは魔術師達の行きつけです。といっても、祝いの場でしか訪れませんけどね」 「祝いの場にしては狭いが……」 「今は狭いですよ」 レオンは少し笑った。それ以上は言わなかった。 (今は、という言葉が少し引っかかったが) ヴィクトルは聞かなかった。それよりも気になることがある。 「ミラは来たことはあるのか?」 「ミラさんは……引きこもりという範疇を超えた方なので、顔は出しません。それに、彼女はお酒が嫌いです」 (酒が嫌いか。いいことを聞いた) ヴィクトルはしっかりと頭に叩き込んだ。 「呑めない、という可愛い理由ではありません。お酒で頭がぼんやりして研究のことが考えられないからです」 ミラらしかった。 「ミラのことがやけに詳しいな」 単刀直入過ぎるヴィクトルの言葉に、レオンはグラスに口を付けたまま苦笑した。 「ミラは生活レベルが標準以下です。魔術塔に入る前も魔術のことしか頭になかったので基本家から出ませんでした。それに加えて長の奥様がそれはそれは甘やかしたので、何も言わなくとも食事が出てきて、お風呂にも入れてもらえて、好きな時に寝て起きるという生活を過ごしたことで、一人では何もできない子供が出来上がりました」 「それがミラです」とレオンは麦酒を飲み干した。 「アルバ魔術師長は止めなかったのか?」 「長は奥様には反抗できないのです。惚れていらっしゃい
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