Lahat ng Kabanata ng 好きじゃないです、と言ったら王命で結婚させられました~恋を知らない魔術師は執着騎士に囚われる~: Kabanata 51 - Kabanata 60

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第3章:王命【009】

 ※ ※ ※ 魔術塔から研究室に続く石畳の小径を、ミラはレオンと並んで歩いていた。 朝は急いで研究室へ赴き、すぐにでも取り掛かりたいミラにしてはゆっくりとした歩調だった。「最近、エルンスト副団長殿が顔を見せませんね。体調でも崩したのでしょうか」 首を傾げたミラにレオンは呆れ顔を浮かべた。「ミラさんが振ったからでは?」「私は正直に言ったまでなのですが。そんなにショックを受けることでしょうか?」 不思議そうな表情を浮かべるミラを見て、レオンは眉間の皺を深く刻んだ。他人の機微にここまで疎いとは……どうすれば理解してくれるのだろう、とレオンは思案した。 実はあの場にレオンもいた。と言っても、距離はあったが――ミラとヴィクトルの会話を聞き取れる範囲内にはいた。 まさかあの場で、ヴィクトルがミラに告白するとは思っていなかった。それ以前に、二人はレオンから見てもいい雰囲気のように見えたのだが……。(あそこまで派手に振られたら、普通は立ち直れないよな) 風が吹けばどこかに飛んでしまいそうなほど、打ちひしがれたヴィクトルをレオンは何とも言えない感情で見つめた。少し目を離した隙に彼の姿は消えていたが、無事に帰れただろうか。 「あそこで嘘を吐いたら、それこそ不誠実では?」 普段抜けているくせに、正論を言うミラ。 「確かに、その通りですけど……」 レオンはそう呟いて、大きな溜息を吐いた。 「嘘を吐けとは言っていません。ただ、物事には言い方というものがあるでしょう。……それに、ミラさんにとって副団長殿は、それほどまでに『好きじゃない』相手なのですか?」 レオンの問いかけに、ミラは足を止め、丸眼鏡の奥の黒い瞳を瞬かせた。「お友達、ですから。それに、高額な治癒魔術を受けられない市民のためにポーションを広めたいという私の話を、あの人は誰よりも真剣に聞いて、協力すると言ってくれまし
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第3章:王命【010】

 ※ 騎士舎の空気は死んでいた。 いつもは輝いている金色の髪が、今はまるで光を失った砂漠の砂のように、くすんでいる。 広い部屋の片隅で、ヴィクトルは無心に、グレンが溜め込んでいた書類を読み、機械的にサインを走らせていた。 他の団員たちは、そんな彼を完全に遠巻きにして見守っている。あの中庭での、大勢の前の盛大なフラれっぷりを目撃してしまった彼らは、どう話しかけていいかも分からず、ここ最近ずっとヴィクトルを腫れ物のように扱っていた。 ぱっと見は普段と変わらず仕事をこなしている。訓練場でも剣はいつも通り振るっていた。だが、その青い瞳からは完全に光が失われ、覇気だけがどこかへ消えていた。 その様子を、グレンは相変わらず私物化したデスクに両足を乗せたまま、じっと見つめている。 「団長、口元が笑っています」  隣に立つリジェットに冷ややかに指摘され、グレンは「すまん」と慌てて手の平で口元を隠した。 まさか、ヴィクトルが熱烈に口説いているという噂の『伯爵令嬢』が、自分が妹のように可愛がっている魔術オタクのミラだったとは、グレンも夢にも思っていなかったのだ。あそこまではっきりと、一筋の慈悲もなく振られて可哀想だとは思う反面、面白くて仕方がなかった。「まさか、副団長がミラさんを好きだなんて、誰も想像してなかったですよ……」 フィンがしみじみと呟くと、リジェットは小さく息をついて書類に目を落とした。「まあ、水と油、月とすっぽん、騎士と魔術師。おまけにあの性格ですし、普通は合いませんよね」 辛辣な言葉を口にしつつも、ミラに喜んでもらおうと王宮で彼女の為に食べ物を調達し、寄付集めまでしたヴィクトルを知っているだけに、リジェットの心中は少なからず同情的だった。すると、グレンが思い出したようにリジェットに視線を向ける。「そういやリジェット、お前オルスと別れたの? 先週一緒に飯行ったら『知らなかった……』ってめちゃくちゃ落ち込んでたぞ」「私の話はどうでもいいじゃないですか。それより、今は副団長です」
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第3章:王命【011】

「そうですね。少し酒でも入れば、副団長も気が晴れるでしょう」 いい案だ、とリジェットは頷いた。 「じゃあ、他の団員にも声かけてみます!」 フィンは元気よく手を上げる。 「団長の奢りです」「おい」 リジェットの容赦ない追加ルールに、グレンは思わず足を床に下ろした。しかしフィンもここぞとばかりに便乗する。「団長は高給取りですし!」「……ちっ、仕方ねぇなぁー」 グレンが財布の紐を緩めると、「今夜は団長の奢りだー!」と大声で叫んだ。 周囲の騎士たちの間で「おお、さすが団長!」と静かな歓声が上がり、わいわいと活気が戻り始める。「よし、じゃあフィン。ヴィクトルを誘ってこい」「俺がですかっ!?」 グレンの言葉にフィンは飛び上がって拒絶の顔を浮かべた。あの死んだ目の副団長に近付く、地雷源を横切るようなものである。「俺は金を出す人」とグレンが言えば、「私は店を用意する人です」とリジェットが冷たく続ける。「俺が一番下っ端……!」 フィンは己の階級の低さを呪いながら、泣く泣くヴィクトルの席へと足を向けた。消沈しているはずなのに、最強の騎士が放つ威圧感だけは健在だった。フィンは生唾を飲み込み、デスクの横に並んだ。「あの……副団長」 びくっと、ヴィクトルの肩が僅かに動いた。「今夜、みんなで呑みに行きませんか。団長の奢りですので……」 ヴィクトルは無言だった。 ゆっくりと書類から顔を上げ、そのまま廊下へ続く扉だけを見つめた。まるで何かを待ち続けているかのように、身動ぎ一つしない。「あの…………」 声をかけても反応してくれず、フィンは戸惑い、助けを求めるようにグレンを振り返った。 その時、ヴィクトルの視線の先にある扉が、がちゃりと開いた。
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第3章:王命【012】

「エルンスト副団長殿。お久しぶりです」 箱を抱えたまま、ミラは律儀にぺこりと頭を下げた。「最近、朝会いませんね。何故ですか?」(いや、どの口が言ってるの!?!?) フィンだけでなく、遠巻きに見ていた団員たち全員の心の叫びが騎士舎内に木霊した。あれだけ派手に振っておいて、なぜ毎朝のストーカー紛いの挨拶が継続されると思っているのか。「散歩はやめたのですか?」 コテンと首を傾げるミラ。 その、いつもと変わらない無防備な仕草を見て、ヴィクトルがハッと弾かれるように目を開いた。死んでいた瞳に、僅かに光が戻る。「あ、いや、やめたわけじゃないんだが……」 まるで悪い夢から醒めたかのような様子のヴィクトルに、ミラはさらに追撃をかける。「副団長殿が部屋の隅で消え入りそうなほど生気を失っている、とレオンから聞いたのですが、本当ですか?」(本人にそれ聞いちゃうの!?!?) フィンは滝のような冷や汗を流した。 レオンにいたっては「余計なことを言うな」と言いたげに盛大に片手で顔を覆っている。「落ち込んではいるが……」 ヴィクトルが消え入るような声で事実を認めると、ミラは満足そうに頷いた。「そうですか。そんな副団長殿にとっておきの物をご用意しました。レオン」 ミラに名を呼ばれたレオンは、ポーションが入った箱を近くのデスクに置き、ミラの抱えていた箱を一個だけ代わりに受け取る。 残る一つの箱を大事そうに抱え直したミラは、ヴィクトルのデスクを指さした。「デスクに置いていいですか?」「あ、ああ……」 ヴィクトルが小さく頷くと、ミラは慎重に箱を置いた。そして、躊躇いなく箱の蓋を開ける。 横から気になって恐る恐る箱を覗き込んだフィンが、直後に「ひっ……!」と短い悲鳴を上げて飛び退いた。 木箱の中には、湿った土とともに、丸々太った大量のミミズ
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第3章:王命【011】

  本気で生のミミズを食べようと考えている副団長の肩を、フィンが涙目で激しく揺さぶる。 その騒ぎを他所に、ミラはレオンからもう一つの箱を受け取ると、そのままグレンの仮デスクへと歩み寄った。「お、おお。どうした、ミラ」「グレン団長にも用意してます。こちらは少し痩せたミミズですが、食料として十分に食せます」「おい、俺は食べんぞ! いらん!」 差し出された箱の中身を一瞥し、グレンは全力で両手を振って拒絶した。 すると、ミラは目に見えてショックを受けたように、あからさまに傷ついた顔になる。「そんな顔をしても無駄だ。俺は優秀だからな、戦地で飢餓に陥ることは絶対にない。だからいらん!」 グレンが冷たく突き放すと、ミラは今にも泣き出しそうなほど悲しげに眉をひそめた。その様子を見た金髪の副団長が、デスクを叩いて勢いよく立ち上がる。「俺がもらおう!」 ヴィクトルの力強い声に、ミラはパッと一瞬で花が咲いたような笑顔になった。「はい!」 ミラは嬉々としてヴィクトルの元に戻り、デスクの上にミミズの箱を二箱、綺麗に並べて置いた。「調理方法は、まず土を吐かせたあとに――」「あー! あー! 聞こえないです!!」 フィンは全力で耳を塞ぎ、これ以上の猟奇的なレシピの拝聴を拒絶した。 一通りの用事を終えたミラは、「では」とレオンを伴って出口へと向かう。そして、騎士舎の重い扉の前に立つと、ふと何かを思い出したように振り返った。「ヴィクトル。週末、私空いてます」 丁寧にお辞儀をして、今度こそバタンと扉を閉めて出て行くミラとレオン。 二人が立ち去った後の騎士舎には、再び静寂が訪れた。 ――しかし、その空気は先ほどまでの「死の空気」とは明らかに異なっていた。 ゆっくりと顔を上げたヴィクトルの顔には、完全に生気が、それどころかいつもの眩いばかりの輝きが戻っている。「今夜、俺も呑みに行きます!」 満面の笑みで、机の上のミミズが入った木箱を大事そうに持ち上げ、そう宣言した
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第3章:王命【012】

 ※ ※ ※「ミラとの交際を認めるわけにはいかない。おい、聞いてるか! ヴィクトル!」 騎士団長が自分の部屋の前でわめいている――が、ヴィクトルは気にせず鏡の前で前髪を触っていた。 時には、前髪を上げて額を見せたり、降ろしたりを繰り返すもいいセットが決まらない。 ドンドン! とドアを叩かれる。 壊れる勢いで叩かれていても、ヴィクトルは無視し続けた。(本気だったら、ドアは蹴破られるだろうし) というのが彼の見解である。「白と黒、どっちがいいだろう。ミラの色に合わせて、黒いシャツを着ていくか……? しかしそれだと狙った感があるな……」  恋する乙女もとい、恋する筋肉男は、姿見の前で一人ファッションショーを始めた。「やはり、俺達は親友になったばかりだ。彼女の色にしよう」 親友認定はされておらず友人である――だが、ヴィクトルにとったら、どちらもそう変わらないのだ。 彼はシャツに袖を通す。 明るい髪に黒いシャツは良く映えていた。 着替えを終えたヴィクトルは、デスクの脇に置かれた木箱へと歩み寄った。ミラからもらったミミズたちである。彼は愛おしそうに箱を覗き込み、専用の餌をサラサラと入れていく。 本当は、ミラに教わった通りに今すぐ調理して食すつもりだった。しかし、それを聞いた団員たちから、それこそ文字通り総出で涙ながらに止められてしまったのだ。 酒の席で、フィンに泣きそうな顔で懇願される始末だった。『これ以上、副団長殿に元気になられたら困ります! まだ人間を保ったままでいて下さい!』 本気で食べる気だったヴィクトルとしては、そこまで怯えられては無理に通すわけにもいかない。「せっかくミラが俺のために特別に寄こしてくれたミミズだというのに、この価値が分からないのか……」 土の下へと潜っていく丸々としたミミズたちに「留守中、良い子にしているんだぞ」と声をかけた。「待たせて
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第3章:王命【013】

 「グレンがヴィクトルと話したいそうです」 ミラは小さく首を傾げてそう言った。「お前、さっき部屋で俺を完全に無視したな?」 不敵な笑みを浮かべたまま、グレンが腕を組んでヴィクトルを睨みつける。騎士舎からここまで先回りして待ち伏せしていたらしい。「許可を得る必要性を感じなかったもので……」「感じろよ! これでも一応団長だぞ!」 グレンの抗議を綺麗に聞き流しながら、ヴィクトルの視線は完全にミラへと釘付けになっていた。 今日の彼女は、いつも着ている野暮ったい魔術師のローブ姿ではなかった。ややサイズが大きいのか、少し着せられている感はあるものの、上品な仕立ての私服を身に纏っている。「ミラ、その格好は……とてもよく似合っている」「ありがとうございます。今日は黒髪のままにしてみました。服は今回もレオンの妹の服をお借りしました」 自分の黒髪を少し指先で触りながら淡々と答えるミラ。いつもより少しだけ大人びて見える彼女の姿に、ヴィクトルの胸が高鳴る。「今日、折角だから喫茶店の後に服を見に行こう。ミラに似合うものを俺が選びたい」「私はローブの方が動きやすくて好きですが……研究の邪魔にならないものなら、見てみてもいいです」「おい、俺を無視するな!」 二人の世界に置いてけぼりにされたグレンが再び割り込んでくるが、ミラは今度はヴィクトルの胸元に視線を向けた。「ヴィクトルの服の色は黒ですね」「ああ、そうなんだ!」 自分の狙い通り、ミラが黒いシャツに気付いてくれた。ヴィクトルはパッと分かりやすい笑顔を浮かべる。しかし、ミラの口から出たのは予想外の分析だった。「グレンの色ですね。よっぽどお好きなんですね」「違う」「舞踏会の時も、グレンの黒が好きだと仰ってました」「そうなの?」 グレンが面白そうに眉を上げる。「違う。俺が好きなのはミラの――」 言いかけて、ヴ
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第3章:王命【014】

 ※ 王宮の馬車に生まれて初めて乗ったミラは、その構造に舌を巻いた。「……やはり、外部からの衝撃をほぼ完全に無効化する防御障壁が何重にも重ねられています。これは、魔術塔の守備術師長が組み込んだ術式ですね。魔術式が酷く複雑で、簡単には解けないようになっています。素晴らしいです」 王宮の馬車に乗り込んだ瞬間から、ミラは至極感動した様子で車内のあちこちを凝視し、熱心に語り続けていた。一般のそれとは違い、万が一の襲撃に耐えられるよう最高峰の防衛魔術が精緻に組み込まれている。ミラにとっては、移動しながら観察できる最高級の研究対象だった。「それだけではありません。あの引いている馬にも身体強化の術式が施されています。あの御者席まで行って、直接駆動陣を見せていただきました」 つい先ほどまで、御者の男のすぐ隣まで身を乗り出して、興奮気味に馬の足元を覗き込んでいたミラ。中に戻ってきてからもその興奮は冷めやらず、目の輝きは増すばかりだったが、対面の一人からは、実につまらなそうな生返事が返ってくる。「はいはい、すごいな。俺にはさっぱり分からん」 グレンは肘をつき、窓の外を眺めながら適当に聞き流していた。 一方で、もう一人の同乗者であるヴィクトルは、ミラの専門的な話を遮ることなく、静かに耳を傾けてくれている。しかし、その青い瞳にはいつもの覇気がなく、時折、何とも言えない不安げな色が強く滲み出ていた。 ――普段のミラなら、その違いに気付かない。瞳の色が青でも、それが不安そうだとか楽しそうだとか、区別はつかない。否、区別はつくかもしれないが、気にも留めない。 だが、ヴィクトルの、いつもと違う雰囲気だけは悟ることができた。「ヴィクトル、何か心配事でも?」「えっ、いや、何も心配なことはない」 ミラに正面から覗き込まれ、ヴィクトルは少し動揺したように視線を揺らした。「そうですか。元気なさそうでしたので」 普段のミラであれば「そうですか」の一言で終わるところだった。しかし、彼は『お友達』であり、自分の研究の話を真剣に聞いてくれる大切な存在
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第3章:王命【015】

「おい、俺には?」 その様子を横目で見ていたグレンが、当然のように「俺も糖分が足りねぇ」と手を差し出してきた。 ミラは何も言わず、チョコレートがいくつか入ったガラスの小瓶を、無言でグレンの目の前へと突き出す。 グレンは何の疑いも持たず、その瓶の中にガサツに手を突っ込んだ――その瞬間。 バチバチバチッ!!!「いてぇ!?!? なんだこれ!?!」 激しい紫色の電撃がグレンの指先を直撃し、彼は叫び声を上げて手を引っ込めた。「一日二個以上チョコレートを取ろうとすると、ビリビリに襲われる術式が組み込まれているんです」「この術式……レオンの野郎かっ! って、ミラ、お前知ってて黙ってたなっ!?」 涙目のグレンを前に、ミラは相変わらず無表情のまま、すっと座席から立ち上がった。「もう一度、馬を見てきます」 グレンの追及から逃れるように、ミラはそそくさと扉を開け、再び御者席の方へと避難していく。 吹き抜ける風が、レオンの妹から借りた少し大きめの服の袖をバタバタと揺らす。ミラの視線は、相変わらず規則正しく路面を蹴る馬の脚と、そこに施された身体強化の術式に向けられていた。けれど、その脳内はさきほど車内で起きた別のことで占められていた。 ――チョコレートを受け取った、ヴィクトルの顔。 さっきまで、何か大きな不安に押し潰されそうに死んでいた彼の青い瞳が、驚いたように丸くなったこと。 それから、まるで白い大輪の花が咲くようにパッと明るくなって、端正な頬をほんのりと薔薇色に染めたこと。 宝物でも扱うみたいに両手で大事そうにそれを受け取り、本当に嬉しそうに、愛おしそうに自分を見て微笑んだ、あの顔。「……?」 ミラは、自分の胸のあたりにそっと手を当てた。 なんだろう、これは。 お気に入りの魔術式が綺麗に解けたときとも、新しい素材を発見したときとも違う。胸の奥の、一番深いところに、じんわりとした温かいものが静かに流れ込んできて、満たされていくような感覚。
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第3章:王命【016】

 ※ 王宮の王の謁見場所に続く渡り廊下を歩きながらも、ミラの興奮は冷める気配がなかった。壁面や柱の随所に施された古代の防壁魔術を感知しているらしく、丸眼鏡の奥の瞳をキラキラと輝かせながら、早口でその術式構造を解説している。「……なるほど、ここはただの通路ではなく、侵入者の魔力を自動で減衰させる複層陣が組み込まれているのですね! 実に見事な連動性です」「はいはい、すごいですねー」 その隣を歩くグレンは、完全に魂の抜けた棒読みで応じている。いつもなら、ヴィクトルがその分の熱量を持ってミラの言葉を一つ残さず拾い上げ、真摯に相槌を打ってやるところだった。彼女が嬉しそうに知識を披露する姿を見るのは、ヴィクトルにとっても至福の時間だからだ。 だが、今の俺にはどうしてもそれができなかった。(この胸のざわつきは、一体何だ……) 胃の奥を冷たく掴まれるような、嫌な予感がずっと消えない。 もしこれが、ただの大型の魔物討伐案件ならそれでいい。だが、それだけで国王である兄上がこの面々をわざわざ直接呼び出すだろうか。騎士団の最高戦力である団長と副団長、それに加えて魔術師を呼び出すなど、あまりにも過剰であり、どこか不自然だ。 そもそも、単なる武力解決で済む話なら、グレン一人を呼び出すればいい。桁外れの戦闘力があれば、大抵の有事は力技でどうにでもなるからだ。それなのに、副団長である自分と、さらにミラまで指名している。(兄上は一体、何を考えている) ヴィクトルが不安に眉を顰めていると、ついに謁見の間の重厚な大扉が大きな音を立てて左右へと開き始めた。 視界が開けた先、一段高い玉座には、威厳に満ちた佇まいでこちらを見下ろす兄上――国王陛下が鎮座していた。 そして、その玉座の傍らには、すでに先客の姿があった。 静かに佇んでいたのは、魔術師長アルバだった。「ふぉっふぉっふぉっ、お前ら遅いぞい」 長い髭を触りながら、緊張感のない声で笑った。「師匠もいらしていたのですか」 ミラがアルバの姿を捉え、トットットッと足音を立てて彼の元へ駆け寄った。彼女の優先順位はやはり自分はまだ下の方だ……と人知れず落ち込んでいると玉座の兄と目が合った――彼は、ニヤついていた。(なんだ、あの顔……?) 嫌な汗が背中に流れる。 経験上、兄があのような表情をする時はろくなことはなかった。「
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