騎士団の中庭に、静寂が落ちた。 昼下がりの訓練時間だった。 本来なら剣の打ち合う音や、騎士たちの怒号が響いているはずなのに、ヴィクトルには何も聞こえなかった。 人が、大勢いた。 よりによって、こんな場所で言ってしまったと、告げた後になってようやく気付く。 けれど、もう遅かった。 「俺は、ミラが好きだ」 王弟であり、騎士団副団長でもあるヴィクトル・ルーカス・エルンストが、たった一人の女へ向けて告げた言葉は、あまりにも真っ直ぐで、飾り気がなかった。 本当は、告白をする予定ではなかった。 彼は彼なりに、告白をするタイミングを見計らっていたがそれは今ではなかった。「ではいつだ?」と訊かれてしまえば、返答には詰まるが、人が大勢いる今ではなかったはずだ。 ただ、普段は表情が控えめなミラから笑顔を向けられたことで、気付けば彼女への想いを吐露していた。 目の前のミラは、黒い瞳でヴィクトルを見上げた。 首を傾げ、眼鏡がずれる。 彼女はそれを気にすることなく、ゆっくりと瞬きを繰り返した。 そして彼女もまた、真っ直ぐに答えた。 丸眼鏡の奥の瞳には、迷いがなかった。 悪意もない。 嘲笑もない。 ただ―― 「あなたのこと、好きじゃないです」 正直だった。 ――ああ。 ヴィクトルは理解した。 これは、断られたのだと。 騎士団副団長ヴィクトル・ルーカス・エルンスト、三十二歳。 生まれて初めて女に告白し、そして、人生で初めて振られた瞬間だった。
最後更新 : 2026-05-24 閱讀更多