♦ ♦ ♦ 詰所。 グレンが嫌々ながら公務に赴き、留守のために酷く静かだ。 情報通のフィンが騎士数人を連れて訓練所へ向かったため、この場にいるのはリジェットとヴィクトルのみだった。 リジェット近衛騎士は、ヴィクトルの傍にいて三年ほど経つ。 グレン団長とは違い、馬鹿がつくほど真面目で、自分に厳しく、他人にも厳しい男だ。 そんなヴィクトルは、デスクに両肘をつき、組んだ手の前で難しい顔をしていた。 口元を隠すように組まれた指の奥から、鋭い青い瞳だけが静かにリジェットを射抜いている。 顔がいい男に見つめられても、リジェットの胸はときめかない。 整った顔立ちも鍛え上げた体格も、彼女の好みではなかった。 だからこそ、実力もあり、なおかつ顔に惑わされない自分が副団長付き騎士に選ばれたのだと理解している。「……何か、お話でも?」 真顔のまま睨みつけてくる男前に、リジェットは訊ねた。「ああ。パートナーを解消する」 リジェットはヴィクトルの言葉の意図が分からず、眉間に皺を寄せたまま瞬きを繰り返した。「来週の舞踏会のことだ」 「……何言ってるんですか」 ♦ ♦ ♦ 西の空が燃えるような橙色に染まり、街並みに長い影が伸び始める頃、ヴィクトルとリジェットは魔術塔の前にいた。 ……なぜか、集合時間の三十分も前から。 当然、付き合わされたリジェットは、所在なげにそびえ立つ塔を見上げながら、心の中で盛大に溜息を吐いていた。 いくらなんでも早すぎる。「副団長。魔術師は時間通りにしか来ませんよ」 リジェットは、隣に立つ上司に視線を向けた。 今日のヴィクトルは、いつもとは違う格式高い黒の正装に身を包んでいる。 元々見栄えのする大柄な体躯と金髪のせいで、黙っていればどこぞの王子様かという輝きを放っているが、その顔はいつも通り愛想がない。 そんなに早く出発して、一体何をするつもりなのか。 (……もしや、王宮で伯爵令嬢と逢引の約束でもしているのだろうか) リジェットはそんな勘繰りを抱きつつ、言葉を続けた。 「彼らはマイペースですから」 「知ったような口をきくんじゃない」 ヴィクトルは前を見据えたまま、低く冷ややかな声で応じる。 (恋に盲
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