柊霧華(ひいらぎ きりか)は大暁(たいぎょう)の国で最も寵愛を受ける姫であった。ある不慮の事故により蓮池へと転落した彼女が次に目を覚ますと、そこは現代の世界であった。怯えた子鹿のように恐れおののく彼女を拾い上げたのは、帝都を牛耳る桐生グループの御曹司、桐生牧野(きりゅう まきの)であった。牧野は霧華を邸宅へと連れ帰り、電灯の使い方やスマホの扱い方を教え、見たこともない異国の料理を与えた。不慣れゆえに彼女が引き起こすあらゆる騒動を、彼はすべて寛大に受け入れ、甘やかした。肌を重ね、霧華が情欲に溺れて意識を失いかけているとき、彼はいつもその耳たぶを噛み、かすれた声で囁いたものだ。「俺の可愛いお姫様、お前は本当に……たまらないな」三年の月日が流れた。現代文明について何も知らなかったいにしえの姫君は、いつしか彼なしでは生きていけなく、か弱き蔓草のような存在へと変わっていた。しかしある日、霧華はテレビのニュースで偶然、ある天体現象の予報を目にする。七つの星が一直線に並ぶ「七星直列」の奇観が七日後に現れるという。それこそが、彼女が元の世界へと帰る唯一の好機であった。霧華の心は激しく乱れた。故郷へ帰りたい、自分のあるべき王朝へ戻りたい。しかし、牧野と離れることも名残惜しかった。彼はあれほど良くしてくれた。あるいは、彼に相談し、共に古い時代へ来てくれるよう説得できるのではないだろうか。密かな期待と巨大な不安を胸に、霧華は牧野が頻繁に訪れる会員制の高級クラブへと向かった。彼と話し合うためである。個室の扉を叩こうとしたその瞬間、霧華の全身の血液を凍結させるような会話が聞こえてきた。「牧野さん、ぶっちゃけ皆気になってるんですよ。あんた、ずっと雨寧さんのことが好きだったんじゃないんですか?なんであの素性の知れない霧華って小娘と三年間も一緒にいるんです?」雨寧?霧華はその名を知っていた。沢渡雨寧(さわたり あまね)、牧野の母の親友であり、彼より十歳も年上の女性である。牧野がその名を口にするとき、その瞳にはいつも特別な色が宿っていた。牧野は……沢渡雨寧が好きなのだろうか。その事実が氷の楔のように霧華の心臓を刺し貫き、脳裏に激しい耳鳴りが響いた。霧華がその衝撃を消化しきれぬうちに、別の男の戯れ気味な声が響いた。「お前は何も
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