Semua Bab 年下彼氏に、5年も恋愛練習相手にされていた: Bab 1 - Bab 10

22 Bab

第1話

関係を隠しながら、佐伯智哉(さえき ともや)と付き合って5年。智哉は若さと体力を持て余しているせいか、いつでもどこでも梓を激しく求めた。トイレに行っただけの江崎梓(えざき あずさ)なのに、ふたたびその柔らかな腰を智哉に掴まれ、洗面台に押し付けられる。梓は潤んだ瞳を細め、甘く息を漏らした。「智哉、もう少し、やさしくして……」口角を上げた智哉は、梓に顔を寄せ、耳たぶに軽く噛みついた。その声は、梓の理性をかき乱す。「梓さん、もう我慢できなくなっちゃったの?今、始まったばかりだよ、ん?」押し寄せる快感に言葉も出ず、梓はただその感触に身を任せた。この5年、数えきれない場所で愛を交わしてきたはずなのに、それでも収まることを知らない彼の欲求には、今も圧倒されるばかりだった。「年下の男は体力が違う」そんな話を、梓は身をもって思い知らされていた。しかも智哉は妙に器用で、次から次へと梓を翻弄してくる。智哉は細めた瞳で梓の腰をなぞり、離そうとしない。「梓さんの腰って、なんでこんな柔らかいの?いつも、触るだけで、自分が抑えられなくなっちゃうんだ。他の男に触れさせるなんて許さないからね。梓さんは一生、俺だけのものだよ?」独占欲を隠そうともしない智哉に、梓は微笑みかけ、キスを落とす。「分かってる。私はずっと智哉のものだから」ひとしきり愛し合った後、智哉はついに満足したらしい。乱れたベルトを整えるその横顔には、またいつもの自由奔放な余裕が戻っていた。帰ろうとする智哉に、梓は声をかける。「私、来月で30歳になるんだけど、ずっと実家から結婚はまだかってせかされてて……智哉が私たちのこと公にしたくないって知ってるから、付き合ってることは言ってない。だから、縁談とかもいっぱい持ってこられてるの。ねえ、智哉。あなたはどう考えてる?」足を止めた智哉は、梓に軽くキスを落としてやさしく微笑んだ。「あと少し待っててくれる?今、プロポーズの準備をしてるからさ」不安だった梓の心も、その言葉で安心を取り戻す。智哉が廊下の奥へと消えていくのを見届けた梓は、服を整えると、再び食事会に戻るため、個室へと歩き出した。個室の前まで戻ってくると、中の盛り上がっている笑い声が聞こえてきた。「智哉、ずいぶん派手にやったな。声、全部こっちまで聞こえてたぞ?でも、
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第2話

梓の両親は、自分の娘が素直に承諾したことに驚いた。「本当なのね?それなら、いつ帰ってくるの?式はこっちで用意する?それともあなたが一度戻ってきて、お相手と相談した方がいい?」もう考える気力も残っていなかった梓は、適当に答える。「お母さんたちに任せる。こっちのことを片付けたらすぐに帰るから」梓の両親は娘の疲弊を察し、必ず帰ってくるようにと釘を刺してから、電話を切った。部屋の中に再び静寂が訪れる。梓は身体を起こし、バスルームへと向かった。シャワーを浴びてリビングに戻ると、ソファに座る智哉と目が合った。「なんで何も言わずに帰ってきちゃったの?」胸が苦しくなった梓は、視線を落とし、赤くなった目を隠す。「携帯の充電が切れちゃったから、帰ってきただけ」適当な言い訳だったが、智哉は疑う様子もない。彼はそのまま手を伸ばして梓を引き寄せると、さっとバスローブの紐をほどいた。そうはさせまいと思った梓は、伸びてきた智哉の手を掴んだ。「食事会の場所で、もうしたでしょ?まだ数時間しか経ってないんだけど?」だが、智哉は彼女の拒絶に気づいていないらしく、梓の手を掴み返して指を絡める。「何時間も、だよ?梓さんの顔を見ると、抑えが利かなくて。だって、俺、梓さんのこと大好きだから」計算された甘い言葉を聞いても、梓は皮肉としか思わなかった。大好きだって?本命のために練習してるんでしょ?もうこの5年間、数えきれないほど体を重ねてきた。それでも、まだ足りないというのか?キスをされそうになった梓は智哉から顔をそらし、淡々と言った。「そう?じゃあ、もしもう二度と私に触れられなくなったとしても、私のことを好きでいてくれるの?」ようやく違和感を覚えた智哉が、不思議そうに問い返す。「梓さんは俺のことが好きだし、俺だって梓さんのことが好き。お互い想い合ってるんだから、触れられないなんてことないでしょ?」お互い想い合ってる?笑わせないでほしい。梓は何も答えず、口元をふっと歪めて話題を変えた。「冗談。帰りに雨に降られて少し具合が悪いから、先に休ませて」顔色が悪い梓を見て、智哉もそれ以上は強要しなかった。梓の額に軽く口づけを落とすと、抱きかかえて寝室へ運ぼうとする。だがその時、テーブルの上にあった智哉の携帯が鳴った。梓
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第3話

点滴が終わると、梓は智哉に支えられながら駐車場へと向かった。駐車場に到着するなり、芽衣の姿を目にした。芽衣を見るやいなや、智哉は咄嗟に梓から手を離した。「芽衣、どうしてまだ帰ってないんだ?」答えようとした芽衣だったが、梓の存在に気づき、さっと少し顔を曇らせた。「相談したいことがあったんです。智哉先輩、そちらの方は……」自分たちの関係は公にしていなかったので、智哉もいつものように答える。「姉ちゃんの親友。具合が悪くなったみたいだから、俺が送ってきたんだ」智哉の答えを聞いた梓の胸は、何かに締め付けられるように苦しくなった。この数年間、どうして関係を隠し続けるのか理由が分からなかった。最初は姉の佳乃を気にしてのことだと思っていた。だが、5年間も多くの人を騙してまで隠し通していた本当の理由を、梓はこの瞬間に悟った。彼はただ、芽衣に知られたくなかっただけらしい。梓は唇を噛み締め、静かに言った。「はじめまして。江崎梓です」その言葉を聞いてようやく笑顔を取り戻した芽衣が自己紹介をし、智哉に本題を切り出した。「帰国した私のために、友達が食事会を開いてくれるんですけど、先輩もよかったらどうかなって思いまして!それに、梓さんも!この機に、仲良くできたら嬉しいです」断ろうとした梓だったが、智哉がその隙も与えず快諾してしまった。開けられた車のドアを見て、梓は黙って乗り込む。道中、智哉は絶え間なく話題を見つけては、芽衣と昔の話で盛り上がった。「先輩、未だに苺飴を常備してるんですか?高校の文化祭のとき、緊張でピアノが弾けないって私が言ったら、雨の中わざわざ買いに走ってくれましたよね。あれから会うたびに、必ず2粒くれるようになって……」「あ、このフィギュア!前に私がラインで好きって言ったキャラクターですよね?智哉先輩も買ったんですか!」「先輩、その香水、とっても良い香りです!男の子がつけてたらときめくって何気なく話したのを、使ってくれてたんですね……」その横で梓は静かに聞いていた。いつもマイペースだと思っていた智哉だが、本気で惚れた相手には恋する少年のような姿を見せるらしい。バックミラー越しにちらりと見ると、智哉は耳まで赤くなっている。これだけ時間が経っても、まだときめくものなのか?まあ、無理もないのかも
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第4話

その言葉を聞いた瞬間、朦朧としていた智哉の意識が、一瞬にしてはっきりした。智哉がはっと目を開けると、すぐそこには梓の険しい顔があった。自分が何かを言っていたことは覚えているが、内容を思い出せず、「梓さん、さっき言ってたこと気にしないでね。もう酔っ払って、自分でも何言ったか覚えてないからさ」と言うしかなかった。するとすぐに、遠くから名前を呼ばれたので、智哉はなだめるように梓に何度かキスをし、おぼつかない足取りでその場から去っていった。智哉の姿が消えるのを見届けてから、梓は静かに立ち上がり、トイレに駆け込んだ。個室の中でじっと立ち尽くす。足が痺れるまでそうしていたとき、廊下から響いてきた足音で我に返った。扉を開けようとした時、自分の名前が聞こえた。「江崎さんは?急に帰っちゃうなんてさ。智哉先輩が芽衣ちゃんの代わりにお酒を飲んだのを見て、嫉妬したのかな?」「分かんない。まあ、別にどうでもいいじゃん。だって、智哉先輩があんなおばさんに惚れるはずないんだから」芽衣が自分を蔑んでいるのを聞いて、梓は拳を強く握りしめた。梓が中にいることを知らない彼女たちは、無遠慮に続ける。「てか、聞いた話なんだけど。あの人、智哉先輩のお姉さんの友達ってだけじゃなくて、今までずっと智哉先輩と付き合ってたらしいよ。でも芽衣ちゃん、安心して。あの女はただの恋の練習相手で、遊んでるだけみたいだから。三十路前のおばさんが、あんな智哉先輩と一緒にいるなんて、恥ずかしいよね」「そんなの知ってるよ。だって、智哉先輩、私を守るために、ナイフで刺されたこともあるんだよ?それで、死にそうだったのに、意識を取り戻したとき最初に心配したのは私のこと。自分の命を危険に晒すぐらい、私のこと大好きな智哉先輩が、あんなおばさん相手にするわけないんだから」「じゃあ、芽衣ちゃんはどうなの?昨日も智哉先輩が空港まで迎えにきてくれたんでしょ?それに、わざわざ誕生日のパーティーも企画してるみたいだけど、もしそこで告白されたらどうするつもり?」芽衣は勝ち誇ったように笑った。「まあ、智哉先輩次第かな」水を流す音とともに、外の二人は笑いながら遠ざかっていった。掌に深く刻まれた爪の跡を見て、梓は力なく皮肉な笑みを浮かべた。バーを出た梓は、タクシーで自宅に戻った。一晩休息を
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第5話

その言葉を耳にした瞬間、梓の中で何かが崩れ落ちた。胸がえぐられるように痛み、呼吸をするだけで鋭い痛みが走る。それからまもなくして、芽衣が緊急手術室へと運ばれた。すると智哉の瞼がゆっくりと閉じられ、その手がベッドの横に力無く垂れ落ちた。心拍数のモニターが耳障りなアラームを響かせる。居合わせた友人たちは気が動転し、どうにかしてくれと梓の体を激しく揺さぶった。一筋の望みをかけ、梓は震える手で、深津市の知人へと電話をかける。以前、叔父が盛沢市で外科医として働いていたことを思い出したのだ。今は一線を退いているが、名医であることには変わりない。話を聞いた知人は二つ返事で快諾し、叔父を呼び戻し手術の準備を整えておくから、今すぐに患者を移送するように、と言ってくれた。医師や看護師が即座に動き始めた。智哉を再び救急車へ乗せ、処置を続けながら病院へと運んだ。10分後、智哉は救急治療室へと運ばれていった。梓は一晩中、手術室の外で立ち尽くしていた。思考は停止し、唇は噛みしめすぎて血が滲んでいる。夜が明けて、ようやく手術室のランプが消えた。「成功しましたよ」院長からその報告を受けたとき、梓は体の力がすべて抜けていくのを感じた。長い安堵の息とともに、足から力が抜け、目の前が真っ暗になった。翌日の昼、梓が目を覚ますと、看護師がちょうど点滴を抜いているところだった。「お連れ様は無事ですよ。集中治療室を出ましたから、安心してくださいね」梓は手首を押さえ、智哉の病室を確認すると、ふらつく足取りでベッドから降りる。智哉の病室の前まで辿り着いたとき、中から言い争う声が聞こえてきた。「智哉、芽衣ちゃんは無事だって言ってるだろ。なのに、なんでわざわざ彼女の病院に転院しようとするんだ?ようやく危篤状態から抜けたばかりなんだぞ。お前に、何かあったらどうするんだよ!」「そうだぞ。昨晩、お前の命を救うために、梓さんがどれだけいろんなところに電話をかけてくれたか。自分勝手な真似はやめろ。芽衣ちゃんだって容態は落ち着いてるんだから、何日かしたら会いに行けばいいだろ!」しかし、友人たちの懸命な説得は、智哉の耳には届かなかった。「そうはいかない。事故の瞬間、俺が庇ったとはいえ、芽衣だって相当な重傷なんだよ。自分の目で見て確かめない
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第6話

なるほど……芽衣は、彼自身の命よりも大切な存在だったらしい。梓は欲しかった答えが聞けた。そっと手を引き、なんとも言えない感情を飲み込むと、無理やり笑みを浮かべる。「そうね。転院したいなら、そうすればいいよ。でも佳乃には一応電話しておくから。何かあって、彼女が悲しむのは見たくないから」そう言い捨てると、梓は背を向け病室を出た。ドアが閉まる直前、智哉の焦った声が聞こえた。「転院はしない!梓さん、姉ちゃんには言わないで。姉ちゃんには、知られたくないから」何を知られたくないというのだろう。怪我のこと?それとも自分たち二人の関係だろうか?しかし、梓は知りたくもなかったし、もうどうでもよかった。結局、梓は佳乃に電話をかけなかった。佳乃は海外旅行中だったし、くだらないことで邪魔をしたくなかったから。代わりに世話係を二人雇い、智哉の身の回りの世話をさせることにした。たまに、世話係が報告してくることがあった。「江崎さん、佐伯さんは今日もまた江崎さんの居場所を聞いてきましたよ。それに、江崎さんが怒っているのかどうかも」梓は「そう」とだけ返す。昼食の後、智哉の様子を見に行ったが、病室には誰もいなかった。ちょうど片付けを終えた看護師が教えてくれた。「患者様は、午後手続きを済ませて、盛沢市市立病院に転院されましたよ」誰もいなくなった部屋を見て、梓は自嘲気味に口角を上げた。携帯を開き、ここ数日彼から送られてきていたメッセージを見つめる。【梓さん、退屈だよ。話し相手になってよ】【もう3日も会っていないよね。寂しい?】【機嫌直してよ。退院したらプレゼントを買ってあげるからさ】芽衣の存在を知らなければ、梓はこれを愛ゆえの甘えだと勘違いしていただろう。だが、彼が本気で愛する女性に向ける眼差しを見た今となっては、もう自惚れることはない。家に帰った梓は不動産屋に連絡し、マンションを売りに出すことにした。それからの数日間、6、7組の買い手が内見にやってきた。早く手放したかったので、価格を大幅に下げる。買い手と話がつき、契約を交わしたところに、ちょうど智哉が戻ってきた。不動産屋の担当者を見た彼の瞳に、驚きの色が浮かんだ。「梓さん、家を売るの?」隠す必要もないため、梓は頷く。すると智哉
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第7話

会場に戻ると、人々が悲鳴を上げながら逃げ回り、カオスな状況になっていた。胸騒ぎを覚えた梓が、人の波に逆らって会場へ戻ると、智哉が男に殴りかかっていた。男は顔が腫れ上がるほど殴られているのに、なおも必死にわめき散らしている。「さっきお前に電話をかけてきたあの女、俺も海外にいた頃に何度か関係を持ったことがあるぜ。派手な女でな。留学生の男たちともずいぶん噂になってたぞ?今日お前に殴り殺されたって構わない。でも、これが事実なんだよ証拠ならある。スマホの中に写真も残ってるからな」差し出された携帯を見て、智哉は怒りで顔を真っ赤にし、額には青筋が浮かんでいた。彼が震える手で携帯を奪おうとした時、駆け込んできた芽衣の声が響いた。「智哉先輩!」振り返り、芽衣を見つめる智哉の目には、複雑な感情が入り混じっている。隠しきれない動揺と、男の言葉を信じまいとする葛藤、そして深い絶望が垣間見えた。地面に押さえつけられたままの男は、芽衣を見て興奮した。「こいつだ!こいつの携帯のアルバムを開いてみろ。パスワードはこいつの誕生日だ。中身を見れば、全部嘘じゃないって分かるはずだからな。ベッドの上でのこいつに、純粋なんて言葉は一番似合わねえ」男を見た芽衣の顔から、一瞬にして血の気が引いた。芽衣は智哉の腕にしがみつき、必死に取り繕う。「違うんです、智哉先輩。写真は無理やり撮られたものなんです!昔しつこく言い寄られて一度付き合った時、飲み物に薬を混ぜられて……」「馬鹿言うなよ。お前、喜んで抱かれてたんじゃねえか。動画の中の自分の姿見てみろよ。それでもまだ、無理矢理されたなんて言えるのか?」我慢の限界に達した智哉は、椅子や酒瓶を掴み、男に投げつけた。割れたガラスが男の目に突き刺さり、血が吹き出す。男が頭を抱えながら、悲鳴を上げた。智哉は真っ先に芽衣を胸に抱き込み、目を隠した。「大丈夫だよ、芽衣。あとは俺が何とかするから。こんな汚いものは二度と世に出さないから、安心して」そう言って、智哉は男の携帯を踏み潰すと、酒をかけ、火をつけた。火はみるみるうちに燃え広がり、携帯を跡形もなく焼き尽くす。少し離れた場所で、梓はその光景を黙って見守っていた。「芽衣、大丈夫だ。俺があいつを刑務所に入れてやるからな。嫌な夢だと思って忘れよう。これ
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第8話

盛沢市での最後の5日間、梓は病院で過ごした。その間、智哉からは一度も連絡がなかった。退院当日になってようやく、梓が入院していたことをどこからか聞きつけたらしく、智哉が慌ただしく駆けつけてきた。包帯が巻かれた彼女の頭を見て、智哉は申し訳なさと心配を滲ませた表情で、すぐに言い訳を始める。「梓さん、あの時は焦ってたから、病院に運ばれたなんて知らなくて……その怪我、どうしたの?」詳しく説明するのも面倒だったため、梓は「逆恨みかなんかで、シャンパングラスで殴られたの」と簡潔に伝えた。智哉は一瞬呆然とし、すぐ瞳に怒りの火を灯した。「誰にやられたの?そんな奴、俺が殺してやる!」梓が目を伏せ、あの日彼が立ち去った後に起きた出来事を話そうとした矢先、芽衣が病室に飛び込んできた。「梓さん、また具合が悪くなったって聞きました。大丈夫ですか?」芽衣を見た梓は、言いかけた言葉を飲み込み、淡々と答える。「かすり傷よ。もうすぐ退院するから」二言三言話した後、看護師に呼び出され、智哉は退院手続きへと向かった。梓が荷物を片付けていると、芽衣の顔から笑みがさっと消え、冷酷な眼差しで梓を睨みつけてきた。「もう智哉先輩がいなくなったんですから、被害者ぶるのをやめたらどうですか?今日は言いたいことがあって来たんです。智哉先輩は、高校からずっと私のことを想ってくれているんです。だから、あなたが入り込む余地なんてないので、無駄なことはやめてくださいね?」かぶっていた仮面を脱いだ芽衣を見て、梓の心もなぜだか軽くなる。一切揺らぎのない、穏やかな梓の声。「その話なら知ってるし、あなたと争うつもりもないから」「争うつもりもない?じゃあ、なんでいつまでも智哉先輩のそばにいるんですか?まさか、智哉先輩があなたに本気だとでも思ってるんですか?あなたみたいに、男に取り入ってのし上がろうとする女なんて、今まで何人も見てきたんですから!それに、先輩だって、もうあなたに飽き飽きしているはずですよ?」その無遠慮な言葉を聞き、梓は思わず眉間にしわを寄せ、問い返した。「じゃあ、海外では好き放題遊んでおきながら、帰国した途端に清純ぶってるあなたは何なの?清純派の仮面をかぶった腹黒女?それとも男を手玉に取る計算高い女?」過去のことに触れられた芽衣は、表情を一変させ
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第9話

一方その頃の病院。智哉が芽衣を連れて検査を重ねた結果、医師はカルテを握り締め、困り果てた表情で眉を顰めていた。「佐伯さん。桜井さんの体の数値はどれも正常で、全く問題ありません」智哉の顔から表情が消え、その声は氷のように冷たくなる。「どこも悪くないと言うなら、なぜまだ意識が戻らないんですか?」その鋭い眼差しに気圧されつつも、医師は言葉を選びながら言った。「医学的な見地からは、桜井さんの体に異常は見当たりません……だから、意識が戻らない原因としては……心の問題か……単に眠っているだけかもしれません」「眠っている?」智哉は鼻で笑い、苛立ちをその顔に滲ませる。「寝たふりをしているとでも言うんですか?」その迫るような気迫に圧倒され、医師は慌てて否定した。「い、いえ、そういうことではありません!ただ、検査の結果には、何も異常がないのは事実でして……」智哉は医師を無視し、病室へと戻った。ベッドサイドに腰を下ろし、血の気のない芽衣の顔をじっと見つめる。彼は丸一日芽衣を見守り続け、携帯の通知音が鳴ろうとも、見ることさえなかった。夕暮れ時、芽衣がゆっくりと瞳を開けた。「智哉先輩……」弱々しく、今にも消えてしまいそうな声。智哉はすぐに寄り添い、優しく声をかける。「芽衣、やっと目を覚ましたんだな。気分はどう?どこか辛いところはある?」芽衣は首を横に振り、瞳を赤く潤ませた。「大丈夫です……でも、少し目眩がして……先輩、ずっとここにいてくれたんですか?」智哉は芽衣の手を優しく握り、心配そうな瞳で見つめる。「当たり前だろ?こんなに目を覚まさなかったお前から、離れられるわけがないんだからさ」芽衣は目に涙を溜め、声を詰まらせた。「智哉先輩は本当に優しいです……どうやって感謝を伝えたらいいのか……私、分かりません」智哉は微笑み、芽衣の頬に伝う涙を指で拭った。「何馬鹿なこと言ってるんだよ。芽衣はゆっくり休んでて。何か食べるものを買ってくるから」そう言うと、智哉は食堂へ行き、温かいシチューをテイクアウトしてきた。そして、そっと芽衣の口に運ぶ。数口食べたところで芽衣は彼の手を押し返し、申し訳なさそうに言った。「智哉先輩、一日中私のそばにいてくれたから、疲れてますよね。もう休んでください。私はもう大丈夫ですから」確かに疲労が溜まっていた智哉は
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第10話

智哉は言いようのない焦燥感に襲われた。何か大切なものが手からすり抜けていくような、それでいて引き留めることのできないもどかしさが、彼を支配する。「智哉先輩、どうかしたんですか?」後ろから芽衣が心配そうに声をかけてきた。智哉ははっと我に返ると、慌てて携帯をしまい、無理矢理笑みを浮かべた。「何でもないよ。仕事の連絡が入ったから、ちょっと対応してくる」芽衣は頷くと、どこか寂しそうな表情を浮かべる。「わかりました。お仕事頑張ってくださいね」智哉は「ああ」と短く言い残すと、そのまま病室を後にした。しかし、彼は会社へは向かわず、いつもの会員制バーへと車を走らせた。店内の照明は薄暗く、しっとりとした音楽が流れている。カウンターに座った智哉は、次から次へとブランデーを煽った。友人たちもすぐに集まってきて、軽口を叩く。「よう、智哉。珍しいな。芽衣ちゃんの看病じゃなかったのか?」智哉は何も答えず、ひたすらにグラスを空にした。友人の一人が智哉の肩を叩き、ニヤつきながら言った。「おい、そんな芽衣ちゃんに構ってて、梓さんにバレないのか?」智哉の動きが一瞬止まった。すると、彼はポケットから携帯を取り出し、梓から送られてきた例のメッセージを開き、友人たちに見せる。一同がのぞき込み、途端に笑い声が沸き起こった。「へぇ、梓さんに見つかったって?説明の手間が省けて、ちょうどよかったじゃねえか」「そうだな。だってお前、梓さんのことなんて、何とも思ってないんだろ?それに、明日は芽衣ちゃんの誕生日なんだから、いっそ告白でもしちまえよ!」「いいじゃん!ずっと狙ってたんだし。長年の願いがやっと叶うな!」仲間たちの声を聞きながら、智哉の胸中には言いようのない苛立ちが募っていた。彼は酒を飲み干し、虚ろな目を彼らに向ける。「どうしたんだよ、智哉?まさか本気で梓さんに惚れてるとか言うのか?」察しのいい友人が小声で尋ねた。智哉は震える指先で、グラスを握りしめる。否定しようと口を開いたが、どうしても言葉が出てこない。梓さんのことが好き?あり得ない。自分が好きなのは、高校の時からずっと芽衣だけ。梓さんなんか……ただの練習相手でしかないんだから。それなのに、別れを告げられた今、なぜここまで胸が乱れるのか。なぜ彼女からの別れの
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