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第3話

Auteur: すずめ
点滴が終わると、梓は智哉に支えられながら駐車場へと向かった。

駐車場に到着するなり、芽衣の姿を目にした。

芽衣を見るやいなや、智哉は咄嗟に梓から手を離した。

「芽衣、どうしてまだ帰ってないんだ?」

答えようとした芽衣だったが、梓の存在に気づき、さっと少し顔を曇らせた。

「相談したいことがあったんです。智哉先輩、そちらの方は……」

自分たちの関係は公にしていなかったので、智哉もいつものように答える。「姉ちゃんの親友。具合が悪くなったみたいだから、俺が送ってきたんだ」

智哉の答えを聞いた梓の胸は、何かに締め付けられるように苦しくなった。

この数年間、どうして関係を隠し続けるのか理由が分からなかった。

最初は姉の佳乃を気にしてのことだと思っていた。だが、5年間も多くの人を騙してまで隠し通していた本当の理由を、梓はこの瞬間に悟った。

彼はただ、芽衣に知られたくなかっただけらしい。

梓は唇を噛み締め、静かに言った。「はじめまして。江崎梓です」

その言葉を聞いてようやく笑顔を取り戻した芽衣が自己紹介をし、智哉に本題を切り出した。

「帰国した私のために、友達が食事会を開いてくれるんですけど、先輩もよかったらどうかなって思いまして!それに、梓さんも!この機に、仲良くできたら嬉しいです」

断ろうとした梓だったが、智哉がその隙も与えず快諾してしまった。

開けられた車のドアを見て、梓は黙って乗り込む。

道中、智哉は絶え間なく話題を見つけては、芽衣と昔の話で盛り上がった。

「先輩、未だに苺飴を常備してるんですか?高校の文化祭のとき、緊張でピアノが弾けないって私が言ったら、雨の中わざわざ買いに走ってくれましたよね。あれから会うたびに、必ず2粒くれるようになって……」

「あ、このフィギュア!前に私がラインで好きって言ったキャラクターですよね?智哉先輩も買ったんですか!」

「先輩、その香水、とっても良い香りです!男の子がつけてたらときめくって何気なく話したのを、使ってくれてたんですね……」

その横で梓は静かに聞いていた。いつもマイペースだと思っていた智哉だが、本気で惚れた相手には恋する少年のような姿を見せるらしい。

バックミラー越しにちらりと見ると、智哉は耳まで赤くなっている。

これだけ時間が経っても、まだときめくものなのか?

まあ、無理もないのかもしれない。何せ本命で初恋の人なのだから。

バーに着くと、梓は端の席に腰を下ろした。

一方、智哉は迷わず芽衣の隣に座り、ジャケットを彼女の足元にかける。

ボックス席にいた芽衣の友人たちは、すぐさま冷やかし始めた。

「5年経っても相変わらず紳士ですね!今日もし芽衣が飲みゲーで負けたら、その分は智哉さんが引き受けるんですか?」

「そう決まってるでしょ!今の智哉さんには彼女もいないんだし、問題ないから!それに、芽衣のためなら、今日ここで潰れるまで飲んでくれるんじゃない?」

それを聞いた智哉は、無意識のうちに梓の方にちらりと視線を向ける。

しかし、梓は携帯の画面に視線を落としており、聞こえていないようだった。

それでも智哉は一抹の不安を覚え、梓にラインを送った。

【梓さん、みんな俺たちのことを知らないから言ってるだけだから、気にしないでね。今日は芽衣の歓迎会だから難しいけど、今度の機会があれば、みんなの前で公表しよう】

今度?

今度なんてものはない。

それから間もなくして、飲み会ゲームが始まった。

1周目、負けた梓への罰ゲームは一気飲み3杯。

智哉が助けようとしたが、それは止められた。

「智哉さん、協力する場合には、お互いの同意が必要ってルールですから!それに、梓さんも30近いんですよね?社会人になって長いんだから、3杯くらい余裕じゃないんですか?」

わざとらしく年齢を持ち出され、梓の心はちくっと痛んだ。

もう関係を断とうと決めた智哉に借りを作りたくなかった梓は、覚悟を決めてグラスを手に取る。

飲み終えると、拍手と歓声が周囲から湧き上がった。

2週目では芽衣が負けたが、彼女が智哉をちらりと見ただけで、友人たちは勝手に智哉のグラスへと酒を注いだ。

智哉も迷うことなく、一気に飲み干す。

その後も芽衣は負け続け、智哉のグラスには常に酒が注がれた。

すぐに智哉はひどく酔い潰れ、トイレへと向かった。

10分経っても戻ってこなかったので、梓が探しに行くと、階段でぐったりしている智哉を見つけた。

梓の姿を見るなり、智哉は彼女を強く抱き寄せ、朦朧とした意識の中で呟いた。

「芽衣、俺は嬉しいんだ。お前がやっと戻ってきてくれたんだからな。一生お前と一緒にいたい。他の奴が持ってる幸せは、全部お前に与えてあげる。だからこの5年間、俺はお前を喜ばせるために練習してきたんだよ。どんなプレゼントを渡すべきか、どんなキスをしたら喜ぶか。

芽衣を絶対に幸せにする……一番幸せな女の子にするから、俺の彼女になってよ……本当に、本当に芽衣が大好きなんだ……」

一言一句が、ナイフのように梓の心を引き裂く。

目の前の男の顔をじっと見つめた。その瞳からは、隠し切れない悲しみが溢れ出す。

噛み締めた唇から血が滲み、鉄の味が口に広がった。梓はこらえきれずに問いかけた。

「ねえ、智哉。じゃあ、私って何なの?」

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