「どこにいるのかと聞いている」「外だ。取引先と商談をしている」電話の向こうでしばらく沈黙が流れ、父親の声がさらに低くなった。「理人が私と母さん、それに詩帆を連れて港江へ来ている。お前も今すぐ来なさい」真洋は電話を切り、目を閉じた。柏家の息子は、真洋一人ではない。弟の柏理人(かしわ まさと)がいる。ワールド・エンターテインメントに問題が起きて以来、父親は突然、理人に柏グループの中核事業を任せ始めた。その意味は、考えるまでもなかった。真洋は目を開け、血に染まった自分の手を見下ろした。手の甲にある傷口からは、今も血がにじみ出ている。血は指の間を伝って地面へ滴り落ち、小さな暗赤色の染みを作った。真洋はゆっくりと拳を握りしめた。傷口が圧迫され、骨身に染みるような痛みが走ったが、眉一つ動かさない。すでに八角家の全権を握っている蒼士と比べれば、自分はあまりにも力不足だ。紗寧を蒼士から取り戻す方法を考えなければならない。そのためにも、まずは柏家の後継者としての地位を確固たるものにする必要がある。「真洋さん、これからどこへ?」「ホテルだ。両親が来ている」真洋はシートの背にもたれ、深く息を吐いた。「向こうの用事を片づけてから、紗寧に会いに行く」......その頃、邸宅の玄関前では――紗寧が階段にしゃがみ込んでいた。足元には黒が寝そべり、尻尾を気まぐれに揺らしている。紗寧はゆったりとした白いTシャツを着て、髪を無造作に後ろで結んでいた。滑らかな額と白いうなじがわずかにのぞき、首筋にはまだ艶めいた赤い痕が残っている。車が入ってくる音を聞いて顔を上げると、その目がぱっと輝いた。立ち上がり、車のほうへ歩み寄る。黒は彼女よりも早く駆け出し、止まったばかりの車の周囲を二度ほど回った。尻尾がちぎれんばかりに勢いよく振っている。「お帰りなさい」蒼士がドアを開けて車を降りると、紗寧は笑顔で近づいた。だが、二歩ほど進んだところで足を止める。蒼士の手の甲には真っ赤な血がついており、色白の肌の上でひどく目立っていた。「怪我をしたんですか?」蒼士は手の甲へ目を落とした。おそらく先ほど、どこかで擦ったのだろう。「大したことはない」紗寧は彼を睨むと、その手を取って家
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