芳美は2階から下りてきたが、美しく着飾った紗寧の華やかな姿を目にした瞬間、なぜか足を止めた。一瞬、別の誰かの面影が重なったような気がしたのだ。「お母さん?」芳美がその場に立ち尽くしているのを見て、紗寧がそっと呼びかけた。芳美は我に返ると、取り繕うように笑った。「......もう時間よ。ホテルへ向かいましょう」......会場は、港江屈指の最高級ホテルだった。八角家は宴会場のあるフロアをすべて貸し切っていた。ホテルのロビーには関係者以外、誰一人としていない。入口には黒いスーツ姿のボディーガードが十数人並び、全員が耳に無線イヤホンを装着して、警戒するように周囲へ目を配っていた。記念撮影用のフラワーウォールは、天井から花々が流れ落ちるように飾られており、贅を尽くした華やかさだった。空気には、かすかな花の香りが漂っている。紗寧を乗せた車が止まると、すぐにドアが開けられた。反射的に顔を上げると、笑みをたたえた黒い瞳と視線が重なる。車の外には、蒼士が立っていた。仕立てのよい黒のスーツに白いシャツを合わせ、蝶ネクタイも隙なく整えられている。その装いが、彫りの深い端正な顔立ちを、いっそう凛々しく冷ややかに見せていた。「ここで待ってたんですか?」昨夜見た甘く艶めいた夢を思い出してしまい、本物の蒼士を前にした紗寧の耳は、またも赤く染まった。蒼士は彼女の手を取り、低くかすれた声で答えた。「会いたかったから」「......からかわないでください」蒼士はわずかに口元を上げたが、それ以上は何も言わず、紗寧を連れて宴会場へ向かった。駿人は柱にもたれ、たばこを吸っていた。ひときわ派手なワインレッドのスーツを着て、色気のある目元を楽しそうに細めている。二人が近づいてくるのを見ると、たばこをそばの灰皿でもみ消し、にやにやしながら歩み寄ってきた。「咲良さん、今日はきれいですね。まるで天女が舞い降りてきたみたいだ。蒼士さんも幸せ者だなあ。今夜はあまり無理をさせないでくださいよ......」蒼士が横目で駿人を見た。ひどく淡々とした、何の感情も感じさせない眼差しだった。それでも駿人は背筋に寒気を覚え、すぐに両手を上げて降参する。「すいません。もう黙ります」口元のファスナーを閉める仕草をして後
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