一穂は茶碗を置き、いっそう深く眉を寄せた。「蒼士は知っているのかい?」中年の男はうなずく。「蒼士様はすでに病院へ向かわれました。奥様もご一緒です」一穂はため息をついた。「結婚したばかりだというのに、こんなことになるなんてね。咲良もさぞ心配しているだろう。実の弟なんだから......」岳は茶碗を置いて立ち上がり、上着の前を整えた。「親戚のことですし、私が母さんの代わりにお見舞いに行きましょう」一穂は手を振った。「私も行くよ」岳は意外そうに母を見た。「でもお年ですし、病院は人も多くて落ち着きが――」「年寄りだからって、そこまで気を遣われるほど弱くはないよ」一穂が立ち上がると、岳はすぐに近づいて腕を支えた。「あの子は強情だからね。何かあったとしても、あなたには本当のことを話さないかもしれない。私が行けば、少しは支えになれるだろう」岳は笑顔でうなずいた。「母さんのおっしゃるとおりです。では、一緒に行きましょう」彼は横へ退いて母を先に通し、半歩後ろからついていった。その態度は、どこまでも控えめだった。一穂はゆっくりと、しかししっかりした足取りで歩く。銀髪が陽光を受けて光り、背筋はまっすぐに伸びていた。岳は目を伏せ、母の足元の少し後ろを見つめている。口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。穏やかで、何一つ怪しむところのない笑みだ。ただ、目の奥を何かが一瞬よぎった。その変化は、見逃してしまうほどわずかだった。......蒼士が集中治療室前にいるため、咲良は姿を見せるわけにいかなかった。そこで1階のロビーへ向かった。見回すと、隅にマッサージチェアが一列に並んでいる。業者によって設置された、スマホ決済対応の最新の有料マッサージチェアだった。しかし、席はどれも埋まっているものの、実際に料金を払って動かしている者はいなかった。咲良は作業員風の中年男性が座る一台を選び、QRコードを読み取って支払った。それを見た男性は慌てて立ち上がり、気まずそうに言った。「すみません......」咲良は返事もせず、ポケットティッシュで椅子をひととおり拭いてから腰を下ろした。しばらくスマホを見ていたが、やがてポケットにしまい、目を閉じて背もたれに寄りかかる。椅子が体にちょうどよく沿う。座ってい
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