三崎清隆が、綾月の事務室に座っていた。 判決が下りて、社会的には、すべてを失った男が。 執行猶予で塀の外に残されたぶん、あの男はこれから、生きて償いを続けなければならない。 黒瀬さんに呼び出されて、ここに来た。 逃げ場のなくなった男が最後に縋れる相手を探したのか、それとも、呼ばれて断れなかったのか。 私は黒瀬さんの隣に座っていた。三崎は私を見て、一瞬だけ表情を歪めた。 「君が……全部、君がやったのか?」「いいえ」 私は答えた。 「あなたがやったんです。私は、それを数えただけです」 三崎の顔が強張った。いつもの外面の笑みは、もうどこにもなかった。やつれて、痩せて、目だけが落ち着きなく動いている。社会で通用していた男の顔は、剥がれていた。 黒瀬さんが、口を開いた。 「三崎さん。あんたは、もう終わりだ」 低い声だった。怒鳴らない。それが、一番怖い。 「会社に切られた。取引先に切られた。弁護士に切られた。女に切られた。家族にも切られた。残ってるのは賠償の借金と、一生消えない前科だけだ」 三崎は何も言わなかった。 「だが」と黒瀬さんは続けた。 「あんたには、まだ払うものがある。彼女への賠償だ。民事で命じられた金。それを踏み倒させはしない」 「金は……凍結されてる」と三崎が掠れた声で言った。
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