「今日から、これも頼む」 出勤すると、九条さんが一枚の紙を差し出した。業務範囲の追加だった。 これまでの日次確認に加えて、売上回収前の照合。入金封筒の仮集計。翌日繰越分の記録整理。そして、金庫の出入り前後の確認表の作成。 私は、紙を二度読んだ。 それは鍵そのものを持つ仕事ではない。金庫を開けるのは私ではない。けれど鍵の前と後ろで動く、いちばん責任の重い場所だった。 誰がいつ、いくら出し入れしたか。その記録に私の名前が入ることになる。 「……いいんですか。私で」「黒瀬さんが、おまえにと言った」 それで終わりだった。理由は、いつも後からしかわからない。 会計担当のスタッフは、露骨に面白くなさそうだった。これまで自分の領分だったところに、新人同然の女が入ってくる。そこまで必要か、という空気が、はっきりと顔に出ていた。 私は反論しなかった。歓迎されていないのは、わかっている。ここで言い返しても、何も得しない。まずは、手順を覚えることだ。 金庫まわりの運用を、私は一つずつ確かめていった。 誰が開けるか。誰が立ち会うか。何を記録に残すか。どこに二重の確認があるか。そして、どこが「慣れ」で飛ばされているか。 ルールはちゃんと文書になっていた。けれど現場は違った。立ち会いが一人で済まされている時間帯がある。出した理由が「いつものやつ」で通っている持ち出しがある。締めの時間が人によって十分も二十分もずれている。 ルールはあるのに、運用が緩い。 その緩さこそが、傷の生まれる場所だった。会社でも同じだった。属人的な処理。確認の省略。そう
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