あの一夜の出来事が、門脇司(かどわきつかさ)にとっては単なる過ちに過ぎなかったとしても、清川真子(きよかわまこ)は一向に構わなかった。 そんなことよりも、長年想い続けた人の子供を、しかも男女の双子を授かることができた喜びの方が断然大きかったからである。 例え、その事実を以てしても、彼の冷淡な態度に一切の変化も見られなくて、さらには、 「その子らはお前の子であって俺の子ではない。育てるのは勝手だが、俺の目の届かない所でやれ。」 と、子供のことを認知する気もさらさらなければ、ただ、そう冷たい言葉を吐かれただけだったとしても、真子が彼を逆恨みするようなことは決してなかった。 元より、彼と自身とではあまりに身分違いであった上に、既に彼は結婚していて、彼の奥さんも正に妊娠中の身であった。 飲まされたお酒のせい。 いや、今思えば何か変なクスリだったのかもしれないが、何にせよ。 妻子ある身の男性を唆すようなことをした自分に一切の責任がある、と真子はそう考えたのだった。 それに、子供を下ろせ、などと言われなかっただけで、真子にとっては十二分にありがたかったのである。 決して手に入らないと思っていた想い人の欠片でも得られたのだから、この先の人生悔いなく生きていける。 あの時の彼女は本気でそう思っていたのだったー 真子の妊娠を知った門脇家の当主の図らいで、彼女はかつて父が育ったという北の大地で一人、子育てをすることになった。 そこは夏が短く、一年の大半を極寒の中で過ごさなければならないほどの雪に覆われるような場所だったが、彼女は文句一つ言わず、むしろ生活環境を整えてくれた門脇家に対して感謝していたくらいだった。 そんな彼女の出産は、その町に唯一ある寂れた病院で行われた。 丸一日に及ぶ難産ながらも、彼女は無事双子の赤ちゃんを出産する。 彼女はその生まれてきた男女の双子に、それぞれ女の子には明希(あき)、男の子には叶多(かなた)と名付けた。 彼女の人生が明るい希望で満たされますように。 彼の人生で多くの願いが叶いますように。 そんな願いを込めて付けた名前だった。 まさか、そんな思いで付けた名前がわずか数年後、皮肉な結果に終わるなんてことは、この時の彼女には知る由もなかったのであるー 子供が産まれて間もなく三
最終更新日 : 2026-07-18 続きを読む