司はそこで一度目を閉じると、次に、刺すほどの鋭い視線を綾に向けて、 「どうやら無能なやつというものは、相当痛い目に遭わなければ学ばないらしいな」 司はおもむろにスーツの内側からスマホを取り出すと、どこかに電話を掛けた。 嫌な予感に、真子の表情が険しくなる。 電話が繋がると、司は綾を冷めた目で見下ろしながら、 「ああ、俺だ。早急に対応してもらいたいことがある。東条工場への融資だが、即刻打ち切ってくれ」 「なっー」 綾の顔がみるみる青ざめていく。 綾が家族で経営する東条製糸工場は、養蚕が盛んだった明治時代から続く老舗で、長年培ってきた技術力は他の製糸工場の追随を許さないほどであった。 しかし、どれほど高い技術力をもってしても、押し寄せる時代の波には抗えなかった。 全盛期には百人近くいた従業員も、今となっては綾たちの家族だけになり、それに合わせて工場の規模も大幅に縮小した。 一時は会社を畳もうかとまで考えたらしいが、そこに救いの手を差し伸べたのが、商社として世界にも多数の取引先を有する門脇家が経営する〈Kadowaki Trading Corporation〉なのであった。 綾が真子の友人だと知った司の父親は、東条製糸工場の経営危機を知るや否や、すぐさま融資を決めてくれた。 さらには、海外の高級アパレルブランドや靴メーカーとの取引も仲介し、東条家の作った生糸を海外へ卸す道筋まで整えてくれたのであった。 元より技術力の高い東条家が作り出す生糸の品質は海外でも高く評価され、傾いていた経営も次第に安定し、再び上向きへと転じていったのである。 だがー そんな矢先、真子の家族が起こした"あるコト"のせいで、真子への見せしめとしてまたしても東条家の経営は危機へと晒される。 その後、司が父親の仕事を引き継いでからは、東条家は門脇家からもらえる微々たる融資だけで何とか持ち堪えていたわけで、それを切られるとなると、東条家に待ち構えている未来など言うまでもなかった。 「門脇社長、綾は私を心配する余り言葉選びを間違えただけなんです。どうか、東条家への融資は切らないでください。お願いします」 真子は身体の痛みも忘れて、必死に司へと謝罪した。 耳元にスマホを充てたまま、真子を見下ろしている司の瞳が揺れる。 だが、司はぐっ
Huling Na-update : 2026-08-14 Magbasa pa