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All Chapters of Asymmetry: Chapter 61 - Chapter 70

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61話

「先生、大丈夫?」「えぇ、なんとか……。フォローありがとうございます、助かりました」 千夏は力なく笑いながら言うと、お茶を一気に飲み干して額の汗を拭った。「もしかして先生、失声症になったことあんの?」「子供の頃に、2ヶ月ほど……」 当時のことがフラッシュバックで蘇り、目頭が熱くなる。「そっか、大変だったね。ちょっと休憩しようよ。警察署出てから全然休めてないし。休憩するのも大事でしょ」 そう言って成也は、千夏の腕を引いて歩き出した。「やっぱ先生は優しくて強い人間だよ。先生の過去に何があったのか詳しく知らないけど、俺だったら失声症になるくらい辛いことがあったら、弁護士になんかなれないよ」「そんな、私は強くなんてありません。さっきだって……」「それ以上自分を卑下するなら、キスするよ?」「もう、何言ってるんですか」 彼らしい冗談に笑うと、成也は振り向き、満足げに頷いた。「うん、先生は笑ってる方が可愛いね」「そういう冗談はよしてください」「冗談じゃなくて本心だよ」 真顔で言う成也に固まり、千夏の頬は見る見るうちに赤くなった。「ですから、そういう冗談はやめてください! あと、手を離してください」「はいはい」 成也はクスクス笑いながら手を離し、1歩下がって千夏の隣を歩く。 ふたりはファミレスにつくと、ドリンクバーとケーキを注文した。「それで、さっきの女の子からどんな話聞いてたの?」「そうですね、末安さんが聞いてない部分は、本田正孝くんは1年生の頃は他の子達にいじめられていた。2年生になって常陰くんと同じクラスになると、彼が本田くんを助けてくれた。2年生の2学期から、本田くんは常陰くんと同じ塾に通い始めた。この3点ですかね。それと、マリちゃんはどうして常陰くんが本田くんを助けたのかは分からないとも言ってましたよ。それと彼女の話を聞く限り、本田くんが溺死したということだけは広まってるみたいです」「言うことを聞かせるために助けたんだよ、くだらない」 千夏の話を聞き終えると、成也は吐き捨てるように言った。いつも飄々としている彼がここまで感情を表に出すのは珍しく、千夏は思わず彼をじっと見る。
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62話

「どうしたの、先生? イラ立つ俺はカッコいい?」「違います。末安さんが感情的になるのは珍しいと思いまして。よっぽど常陰くんが嫌いなんですね」 茶化したのに真面目に答えられ、成也は思わず微苦笑する。「前にも言ったでしょ? 同族嫌悪ってやつだよ。媚び方が分かっちゃうと、自分にメリットがないと分かってても、癖で媚びちゃうんだよ。それって結構ストレスでさ。常陰将馬は、サンドバッグが欲しかった。それも物理的なね。精神的サンドバッグは事足りてたけど、やっぱりそれだけじゃストレス解消はできないしさ」 やだやだと言いながら、成也は胸ポケットから煙草とライターを取り出す。「吸っていい?」「どうぞ」 千夏の許可をもらうと、成也は赤くて薄い箱から細長い煙草を1本取り出した。巻紙はコルクのような色で、クリーム色のフィルターとの間は、金色だ。「初めて見ますけど、それ、なんていう煙草なんですか?」「チャップマンのチェリー。見た目は女性向けの紙煙草っぽいけど、リトルシガーっていう葉巻なんだよ」 簡単な説明をすると、煙草を咥えて火をつける。目を細めて煙を吐くのが妙に色っぽく見え、千夏は目を逸した。「話を戻すけど、塾の事務員や個人経営の本屋の店主とかは、精神的サンドバッグだったんだよ。「お前達はチャチで惨めな人生を歩んでるけど、俺はお前達みたいにはならない」って見下してさ」「こう言ってはなんですけど、お金を稼いでない高校生が?」「そういう見方もあるけど、本人からすれば、これからいい大学に入っていい会社で働くエリートコースだからね。たぶん、輝く将来が約束されてるって思ってる。そんな思考の持ち主から見たら、小さな本屋の経営者も、事務員兼清掃員も惨めに見えちゃうんだろうね」 バカらしいと言いながら、成也は紫煙をゆっくりと吐き出す。「もし末安さんの言うことが本当だったら、やっぱりふたりは同族なんかじゃないですよ。だって、末安さんは人を見下したりしないじゃないですか。それに……」 あまり褒めると調子に乗るのではないかと、千夏は言葉を途切れさせる。何よりも初心《うぶ》な千夏には、男性にそのような言葉をかけることに慣れていない。「それに、何? そんなところで区切られたら、気になっちゃうよ」 成也は頬杖をついて、俯き気味の千夏の顔を覗き込みながら聞く。
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63話

「優しいと、思います……」 千夏が頬を染めながら言うと、成也は吹き出した。「ぷっ、あはははっ! そんなこと言うだけで照れちゃうなんて、先生は可愛いね。流石処女」「殴りますよ?」 そう言って、千夏はテーブルの下で成也の足を踏んづける。成也は妙な悲鳴を上げながら足を上げ、膝をテーブルにぶつけて悶絶する。ちょうどそこへ、ケーキを持ったウエイトレスがやってきた。「おまたせしました、モンブランとチョコレートケーキです」「そこでうずくまってる彼にチョコレートケーキを」「あ、はい……」 ウエイトレスはテーブルに顔を突っ伏している成也の前にチョコレートケーキを、千夏の前にモンブランを置いて足早に去っていく。「ったぁ……。踏むことないじゃん」「セクハラする末安さんが悪いんです」「これあげるから機嫌直してよ」 フォークで丸いチョコプレートをすくうと、千夏のモンブランに貼り付けた。すくってそのままはりつけたので、チョコクリームがついた面が見えて少し不格好だ。「しょうがないですね……。今回だけですよ」 そう言いながらも、千夏は頬をほころばせながらチョコプレートと一緒にモンブランを頬張る。幸せそうにケーキを食べる千夏を、成也は微笑ましく見守る。「機嫌直ってよかった。そうそう、これ。あのオカルトマニアからもらった映像。USBメモリだから、ここじゃ見れないね」 思い出したように言うと、成也は黒いUSBメモリを千夏の前に置いた。「ありがとうございます。そういえば末安さんがいない間、鮫島さんから電話がありました」「同級生でしょ? というか、再会した時名前で呼んでたじゃん」 成也が首を傾げながら聞くと、千夏は困り顔をする。「確かにそうなんですけど、仕事中ですからね。それに、学生時代もそんなに話してませんし」「向こうは呼び捨てにしてたのに?」「鮫島さんって、そういう人なんですよ」「ふぅん」 成也は何か言いたそうな顔で、ケーキを大きく切って頬張った。
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64話

「そういや先生ってさ、どうして誰に対しても敬語なの? 俺は助手だし、立場も年齢も先生の方が上じゃん? それに高校生達に対しても敬語だった。なんで?」「ある事件で、中学生から話を聞くことになったんです。その時タメ口で話しかけたら「こっちが子供だからってタメ口きく大人に話すことはない」と言われてしまったんです。子供にだって、自尊心やプライドがあるんだって気付かされました。それ以来、仕事では子供にも敬語で話しかけてるようにしてるんです」「真面目だなぁ、先生は。俺だったら生意気な子供だったな、で終わらせちゃうよ。それで、鮫島さんなんて?」 成也はほとんど吸った煙草をもみ消し、2本目の煙草に火をつけながら聞いた。「本田くんの足にあった圧迫痕と、プールで発見された縄跳びが一致したそうですよ」「てことは、足を縛られてプールサイドに放置され、バランスを崩してプールに落下、そのまま死亡。縄跳びはもがいた時に解けたんだろうね」「えぇ、そうなりますね。ですが、なんでそんな回りくどいことを……」「直接手を下すのが怖かったからでしょ。だから運任せにした。どうして殺したかは……胸糞悪い理由だってことは察しがつくけど、具体的には不明。生き残ってたら生き残ってたで、なんかしら理由つけて口止めしてたと思う」 眉間にシワを寄せながら言うと、今度はグラスを空にした。ここまで感情的になる成也を見ながら、戸惑う反面、それだけ気を許してもらっている気がして嬉しく思う。「動機は察しがつくと言いましたけど、どこまで察してるんですか?」「さっきも言った通り、具体的な理由は不明。けど、偏見混じりの推測ならある。どうする?」 偏見や憶測は、真実を遠のける。千夏の恩人である弁護士、神代宗介の言葉を思い出す。だが時に例外もあるのではないかと、千夏は最近考えるようになった。思考が理解できない相手は特に。「それでも構いません。参考までに聞かせてください」「いいよ。1つは神になりたかった」「神に?」 予想すらつかなかった言葉に、千夏は驚いてオウム返しをする。「そう。時々いるんだよね。ちょっと人の考えが読めるからって自分が神に近いとかイタイこと考えちゃう奴。たぶん常陰将馬もそういうタイプだと思う。そういう奴は、こう考える。神なら命の選別もするべきだって」「冗談じゃない!」 怒りのあまりテーブル
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65話

「やっぱ先生は正義感が強いね。それが先生の美徳なんだけどさ」「それより、常陰くんを許すわけにはいきません。これだけ証拠が揃ってるのなら、警察に報告して逮捕してもらわないと……」「それは無理だね」「どうしてですか」 バッサリ切り捨てるように言われ、千夏の声が自然と大きくなる。あれだけ常陰将馬という人物を嫌悪していた成也に言われたのが、突き放されたようでショックだった。「状況証拠はあるけど、物的証拠がないでしょ」「オカルトマニアの男性が提供してくれた動画と、マリちゃんが必死で集めた写真があるじゃないですか」 千夏が意地になって言うと、成也は困ったような笑みを浮かべた。それは欲しい玩具を買ってもらえない子供に向けるような笑みに見えて、千夏は腹立たしさと同時に恥ずかしさを覚えた。 自分は何かおかしなことを言ってしまったのかと思考を巡らせるが、まったく心当たりがない。「オカルトマニアがくれたのは、本田正孝らしき人がプールに落ちる映像。こっちは本田くんの死亡時刻を明確にするのに役に立つけど、犯人のヒントがない」「で、でも、ふたりがプールへ向かう写真があるじゃないですか」 縋るような思いで言うも、成也は静かに首を横に振り、千夏は絶望する。1番強力な証拠まで否定されては、どうしようもない。「ふたりがプールがある方へ向かったことは証明できるけど、この写真じゃプールとの距離がありすぎる。そっち側にあるどこかに行ったと言われたら、それでおしまい。ま、学校の敷地内に入ってないから、どんな言い訳があるんだって聞かれたら、俺はなんにも言えないけどね」「じゃあ、どうしたら……」「そんな落ち込まないでよ、先生。媚売りの先輩である俺が、自供させるから」 そう言う成也の顔は、自信に満ち溢れている。 成也は弁護士でもなければ、刑事でもない。少し前まではドラッグバイヤーの真似事をしていた不良だ。それでも千夏の目には、彼がとても頼もしく写った。 成也ならどうにかしてくれる。そんな根拠のない信頼と安心感が沸いてくるのだ。
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66話

「自供させるって、どうやってですか?」「それは後でのお楽しみってことで。それよりさ、準備手伝ってくんない?」 問い詰めたいところだが、聞いて簡単に答えるくらいなら最初から言ってると困り顔で言われて終わるのは、千夏もよく知ってる。「手伝いって、何をすればいいんですか?」「鮫島さん呼んでほしいんだ。ノートパソコンを持ってくるように言ってね。とりあえず、場所変えよっか」 千夏が何か言う前に立ち上がり、伝票を持ってさっさとレジに行ってしまった。「もう、困った人……」 そう言いながらも、千夏の口元は弧を描いている。 ファミレスを後にしたふたりが向かったのは、マリと話をしていた公園だ。途中、成也の要望でコンビニに寄り、漫画と菓子パン、オレンジジュースを買った。何故そんなものを買ったのか聞いても成也は曖昧に微笑むだけで、答えてくれなかった。 敷地の端に沿って約2メートルの等間隔で置かれているベンチのひとつに、ノートパソコンを持った弘泰はが座っていた。「急にノートパソコン持って来いなんて、ちょっと横暴じゃないか?」 弘泰は不服そうな顔をしながら、千夏に押し付けるようにしてノートパソコンを手渡した。「すいません、俺が先生に頼んだんですよ。はい、これ」 成也は全く申し訳なさそうに見えない笑顔を浮かべながら、弘泰にコンビニの袋を手渡す。弘泰は怪訝な顔をして袋を覗き込み、しかめっ面を成也に向けた。「なんだよ、これ」「鮫島さんには、隣のベンチで俺達の話を黙って聞いてて欲しいんです」「はぁ!? なんだよそれ。せめて同じベンチで話を聞かせろ」 弘泰の要望はもっともだと思い、千夏が口を開こうとした瞬間、成也はうんざりするようにため息をついた。「鮫島さんがいたら、警戒されます。なにより、このベンチで大の大人実質4人が並んで座るってどうなんですか?」 成也はベンチを指差しながら言う。4人で座れないことはないが、窮屈だろう。「まぁ、確かにそうだけど……」「というわけで、鮫島さんはそこのベンチで仕事をサボってる営業マンのフリをしててください」「んだよ、それ。せめて詳細話してくれよ」「2度手間になるから嫌です。先生、常陰将馬を呼んでください」 成也がもう用はないと言わんばかりに弘泰から顔を背けて千夏に頼むと、弘泰はブツブツ文句を言いながらも、言われたとおり隣
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67話

 千夏はそんなふたりを横目に見ながら、将馬に電話をかける。話があるから学校近くの公園に来て欲しいというと、彼はすぐに行くと言ってくれた。「5分くらいで来るそうです。もし来ないと言ったら、どうしてたんですか?」 今更湧いて出てきた疑問を口にすると、成也は例の完璧な笑顔を見せた。畏怖の念すら抱いてしまうほど、美しい笑みを。「絶対来るよ、来なきゃいけない。だって、殺人犯なんだから」 根拠のなさそうなことを言うと、成也はベンチの真ん中に座った。「先生はこっちね。あと、パソコン貸して」 成也は将馬と向き合った際、千夏が弘泰に背中を向ける場所に座らせる。「私がここじゃ、常陰くんに鮫島さんがいるって気づかれるんじゃないですか?」「俺達で隠れて見えないよ。それに常陰が家にいるのなら、向こうから来る。俺達が今と逆の座り方をした方が、鮫島さんが見つかる。ま、見つかったとしても常陰は鮫島さんが分かんないと思うよ」 成也は弘康がいる逆方向を指差しながら説明する。「どうして鮫島さんを見ても分からないなんて言い切れるんですか?」「鮫島さんが出てきたのは、常陰が帰ってから。あのヒステリックな母親を皆で落ち着かせようとしてたけど、その中に鮫島さんは入ってなかった。経験を積んできたっていうのは、伊達じゃないんだろうね。あえて素知らぬフリをして仕事に没頭してるフリをした。常陰がいなくなってから警告しようと近づいたら、偶然にも先生だった。こんなところかな」「聞こえてるぞ」 不機嫌な声が、後ろから聞こえた。「そろそろ来ると思うから、名演技頼みますよ。仕事をサボった営業マンさん」「誰がだ! ったく……」 振り向けば、弘泰はイラつきながら漫画本を開いている。なんだかんだ言って成也の言うことを聞いてる弘泰が少し可愛く見えて笑いそうになるが、ぐっとこらえる。 スマホで時計を見ると、電話をしてから3分近く経っている。もう少しで未熟な悪魔が来ると思うと、鼓動が早くなり、息が苦しくなる。「緊張してる? キスしよっか?」「結構です」「あーあ、フラれちゃった」 ピシャリと言うと、成也はガックリと肩を落とした。整った顔とコミカルな動きのミスマッチで、千夏は噴き出す。「それでいいよ」 優しく笑いかける成也を見て、緊張がほぐれていることに気づく。「お気遣いありがとうございます」
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68話

「こんにちは、本条先生、末安さん。お話って、なんですか?」 ふたりの真正面に立つ将馬は、微笑を浮かべながら聞く。少し前なら好青年だと思っただろうが、成也の話を聞いたからか、胡散臭く見える。 ワイシャツにネイビーのベストといかにも優等生らしい私服だが、ワイシャツの袖が長く、指先が少し出ている程度だ。「とりあえず、座ってください」 将馬は不思議そうにふたりを見ながらも、成也の隣に座る。助手である成也が仕切り、自分の隣に座っているに違和感を覚えるのだろう。「実は、本田正孝くんを殺害した犯人が分かったんです」「殺害って……やっぱり正孝は殺されたんですね……!」 千夏の言葉に、将馬は悔しさを滲ませる。「やっぱり、といいますと?」「だって、おかしいじゃないですか。10月に学校のプールで溺れ死んでるなんて。それで、犯人は誰なんですか?」「君だよ、常陰将馬くん」 氷のような冷たい目を向けながら、成也は声のトーンを落として言った。「何言ってるんですか? 僕が殺すわけないでしょう? 第一、あなたは弁護士でもなければ、警察でもないですよね?」 言葉こそ丁寧なものの、将馬の顔は人を馬鹿にするような笑顔で歪んでいる。「流石同族。すぐに俺を見下してくれると思ったよ」「同族? なんの話です?」 嘲るように言う成也に、将馬は口元を歪ませる。(そんなこと、早々に言っちゃっていいの?) 不安にかられながらも、対処法を知らない千夏は、はがゆい思いを抱えながらもふたりを見守る。「顔も家柄もよし、学力も運動神経も申し分ない。東大合格間違い無し、エリートコースまっしぐらだね。小さな本屋の店主も、塾の事務員兼清掃員も、弁護士の助手兼雑用係も、君にとっちゃしょーもない人生送ってる負組に見えるよね、分かる分かる」「末安さんを見下したなんて、そんな……。不快に思ったのなら謝ります、すいませんでした」 深々と頭を下げる将馬を、成也はゴミでも見るような目で見る。
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69話

「知ってる? 誠意のない謝罪に意味はない。それに俺は謝ってほしいわけじゃない。今は俺と君が同族だって話をしてるんだけど」「同族の意味が分かりません。僕と末安さんに、どんな共通点があるっていうんですか?」 将馬が困惑した顔を向けるも、成也の視線は変わらない。「そんな目で見ないでください。まるで僕が悪いことでもしたみたいじゃないですか」「実際にしたでしょ、悪いこと」 淡々と言う成也に、将馬の目つきが鋭くなる。そこにはさっきまでの気弱な優等生の面影はない。「君は頭がいいし、観察力もある。だから、他人が自分にどうして欲しいのか分かってしまうんだ。俺もそう。相手の要望通りにしたら、笑っちゃうくらい思い通りの反応しちゃってさ、面白いよね」 成也が言葉を途切れさせると、将馬は小さく笑った。優越感が見え隠れする、嫌な微笑。「言い方を変えれば、媚び方が分かってしまう。この人はちょっと手伝ってあげれば簡単に自分を好きになってくれる、あの人はこの話をすれば、喜んでくれるって」 抑揚のない成也の言葉は、直接向けられていない千夏でも、胸の奥に刺さるものがある。「僕は、人に媚びたりなんかしません」 将馬は穏やかな笑みを浮かべてはいるものの、強ばっている。「そう思い込みたいだけだね。君は人に嫌われるのが怖いんだ。不完全になるのが怖いんだ。だから媚びる。勉強だって、そのひとつに過ぎない」「違います!」 遊具の少ない公園に、優等生の声が響き渡る。一見悲壮感たっぷりに聞こえる声も、先入観で薄っぺらく聞こえてしまう。「いいや、違わないね。ただ、君は俺と違って媚び方すら不完全だ。いや、語弊のある言い方だったね。ターゲットに媚びるのは完璧だ。けど、プライドが高いせいで精神的サンドバッグを作ってしまった。倉田さんや伊藤さん、ついでに俺ってわけ。精神的サンドバッグじゃ物足りない君は、本田正孝というサンドバッグを見つけた」「なんで、そんなこと言うんですか? 第一、倉田さんとか伊藤さんとか、誰のことですか? 僕はそんな人達、知りません」 まくし立てるように早口で紡がれる将馬の言葉に、千夏は頭を抱えたくなった。あれだけ人を馬鹿にしておいて、彼らの名前を覚えていないなんてことがあるだろうか。
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70話

「あっそ、サンドバッグの名前は覚えてないんだ。まあいいや、今はその話は重要じゃない。君が本田正孝を殺したって話をしてるんだから」「ですから、僕は殺してません!」 頑なに否定する将馬の肩にポンと手を置くと、成也は人懐こい笑みを見せた。成也の真意がつかめず、将馬は困惑する。(何が起きてるの?) 成也の顔が見えない千夏は、将馬の顔を見て首を傾げる。「もうちょっと落ち着いて話そうよ、優等生。とりあえずさ、これ見てよ」 成也はパソコンを操作すると、オカルトマニアからもらった映像を見せた。何か得られるものがあるのではないかと、千夏は将馬の顔をじっと見つめる。 最初は訝しげな顔をして見ていたが、水音が聞こえたのと同時に将馬は目を見開き、口元を押さえた。「それと、これね。本田正孝が亡くなった日の夕方、同級生がこんな写真を撮ったんだよ」 今度はマリが撮った写真を将馬に手渡す。恐る恐る写真を手に取った将馬だが、写真を見た瞬間、鼻で笑った。「確かにプールに向かってるように見えますけど、僕達はプールの裏手にある体育倉庫に向かってたんですよ」(あぁ、末安さんの言うとおりだ……) 千夏は心の中で頭を抱えた。だがこうなると言っていた成也が言ったのだから秘策があるのだろうと、気持ちを切り替える。「それは、縄跳びを取りにですか?」「なんのことですか?」 どちらも笑顔を貼り付けている。異様な空気に弘泰の隣に逃げたくなるが、そんなことをしては成也の計画が水の泡になるだろう。「ところで、僕が正孝を殺したとして、動機はなんですか? それに、さっきの動画や写真じゃ、殺害方法も不明ですよね? どういうわけかプールに不法侵入した正孝が、何故か落ちちゃったんですから」 勝ち誇ったような将馬の顔には、親友を亡くした少年の悲壮感はどこにもない。プライドの塊だ。「動機は簡単。彼がいじめのストレスで失声症になったから。もっと分かりやすく言えば、自分ではどうしようもないいじめの証拠ができてしまったから」「意味が分かりません。確かに正孝は失声症になりましたけど、原因は知りません。第一、僕は正孝をいじめから助けたんですよ?」「いじめから助けたのは、疑いの目が向けられないため。いじめられっ子を助けた優等生が、その子をいじめるだなんて、誰も思わないから」 挑発的な将馬の問いに、成也はつまら
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