深夜二十二時。京都市外れに位置する、潮の匂いが混じる廃倉庫街の第三ブロック。 街灯すらまばらなその暗がりに、一台の黒塗りのバンが停まっていた。「あんたたち一条の人間じゃないのか!? 俺を保護してくれる約束はどうなったんだ!」 バンの前でアスファルトに這いつくばり、悲痛な叫びを上げているのは、白鷺銀行の元融資担当の男だ。 彼は数年前、隼人の母の死に関わる不審な資金移動——黒川商会と副頭取の癒着を証明できる唯一の生き証人であり、凜が水面下で接触を図っていた情報提供者だ。 彼をこの廃倉庫街へ呼び出したのは一条ではない。黒川商会が一条の動きを察知し、先手を打って一条の名を騙り、彼を確実な死地へ誘い出したのだ。「悪いな。俺たちの偽のメッセージとも気づかずに、ホイホイ尻尾を振ってやってくるからこういう目に遭うんだよ。一条に泣きつく前に、お前の口を永遠に塞ぐのが俺たちの仕事だ」 男を見下ろすのは、黒川商会が差し向けた裏社会の清掃屋。筋骨隆々の三人の男たちが鉄パイプや特殊警棒を手に、残酷な笑みを浮かべていた。「海に沈む前に、その頭の中にある余計な記憶を、全部この鉄パイプで綺麗に叩き出してやる」「や、やめてくれ……!」 絶望に顔を歪める情報提供者の頭上へ、男の一人が鉄パイプを容赦なく振り下ろした。 鈍い破砕音が響く——はずだった。「——随分と荒っぽい清掃だな」 金属同士が激しく衝突する甲高い音が、夜の廃倉庫街に響き渡る。「な、何だてめぇは!?」 振り下ろされた鉄パイプは、情報提供者の頭を砕く寸前で、暗闇から音もなく現れた男の腕によって完璧に受け止められていた。 ただ受け止めたのではない。男がワイシャツの袖をまくり上げた腕に巻きつけていたのは、一条の警備部隊が使用する防刃・対衝撃用の特殊ケブラー繊維だった。「……てめぇ、一条の犬か! 一人で俺たちを止められるとでも思ってんのか!」 清掃屋の男が怒声と共に、再び鉄パイプを大振りに振り回す。 だが、次の瞬間。 暗闇から現れた男——隼人の身体が常人には目で追えない速度で沈み込んだ。 鉄パイプが空を切った直後、隼人は男の懐へ滑り込むと同時に、鍛え抜かれた拳を男の鳩尾へと的確に叩き込んだ。 大柄な男がカエルが潰れたような呻き声を上げ、白目を剥いてアスファルトへ崩れ落ちる。「なっ……こいつ、ただの警
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