夕闇が迫る閑静な住宅街。結衣の通う幼稚園の正門前は、異様な喧騒と緊迫感に包まれていた。「離しなさいよ! 私はこの子の祖母よ! 娘の代理として正当な権利で迎えに来たの!」 エントランスホールで金切り声を上げているのは、元義母の典子だ。彼女の背後には、黒川商会から手配されたと思われる、柄の悪いスーツ姿の男たちが数名、威圧的に立ち塞がっている。「おやめください! 事前のご連絡もなく、お引き渡しすることはできません!」 園長や数名の保育士たちが必死に結衣を背中で庇い、防波堤となって男たちを押し留めていた。 その奥で、結衣はお気に入りのウサギのぬいぐるみを胸に抱きしめ、大粒の涙をこぼしている。「うるさいわね! あの無職の誘拐犯に騙されているのよ! さぁ結衣、おばあちゃんとおいで!」 典子が保育士を乱暴に突き飛ばし、結衣の腕を強引に掴もうと手を伸ばした、その時——「——そこまでだ」 凄みを帯びた底冷えのする声が、夕闇の空気を鋭利な刃物のように切り裂いた 。 正門の前に横付けされた鏡面のように磨き上げられた高級セダン。そこから降り立った俺の姿を見た瞬間、典子の顔が醜く引き攣った。「あ、あんた……! ちょうどいいわ、この無職の誘拐犯! 警察を呼んで結衣を取り返してやるから!」「呼ぶ必要はない。もう既に呼んでいる」 俺が冷ややかに告げた直後、サイレンの音と共に数台のパトカーが幼稚園の周囲を包囲するように停車した。 さらに、俺の背後から現れた一条お抱えの屈強な警備チームが、一瞬にして典子が連れてきたゴロツキたちを取り囲み、文字通り身動き一つとれない状態へと制圧する。「な、何よこれ! お巡りさん、この男が孫を誘拐したんです! 早く捕まえて!」 パトカーから降りてきた警官たちに向かって典子が喚き散らす。 だが、警官たちは俺に道を譲るようにして進み出た、一人のスーツ姿の男へと視線を向けた。「ご苦労様です。通報いたしました、一条グループ専属弁護士の橘です。警察の皆様、そちらの女性と背後の男たちを、現行犯で連行してください」 メディア対応もこなす一条の超敏腕弁護士は、完璧に整えられた顔立ちのまま、典子の目の前に数枚の重々しい書面を突きつけた。「な、何よこれ……!」「『未成年者略取誘拐の刑事告発に関する警告書』、および『接近禁止の仮処分申立準備書面』で
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