Semua Bab 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く: Bab 91 - Bab 100

145 Bab

91話 自覚

写真に写る女性……紛れも無く九条征哉と一緒に居た女性だった。私は一ノ瀬恭介を見上げて言う。「間違い無いですね、彼女が九条征哉と一緒に居た女性です」そう言いながら写真を返す。一ノ瀬恭介は私にそう言われて写真を受け取ると、踵を返して無言で応接間を出て行く。その写真をもったまま。(あれはどういう感情? 衝撃を受けたの? それとも……)そう思いながら振り返る。私の背後ではわなわなと震えている面々が居た。一ノ瀬瑛理香は顔を真っ青にしているし、高橋翔太も顔面蒼白、一ノ瀬華瑛に至ってはその顔が般若のように歪んでいる。(何なの? 一ノ瀬家長女はこんなにも疎まれていたの?)これだけの人間が一人の人間に恨みや憎しみを持つなんて、一ノ瀬美緒という女がどれだけの悪女なのか、とそう一瞬考えたけれど。どうもおかしい。「嘘……嘘よね……?」一ノ瀬瑛理香がそう呟く。近くに居た高橋翔太に縋りつき、一ノ瀬瑛理香が喚き出す。「嘘よね? お姉様は死んだのよね? だって遺体だってあったし……あの爆発で死なないなんて無いわよね?」矢継ぎ早にそう言って、婚約者である高橋翔太に縋っている。「ねぇ! 翔太!」一ノ瀬瑛理香のキンキンとした声が耳を切り裂く。(本当にうるさい女ね)私はそう思いながらただ黙って成り行きを見守る事にした。(だってその方が情報が入って来るもの)「美緒は、死んだ……遺体も見た……」そう呟いた高橋翔太の顔が変わって行く。呆然とした顔から怒りが浸透していくのが手の取るように分かるほどの表情の変化だ。「美緒が生きている……? じゃあどうして俺のところに来ない……? 美緒に優しくしてやってたのは俺だけだった筈だろう……?」そう呟くのを聞いた一ノ瀬瑛理香が高橋翔太を見上げている。「お姉様に優しくしたの? いつ? あなたは最初から私の事が好きだったんでしょう?」痴話喧嘩が始まりそうで、辟易する。一ノ瀬華瑛はさっきまで般若のような顔をしていたけれど、今はもう無表情になっている。(このオバサンが一番、感情が見えないわね……口も堅いし……)そう思っていると、一ノ瀬華瑛がスッと立ち上がり、私の前まで来ると聞く。「本当に九条征哉と一緒に居たのが、一ノ瀬美緒なのね?」念を押すようにそう聞かれて私は一ノ瀬華瑛を真っ直ぐ見ながら言う。「えぇ、間違いありません。
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92話 生死の行方

死んだ筈の娘が生きている……。その衝撃は計り知れなかった。手が震えている。書斎に逃げ込むように入り、息を整える。一緒に帰って来ていた及川に言う。「及川、美緒が生きている……しかも九条征哉と共に居る……調べてくれないか」そう言うと及川は何も言わずに一礼して書斎を出て行く。高橋翔太が美緒の写真を持っていた事は何となく予想はしていた。そしてやっぱり思っていた通り、高橋翔太は美緒の写真を持っていた。私の書斎から盗み出した美緒の写真……。たった一枚しか残っていない美緒の写真。家族写真を撮る時も、それ以外で写真を撮る時も、美緒はそこから外されて来た。華瑛が良い顔をしなかったからだ。いつしか、美緒は家族で集まる時に顔を出さなくなった。離れで静かに過ごしている事が多かった。あの施設の爆発は後に調べさせたところによると、施設のガス設備が老朽化していた事が原因と聞いていたが。だが私はずっと心の奥底で感じていたのだ。あの爆発は誰かに仕組まれたものだ、と。今日、桐ケ谷朋美がもたらした情報を聞き、その間、華瑛は私の前では表情一つ変えなかった。義理とはいえ、娘である美緒があの爆発を生き延びたというのに。だが見方を変えれば……。仮にあの施設の爆発を仕組んだのが華瑛だと仮定すれば、美緒が死んでいないという事は、目的を果たしていない、という事でもある。……待ってくれ。じゃあ、美緒が身籠っていた子供は?私はハッとして踵を返し、応接間に戻る。桐ケ谷朋美が出会ったという美緒に似ている女が仮に美緒だとしたら。あの嵐の夜に私は確かに九条征哉と美緒のあられもない証拠写真を見せられたのだ。という事はお腹の中の子供は九条征哉の子供、という事になる。早足で歩きながら私は心臓の鼓動がどんどんと早くなっていくのを感じる。妊娠時期は瑛理香とほぼ同じ……という事は美緒のお腹の中に居る子供が無事なら、美緒も瑛理香と同様に、お腹が大きかった筈だ。応接間に入る。振り返ったのは応接間を片付けているメイドだけだった。「桐ケ谷朋美は?」そう聞くとメイドが言う。「お帰りになられました」◇◇◇追いすがる瑛理香を振り切って、俺は自分の屋敷に帰る。「お? 帰って来たな、役立たず」俺に向かってそう言って来たのは俺の兄だ。「何だよ、そんなに慌てて。また何かやらかしたのか?」笑ながらそう聞く兄
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93話 紙片

翌朝、目覚めると隣には九条征哉が座っている。「おはよう」そう言われて私は九条征哉を見上げて微笑む。「おはよう」そう言って座っている九条征哉に抱き着くようにして、九条征哉の太ももを枕にする。それを見ていた九条征哉が笑い出す。「ん? なぁに?」私が寝ぼけ声でそう聞くと九条征哉が楽しそうに言う。「世界広しといえど、俺を枕にするのは美織、お前ぐらいだな」そう言われて私は九条征哉を見上げて言う。「嫌なら退かせば良い……そうされれば私はもう二度とあなたに近付かないわ」九条征哉は私の頭を撫でながら愛おしそうに私を見て言う。「美織は何をしても良いさ、俺から離れる事以外なら、な」まさかあの九条征哉がこんなに甘いセリフを吐くなんて、誰が想像出来るだろうか。「早速、一ノ瀬の人間が動き出したようだぞ?」そう九条征哉に言われて私は笑う。「誰が何をしているの?」そう聞くと九条征哉が言う。「一ノ瀬恭介は及川に九条家を調べるよう指示を出し、一ノ瀬華瑛はあの小部屋から骨壺を一つ取り出し、その処理を部下の木崎にさせているそうだ」衝撃の事実だった事だろう。まさか私が生きているなんて、露ほども考えなかっただろうから。「皆、私が本当に生きているのかどうかを、必死で探るんでしょうね」そう言うと九条征哉が笑う。「こちらから動いても構わないが、それじゃあ面白くないからな」そう言いながら何かを考えている九条征哉がクスッと笑う。「何か思い付いた?」そう聞くと九条征哉が言う。「あぁ、七倉のお爺様と四季凪暁斗にご協力をお願いしよう」九条征哉はそう言って微笑むと、私から視線を離し、言う。「朝食を持って来い」ベッドに運ばれた朝食をゆっくりと食べ、その間、九条征哉は片手間に仕事をこなしている。(この人はいつ寝ているのかしら)そう思ってしまう程、九条征哉の寝ている所をまだ私は見た事が無かった。◇◇◇出かける支度が整う。「行けるか?」九条征哉にそう聞かれて私は頷く。「えぇ」九条征哉は私の手を取り、車へとエスコートする。今日はロイゼンデリア国際医療センターへ行く事にした。可愛い我が子と会う為、そして四季凪暁斗に会う為だ。それが済んだら、次は七倉のお爺様の元へ行く。「何を企んでいるの?」車中で私がそう聞くと九条征哉は私の頭を撫でながら微笑む。「行け
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94話 アポイント

ロイゼンデリア国際医療センターに到着する。中に入り、特別病棟に行く。「子供はこの奥だ」九条征哉がそう言う。かなりの数の人間がその一室の為だけに配置されている。それを見るだけで九条征哉の本気度が分かる。保育器の中の我が子と対面し、腕に抱く。まだまだ小さい我が子だけれど、しっかりと元気だ。「名前、付けないといけないな」そう言われて私は九条征哉を見上げる。「そうね」我が子の名前を考える事が出来るなんて、思いもしなかった。「征哉、あなたのお陰よ」私がそう言うと九条征哉が微笑む。「自分の家族を守っただけだ」家族……そう言われて私は涙ぐむ。そうだ、家族はそういうものなのだ。けれど私の知っている家族はそんな温かいものでは無かった。血の繋がらない母、血の繋がらない妹、冷たい父、そして私を裏切った婚約者……。全員が冷酷にも私を葬り去ったのだ。腕の中の赤ちゃんは必死に私の指を握っている、その小さい手で。本当ならもう少し長く私のお腹の中で育つ筈だった小さな命……。絶対に許さない。◇◇◇何とか繋がった紙片。見にくいけれど、番号は見える。その番号を押す。呼び出し音が鳴り、相手が出る。『はい、岩本です』名刺に書かれている名前だ。七倉家の執事の名前。私は嬉々として言う。「私よ、一ノ瀬瑛理香」そう言うと電話の向こうで、何か笑ったような声がした。『一ノ瀬瑛理香様、何か御用でしょうか』そう聞かれて私は言う。「七倉家のご当主様にご挨拶したいの、アポイントをお願い」そう言うと電話の向こうで岩本が言う。『お待ちください』そのまま私は電話口で待たされる。(きっと今、ご当主様に確認しているのよね)期待が膨らむ。(あのホワイトファングはまだ七倉家にあるのかしら……)そう考えるだけで楽しい。(もしまだ七倉家にあのホワイトファングがあるなら、ほんの少しで良いから見せて貰えないかしら……胸に付ける事が出来れば最高に嬉しいけれど。私は義理とはいえ孫娘なんだから、もしかしたらホワイトファングやそれ以上のものを頂けるかもしれないわ……)そんな事を考えていると、電話口に岩本が戻って来る。『お待たせ致しました、ご当主様は本日、お会いになるそうです』そう言われて胸が高鳴る。『本日、正午にお屋敷へお越しください。時間厳守でお願い致します』そう言われて
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95話 ゲスト

九条征哉の口から出た計画に私は少し笑う。「そんな計画が?」そう聞くと九条征哉が微笑む。「美織にとって、最高の舞台を用意する為さ」九条征哉はそう言って私の頬に触れる。「九条様、美織様」四季凪暁斗が私たちを真っ直ぐに見て微笑む。「僕で良ければ協力させてください」四季凪暁斗はそう言ってベッドから足を下す。「動けるのか?」そう聞く九条征哉に四季凪暁斗が笑う。「治療は進めないといけませんが、体の方は大丈夫です」そう言われて九条征哉は四季凪暁斗を見て言う。「結構、ならば着替えを」◇◇◇ロイゼンデリア国際医療センターを出る。「この後は七倉のお爺様の元へ?」そう聞くとスマホを操作していた九条征哉がふっと笑う。「あぁ、七倉のお爺様の元へ行く……が、その時に面白いものが見られるかもしれないぞ」そう言われて聞く。「面白いもの?」そう聞き返すと九条征哉が含み笑いで言う。「行けば分かる」私たちの後ろの車には四季凪暁斗が乗っている。「四季凪暁斗も連れて行くのは意味があるから、なのよね?」そう聞くと九条征哉が頷く。「そうだ」九条征哉はほんの少し後ろを振り返り、言う。「計画の概要はさっき話した通りだ。四季凪暁斗には花を添えて貰う」◇◇◇七倉のお屋敷前に到着する。私の隣には何故か翔太も一緒に居る。「私がアポイントを取ったんだから、口挟まないでね」私はそう言いながら翔太を見る。翔太は私に微笑み言う。「分かってるよ」私はウィンドウを下げて、門扉に居る人間に言う。「一ノ瀬瑛理香よ、正午にアポイントがあるわ」そう言うと門扉の人間が何かを確認した後、門扉が開いた。車が進む。大きく広大な庭が広がっている。「すごい……」正面玄関へ回るだけで、こんなにも広い敷地を使うなんて。正面玄関へ車を止めると、中から岩本が出て来る。(お出迎えね)私はそう思って車を降りる為に身構えた。けれど一向に扉が開かない。(執事である岩本が扉を開けるんじゃないの?)そう思って待っていたけれど、扉は開かない。その時、岩本が運転席の窓をコンコンと叩く。運転手が窓を開けると、岩本が言う。「一ノ瀬瑛理香様、お車はここではなく、裏へ」そう言われて私はギョッとする。「裏!? 何故、裏なの?」私がそう聞くと岩本は口元にほんの少しの笑みを浮かべて言う。「こちらの
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96話 窓の外

「一ノ瀬様」不意に声を掛けられて振り向く。そこに立っていたのは一人のメイド。「何?」そう聞くとそのメイドが言う。「一ノ瀬瑛理香様でお間違いありませんか?」そう聞かれて私は急いで言う。「えぇ、そうよ!」そう言ってまた視線を車から降りて来る人物に戻す。車から降りて来た人物は九条征哉に手を引かれ、お屋敷に入るところだった。(顔を見逃したじゃない!)そう思いながら私はメイドに振り向く。「何の用なの?」そう聞くとそのメイドが言う。「執事の岩本がお呼びでございます」そう言われてイライラしながら私はそのメイドに向き合う。「岩本が呼んでいるの?」そう言いながら私が建物の角から出て、正面玄関へ向かおうとすると、メイドが言う。「あの、そちらではございません」そう言われて翔太と一緒に振り向く。「は?」聞き返すとそのメイドが言う。「一ノ瀬瑛理香様には裏口から入るように、と」翔太と顔を見合わせる。「裏口からですって?」(正面玄関から入る事も許されないという事!?)信じられなかった。正面玄関の前に車を停める事も許されず、お屋敷にの中に入るのにも、玄関からではなく裏口から入れと言われて、どうして私がこんな扱いを受けないといけないのか、分からなかった。「どうして裏口なの?」イライラしながらそう聞くとそのメイドは困ったような顔をして言う。「私には分かりません。執事の岩本がそう言っていました」翔太を顔を見合わせる。「翔太、どうすべき?」そう聞くと翔太が少し考える。「言う事を聞いておくべきなんじゃないか?」翔太はそう言って苦笑し、私に耳打ちする。「まぁ、大物はわざわざ正面から入らない、なんて事も良くあるだろう?」そう言われて私も考える。「確かにそうね……」それでも正面玄関から堂々と入って行った九条征哉と連れの女性の事が気になる。「中に入れば、顔を合わせる事も出来るわよね……」私はそう呟いて、メイドに言う。「分かったわ」メイドに引き連れられて歩きながら、私は翔太に聞く。「九条征哉と一緒に来ていた女性を見た?」聞くと翔太が首を振る。「いや、見てない」そう言われながら私はあの後姿を思い出す。似ていた……お姉様に。本当にお姉様が生きていたと言うの……?◇◇◇九条征哉に手を引かれ、七倉のお屋敷に入る。「九条様、美
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97話 迷子

窓から見えるそのお部屋は広くて豪奢な造りで、財閥のお屋敷の事を知らなくても、その部屋と私たちの今、居る部屋との格差は火を見るよりも明らかだった。要するに。あちらが本命のゲストで、私たちは今、体よくあしらわれているという事……。大きな庭に面した窓、重厚な家具や調度品、良く見れば執事の岩本もその部屋に居る。私たちは一体、何の為に今日、呼ばれたのだろうか。そう思ってしまうのは、この部屋からあちらの部屋が見えるからだ。そして。「あれ……美緒じゃないか……?」私の背後で窓の外の、向こう側の部屋を見た翔太が呟く。「翔太もそう思う?」そう聞くと翔太は懸命に目を凝らし、離れているその部屋に居る深緑色の服を着た女性を凝視している。「瑛理香も美緒だと思う?」そう聞かれて私も頷く。「えぇ、お姉様に似ているわ」(でもどうしてお姉様が七倉に?)そう思い翔太に聞く。「あの女性がお姉様だとしたら、お姉様はどうして七倉に来たのかしら。それも九条征哉も一緒に」そう聞いても翔太からの返事は無い。翔太を見上げる。翔太は向こう側に居る、お姉様に良く似たその女性を凝視し、動かない。「ねぇ、翔太」私は呼ぶと、翔太はその女性を凝視したまま言う。「何で……九条征哉と一緒なんだ……」そう言って翔太は私を見て、私の両肩を掴み、言う。「だってそうだろ? 美緒に一番優しくしてたのは俺なんだ……九条征哉じゃない。なのにあの爆発を生き延びた後、頼ったのが九条征哉って……どういう事なんだ……?」翔太は私を見つめてそう言っているけれど、それは私に対する質問じゃないと思った。「知らないわよ、本人に聞いたらどう?」私はそう言って翔太の腕を強引に外す。お姉様が生きているかもしれないと分かった時から、翔太はお姉様の話しかしなくなっていた。「翔太、あなた、もしかして、お姉様の事が好きなの?」私がそう聞くと翔太は私を見て歪んだ笑みを浮かべる。「俺が美緒を好き? ハハッ……俺が美緒を好きなんじゃなくて、美緒が俺の事を好きだった筈だろう?」確かにそうかもしれない。でもそれはお姉様が死ぬ前までの話だ。私は向こう側でにこやかに話をしている三人を見ながら言う。「何がどうなっているのか、全く分からないわ。今、こうして同じお屋敷の中に居るんだから、あちらに行って確かめてみましょう?」そう言うと
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98話 ドレスルーム

にこやかに段取りを話し合っていると、応接間に使用人の一人が入って来て、岩本さんに何かを告げている。「何だ? どうした?」お爺様がそう聞くと岩本さんが苦笑する。「泥棒猫、と言いますか。ネズミが二匹、ドレスルームに入り込んだようです」岩本さんがそう言うとお爺様が眉間に皺を寄せる。「ネズミ?」そう聞き返したお爺様に対し、九条征哉がふっと笑いを堪えたのが見えた。(征哉の言っていた、面白い事ってこの事?)私はそう思い、聞く。「征哉、あなた、何か知っているわね?」そう聞くと九条征哉が笑いを堪えたまま、言う。「ネズミに心当たりが」九条征哉がそう言うと、お爺様が納得したように微笑む。「あぁ……あのドブネズミ共の事か」お爺様まで事の次第を分かっているような口ぶりだ。「一体、誰の事なんです?」私がそう聞くと、九条征哉とお爺様が顔を見合わせて頷き合う。「見に行こうじゃないか」お爺様がそう言って笑う。◇◇◇一番目立つ場所に飾られていたドレスを手に取り、私は自分に当ててみる。「ねぇ、素敵じゃない?」そう聞いても翔太はいかにも誰かに見られたらマズいという顔をして、言う。「止めろよ、ここは一ノ瀬じゃないんだぞ」手にしたドレスは青く光り、キラキラと光を反射しているように見える。これを着て動けば、その動きの分、光を反射し、きっと周囲の注目の的だろうと思えた。けれど。一つ不満があるとするなら、妊娠している私の体では着られないサイズだという事……。私はそのドレスを体に当て、鏡に全身を写して見たかった。「鏡は無いの?」そう言いながら私はドレスを体に当てたまま、フラフラと歩く。「止めろって」翔太はそう言いながらも、私に手を出せないでいる。「良いじゃない。体に当ててみるだけよ」そう言って私が一歩踏み出した瞬間、嫌な音が響く。ビリッ……驚いて音のした方を見る。ドレスの裾を踏んでいて、そこから音がした。一瞬にして、背筋が凍る。(もしかして破れた?)そう思い、ドレスを持ち上げる。裾の部分には繊細なレースが使われていて、私が踏んだ事でそのレースの部分が破れていた。「お前! それ、どうするんだよ!」翔太がそう言って私を責める。私は慌てて言う。「こんなにすぐに破れるなんて、不良品なんじゃないの?」そう言いながら私はそのドレスを元あった場
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99話 孫娘

目の前に現れたのはあの向かい側に居た老紳士だった。ブラウンのスーツが良く似合っている。(旦那様って呼ばれたって事は、この人が七倉のご当主様なのよね)そう思い、私はニッコリと微笑む。「ご当主様ですか?」そう聞きながら私はその方に近付く。スッと岩本が前に進み出ようとした私を制する。「岩本?」ほんの少し岩本を睨みながら私は微笑みを絶やさない。「お控えください」そう言われてムッとする。たかが執事が私に何を言うのかと思った。「一ノ瀬瑛理香か」低く渋いお声でそう言うご当主様に私は微笑み、一礼する。「はじめまして、お爺様」そう言うと目の前のお爺様がハッと笑う。「お前にお爺様などと呼ばれる筋合いは無い」そう言われて私は驚いてお爺様を見る。「どうしてです? 私だって一ノ瀬の令嬢ですよ?」そう言うとお爺様の目がキッときつくなる。「七倉と一ノ瀬は絶縁している。知らないのか?」そう聞かれて更に驚く。(絶縁? どうして七倉と絶縁だなんて事に……?)私が戸惑っているのを見て取ったのか、お爺様が言う。「全く、事情も何も知らずに七倉の敷地に入って来るなぞ、正気の沙汰とは思えん」そう言ってお爺様は私を汚い者でも見るかのように見下す。(どうして? だって絶縁しているとは言え、一ノ瀬家に嫁いだのは七倉の娘でしょう?)お姉様の母親がこの七倉の家の娘だという事は知っているけれど、絶縁していたなんて知らない。「何か誤解があるようですわ」私が苦笑しながらそう言うと、お爺様は私を見下ろして言う。「そのドレスはな、私が唯一可愛がっている孫娘に贈る為に用意したものだ」そう言われて私はホッとする。だってお爺様の孫娘って私しか居ない……そう思った時、ハッとする。(お姉様だ……)向かい側でお爺様と朗らかに会話をしていた深緑色の服の女……あれはお姉様なんだと確信する。そしてこの部屋のありとあらゆるものが、若い女性用の宝飾品やドレスなのを見て、この部屋に溢れんばかりに置かれているものたちが全て、お姉様の為にあるのだと、そう感じて悔しくなる。どうしてあんな女に、こんなに良いものを……。どうしてお姉様ばかり……!「一ノ瀬瑛理香様、あなた様が破損されたドレスはこの世に一つしか無いドレスです。職人が丹精込めて縫い上げ、仕上げたもの、値段が付けられない品物にございます
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100話 現実逃避

「美緒!!」私の横でそう叫んだのは翔太だった。一瞬だけ、歩き出したお爺様とお姉様、そして九条征哉が立ち止まる。けれどそのまま振り返る事は無い。しかも九条征哉の後ろには儚いほどの美男子まで付いている。「待ってくれ! 美緒! 美緒なんだろう?」そう言いながら翔太は後を追おうとした、けれど立ち塞がったのは岩本だった。「七倉の大切なゲスト様です、お控えください」そう言われて私はわなわなと震え、言う。「どうしてよ! 何故、お姉様がここに居るのよ! どうしてお姉様がお爺様に大事にされているのよ!」私がそう叫ぶと、岩本が無表情で言う。「先ほどから何が勘違いをされているかと思いますが」そう言われて私は岩本を見上げて聞く。「勘違い? 一体、何の話?」岩本は私と翔太を制しながら言う。「先ほどの方は一ノ瀬家とは全くの無関係です」(全くの無関係?)言っている意味が分からなくて私は少し笑って言う。「だってどこからどう見てもお姉様だったじゃない! あの女は一ノ瀬美緒でしょう?」そう言うと岩本は少し笑い、そして言う。「私から申し上げる事は出来ませんが」そう前置きをして言う。「あの方のお名前は一ノ瀬様ではございません」◇◇◇七倉の使用人に両腕を掴まれ、私と翔太は七倉のお屋敷から追い出されるような形で投げ出される。「さっさと帰るんだな。旦那様の気が変わらないうちに」生意気にも使用人にそう言われて私は悔しくて仕方なかった。「使用人ごときが、私にそんな口をきいて、ただで済むとは思わない事ね!」私がそう言うとその使用人はクスッと笑って言う。「アンタたちもここが自分の屋敷じゃない事を忘れているんじゃないか?」そう言われて激高した私はその使用人に詰め寄ろうとした。けれど、今度は真っ黒なスーツを着た数人の屈強そうな男が私たちの前に立ち、静かに言う。「何もせずに、何も言わずに立ち去れ」黒スーツを着ているその男たちが、誰の人間かは明らかだった。九条征哉「ここで逆らうのはマズい。行くぞ、瑛理香」そう言って翔太が私の腕を掴んで裏口へ回る。歩きながら思い出す。(そうだった、私たちの乗って来た車は裏口なのよね……)そこで初めて悟る。私たちを最初からバカにしていたんだと。車に乗って私は翔太に言う。「お父様とお母様に言い付けなくちゃ」そう言うと、翔太が
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