All Chapters of 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く: Chapter 71 - Chapter 80

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71話 迫り来る何か

お爺様に言われて隣の部屋に入った私の目の前にはたくさんのものが用意されていた。「こちらへどうぞ」そう言って案内された先に、用意されていたのは何着ものドレス。そして宝飾品の数々。バッグや靴まである。「これ、全部ですか?」思わずそう聞くと岩本さんが微笑む。「これでもかなり少なめです」そう言われて私は吹き出す。その部屋の奥にあった着替えのスペースで着替えをし、お爺様が用意したというドレスを着る。靴や宝飾品を身に着け、出る。岩本さんは微笑み、私を案内する。「こちらへ」そう言われて扉の前に立つ。頭の先から足の先までお爺様に頂いたもので全身をまとめ上げた私はおかしくないだろうか。そう思いながら扉の前に立つと扉が開かれる。お爺様と九条征哉が振り返り、私を見る。二人とも目を細め、口元が緩んでいるのが分かる。「美織、おいで」九条征哉がそう言い、私に手を差し出す。私は真っ直ぐに九条征哉の元に歩く。九条征哉は私の胸元を飾っているブローチを見て、更にお爺様を見る。「ホワイトファング、ですか?」少し笑いながらそう聞く九条征哉にお爺様が微笑む。「そうだ」ホワイトファングを模した形のブローチ。キラキラと宝石たちがきらめき、眩しいくらいだ。九条征哉とお爺様は視線を交わし微笑み合っている。私が隣の部屋で着替えているうちに何かを話し合ったのか、互いに互いをリスペクトしているような雰囲気があった。「何か、お二人で話を?」そう聞くと九条征哉が微笑む。「あぁ、お爺様と美織の素晴らしさについて話していたよ」そう言われて私は笑う。「何、それ」お爺様が私の肩に触れて言う。「美織は美しく気高く、そして愛らしいという話をしていたんだ」私はそう言われて更に笑う。「お爺様まで」◇◇◇帰りの車の中でずっと考えていた。「七倉……七倉……」そう呟きながら、その名を口にする。でもどうしても思い出せない。(七倉って聞き覚えがあるのだけれど)結局、私は気が削がれてしまい、買い物はしないで帰って来た。ずっと七倉の名前が頭の中に残っている。(あれだけ高級なブローチを買うくらいだもの、一ノ瀬よりもお金持ちなのよ)それなら知っていてもおかしくはないのに。どうして私は七倉という名前にピンと来ないのだろう?家に帰り着いて、私はお母様の元に行こうとして、呼び止められる。「
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72話 亡霊

翔太に揉めているようだと言われて私はお父様の書斎まで来てみた。ちょうど、お母様がお父様の書斎から出て来たところだった。「お母様」声を掛けるとお母様が私を見て微笑む。「瑛理香、どうしたの?」そう聞かれて私はお母様の背後の書斎の扉を見ながら聞く。「お父様と何か?」そう聞くとお母様が少し笑う。「いいえ、大丈夫よ。お父様は出張に行かれるそうよ」そう言われて私はお母様の表情を見て安堵する。何も無いなら良かったと思い、私は自分が見聞きして来た事を話そうと思い立つ。「それなら良かった。それよりもお母様」私はお母様の腕に自分の腕を巻き付けて言う。「さっきいつも行く宝飾品のお店ですごいものを見たんです」そう言うとお母様が笑いながら聞く。「何を見たの?」私はお母様が笑ってくれるのが嬉しくて言う。「あのお店で一番高級と言っても過言では無いホワイトファングを買った人が居たんです」ホワイトファングは超有名なブローチ。作ったは良いけれど、高級過ぎて誰も買えなかったもの。「ホワイトファングを買った人が居たの?」お母様も興味津々の様子でそう聞く。「えぇ、誰かは申し上げられませんって言われていたんだけど、私、偶然、お名前聞いちゃったの」そう言うとお母様がクスッと笑って聞く。「誰だったの?」そう聞かれて私は言う。「七倉ってお名前でした。お母様はご存じ?」私がそう言った瞬間、お母様の足が止まる。「今、七倉って言ったの?」そう聞かれて私はお母様を見上げて言う。「えぇ、そうです」お母様の顔色が急激に変わり、元から白かった肌がもっと白くなる。「……お母様?」私が声を掛けてもお母様はその場で止まったままだ。「どうなさったの?」そう聞くとお母様はハッとして、私の手を払い、急に歩き出す。「お母様!?」お母様は私に何も言わずにツカツカと歩き、自室に入り、扉を閉める。「お母様? どうなさったの?」扉を開けようとしたけれど、扉には鍵がかかっている。(一体、何があったって言うのよ……)扉を見上げて私は考える。(七倉の名前を出した途端にお母様の顔色が変わったわ……)という事はお母様は七倉という家の名前を知っているという事。どうして私は知らないのだろう。そこで私はハッとなる。(そうよ、お父様よ!)そう思い、私は踵を返し、お父様の書斎へ向かう。
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73話 抱える闇

お父様の顔もお母様の時と同じように、蒼白になって行く。「えぇ……」私がそう言うと、お父様がツカツカと歩きて来て私の前に立つ。「その名前をどこで聞いたんだ?」鬼気迫る表情でそう聞かれて私はたじろぎながら言う。「今日、お買い物に行った宝飾品店です。ホワイトファングなんていう高級なブローチを購入されていたので」お父様は私からそう聞いて何かを考えている。「七倉って何なんですか?」そう聞くとお父様は何かを考えながら言う。「お前には関係無い」そう言ってお父様は私に背を向け、言う。「私は出張に出る。支度で忙しいんだ、出て行け」そう言われてそれ以上聞く事も出来ずに、私はお父様の書斎を出る。(一体、七倉の家が何だって言うのよ!)お父様もお母様も顔面を蒼白させる程の相手。九条征哉よりもすごい相手だとでもいう訳?部屋を出た私の元へ翔太が近付いて来る。「どうだった?」そう聞かれて私は肩をすくめる。「何の事で揉めているのかまでは分からなかったわ」そう言うと翔太が苦笑する。「まぁ、仕方ないさ」そう言って私の肩を抱き、歩き出す。「ねぇ、翔太」私は翔太を見上げて聞く。「翔太は七倉って家を知っている?」そう聞くと翔太が歩きながら考える。「七倉……七倉……」そう呟いていた翔太の足が不意に止まる。「……翔太?」思わず翔太を見上げて聞く。翔太の顔もお父様やお母様のように蒼白になって行く。「何? どうしたの?」そう聞くと翔太が言う。「もしかして七倉って、セブントレジャリーの……」そう言われて私は聞く。「セブントレジャリー?」そう聞くと翔太は私を見て言う。「セブントレジャリーは国内の経済を支えている大会社だよ」そう言われて私は考える。(だからお父様もお母様も蒼白になったというの?)どう考えても今の一ノ瀬家とそれ程、交流のある家じゃないし、名前を聞いたぐらいで蒼白になる理由にはならない気がする。(何かあるのよ、きっと……一ノ瀬家と七倉家には)◇◇◇「どこへ行くの?」私がそう聞くと九条征哉が言う。「ホテルに向かっている。会わなくてはいけない相手が居る」そう言って九条征哉は私の肩を抱く。「美織にやった名前を継ぐ者が居てね」そう言われて私は聞く。「名前を継ぐ者?」そう聞くと九条征哉が頷く。「あぁ、四季凪にもその名前を
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74話 対処

四季凪暁斗にそう言われて私の隣で九条征哉が溜息をつく。「それで? 目的は一体、何だ?」九条征哉がそう聞くと、四季凪暁斗が諦めたように笑うと、言う。「実はちょっと困った事に直面しています」そう言う四季凪暁斗の笑顔が歪んでいる。「ちょっと困った事?」九条征哉が片眉を上げて聞く。四季凪暁斗が控えていた人に向かって頷き、合図する。控えていた人物が頷き、スマホを取り出すと何か操作を始める。「百聞は一見に如かず、と申します。ですので私の困っている現状をお見せしたいと思うんです」四季凪暁斗はそう言うと、歩き出し、クローゼットを開けると言う。「ここで見ていて貰えますか」つまり私と九条征哉でそのクローゼットに隠れて、これから起こるであろう出来事を見ていて欲しいという事なんだろう。九条征哉が私を見る。「どうする?」そう聞かれて私は九条征哉を見上げて言う。「ここまでするんだから、それなりにお困りなんでしょう。見た方が早いと言うなら、見せて貰ったら良いと思うの」そう私が言うと、九条征哉が短く息を吐き、私を連れてクローゼットの中に入る。「一旦、閉めさせて頂きます」そう言って四季凪暁斗がクローゼットを閉めた次の瞬間、けたたましく部屋のドアチャイムが鳴る。しかも何度も。クローゼットの隙間から四季凪暁斗が少し躊躇っているのが見える。チャイムがずっと鳴り続き、それでも出ないと分かると今度はドアがドンドンと叩かれる。「これ、何なの?」私が声を潜めてそう言うと九条征哉は私を抱き寄せて言う。「なるほど、分かって来た」そう言う九条征哉を見上げる。クローゼットの前で大きく息を吐いた四季凪暁斗が歩き出す。ドアを開けたのだろう、そんな音がした瞬間、女性の声が響く。「暁斗!!」次の瞬間には私たちから見える範囲に四季凪暁斗が駆け込んで来る。そんな四季凪暁斗を追いかけて来た人物が居た。女性だ。数人の男性も一緒だ。「私から逃げられるとでも?」女性がそう言う。「どこに隠れていたのか知らないけれど、私から逃げようだなんて」そう言いながら高らかにその女性が笑う。「桐ケ谷朋美……いい加減にしてくれよ」四季凪暁斗がそう言って、おもむろに自身の着ていたシャツのボタンを外し、その胸を肌蹴る。クローゼットの中から良く見えない。けれどその胸には何か、違和感があった。「僕にこんな仕
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75話 別格

その場を一瞬で制圧した九条征哉のその存在感は圧倒的だった。桐ケ谷朋美の連れて来ていた男性たちは両手を上げたまま、入り口付近まで下がり、その様子を日下部さんが微笑んで見ている。桐ケ谷朋美は顔面を蒼白にさせながら、九条征哉に深々と一礼する。「失礼致しました」九条征哉はその様子を見下ろし、私を見て微笑む。「座るか? 美織」その声色は優しく、甘い。私はそんな九条征哉にほんの少し寄りかかり言う。「そうね」そう言うと九条征哉は私の肩を抱き、スッと歩き出し、ソファーに座る。「すぐに何かお飲み物を」そう言ったのは四季凪暁斗の連れていた男性だ。「日下部」九条征哉がそう言うと日下部さんが少し離れた場所で小さく会釈して言う。「すぐに」そう言って日下部さんが部屋を出ていく。(きっと私と征哉の飲み物を用意しに行ったのね)私はそう思い微笑む。桐ケ谷朋美は言葉を発する事無く、ずっと下を向いている。そのせいで表情を見られない。けれど桐ケ谷朋美の心情を図るのは簡単だった。その手が震えているから。私は隣に座るこの男こそが、覇王なのだとまた思い知る。すぐに日下部さんが部屋に戻って来る。サービングカートを押している。テーブルまで静かにゆっくり歩いて来ると、手際良くコーヒーを入れてくれる。「ミルクは多めに致しますか?」日下部さんが私に微笑み聞く。「えぇ、お願い」私がそう言うと日下部さんが微笑み、コーヒーにミルクを注いでくれる。九条征哉はコーヒーをブラックのまま一口飲む。コーヒーの良い香りが部屋中を満たしていく。「さて」九条征哉が口を開く。「私が自ら調べても良いが、手間を省いてくれると助かる」そう言うと傍に立っていた四季凪暁斗が言う。「私から発言しても?」そう許しを請われた九条征哉が眉一つ動かさずに言う。「許可しよう」四季凪暁斗はその場に立ったまま、話し出す。「この女、桐ケ谷朋美の目的は四季凪の名跡と、僕自身です」日下部さんが私にカフェオレを渡してくれる。それを受け取り、一口飲む。「続けろ」九条征哉が私がカフェオレを飲むのを眺めながらそう言う。「桐ケ谷家は昔から四季凪の名を欲しがっていました。もちろんそれは政治的な意味や、財界への影響を加味したものですが、それ以上に桐ケ谷朋美は僕自身を自分のものにする事を望んでいます」四季凪暁斗が肌蹴た胸元か
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76話 七倉の名

圧倒的な存在感、そして一瞬にしてその場を制圧するその力。僕がどんなに努力をしたところで、この圧倒的な力の前ではこの場に居る人間たちは、吹けば飛ぶ程度の存在なのだなと実感する。乾いた笑いが込み上げる。僕が今まで受けた仕打ちは一体、何だったんだろう。身体に傷を刻み、痛みを受け、尊厳さえも奪われかけていた。それをこの男はたった一言で、全てを解決したのだ。九条征哉が僕を見る。「桐ケ谷朋美をどうしたい? 四季凪暁斗」そう言われて僕は考える。今までされて来た事を思えば、その体を切り刻んでもまだ、恨みは晴れないが。「今、九条様の前で今後一切の接触を禁じられたという事は、もう僕とは無関係の人間ですので、僕としては何も」そう言うと九条征哉が笑う。「どんな仕返しも復讐も出来るというのに、それをしないのか」そう言われて僕は桐ケ谷朋美を一瞥して言う。「関わり合いになりたくないだけです。視界にも入れたくない」そう言い捨てると、九条征哉が笑い、言う。「だそうだ。失せろ」そう言われた桐ケ谷朋美はそのまま何も言わずに部屋を出て行き、一緒に居た男たちは部屋のソファーに座っている九条征哉に一礼し、部屋を出て行った。「これで脅威は去ったな」九条征哉に言われて僕は膝を付いたまま言う。「感謝します」九条征哉は隣に座らせている美しい女性に微笑みかけ言う。「俺が美織に渡した名だ。何者もその名を穢すことは許さない」そう言って九条征哉は僕を見る。「それで、お前はどうする? 四季凪暁斗」そう問われて少し笑う。「さぁ、どうしましょうか……体の傷も心の傷も、正直なところ、癒えてはいません」僕がそう言って苦笑すると、九条征哉が隣に居る美織と呼ばれる女性に聞く。「美織はどう思う?」九条征哉はさっきからこの女性の意向をいちいち聞き、その女性の意向を何よりも大事にしているようだった。その女性は僕を見て少し微笑み、言う。「四季凪の名は元々、この方のものでしょう? 征哉が四季凪の名跡を保護しているなら、この方もその四季凪なのだから、傷が癒えるまではこちらに居て貰ったら?」九条征哉はその言い分を聞き、満足そうに微笑み、頷く。「美織がそう言うならそうしよう」傍から見てもこれが“溺愛”と言わずして何を溺愛と言うのだろうと思うくらいには、九条征哉がその女性に対しては甘いのが分
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77話 青い粉

「事務方同士で良く話し合ってくれ」九条征哉はそう言うと、私に微笑む。「行こうか」そう言われて私は頷く。立ち上がろうとした時、四季凪暁斗の傍に立っていた男性が言う。「九条様」そう言って引き留められた九条征哉が振り向く。「何だ」九条征哉がそう聞くとその男性が言う。「私は四季凪暁斗様に仕えている坂崎と申します」そう言いながら坂崎と名乗ったその男性が言う。「暁斗様はご覧頂いたように、手負いでございます。しかもずっと桐ケ谷朋美の件で国内に留まる事が出来ず、海外にて静養されていました」四季凪暁斗はそう言われて苦笑している。良く見れば四季凪暁斗の体には、胸にあるケロイド状の傷の他にも体中につけられたであろう傷跡があるのが見える。「ですので私たちは恥ずかしながら国内の事を存じ上げません」そう言われた九条征哉が言う。「日下部」そう言うと日下部さんがサッと出て来て言う。「承知致しました」九条征哉は私をエスコートしながら言う。「さっきも桐ケ谷朋美に言ったように、四季凪の名跡は私が預かっている。すなわち四季凪は九条の庇護下にある。その四季凪の名を持っている四季凪暁斗にもその庇護は相当する」そう言って私を見て微笑むと、九条征哉が言う。「後は事務方同士で話せ」そう言って私を連れてホテルの部屋を出る。廊下を歩きながら私は聞く。「さっきのあれは?」そう聞くと九条征哉が微笑みながら言う。「四季凪家の人間は国内の事情に疎いから、病院の手配をして欲しいという事だ」そう言われて私は納得する。歩きながら九条征哉が言う。「全く、世話の焼ける男だ」そう言いながらも何故か、九条征哉は少し微笑んでいる。(きっと九条征哉はああいう頭脳派の人間が嫌いじゃないんだわ)私たちに桐ケ谷朋美の暴挙を直接見せる事で、最短時間で問題を処理させた。しかも私たちの同情を買い、自分の手では手に負えない相手を、九条征哉に処理させたのだ。上手い立ち回りだと思った。車に乗ると、九条征哉が私の肩を抱き、言う。「美織に話したい事がある」そう言われて私は九条征哉を見上げる。「何?」そう聞くと九条征哉が微笑む。「家に着いたら話そう」そう言われて私は頷く。九条征哉の微笑みが憂いを秘めているのを感じながら。◇◇◇私は自室のあの小部屋に入る。私自身が作った祭壇。その上に飾られて
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78話 奪われた命の行方

車がお屋敷に到着し、私は車を降りて、九条征哉と共に部屋に戻る。部屋にはお爺様の元から届けられた贈り物たちが置かれている。それを見て少し笑う。「こんなにたくさん、それもこんなに高価なものばかり……」私がそう言って笑っているのを九条征哉は微笑んで見ている。私がソファーに座ると、私の隣に九条征哉が座る。「それで、話って?」私がそう聞くと、九条征哉は私に体を向けて言う。「これから美織に話す事は、美織が聞いたらショックを受けるかもしれない」そう言われて私は少し笑う。「私がショックを受ける話?」そう聞きながら私は今更、何を聞いてもショックなど受けないと思っていた。九条征哉は困ったように苦笑し、そして言う。「美織が連れ込まれたあの施設で、何があったかは知っている」そう言いながら九条征哉が私に手を伸ばし、私の頬に触れる。「その時に奪われたものがあっただろう?」そう聞かれて私は胸がドキドキして来る。あの時、私が奪われたもの……それは私のお腹の中に居た、あのかけがえのない小さな命……。「それが……どうしたの?」喉が急速に乾いていく。震える声でそう聞くと九条征哉が言う。「美織が奪われたものを奪還した」そう言われた時には私の頬には涙が流れていた。「……奪還した?」息が苦しい。ポロポロと涙が落ちて、涙で視界が歪む。九条征哉は私を引き寄せて抱き締め、私の耳元で囁く。「ちゃんと生きてるよ。俺たちの子は、ちゃんと生きてるんだ」そう言われた私は体中の痛みを思い出す。あの時、救えないと思ったあの命が……生きてる……。体中が震えて、何か言おうと思っているのに、言葉が出て来ない。九条征哉はそんな私を抱き締めて耳元で囁く。「大丈夫だ、美織……大丈夫……」そこでパンと、私の意識が途切れた。◇◇◇倉庫の中に入る。ちゃんと掃除がされていないようで埃がかぶっている。何をどう探したら良いのだろう。私の後に付いて来ていたメイドに言う。「あなた、探して」そう言うとそのメイドが倉庫の中を見回し、言う。「何をお探しすれば良いでしょうか」そう聞かれて私は言う。「七倉っていう名前について、一ノ瀬家とどういう繋がりがあるのか、知りたいのよ」そう言いながら私は目の前の雑に押し込められているものを見る。メイドがおずおずと私のところに来ると言う。「あの、瑛理香お嬢様」
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79話 独占愛

美織が意識を失った。俺はそんな美織を抱き上げて、ベッドへ運ぶ。もう今以上にショックな事など、有り得ないと思っていただろう。自分に半年もの間、薬を盛り、時間感覚を奪い、弄んだだけでなく、俺との関係を持ち出し、家を追い出し、更にそのお腹の中に宿った命を奪われ、施設さえも爆破し、美織自身の命をも奪おうとした。その奪われた命が今、まだ生きていると知り、美織の思考限界を上回った事実に、美織は気を失ってしまった。ベッドに寝かせた美織の頬を撫で、俺が誓う。美織をこんなふうに扱った事を後悔させてやる。あの狂った夜、俺と美織に薬を盛り、部屋に閉じ込め、既成事実を作った事を後悔するが良いさ。「日下部」俺が呼ぶと日下部がサッと現れる。「はい、征哉様」俺は美織の頬を撫でながら言う。「念の為、医者を呼べ。美織を診せる」日下部が小さく会釈して部屋を出て行く。意識が戻った時、美織は何と言うだろうか。俺を責める?俺に感謝する?どんな美織でも受け入れる覚悟は出来ている。もし万が一、美織が自分の子を何よりも優先するなら、俺が代わりに一ノ瀬家を潰す。全てを焼き尽くし、全てを薙ぎ払ってやる。◇◇◇「あの女の記録が無い?」私がそう聞くと部下が頷く。「はい、朋美様。現在、九条征哉と一緒に居る女性の記録は、どこを探してもございませんでした」そう言われて私は考える。どういう事なの? 記録が無いなんて事、有り得るかしら……。「四季凪の家の人間では無いという事?」私がそう聞くと、部下が言う。「記録上、四季凪美織という名で、この世に生を受けた者はおりませんでした」あの時、九条征哉は何て言っていた……?四季凪の名の元に私の最愛の人間の名を入れた……確か、そう言っていた。人間の名を入れた……という事は、元々、美織という名の人間は四季凪には居なかったという事……。じゃあ彼女は一体、何者だというの?◇◇◇ロイゼンデリア国際医療センターへ入る。僕は九条征哉の紹介でここへ入るという事もあって、最初からVIP対応だった。特別室をあてがわれ、待ち時間も無く、検査が進められ、プロの意識を持った医師たちから説明を受ける。やはり一番後遺症が出そうなのは、胸のケロイド状の傷だった。「綺麗に直す方法もありますが、どうされますか?」そう聞かれて僕は少し考える。きっと高額なの
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80話 不穏な動き

情報収集をしていく中で、私は奇妙な一致を見つける。ホテルの部屋で一人、PCに向かいながら私はコーヒーを飲み、情報収集をしていた。九条征哉直々に四季凪の家の人間との接触を禁じられ、私はまずは情報収集を始めていた。表向き、誰も九条家と対立しようとはしない。それは九条家がそれ程に強く、現代の覇王とも呼ばれている事を見れば明らかだ。けれど水面下ではいつの世も、寝首を掻こうとしている人間は居る。その筆頭は一ノ瀬家だ。表面上、一ノ瀬家もそれ程、強く九条家に出ている訳では無いし、一ノ瀬家自体、元から九条家からはほぼ、相手にされていないのが実のところ……。そんな一ノ瀬家に不幸があった。それも、つい最近の事だ。一ノ瀬家の長女が心を病み、私設の療養所で療養していたところに、その施設の爆発事故が起き、その事故の犠牲になった、というもの。事故のすぐ後に、ひっそりと家族だけで葬儀を行い、その後、しれっと長女の婚約者だった高橋翔太と一ノ瀬家の次女・瑛理香との婚約が進んだ。私はそれを読んで鼻で笑う。まぁ、財閥同士の結婚なんて、政略である事がほとんどだけれど、この節操の無さは、ちょっと面白い。しかもその一ノ瀬家の次女は妊娠までしているというじゃない。これは一ノ瀬家の内部で色々とゴタついただろうと思った。そして私が一番注目したのは、時期を同じくして、四季凪の家に美織という名の女が現れているという事だ。この一致は偶然なんだろうか。私は幸運にも九条征哉と一緒に居る、あの美人をこの目で見ている。一ノ瀬家の長女の写真でもあれば、自分の目で見たあの女と、一ノ瀬家の長女が同一人物か判断出来るのだけれど。私はホテルの部屋で長考する。仮に一ノ瀬家の長女が生きていたとして。九条家に助けを求めに行く?相手は宿敵とも言えるような、強大な家の冷酷で冷血な覇王とも呼ばれている男だ。一ノ瀬家について、調べた方が早いかもしれないと考える。元から九条家と対立している一ノ瀬家と高橋家には興味があったのだから、接触をしてみても良いかもしれない。◇◇◇「征哉様」日下部に声を掛けられて俺はPCを操作しながら聞く。「何だ?」そう聞くと日下部が言う。「桐ケ谷朋美が一ノ瀬家について調べているようです」そう言われて俺は鼻で笑う。「そうか、好きにさせておけ。桐ケ谷が一ノ瀬と組もうが、高橋と組
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