「及川は俺に接触をして来たんだ」あの時、及川はわざと裏口をウロウロとしていたんだろう。そうすれば私の部下が目を光らせ、自分を捕まえると確信していた。抜け目の無い男だ。「俺の方でも及川が美織を助け出していた事を把握済みだったからな。だから話は早かったよ」そう言うと美織が俺を見上げる。「及川は何て?」そう聞かれて俺は美織の頭を撫でながら言う。「及川から聞かされたのは一ノ瀬華瑛と一ノ瀬美緒の母親・香織との確執、だな」そう言うと美織が自身の口の中で何かを反芻している。「お母様と華瑛さんの間に確執……」俺は抱き寄せた美織の肩を撫でる。「一ノ瀬華瑛は随分と若い頃に一ノ瀬恭介との見合いをしている」美織が俺を見上げる。「お見合い?」◇◇◇九条征哉が頷く。「あぁ、見合いは政略的なところもあったんだろう。その後に一ノ瀬恭介が美織の母である七倉香織に一目惚れをし、華瑛の家である三崎家に破談を申し入れている」お父様がお母様に一目惚れをして……見合い相手だった華瑛に破談を申し入れる……。私たちの世代よりもひと世代前の話だ。見合いを破談にされたら、それこそ、傷物として華瑛の評判にも三崎家の評判にも傷がついただろう。それが相手側の一方的な都合だったとしても、だ。そして私が何故、華瑛にあれだけ冷たくされていたのかが、やっと分かった気がした。「一ノ瀬華瑛はその後、別の男と結婚して瑛理香をもうけたが、その結婚自体もかなり苦労したそうだ」自分との見合いをした相手が別の人と結婚して、幸せな家庭を築いている一方で、自分は捨てられた事で腫れ物扱いをされ、結婚すらままならない状況であったならば、捨てた相手やその想い人に恨みを持つのはごく自然な事だ。「美織の母親である香織が死んで、華瑛は一ノ瀬家に入る事が出来たが」そう言って九条征哉が私を見る。「その美織の母親の香織の死にも、華瑛は絡んでいるかもしれないと、及川はそう睨んでいる」そう言われて絶句する。「お母様の死に……華瑛が……?」九条征哉が頷き、私を抱き寄せる。「そうだ、だから今、調べさせている」お母様の死に継母の華瑛が絡んでいる……。◇◇◇一ノ瀬華瑛は狡猾だ。だが所詮は令嬢。普段から色々な事に気を配って生活をしているが、我々のような使用人は一ノ瀬華瑛の前では透明人間も同然で、居ても居なくても同じだ
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