「事務全般の責任者を務めております、山中といいます」 「片桐紅です。よろしくお願いします」 履歴書を確認されているうちに、50代後半の男性が入ってきて、神楽に会釈して隣に座った。 「ええっと……採用でもう、決まりなんですよね?」 「そうですね。詳細は伝えた通りなので……あとはお願いします」 入れ替わるように立ち上がり、通りすがりに紅の肩をポンと叩く。 ……視線を感じるが、別に用はないので見上げたりしない。 その視線の意味を知るのは、この直後のことだった。 「片桐さんには、外科の病棟クラークとしてお仕事していただきます」 「病棟、クラーク……」 クラークといえば、外来の受付や会計のあたりにいる事務スタッフのことではないのか。 ……けれど、病棟クラーク、しかも外科って? 「各科の看護師や医師の事務的サポート、それから入退院する患者さんの対応を主にやってもらいます。それから片桐さんには確か……」 山中事務長は、持ってきたファイルを覗き込み、メガネをかけたり外したりしながら確認する。 「ドクターズクラークになってもらいます」 「それは……」 嫌な予感がする。まさかドクターとは、神楽のこと? 「はい。神楽先生専門のドクターズクラーク。一般企業で言えば、いわゆる秘書みたいなものです」 どうして……?! せっかく契約が終わって他人になったのに、形を変えて、また主従関係? 「とりあえず、まずはその……病棟クラークというお仕事をさせていただいて、適正を見るって感じでしょうか?」 そうじゃなければおかしい。 私に秘書経験があると知っていたならわかるが……神楽が経歴を知ったのはたった今だ。 「そうですね。私もその方がいいと意見したんですけども。なんだか片桐さんにはとても期待されていらっしゃるようで……」 「そう、ですか。……それは、ありがたいですね」 無難な返事をしながら、神楽がそこまでして私を自分の近くに置いておこうとする理由について考える。 ……もしかしたら、いや、きっとそうだ。 要するに神楽は、私を意のままに操りたいのだ。契約結婚が終わって、自分に執着しなかったのは私だけ……きっとそれが相当気に入らない。 そばに置いて、自分に惚れさせようとしてる? 結婚して一緒に生活
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