All Chapters of クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です: Chapter 41 - Chapter 49

49 Chapters

41.颯真と神楽、神楽と……母?

「颯真、お前……」 「居酒屋で一緒に取り残されたから、もしかしてデキちゃったかと思った!でもすでに別れた2人なんだ?なら問題ないね?」 「なんの問題がないって言うんだよ」 颯真は少し意地悪そうな笑みを浮かべ、神楽と紅の間に自分の座る椅子をねじ込む。 「紅ちゃんに俺の専任も務めてほしいなぁって。……それから」 何を言い出すのか予想した神楽。深いため息を吐く。 「部屋ならうちも空いてるよ?良かったらいつでも利用して!?」 「いえ……選ばなければ、すぐに部屋を借りることはできますから」 それを躊躇したのは、引っ越したばかりのアパートで火事にあったからなのだが……神楽も同じことを思ったらしい。 「慌てて住まいを決めないで、一旦実家に帰るとか、方法はあるだろう」 その言い方が妙に慎重に聞こえ、思わず神楽を見る。 「間借りさせるのはもちろん構わない。……京香にもそうしてやったんだから」 後半は明らかに颯真に言ったように聞こえ、紅は無意識に颯真を見た。 突然神妙な表情になり、深く眉間にシワを寄せる颯真。その不機嫌そうな顔つきに、そこにいる誰もが一触即発を予想した。 「それなら、そのまま嫁にもらえば良かったんじゃない?」 「は?……お前本気で言ってるのか?」 「だって、父さんが言ってたよ。結婚を遊びととらえる神楽には、京香を当てがうのが一番だって」 ……京香さんは、院長が決めた神楽の婚約者だった……?! でも以前神楽の家で鉢合わせたとき、気の置けない幼なじみだって言ってた。 「俺はそんなこと承諾してない。……だいたい、お前こそどうなってるんだよ?」 颯真は返事をしないが、やり取りを聞く限り、京香との間に颯真も何かあったようだと紅は思う。 神楽と颯真、そして京香の3人には、自分の知らない過去や思惑がありそうだ。 「……皆、何の話してるんだかわからなくて困っちゃうよね?」 うまく話を変え、颯真は人懐っこい笑顔を見せる。 「皆さんの関係性は?……そちらは、カップルかな?」 「……私たちは全員、高校時代の先輩後輩なんです」 「えーっ!そうなの?……それじゃあ、神楽の一番の暗黒時代を知ってるんだ?!」 何やら話が良くない方に向くのを感じた神楽。面白くなさそうに頬杖をついた。 「あの
Read more

42.母と意外な接点

「どういうことですか?」「心療内科で、似た人を見た気がするんだよ」ふと思っただけだと言葉を濁す神楽と共に、やがて病院に到着した。「朝まで目は覚めないと思うわ」神楽と2人でやってきたのを見て、京香が病室まで歩きながら説明してくれた。「片桐さん、誰かと携帯で話したみたいなの。ホールにいた患者さんが、携帯を持った女の人と部屋に入ったのを見たって言ってて」「女の人……」父には多分、何人か女性がいたと思う。だが母は、そういう人よりずっと格上の女として扱われてきた。正妻だから当然と言えば当然だが……紅には、母をいたぶれるのは自分だけ、という父の傲慢さが加わっていると思えてならない。「防犯カメラとか、映像は残ってないのか?」「あるわよ。ホールの様子は事故防止と不審者の侵入対策として設置してあるから」京香が指さす先に「防犯カメラ作動中」の張り紙がしてある。あとで映像を確認することにして、何があったのかは後回しにする。紅は2人に伴われ、母の病室の中へと足を踏み入れた。「……お母さん、」白いシーツのベッドに横たわる母は、夕方見舞った時よりやつれて見える。涙の後が残る頬を見てやるせない気持ちになりながら、紅は母の手にそっと自分の手を重ねてから病室を出た。2人とも病院関係者ということで、防犯カメラの閲覧を許された。そこに映る人々を見て、はじめに声を上げたのは紅。「え……?これ、どういうこと、」そこには、母と和やかに歓談する神楽の姿がある。「休憩時間、ゆっくりできそうな場所としてよく来てたんだよ。……京香に心療内科のスタッフ不足を訴えられてから、それを補うために患者の見守りも兼ねてた」「それでさっき、母と親しいかもしれないって?」「あぁ。どことなく誰かに似てると思ってた。……紅のお母さんだったんだな」神楽は笑顔になるものの、紅は驚きを隠せない。「まさか私の母と、和やかに話してたなんて……」「そうだよな。俺も今、驚いてる」先ほど入った病室で見た患者の寝顔と、居酒屋に閉じ込められた時に飽きずに見つめた紅の寝顔が、神楽の中でうっすら重なっていた。「……すごい偶然ね?!」「はい。お母さん、ホールで話す友達ができたって喜んでた……」「友達は嬉しいね。威圧感を与えないように白衣を脱いでたのが良かったんだな」3人はそんな話をしながら、その後も
Read more

43.紅の涙……

どうして自分の子供の頃の写真がここにあるのか不思議に思いながら……「これは……幼稚園の入園式」紺色の制服を着た小さな自分の写真に苦しいような気持ちになる。「こっちは、小学校の時だ」体操着を着て走っているところを撮られたもの。……両親が揃って観に来たことを覚えている。「お母さんがすごく気を使ってたのに、友達の前で怒鳴りつけて……本当に嫌だった」思い出すのは幼い頃の暗い思い出ばかり。「あ、これ……」貼り付けられた写真を順に見ていくと、若い頃の母が私の肩に手を回し、柔らかく微笑む写真があった。「お母さん……」写真に触れた瞬間、ハラリと床に落ちてしまった。紅はそれを拾い上げ、胸に抱いて涙を流す。父はどうして母と離婚しないのか……世間体?嫌がらせ?「まさか、愛してるなんて言わないわよね?」分院で見た防犯カメラの映像を思い出した。神楽によれば、映っていたのは『さつき』というトオキ屋の社員……「父が社員を名前で呼ぶ?」さつき、というのは名字の可能性もある。思い立ってトオキ屋のホームページを覗いてみた。『さつき』とつく名前の社員……紅が見たのは役員紹介のページだった。そこに、確かにさつきという人はいた。「常務執行役 山木さつき」という名前は頭にこびりつき、紅の心臓は早鐘のようにドクドクと脈打つ。どうして父は役員を名前呼びしたの?そして、母に声をかけた人がその人なら、なんの用があって声をかけたの……紅の頭の中には、父の黒い思惑しか浮かばない。もし本当に、父がさつきという人を使って母に何かしたのなら、私は絶対に許さない。涙を浮かべた母の寝顔を思い出し、紅は声を上げて泣いた。……どうしてこんなに苦しまなければならないんだろう。父の本当の狙いはいったいなに?ふと……頭を撫でる手の感触で目を覚ました。「あ、ごめんなさい。私……勝手に」父の思惑を予想しながら泣いて、泣きつかれて眠ってしまった。1度起きてシャワーを浴びて、今度は少し寂しくなって……神楽の部屋のベッドに横たわったところまで覚えている。起き上がろうとした紅の肩を、神楽は優しく押した。疲れの見える表情……分院で聞いた話の続きを喋らせるわけにはいきそうにない。「いいから寝てなさい」「でも、」「うちにはリビングに立派なソファがあるからな?」「……そんなの、らしくないですね
Read more

44.変わっていく関係……?

「怖いか……」「いいえ。自分から誘ったんですから」「それにしては手が冷たい。……唇も、そんなに噛むな」横たわって紅を抱きしめるも、その手はそっと背中を撫でるだけ。「人肌って、あったかいだろ」はじめて触れる神楽の胸は陶器のようにすべらかで、そして本当に温かい。「腕の中から逃げ出したら襲いかかるからな?」「え、だって……」「弱ってる紅がほしいのは、快感じゃなくて安心できるぬくもりだろ」「なんですかそれ、カッコつけちゃって……」「これでも一応、元夫だって自覚はあるわけだ。深く触れさせなかった妻におおいに未練はあるが、今じゃないってことくらいわかる」ちゃんと……私の様子を見てくれた。それが嬉しい反面、経験がない自分にはつきまとう心配があった……私、女として魅力がないのかな。簡単に理性を捨て去る男に軽蔑を向けるくせに、理性を捨てない男には不安を抱く……女も、いや……私も、勝手な生き物だと認めよう。この頑丈な胸に甘えていいと言われたんだ。意地も過去も何もかも、今は全部かなぐり捨て、ぬくもりで安心したい。唇が触れる胸元にキスをして、紅はそっと目を閉じた。……瞬間、早まる鼓動には気づかないまま。『お前は、跡継ぎも生めないのかっ?!』ドサッっと倒れる衣擦れの音……『ご、ごめんなさい……あなた』また、襖の向こうで怖い音がし始めた。バチンっと肌を叩く音、ドンっと何かがぶつかる音、何度か繰り返し聞こえる音が怖くて、幼い私は耳を塞いだ。静けさを取り戻して、私は慌てて襖を開ける。瞬間、顔を背けてハンカチで口元を隠す母。『お母さん、大丈夫……』『大丈夫よ、紅……怖がらせてごめんね』目元に笑みを浮かべるのに、ハンカチが赤に染まっていく……血だ……母は、血が出るほど殴られていた……「お母さんっ!死なないでっお母さんっ!」……ふと、体を揺すられていることに気づいて目を開ける。「紅、大丈夫か?」すぐ近くで顔を覗き込む神楽に、とっさに抱きついた。「お母さんが、殴られて……何度も、何度もそういうのを見て……悲しかった、怖かった……」誰にも見せたことのない、嘘のない涙を、まさか神楽に見せることになるなんて。「そうか、怖かったな……でも大丈夫だから」隙間がないほどぴったり抱きしめられ、その力強さにこわばった体がほどけていく。「……いいか
Read more

45.引っ越し先はここ

「ご飯とおみそ汁です」差し出されたものを呆然と見つめ、キスをされた頬に手を当てた神楽は、ぼんやりと紅を見上げた。「召し上がれ?」「……いただきます」何か言い返そうとしたようだが、言葉を失ったかのように、素直に箸を取る。たかが頬のキスだけで、遊び慣れているはずの神楽もこんな顔をするのだと新鮮な気持ちになった。「実家へ行ったんですか?」「あぁ。トオキ屋本社で社長らしき人と少し言葉を交わして、紅の育った環境がどんなところだったのか気になってな」朝食を食べ終わった神楽をもう一度寝室に押し込め、ゆっくり休んでもらってから、写真の真相を聞くことになった。「父と、話したんですか」「あぁ。客がいるのに大名行列みたいにスタッフが一斉に並び始めて、まだ閉店時間じゃないのに追い出されそうになったからちょっとゴネてやった」「あの人に向かっていったんですか?」ギョロリとした冷酷な目、身長が高くて威圧感のあるあんな男、関わりたくないと思う人が大半だろうに。「もの好きですね……」「紅の父親じゃないとしたら、俺だって近づかないよ」さっきからなんだろう……私の育った環境とか私の父親とか。まるで私に関心があるように聞こえてしまう。「悪いが、感じは良くなかった。……だからこそ、君の幼少時代が心配になったというか」「まぁ、取り繕っても仕方ないですよね。……私の子供の頃は、父の執拗な母への暴言と暴力、それに必死で耐えながら私を守って働きづめの母と、何もできない弱い自分……恐怖と嫌悪と不安と、自分自身の不甲斐なさで埋め尽くされてました」告白を聞いて、神楽の手がこちらに向かって伸びてきたように見えた。でもそれは、紅に触れることなく下に下ろされる。「家政婦らしき人がこの写真を捨てたのを見て、拾ってきた。……あちこちに飾ったのは、その、」「そうなんですよ。どうして部屋のあちこちに貼ったりしたんですか?私の子供時代なんて神楽さんにはまったく……」「可愛いから」言い終わらないうちにそんなひと言を言われたら……どうしたらいいの?「子供時代は皆、可愛いですよね。小さくて……」「いや、紅だから可愛いと思った」「……なに言ってるんですか?神楽さんらしくないですよ?」昨夜から、本当に神楽らしくない。全部は脱いでないけど、お互いにシャツを脱いで抱き合って、優しく抱きしめるだ
Read more

46.言い訳を聞きに……

「……芹沢?」「はい、何か話したい事があるようなので。……帰宅は遅くなると思います」「それは、行くべき約束なのか?」専属クラークとして神楽に指示された仕事をこなしながら、退勤時間が近づいてきた紅は、神楽にこの後の予定を伝えた。「行くべきかどうかはあまり考えてませんけど。話があるなら聞こうかなと、思うだけです」「ふん、面白くないね」パソコンの前に座る紅の背後から手を伸ばし、指示した内容で文章が作れているか確認しながら、神楽は横目で紅を見る。そんな神楽と至近距離で目を合わせながら、紅は思った。早速私のことを自分のものだと誤解し始めていると……「雨の中に出ていくほど、そばにいたくないと思わせた相手なんだろ?」「え……」「洋平に偶然会った夜のことだよ。あの時、直前まで一緒にいたのは芹沢だって言ってよな?」所有物化しての発言ではなかったことが意外で、言葉が出ない。「どんな話があって泣いたのか知らないが、そんな思いをさせた奴に、わざわざ時間を作ってやる必要があるのか」「それは……」ひと通り確認が終わり、パソコンは神楽によって閉じられる。「気にしてません。泣いたっていっても、別に芹沢専務のことで泣いたわけじゃないし。……それに、ちょっと頼まれてることもあって」紅の言葉に、神楽は改めて視線を向けた。「紅、この前は本当に、情けないところを見せてしまって……」食事もできるというカフェバーを指定され、先にテーブルについていた紅。芹沢は早速彼女を見つけ、開口一番謝罪した。「いいえそんな……イイとこだったのに、邪魔しちゃって!」わざと明るく、笑顔で言ってやる。相手が迫田香織だったことは本当に驚いたが、考えてみれば2人は上司と部下。私が在籍している時から関係していたとしても不思議はない。「気にしていると思ったが……」「いいえまったく!彼女とのお見合いは?うまいことすすんでます?」「それは……さすがに、」断られたのか断ったのか。本当か嘘かはわからないが、追及するつもりはない。注文した赤ワインがやってきて、芹沢はグラスを置いたままの紅のグラスにカチン、と合わせる。あっという間に飲み干し、料理を何品かオーダーした後、芹沢は言いにくそうに言葉を紡ぐ。「……その、騙すつもりじゃなかった。いろいろと」「私にプロポーズしたくせに、社長からの見合い
Read more

47.颯真と京香

不審な目を向ける芹沢に、紅は視線である人の存在に気づかせる。「ハナファル商事の社長令嬢です。……今立ち上がったら絶対にバレますよ」「げっ!なんであのお嬢がこんなとこに……!」専務秘書時代、芹沢は取引先であるハナファル商事の社長に娘を紹介され、義理で見合いをしたことがあった。穏便に断った芹沢だったが、娘にとても好かれてしまい、長い間つきまとわれたのだ。数年前のことなので、特に心配はないと思ったが、ここで帰ってもらっては困る。芹沢は驚いて紅の影に隠れ、紅はうまく体をずらし、問題の人物からは見えない位置に芹沢を隠してやった。そこへやってきた亮子とハイタッチして、席を立つ紅。意味のない謝罪と言い訳を聞いた後は、亮子に芹沢を任せるのが彼女との約束だ。店のドアを開けながら、置いてきた2人を振り返ると、亮子が早速芹沢の鼻先を、指先でチョンっと突いていた。……今回亮子は、どんな風に芹沢を落とす気だろう。プライドが高くてズルい男である芹沢に近づく親友を、どうして止めないかというと……亮子は、冷静に男を見極め、美味しいところだけを持っていく天才だから。狙った男は絶対に手に入れる強い女……そして傷つけられたりする脇の甘さは一切ないと、私はよく知っているのだ。「……芹沢専務、お気をつけください?」紅は笑顔を置いて店を出て、神楽の待つ家へと帰った。「昨日は亮子ちゃんと飲んでたんだ?呼んでくれたら俺も行ったのに!」「颯真先生、こちらの患者さんの手術記録ですが……」「それとも女同士の秘密の会合だった?……恋バナ弾んだ?」試験に一発合格し、ドクターズクラークとなった紅は、颯真の事務的な仕事もサポートすることになった。そこで指示された作業を進めているのだが、なぜか本人に邪魔をされてしまう……「昨日は前職の上司も一緒で、一連の出来事について謝罪されました。でも別に謝ってもらうような関係ではないので……私はもうひとつの目的を叶えに行っただけなんです」「もうひとつの目的?」「はい。亮子に繋ぐことです」颯真の様子を見て仕事の質問を諦め、聞きたがっていることを教えてやった。「聞くのも怖い気がするけど、つないで……どうするの?」「まぁ、美味しいところだけをもらうんじゃないでしょうか?」「美味しい……ところ」そこへドアがノックされ、珍しい人が顔を出した。
Read more

48.忍び寄る大きな影

「おふたり、何かあったみたいですけど……颯真先生!話も聞いてやらずに拒否するんですか?それって絶対やっちゃいけないことですよ?」つい京香の肩を持ってしまう紅に、颯真はなかなか言い返せず、ツンッとした顔を向けるのみ。お互い腕を組み、がっつり向き合って睨み合いの状況だ。「あ、の……また出直すから、2人とも……」ふたりの間の見えない火花に、京香はなだめるように間に入ろうとした。「……あ、片桐ここにいたのか?!」ドアが開いて入ってきたのは神楽だ。「オペが終わるまでにカルテのデータ整理って言ったろ。……なぁに油売ってんだ?」「……いえ、あの……それはこのあとやろうと思ってて」「ダメっ!……颯真、片桐はもらうぞ」紅を連れ出しながら、神楽はそれとなく京香と目配せしあった。それに気づいた紅は、部屋にふたりにすることが目的だったのかもしれないと気づく。「私も、2人にしようと思ったんですよ?」「気づいてたのか」「タイミングが難しくて出ていけないでいたら、颯真先生のクソガキぶりに腹が立って……」言い方が面白かったのか、神楽はクスッと笑った。そして医局に入ると、紅の頭に手をやる。「クソガキ!……颯真はホント、そういうところあるんだよ。それにしても……後先考えずに喧嘩を売るのは君らしくていいな!」喧嘩してきた子供を笑うように、ポンポンと頭を軽く撫でていく大きな手。そんな手に、妙に意識が向く。「カルテ整理、はじめますね」「あぁ。まずはこの、中島太郎さんからはじめてくれ。来週オペを控えていて、経過を家族にも説明したい」パソコンの前に座る紅の後ろから、神楽は覆い被さるように一緒に画面を覗く。伸びてくる手がマウスを掴み、スクロールして該当する患者の名前をクリックした。……別にそんなことまでやってくれなくても自分でできるし。何なら後ろからの威圧感が不気味で集中できないんですけど。「……OK?」「か、かしこまりました」顔が赤くなってるのがわかる。……肩のあたりがガチガチに固まってる。あぁ……早くどっか行ってくれないかな。「神楽先生、長谷川さんが目を覚ましました」そこへ看護師が呼びに来た。「わかった。……痛みを訴えてる?」「はい。少しつらそうです」「それじゃもうひとつ痛み止めを落とそうか……」神楽は自分のデスクのパソコンを開き、患者のデータ
Read more

49.神楽の未来

颯真の言い方には、妙な信憑性があった。 院長は二階堂家でもこの病院でも絶対的な存在で、口にしたことは必ず実行するというが……神楽がそんな存在に屈するとか、ちょっと考えられない。 「2人が結婚したら、本院である二階堂総合病院とは完全に切り離して、神楽を分院の院長に置くらしい。……副院長は京香だ」 「……でも、外科はこっちにありますけど」 「神楽は経営に専念させる気だろ。実質的にメスを奪う気だ。……わが父親ながら、底意地の悪さが胸糞悪い」 院長がそこまで考えていることを、神楽は知っているのだろうか…… もし知っているとしたら、絶対に抵抗するはずだ。 「神楽は知らないよ。院長の思惑を」 「颯真先生はどうやって知ったんですか?院長が内密に打ち明けたということですか?」 「いや、神楽の母親……俺にとっての継母と話してるのを聞いた」 帰国して、颯真は両親が暮らす実家に身を寄せているという。そこで2人が話す会話を偶然耳にしたらしい。 ……そういうことなら十分考えられる。 「でも、まだまだ若いのに。……志を持って医者になったと思います。それなのにメスを取り上げられるなんて」 患者に接する神楽を見てきて、ひとつだけ確信を持ったことがある。 それは、たとえ女性関係はクズだったとしても、医者としての神楽は患者を思い、真剣に救おうとする信頼できる人だと。 「今回はさすがに、神楽もどうしようもないだろうな。……まぁ、京香が一緒にこの病院を背負ってくれるなら頼もしいし、それでいいと思う」 颯真の考えを聞いて、紅は深くため息をついた。 院長がどんな人なのか知らないが、30を過ぎた大の男が父親に歯向かえないなんて、情けないと素直に思った。 「それじゃ、京香さんは神楽先生のものになっていいんですね?」 「は……?それは、わざわざ言わないでくれるかなぁ」 「だってそういうことでしょ?神楽先生は百戦錬磨の遊び人だから、きっと京香先生は苦労しますね」 「君は、それでいいの?」 ……そう来ると思った。 紅は強い視線を颯真に向け、口を開く。……よく聞いとけ、と思いながら。 「すべては、神楽先生次第です。院長の意向に従って京香先生と結婚して、メスを置いて病院経営に回るというのなら……それだけの人だったということですよね」 「それ、嫌味?」 「別に、そう取っ
Read more
PREV
12345
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status