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All Chapters of 彼が手放した女性: Chapter 551 - Chapter 560

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第551章 ― 平穏な日常生活

ある日の夕食後、エリーズは日陰の庭に面したテラスに座っていた。ジュリアンもハーブティーを片手に彼女の隣に座った。穏やかな6月の夕暮れで、空気はスイカズラの香りに満ち、澄み切った空には星が輝き始めていた。「何を考えているんだ?」と彼は尋ねた。「私たちにとって。私たちが経験してきたすべてのことにとって。」彼は黙ってハーブティーを一口飲んだ。「覚えてる?」と彼女は続けた。「あの夜、星空の下で、お互いにすべてを打ち明けた夜のこと。ビタミンのこと、キャロラインのこと、私たちの傷ついた過去のこと。」"私は覚えています。"「物事は決して単純ではなく、平和も訪れないだろうという予感があった。それなのに、今日…」彼女は言葉を最後まで言い終えなかった。彼には必要なかった。彼は彼女の手を取り、指を絡ませた。そして二人は長い間、木々の間を吹き抜ける風の音と遠くから聞こえるナイチンゲールの歌声に耳を傾けながら、静かに佇んでいた。人生は完璧ではなかった。もちろん、完璧になることなどあり得ない。しかし、それは素晴らしいものだった。甘美なものだった。それが彼らの人生だった。そして、エリーゼにとって、それは勝利だった。
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第552章 – エリーゼの悪夢

幸福は決して難攻不落の要塞ではなかった。それは、周囲の森の茂みや影に常に脅かされる、脆い空き地のようなものだった。昼間、彼女は苦労して築き上げたこの新しい生活のあらゆる瞬間を味わった。アリスの笑い声、レアの抱擁、ジュリアンの手が肌に触れる感触、協会の本部で仕事をやり遂げた満足感。一つ一つの笑顔、一つ一つの優しい仕草は、過去に対する小さな勝利だった。しかし夜になると、昼間の防衛線が崩れ、影が再び支配権を取り戻すのだった。最初の夢は、平穏な一日を終えたある7月の夜に、思いがけず訪れた。ジュリアンの腕の中で、彼の呼吸音に誘われて眠りに落ちた彼女は、突然、果てしなく続く廊下へと連れて行かれた。壁は、何年も前に雨の中逃げ出した、かつての自分の家のものだった。すべてが灰色で、静まり返り、重苦しい雰囲気に包まれていた。彼女は目に見えない力に導かれるように、氷のように冷たいタイルの上を裸足で歩き、開ける扉はどれも、前の扉と全く同じ、空っぽの部屋へと繋がっていた。彼女は、彼がどこかに、影の中に潜んでいることを知っていた。首筋に彼の視線を感じ、背後からかすかに足音が聞こえるのを感じた。しかし、振り返るたびに、そこには誰もいなかった。ただ静寂と虚無、そして骨の髄まで凍りつくような絶対的な恐怖だけがあった。彼女ははっと目を覚ました。胸が激しく鼓動し、シーツは汗でびっしょり濡れていた。ジュリアンも目を覚まし、彼女を抱きしめて優しい言葉を囁いた。「夢だったんだ。僕がいるよ。君は安全だよ。」彼女は言葉が出ずうなずき、彼に寄り添って再び眠りに落ちたが、魔法は解けていた。森の空き地はもはや完全に安全な場所ではなくなっていた。その後も幾晩も、夢は形を変えながら繰り返された。時には、彼女は古い家の台所にいて、アレクサンドルが手のひらに白い錠剤を二つ乗せたグラスの水を彼女に手渡す。「ビタミン剤を飲みなさい」と、彼はいつもの無表情で、どこか上の空のような声で言う。彼女は拒否したかったし、叫びたかったし、逃げ出したかった。しかし、体はもはや彼女の言うことを聞かなかった。彼女はグラスに手を伸ばし、指で錠剤を掴み、口を開けて飲み込んだ。舌に馴染みのある苦味を感じ、まるで本当に毒を飲み込んだかのように、息を切らして目を覚ました。
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第553章 – エリーゼの悪夢

またある時は、もっと陰湿な夢だった。アリスと公園を散歩していると、すべてが平穏で穏やかだった。ところが、振り返ると、娘の姿が見当たらない。娘を呼び、必死になって走り回り、茂みや隅々まで探し回った。すると遠くのベンチに、アレクサンドルがアリスの手を握り、嘲るような笑みを浮かべているのが見えた。「ほらね」と、声を荒げることなく彼は言った。「お前には彼女を守ることはできない。彼女は俺のものだ」。この夢が一番ひどかった。彼女は涙を流し、震えながら目を覚まし、アリスが部屋で安らかに眠っているか確認しなければならなかった。日中、彼女は平静を装って疲労を隠していた。笑顔を絶やさず、仕事をし、少女たちの世話をし、協会の受益者からの電話にも対応していた。しかし、誰よりも彼女のことをよく知るジュリアンは、彼女の様子に気づいていた。目の下のクマが深くなり、指先が神経質に痙攣し、時折、視線が虚空をさまようように突然沈黙する様子に、彼は気づいていた。ある晩、夕食後、彼は彼女を脇に連れて行き、優しく言った。「エリーズ、誰かに診てもらった方がいい。この夢は深刻だよ。」彼女は抗議したかった。大丈夫だと、これはただの無害な悪夢だと言いたかった。しかし、言葉が出てこなかった。彼の言うことが正しいと分かっていた。過去の傷は自然には癒えない、時には再び開いて浄化する必要があるのだと分かっていた。しぶしぶ、彼女はトラウマ専門の心理学者に予約を入れることに同意した。最初のセッションは辛いものだった。親切な見知らぬ人と向かい合って座り、彼女は最初から自分の身の上話を語らなければならなかった。「ビタミン剤」のこと、発見のこと、逃亡のこと、離婚のこと、脅迫のこと。一言一言が胸から石を抜き取るようで、痛みを伴った。しかし、オフィスを出る頃には、まるで目に見えない重荷が肩から下ろされたかのように、心が軽くなっていた。悪夢はすぐには消えなかったものの、頻度も激しさも徐々に減っていった。彼女は呼吸法やリラクゼーション法、パニックに襲われた時に平静を取り戻す方法を学んだ。そして何よりも、恐怖と戦うのではなく、それを自分自身の一部として受け入れることを学んだ。それは決して完全に消えることのない傷跡ではあるが、もはや生きることを妨げるものではないのだ。
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第554章 – 心理カウンセリング

ある夜、アレクサンドルが果てしない迷宮で彼女を追いかけるという、特に恐ろしい夢を見た後、彼女ははっと目を覚ますと、隣にジュリアンが起きていることに気づいた。彼は何も言わず、ただ彼女を腕に抱き寄せ、優しく髪を撫でた。彼女は目を閉じ、自分の心臓の鼓動に耳を傾け、次第に恐怖が和らいでいくのを感じた。「もう二度と彼に勝たせない」と彼女はつぶやいた。「私の人生で、夢の中でも、絶対に許さない」ジュリアンは彼の額にキスをした。「わかってるよ。それに、僕はここにいる。」彼女は再び安らかに眠りにつき、その夜は数週間ぶりに悪夢に悩まされることなく眠りについた。***だった。数週間もの間、彼女は人前では笑顔を見せていたものの、友人の容態が目に見えて悪化していくのを見てきた。ソフィーは友人のことをよく知っていたので、穏やかな仮面の下に、疲労と不安の痕跡を見抜くことができた。ある日の午後、特に過酷なシフトを終えて部屋を片付けているとき、ソフィーはそっとエリーゼの腕に手を置いた。「誰かに診てもらった方がいいよ。」エリーズは身を硬くしたが、何も答えなかった。彼女は書類を整理し続け、指で厚紙のファイルをしっかりと握りしめていた。「あなたを傷つけようと思って言っているわけじゃないの」とソフィーは続けた。「でも、この悪夢、この疲労感、内側からあなたを蝕むこの恐怖…このままじゃダメよ。あなたは地獄を生き延びたのよ、エリーズ。でも、生き延びることと癒されることは違う。癒されるためには、時には助けが必要なのよ。」「セラピストなんて必要ないわ」とエリーズはつぶやいた。「私は大丈夫よ。」「違うわ。あなたは何も問題ないふりをしている。確かに、とても上手ね。でも、私はあなたのことをよく知っているから、あなたが嘘をついている時はわかるのよ。」長い沈黙が続いた。エリーズは本棚をじっと見つめていたが、実際には見ていなかった。彼女の目は心の奥底に迷い込んでいた。眠れない夜、夢に現れるアレクサンドルの顔、そして最も幸せな瞬間でさえも決して消えることのない恐怖を思い出した。常に緊張状態にあり、決して完全に気を緩めることができない感覚を思い出した。離婚、有罪判決、そして再建が、すべてを終わらせると思っていた。しかし、過去はそう簡単に消え去るものではなかった。
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第555章 – 心理カウンセリング

「怖いんです」と彼女はついにささやくように告白した。「掘り始めたら何が出てくるか怖い。泣き止まなくなるのが怖いんです。」ソフィーは彼女の手を取り、ぎゅっと握った。「私も行くわ。ジュリアンも行く。あなたは一人じゃないわ。」エリーゼが決心するまでにはさらに数週間かかった。仕事や娘たち、協会を言い訳にして、彼女はそれを先延ばしにし続けた。しかし、夜が明けるごとに切迫感は増し、毎朝目覚めるたびに胸の重荷は増していった。ある晩、アレクサンドルが白い錠剤2錠が入った水の入ったグラスを彼女に手渡すという悪夢をまた見た後、彼女は起き上がり、台所へ降りて行き、数週間前にソフィーから教えてもらった番号に電話をかけた。マリアンヌ・デラランド博士は、トラウマと家庭内暴力に特化した臨床心理士だった。最初の面談は火曜日の朝に行われた。オフィスは市内中心部の静かな通り沿いにある古い建物の2階にあった。エレベーターは故障中で、エリーゼは心臓をドキドキさせながら重い足取りで階段を上った。まるで自分の人生を左右するような面談に向かっているような気がした――そして、おそらく彼女の予感は全く的外れではなかったのだろう。心理学者は、穏やかで控えめな笑顔で彼女を迎えた。彼女は50代くらいの女性で、短い白髪で、ゆっくりとした、思慮深い動きをしていた。控えめなフレームの眼鏡の奥にある彼女の視線は、注意深く、そして穏やかだった。彼女はエリーゼを快適な肘掛け椅子に座るように促し、グラス一杯の水を差し出し、待った。エリーズは最初、肘掛けを握りしめたまま黙っていた。どこから話せばいいのか分からなかった。すべてが重く、混乱していて、古すぎた。言葉が見つからないのではないか、崩れ落ちてしまうのではないか、立ち上がれなくなるのではないかと恐れていた。しかし、心理療法士は彼女を急かさなかった。ただそこにいて、じっと待っていて、何も要求しなかった。「何と言っていいのか分からない」と、エリーズはついに認めた。「一番簡単だと思うことから始めてもいいし、一番難しいことから始めてもいい。自分が正しいと思う方法で始めればいい。」
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第556章 – 心理カウンセリング

エリーズは目を閉じ、深く息を吸い込むと、言葉が溢れ出した。最初はためらいがちに、まるで堤防を破る一滴の水のように、次第に速く、力強く。彼女は「ビタミン」のこと、発見のこと、雨の中の逃走のことを語った。離婚のこと、裁判のこと、脅迫のこと、匿名の手紙のこと。悪夢のこと、決して消えることのない恐怖のこと、最も穏やかな瞬間でさえ常に追われているような感覚のこと。ジュリアン、アリス、レアへの愛、そして彼らを失うこと、自分のせいで彼らが苦しむのを見ることへの恐怖を語った。古い物や幽霊でごった返した屋根裏部屋を空にするように、何も省略せずにすべてを語った。彼女が黙り込んだ時、彼女は疲れ果て、気力を失っていたが、同時に不思議なほど軽やかだった。まだ泣いてはいなかった。しかし、彼女は後になって、一人になった時、警戒心を解くことができた時に、涙が溢れてくるだろうと感じていた。心理学者はしばらく沈黙した後、ただ一言、「お話してくださってありがとうございます。あなたが経験されたことは計り知れないほど大変なことで、本当に勇敢でした」と言った。エリーズは言葉が出ず、ただうなずいた。まるで長年背負ってきた重荷を下ろしたような感覚で、その後に訪れた軽さは、麻痺した筋肉に血液が流れ込むように、ほとんど痛みを伴うほどだった。その後のセッションも同様に辛いものだった。特定の記憶を再び呼び起こし、それらを解き明かし、あらゆる角度から検証する必要があった。彼女がこれまで口にすることさえできなかったもの、つまり恐怖、恥、罪悪感、怒りを言葉にする必要があった。たくさん泣き、その涙は弱さの表れではなく、癒しの証であると受け入れる必要があった。もっと早く立ち去らなかったこと、見ていなかったこと、知らなかったことを、自分自身を許すことを学ぶ必要があった。もはや自分を被害者としてではなく、生き残った者として定義することを学ぶ必要があった。
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第557章 – 第一セッション

数週間が経ち、悪夢は少しずつ減っていった。夜な夜な彼女を悩ませていたアレクサンドルの幻影は、ぼやけ、脅威を感じなくなっていった。パニックに襲われた時は呼吸を整え、記憶が蘇った時は意識を集中させ、沈黙が重苦しくなった時は声を上げることを学んだ。傷跡を否定することなく、しかし同時に傷跡に人生を支配されることなく、傷跡と共に生きることを学んだのだ。ある晩、特に辛いセッションの後、彼女が帰宅すると、ジュリアンがキッチンで夕食の準備をしていた。彼女は彼の腕の中で泣き崩れた。彼は何も言わずに彼女をしっかりと抱きしめ、彼女は彼が理解してくれたと感じた。彼は、この涙が精神的な崩壊ではなく、解放の表れだと理解してくれたのだ。回復への道のりにおける、また一歩の歩みだった。その日の夕方、娘たちを寝かしつけた後、彼女はノートにこう書いた。ソフィーのアドバイスとジュリアンの支えもあり、セラピーを始めました。想像していたよりもずっと大変です。毎回が試練で、まさに信仰の飛躍です。でも、効果があるように感じています。何年もぶりに、過去の亡霊が消え始めているような気がします。道のりはまだ長く、癒しは目的地ではなく旅路だと分かっています。でも、私はその道を歩み始めている。それが大切なのです。***診療所は、ボルドー中心部のランパール通りにある古い建物の2階にあった。エリーズは心臓をドキドキさせ、手に汗をかきながら、重い足取りで石段を上った。彼女は3度も引き返そうと思った。1度目は馬車乗り場の前、2度目はロビー、そして3度目は踊り場で。そのたびに、ソフィーの言葉を繰り返して自分に言い聞かせた。「1日で終わらせる必要はないわ。でも、行かなくてはならないのよ。」待合室は簡素で、ほとんど質素と言えるほどだった。快適な肘掛け椅子が2脚、鉢植えの植物が置かれた低いテーブル、そしてきちんと積み重ねられた心理学雑誌。壁には、夕暮れのビーチ、秋の森、地平線まで広がるラベンダー畑など、心を落ち着かせる風景の複製画が飾られていた。エリーズは椅子に座り、バッグを膝の上に置き、閉まった診察室のドアをじっと見つめていたが、ドア自体は見ていなかった。
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第558章 – 第一セッション

数分後、ドアが開くと、50代くらいの女性が姿を現した。短い白髪で、穏やかな顔立ちをしていた。控えめなフレームの眼鏡をかけ、淡い青色のブラウスを着ていた。眼鏡越しの彼女の視線は、注意深く、そして安心感を与えてくれるものだった。「ルノワール夫人?私はデラランド医師です。どうぞお入りください。」エリーズは立ち上がり、彼女の後についてオフィスに入った。部屋は想像していたよりも広く、木製のブラインドを通して柔らかな光が差し込んでいた。本棚には心理学の本がぎっしりと詰まっていて、その重みで軋んでいた。快適な肘掛け椅子がシンプルな机に向かって置かれており、その机の後ろに心理学者が腰を下ろした。彼女はエリーズに座るように促し、グラス一杯の水を差し出し、静かに待った。エリーズは一口飲み、グラスを置いて、膝の上で組んだ自分の手を見つめた。沈黙が続き、言葉が見つからないのではないか、理解されないのではないか、批判されるのではないかという、根拠のない恐怖が彼女の中に湧き上がってきた。「どこから話せばいいのか分からない」と彼女はついに小声で認めた。「決まった順番はありません」とデラランド博士は穏やかな笑顔で答えた。「たとえ混乱していたり、まとまりがないように思えても、頭に浮かんだことから始めてください。私たちは一緒に糸を解きほぐしていくのですから。」エリーズはうなずき、深呼吸をした。言いたいことを頭の中で、シャワーを浴びながら、車の中で、百回も練習した。しかし、この親切な見知らぬ人を前にすると、言葉は堰を切ったように出て、詰まって出てこなかった。まるで崖っぷちに立っているような気分で、その虚無感が彼女を惹きつけると同時に恐怖に陥れた。「私がここに来たのは…」彼女は言葉を選びながら言葉を詰まらせた。「もう眠れないから。毎晩悪夢を見るの。昼間でも怖い。彼が怖い。彼が戻ってくるのが怖い。娘たちを傷つけるんじゃないかって怖い。」" 彼 ? "「私の元夫。アレクサンドル。」その名前が彼女の唇に焼き付いた。何週間も口にしていなかったその名前を、まるで口にするだけで闇の中から呼び起こせるかのように。「あなたの元夫はあなたを傷つけたのですね」とデラランド医師は優しく言った。「それがあなたがここに来た理由です。」
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第559章 – 第一セッション

それは質問ではなかった。それは観察であり、開かれた扉だった。エリーズはうなずき、視線をカーペットの模様に釘付けにした。「彼は5年間、毎朝私に錠剤を飲ませました。ビタミン剤だと言って、私の健康のためだと言っていました。」彼女の声は震え、話を続ける前に深呼吸をしなければならなかった。「実は、あれは避妊薬だったんです。私が気づかないうちに妊娠するのを防いでくれたんです。」その言葉は、重く、取り返しのつかないものとして、オフィスの静寂の中に響き渡った。デラランド博士は、驚きも恐怖も表さず、ひるむことなく、まるでこの告白を、かけがえのない秘密として受け止めるかのように、ほとんど気づかれないほど静かに頷いた。「5年間ずっと」とエリーズは繰り返した。「毎朝、彼は私が薬を飲んだかどうか確認してくれたの。まるで子供のように、私の舌の下を覗き込んで確認してくれた。そして私は、それが…思いやりがあると思ったの。」彼女は喜びのない笑い声をあげたが、それはほとんどすすり泣きのようだった。「あなたは彼を信頼していたのですね」と心理学者は言った。「ええ、もちろんです。盲目的に信じていました。彼は私の夫でした。医者でした。私にとって何が最善か、彼は分かっていたはずです。」彼女は言葉を止め、首を横に振った。「私はそう信じていたんです。」デラランド博士は沈黙を守り、言葉が響き渡り、その意味が定まるのを待つかのように、静寂が訪れるのを待った。エリーズは低い声で続けた。「先生、一番辛いのは、彼が私にしたことじゃないんです。一番辛いのは、私がすぐにそこを離れなかったことです。真実を知った後も、私はそこに留まりました。長くはいませんでしたが。せいぜい数週間くらい。でも、私はそこに留まったんです。」" 何のために ? "その質問は単純で、ほとんど技術的なものだったが、エリーズの胸を締め付けるように響いた。彼女はこれまで何百回もこの質問を頭の中で反芻してきたが、満足のいく答えを見つけることはできなかった。
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第560章 – 第一セッション

「怖かったから」と彼女はついに言った。「彼を置いていくのが怖かった。一人でやっていけないのが怖かった。もし私が去ったら、彼が何をするか怖かった。それから…」彼女は言葉を詰まらせ、目に涙が浮かんだ。「それから、恥ずかしかったの。」「何が恥ずかしいの?」「あんな扱いを受けた自分が恥ずかしい。もっと早く理解できなかった自分が恥ずかしい。自分がこんなにも世間知らずで、愚かで、盲目だったことが恥ずかしい。」彼女の声は震え、涙がとめどなく溢れ出した。彼女は涙を止めようとはしなかった。溢れんばかりの、燃えるような涙が、頬を伝って流れ落ちるままにした。彼女は自分自身のために、かつての自分のために、失われた歳月のために、そして二度と取り戻せない無垢さのために泣いた。デラランド医師は彼女にティッシュの箱を手渡し、彼女が少し落ち着くのを待ってから、静かに言った。「ルノワール夫人、あなたが経験されたのは不当な影響と呼ばれるものです。それは、あなたが気づかないうちに徐々にあなたの自由意志を奪っていく、陰湿なプロセスです。あなたは世間知らずでも、愚かでも、盲目でもありません。あなたは罠にはめられたのです。そしてその罠はあまりにも巧妙に仕掛けられていたので、あなたの立場にある人間がこれ以上うまくできたはずがありません。」エリーズは目を拭い、鼻をすすり、顔を上げた。そんなことを言われたのは初めてだった。誰もが――ほとんど誰もが――もっと早く逃げなかったことを非難してきた。継母、アレクサンドルの友人たち、弁護士たち、そして時には裁判官でさえも、言葉にならない重苦しい沈黙の中で、そう言ったのだ。そして今、初めて会うこの見知らぬ人、この心理学者が、彼女自身が決して認めようとしなかったものを与えてくれた。それは、彼女に起こったことは彼女のせいではないという認識だった。「そう思うの?」と彼女はつぶやいた。「信じられない。知っているんだ。」セッションはさらに30分続いた。エリーズは悪夢や眠れない夜、中庭のわずかな物音にも襲われる恐怖について語った。ジュリアンのこと、彼の無条件の支えと限りない忍耐についても話した。アリスとレアのこと、彼女たちを失うことへの恐怖、彼女たちを守れないことへの恐怖についても語った。言葉の一つ一つが、彼女の胸から引き抜かれた石のようで、痛みを伴った。
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