死に戻り令嬢は、初恋を選んだ元婚約者が土下座しても絶対に許さない のすべてのチャプター: チャプター 41 - チャプター 50

53 チャプター

第41話 女王のプライド

 『いるなら入るぞ』  鍵がかかっていたはずのドアが、静かに、けれど逃げ場を塞ぐような圧迫感を伴って開く。 オートロックのカードキーを当たり前のように手挟み、部屋の中へと歩み寄ってきたのは――洗礼された美を纏った男、諸星帝。  いつもの冷徹な美貌。けれど、その底知れぬ双眸の奥には、獰猛な「独占欲」が渦巻いているように見える。 「な、なぜここが……それに、どうして鍵を……っ」「ホテルの支配人に頼めば朝飯前だ。君の居場所を把握するのに、三分もいらない」  帝は逃げようとする私の腕を強固な力で掴み上げると、そのままベッドの上へと押し倒した。 至近距離で、彼の熱く掠れた吐息が私の頬を掠める。逃げ出す隙すら与えられない。「ずいぶんと無様な顔をしているな。どうした? 見た所、あのゴキブリに圧力をかけられているみたいだな」「っ……離してください! 諸星代表!」「帝と呼べと言ったはずだ」  掴まれた手首にギュッと力がこもり、背中がゾクゾクと震える。 帝は上から私を見下ろし、嘲笑うような、けれどどこか狂気を孕んだ低音で囁いた。「俺に偉そうに喧嘩を売っておきながら、随分と底の浅い知略だな。白峰ホールディングスはまもなく破産だと聞いたが? 君の手元の口座も差し押さえられた。あのゴミ虫に、足元からすべてを剥ぎ取られた気分はどうだ?」
続きを読む

第43話 女王の逆襲

  連日のストップ安で、あいつは相当資金をショートに突っ込んでいる。手元の数拾億円の軍資金を信用取引の担保に入れ、その何倍もの「過剰な空売りポジション」を限界まで膨らませているはずだ。  今もストップ安で張り付いた板。あの男のもとに、幼馴染の成美が訪ねて行ったと耳にした。  あの二人が会っている――ならば、板など見ずに、今頃は油断して楽しんでいるはず!!    志田成美も、もしかすると帝が……?  ふふ、まさかね。    でも、タイミングが良すぎる。  なにかしらの形で帝が関わってるに違いないわ。悔しい。どこまでも私は帝の掌の上で転がされているのだと思い知らされる。  苦笑が漏れたけれど、私は首を振った。  今は仕方ない。まだ私に力が無いのだから。  もっともっと大きな力を手に入れて、まずは一条陽太を破滅させ、私が君臨するの!  あの男だけは、死んでも許さない。  絶対に、なにがあっても。 「陽太……あなたが白峰の株を売り崩せば売り崩すほど、その首に締まるロープは太くなっているのよ」  私は帝から渡されたブラックカードをテーブルの上に置くと、ノートパソコンを開いた。 画面に映し出されるのは、ストップ安で放置され、売り注文が殺到している白峰ホールディングスの板情報。 「前世のデータなんていらない。今、市場に転がっているあなたの強欲と無知という名の隙を、帝の用意してくれた資金で極限
続きを読む

第44話 デートの約束

 翌朝、取引が始まる前の静寂のなか。 私は諸星ホテルのスイートルームのドアをノックし、優雅にモーニングコーヒーを嗜んでいた帝の前に向かった。 大理石のテーブルの上に、カチャリと小さな音を立てて一枚の黒いカードを置く。「お借りしたブラックカード、お返しいたしますわ。おかげさまで、白峰ホールディングスの株価はストップ高まで跳ね上がり、買いポジションを完璧に構築できました」 帝はカップをソーサーに戻すと、テーブルの上のカードには目もくれず、私をじっと見つめた。 漆黒の瞳には冷徹な投資家としての顔ではなく、どこか甘くサディスティックな、そして呆れるほど愛おしそうな色が宿っている。「カードを返して終わりとは言わないよな。まさか褒美は無いのか? こんなに助けてやったのに」「助けた……? 条件付きの『極上の檻』の鍵を投げてくださっただけでしょう?」「それを助けたというんだよ」「そうかもしれませんが、諸星代表にとっても白峰を買い支えて陽太のポジションを焼き尽くすのは爆益を生む取引だったはずですわ」「ふっ、相変わらず美しい顔で可愛げのない口をきく」 帝は立ち上がり、ゆっくりと私へと歩み寄ってきた。 背後から包み込まれるように腰を抱き寄せられ、その逞しい胸板に背中が密着する。耳元に吹きかけられる熱い吐息に、心臓が跳ね上がるのを隠せない。「俺が欲しいのは、市場の利益などという矮小(わいしょう)なものではないと分かっているだろう? ……で、どうする。俺を満足させる『最高の褒美
続きを読む

第45話 遊園地 前編

「……本当に、ここをデート場所にするつもりか?」  私たちがやってきたのは、関東でいちばん有名な遊園地施設。そう、ここはネズミーランド! 白亜のお城がゲートから見えている入場門前で眉間に深々とシワを寄せているのは、諸星帝だ。 普段の上質なスーツ姿とは違う、どこかリラックスした装いから醸し出されるフェロモンとオーラは異次元で、周りのカップルや女子高生たちが「キャー! あの人ヤバすぎない!?」「モデル? 芸能人!?」と遠巻きに黄色い悲鳴を上げている。「ええ。諸星代表を『普通の男』として連れ回すのが、私からの褒美とお返しだと申し上げましたでしょう?」 私はライトブルーのフレンチスリーブのワンピース裾を揺らし、フッと悪戯っぽく微笑んで見せた。「混雑しているからと言って、貸し切りも禁止ですわ。一般のお客様と一緒に並んで、アトラクションを楽しむ。それが今日のルールです」「……言っておくが、俺は絶叫系などという乗り物で興奮するような男ではないぞ」 そう言いながらも、帝は不器用な手つきで私の手を取ると、自分のジャケットのポケットへとそっと滑り込ませ、恋人繋ぎでギュッと指を絡めてきた。「逃げるなよ、結月。一日俺の好きにさせてくれると言ったのは君だ」「はいはい。行きましょう、帝」 初めて繋ぐ、大きくて温かい手。 いつもは世界経済を動かす冷徹な投資家の手が、こんなにも熱く私を優しく握りしめていることに、胸の奥がキュンと甘く痺れていく。  ベッドの中で激しく抱き合ったのに、手を繋ぐのは初めてなんて変な感じ。 アトラクションの列に並んでいる最中も、帝は私を人混みから守るように、ずっと背後から包み込むように寄り添ってくれた。「これ、食べてみます?」 私が買った焼き立てのチュロス(シナモン味)を差し出すと、帝は「俺は甘いものは……」と一瞬眉をひそめたものの、私が「おいしいですわよ」と言って見つめ返すと、素直に口を開けてハムッと一口かじりついた。「意外と悪くないな」「ふふ、可愛いところもありますのね」「……可愛いだと?」 帝は少し不機嫌そうに目を細めると、私の腰をグッと引き寄せ、耳元で低く囁いた。「ベッドの上で『可愛い』のは誰だったか、今ここで思い出させてやろうか?」「っ……! ここは外ですわよ!?」 顔を一瞬で真っ赤に染めた私を見て、帝は満足そうに「ふっ
続きを読む

第47話 遊園地 後編

 そして、遊びつくしてあっという間に夕暮れ時になった。  いつの間にかずっと手を繋いで園内を回っていた。「二人きりになれる場所へ行こう」 帝が視線を向けた先――そこには夕暮れのオレンジ色に染まり始めた空に、ゆっくりと大きな円を描く観覧車がそびえ立っていた。 繋がれた手から伝わる温もりが、初夏の夕風に溶けていく。 私はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、「はい」と小さく頷いた。 橙色に染まる空に、ゆっくりと回る巨大な観覧車。 二人きりのゴンドラに乗り込むと、下界の喧騒が一気に遠ざかり、密室の中に甘い沈黙が流れた。「綺麗ですわ」 窓の外の夕暮れの街並みに見とれていると、隣に座った帝の腕が、そっと私の肩を抱き寄せた。「結月」「はい……んっ」 あっと思った瞬間、優しく、けれど逃れられない強さで唇を塞がれた。 以前のような激しいお仕置きのキスではなく、慈しむような、愛おしさに満ちた甘い甘い口づけ。 夕日に照らされる帝の顔は、今まで見たどんな顔よりも甘く、そして情熱的だった。「……君が俺の前に現れてから、毎日が狂わされっぱなしだ」 額を寄せ合い、帝が掠れた声で囁く。「もう俺の手から逃げられると思うなよ?」 文句を言う前に再び唇が塞がれた。優しく舌が絡みつき、甘く思考を支配する。  そのまま抗えない痺れが身体中を駆け巡り、私は彼の手を強く握り返した。 ほんと油断のならない男――「んっ……ふ……っ」 二度目の口づけは一度目よりも深く、けれど壊れものを慈しむように丁寧で甘かった。 呼吸が途切れ、私の胸に抱えられたネズミのぬいぐるみが二人の間に挟まれて少し潰れる。帝はその柔らかい感触に気づくと、くすりと小さく胸を揺らして微笑み、私の頭の後ろに大きな手を回してさらに深く唇を重ねてきた。 観覧車がゆっくりと頂点へと差し掛かる。 夕闇が迫る街並みが眩しく輝き始めているのが目下に見える。「……息、できているか?」 ようやく唇が離れると、帝は私の潤んだ瞳を愛おしそうに見つめ、親指で私の熱くなった下唇をすっと優しくなぞった。「っ……、誰のせいだと思っているのですか……」「フッ、君のせいだな。そんな顔で俺を見つめるのが悪い」 そう言って帝は私の肩を抱き寄せたまま、己の広い胸の中に私をそっぽりと包み込んだ。 彼のトクトクと刻まれる規則正しい心音と、彼から
続きを読む

第48話 暴落のはじまり Side:一条陽太

「頼む……頼むよ! 追加の担保なら月曜までに何とかするから! 強制決済だけは待ってくれぇっ!」 ザギンの街角。夕闇が迫る歩道に膝をつき、俺は冷や汗と涙で顔をベトベトに濡らしながら、電話口の証券会社に向かって惨めにすがりついていた。土曜日だというのに、俺から金をむしり取ろうと担当の男(若いやつ)が何度も連絡してくるんだ。 ザギンの超一等地。俺が数十億のキャッシュをチラつかせて結月から横取りした、あのガラス張りの高級ビル。白峰の株を空売りしまくったせいで発生した損失は、とんでもない額になった。追証(信用取引において委託保証金維持率が最低保証金維持率を下回った際に発生する追加保証金)が発生していて、現金が枯渇すると知った不動産会社はあっさり掌返し、事務所から追放され、途方に暮れていたまさにその時―― 一台の黒塗りの高級リムジンが、滑らかなエンジン音とともに路肩へ静かに滑り込んできた。 信号待ちで停車したその車のリアシート。 スモークガラス越しに映し出された光景に、俺の眼球は飛び出しかけた。 (な……なんだ、あれ……!?)  そこにいたのは、結月と諸星帝だった。 二人は繋いだ手を片時も解こうとせず、結月の膝の上には不釣り合いな大きなネズミのぬいぐるみ。 結月は心底幸せそうに、愛おしそうに帝の肩に頭をちょんと預け、帝はそんな結月の髪に優しくキスを落とし、甘く囁き合っている。 どこからどう見ても、お互いを愛し合っている「完璧な恋人同士」の空気感。 結月が自分から男にすり寄り、あんな甘く蕩けたような表情を浮かべているなんて、前世を含めて一度だって見たことがない。 「っ……な、なんで……なんでお前らがそんな顔してんだよ……!? 俺は、俺は今、こんなに困ってんのに……っ!」  血の気が引き、頭が激しい嫉妬と屈辱で真っ白になる。 俺が追証の恐怖で吐きそうになりながら地面に膝をついている目と鼻の先で、あいつらは夢のような甘いデートの余韻に浸っていたのだ。「結月ぃぃいいい! どういうつもりだぁぁああっっっ!!」  信号が青に変わり、静かに走り出そうとするリムジンに向かって、俺はなりふり構わず叫びながら追いかけた。ふたりは俺の存在に気づきもしない。「待て! 待ってくれ結月ぃぃいいいッッッ!!」  俺は必死で手を伸ばし、もつれる足でリムジンの後を追いかけた。 だが
続きを読む

第49話 快楽の後で

  ――数日前。ザギンのオフィス。  「成美、もっと高いワインで乾杯しよう!」 「すごーい、陽太くん天才ー♡ 投資の才能ある~! ねえねえ、あのマンション買って~♡」 「いくらでも買ってあげるよ」 「きゃーん♡」  俺は成美をめちゃくちゃに抱いた。  天空のオフィスで乱れるとか最高すぎん?  前世ではこんなこと、一回もできなかったんだ!!  ああやべ最高~♡  「あんっ、陽太君♡ もっと来てぇ♡♡」 「成美、かわいいよ、成美♡」 「いっぱいちょうだ~い♡ 陽太君の赤ちゃん欲しいなぁ~♡」  赤ちゃん欲しいだって!?  ふんごー!!  結月とも結婚しなきゃいけないし、俺、忙しすぎん? 「いいよ、いっぱい受け取って」 「ああーん♡」  というのを3回くらい繰り返した。天空のザギンオフィスで裸の暴れん坊しちゃって、もう、最高♡  あの時は、まさに人生の絶頂だった。  オフィスのソファーで、服を乱した成美を抱き寄せながら、俺はPC画面の赤一色のチャートを見て高笑いしていた。 「陽太くんすごーい♡ 今の彼氏より、陽太くんの方が何万倍も男らしいよぉ!」   成美が白い胸を押し付けてすり寄ってくる。彼女は海外から帰ってきたばかりで、俺の資産を自由に使えることに大喜びだった。 
続きを読む

第50話 幼馴染にも捨てられる男

 「ふ……ふざけんなっ! なんでストップ高なんかにっ……!!」  わなわなと体が震える。このままじゃまずい。どうしよう。「陽太くーん、『ストップ高』ってなに? もしかしてお金が増えたの?」 ソファーの上で、成美が首をかしげながら呑気に聞いてくる。普通の状態だと、ストップ高というのは株価にとっていいものだ。だから儲かったと思うのは当然だろう。しかし―― 俺の脳内は、恐怖と混乱で完全にパニックを起こしていた。 「増えてないんだよ!!」俺は成美に向かって声を荒げてしまった。「ストップ高ってのは、株価が限界突破して大暴騰したってことだ!! 空売りしてる俺にとっては、含み損が無限大に膨らんでるんだよっ!!」 「え……? 含み損……? それって損したってこと?」「クソッ、注文が通らない! 市場が閉まってるからな……。いや待て、明日もストップ高で寄り付かなかったら……俺の数十億が、一瞬で吹き飛ぶ……!?」  ガタガタと震える手でキーボードを叩くが、15時に閉まった市場はビクともしない。 冷や汗が吹き出し、膝が笑ってガクガクと崩れ落ちそうになる。  その時だ。  さっきまで「陽太くん♡」と甘い声を上げて俺の
続きを読む
前へ
123456
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status