「大事な初日に勘弁してほしいものだ。ともかく、直るのならいい。明日の営業に支障はないな」「そうでしたか……」 春菜も自身の調理台の拭き上げを行いながら、心底安堵していた。 足の筋肉が長時間の立ち仕事による疲労を訴えている。(なんとか乗り切ったわ。明日はお皿の問題もないし、もっとスムーズに回せるはず) 誰もが飲食店の現場でよくある機材トラブルとして処理し、敵の工作であると疑うことはない。 若手スタッフたちも「初日から寿命が縮むかと思いましたよ」と軽口を叩き合いながら、まな板や包丁の洗浄を進めている。 そこへ、ダークネイビーのスーツを着込んだ御堂礼司が厨房へ姿を現した。 無駄のない細身のシルエットが、周囲の空気を引き締める。「洗浄機のトラブルがあったと聞いた。現場に混乱はなかったか」「はい。手洗いで対応し、メニューの提供方法を工夫したので、なんとか乗り切れました。悠斗さんの素晴らしいフォローのおかげでもあります」 春菜が報告すると、礼司は手に持った薄型のタブレット画面に視線を落とした。 画像捏造事件の後、彼は悠斗の私設技術顧問という形で、コラボフェアに関する連城ホテルのITセキュリティを担当していた。 ネットワークの通信ログに、極めて微小なノイズの痕跡を検知している。 画面を見つめる彼の眉間に、細いシワが寄った。「配電盤のショートに伴う電磁ノイズか。いや、データ波形がわずかに不自然だ」 礼司は洗浄機の周辺へ歩み寄ると、鋭い視線を巡らせる。 けれど翔太たちが仕掛けた物理デバイスは、配線の奥深くに巧妙に隠蔽されている。外観からは全く特定できなかった。「どうしましたか、御堂社長」 春菜が不思議そうに尋ねると、礼司は表情を変えずに振り返った。「単なる機器の故障によるノイズの可能性もある。だが、念のため私がシステムの監視を強化しよう。君たちは明日の営業に備えて、しっかり休むといい」「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」 礼司の力強い言葉に
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