(なんて悪質な嫌がらせ……。この低俗な悪意、元婚約者の翔太を思い出すわ。あの人は御堂社長に制裁されて、店は倒産。今は行方知れずだったっけ。だから違うと思うけど、でも、まさかね) 春菜の直感は当たっていた。 灰谷のネットワークの支援を受けて、翔太と梨沙が連城ホテルに入り込んでいるのだ。 彼らがこっそりと撮影した写真をもとに、灰谷がAIを使って画像を捏造した。それが今回の事件の真相だった。 実際に厨房を撮影した写真を加工しているから、画像は良くできている。一見すると本物にしか見えない。 その陰謀までは知るすべがないものの、春菜はとても嫌な予感を覚えた。 マネージャーが顔を青ざめさせたまま口を開いた。「先ほどから、ホテルへの問い合わせとクレームの電話が鳴り止みません。上層部は緊急役員会議を招集しました。ブランドイメージの失墜を恐れ、コラボフェアを中止すべきだという声が強まっているそうです」「中止だと?」 神崎が声を荒げた。 せっかく外部のシェフである春菜の技術を認め、ホテル全体で最高の料理を作り上げようと士気を高めていた矢先だ。事実無根の悪評で全てが潰されるかもしれない。 コラボフェアは試食会を好評のうちに終えて、あとは間近に迫った本番開始を待つばかりだ。 ここで悪評のために中止となれば、ダメージは計り知れない。 厨房内の空気が急激に冷え込む。スタッフたちの動きが完全に止まった。 春菜はまな板の上の信州ポークを素早くステンレスのバットに移し、ラップで密閉した。「皆さん、手を止めて聞いてください」 腹から声を出して厨房全体に響かせる。全ての視線が春菜に集まった。「ネット上の画像は悪質な捏造です。ですが、動揺して目の前の食材をおろそかにしては、プロとは呼べません。まずは仕掛かり中の食材を全て冷蔵庫へ移し、品質の保全を最優先にします。コンロとオーブンの火の元も再確認を」(落ち込んでいる暇なんてない。今できる最善の初動対応をして、現場の被害を最小限に食い止める。それが責任者の仕事
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