インフルエンサーやメディア関係者が集まる場で、著名な評論家が批判を展開すれば、フロアの空気は確実に冷え込む。 人は風説に弱い。 戸惑いや疑念が広がれば、料理の味さえ正しく評価されなくなる恐れがあった。 厨房のスタッフたちも手を止めて、不安そうな顔を見合わせている。 春菜は手元のまな板に向かい、青いかぼすの皮をゼスターで削り始めた。 爽やかな柑橘の香りが、張り詰めた空気の中でそこだけ一点重苦しい雰囲気を吹き飛ばすように漂った。。(厳しい意見があるのは仕方ないわ。でも、私にできるのは誠実に最高の料理を作ることだけ。今は目の前の火入れに集中しなきゃ) 盤外の悪意に惑わされてはいけない。 春菜は淡々と次の調理指示を出した。「皆さん、作業を止める必要はありません。メインのポークの切り分けに入ります。堂島氏の席にも、他のお客様と寸分違わぬ完璧な皿を出します。私たちは私たちの仕事を全うしましょう」 春菜の落ち着いた声に、神崎や若手スタッフたちの表情が引き締まった。「はい、シェフ!」「そのとおりですね。我々は料理で応えなければ」 再び厨房に活気が戻り、調理器具が触れ合う金属音がリズミカルに響き始めた。 パーティーの開宴時刻が迫る。(そろそろ乾杯の時間かしら。料理の手配を……) 春菜が時計を見る。 しかし乾杯の挨拶の直前、さらなるトラブルが厨房を襲った。 自動ドアが乱暴に開き、若手ソムリエが転がり込むように入ってきた。 彼の額には脂汗が浮かび、目は泳いでいる。手にはワインボトルを一本握りしめていた。「佐伯シェフ、大変です! 乾杯用に用意されていた高級白ワインが……数本、中身をすり替えられています!」「なんだと?」 神崎が包丁を置いて振り返る。春菜も手を止めた。「コルクを開栓して品質確認を行ったところ、香りが全く違いました。ラベルは精巧に偽装されていますが、コルクの刻印が別の安価な
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