All Chapters of 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ: Chapter 21 - Chapter 30

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第21話 試験の朝

エステルたちが王国騎士団の登用試験受験の手続きを行ってから10日が経った。今日はいよいよ試験の本番だ。結局最後まで一人部屋の空きがある宿が見つからず、この日まで二人はずっと同じ部屋で寝泊まりしていた。特に間違いは起きていない。クレイ的には鋼の自制心なんてものも特に必要はなかった。……健全な男子として、それはどうなのだろうか? ともかく、朝早くから起きて支度をしなければならないのだが……「ほら、早く起きろって!試験に間に合わないぞ!!」「うにゅ〜…………あと一日〜」「二度寝のレベルじゃねえっ!?」エステルは本来、朝が苦手というわけではない。むしろ誰よりも早く起きて、朝からうるさ……元気一杯である。では、なぜ彼女がこんな状態かというと……「どんだけ楽しみにしてたんだよ……」今日の試験が楽しみで、興奮しすぎて眠れなかったのだ。エステルは毎日きっちり10時間は寝ないと調子が出ないお子様だ。「ほら、今日を逃したら次はまた来年だぞ?」「う〜……わかったよぉ……」クレイが布団を無理矢理はがすと、彼女はようやく目をこすりながら起きだした。寝間着が着崩れてあられもない格好だが、もうクレイの心は特に波立たない。まったくの凪である。「あ〜……寝癖がついてんぞ。ああ、よだれの跡も……さっさと顔を洗ってこい」「ふぁ〜ぃ…………ねむ……」完全にオカンと子供のやり取りだ。そうやって何とかエステルに支度をさせて、二人はどうにか宿を出発することができた。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「よ〜し、頑張るぞ〜!!」朝のテンションの低さとはうってかわって、元気いっぱいやる気十分のエステルだ。まだ朝靄に煙る街路を王城に向かって二人は歩く。騎士団登用試験は王城にある王国騎士団本部にて行われる事になっている。「そういやお前……王城でアランさんに会ったんだっけ?」あの日、王城の中をアランに案内してもらった事はクレイにも話している。しかし、後宮で襲撃されたことは話をしていない。別に隠してるわけではない。単に忘れただけだ。「うん!!色々案内してくれたんだよ」「そうか……(やはり貴族……それもかなり高位だろう。それに、やっぱりコイツに惚れたのか?)」鼻歌すら歌い出しそうな上機嫌で前を行くエステルをぼんやりと眺めながらクレイは考える。(あまり深入りしない方が良
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第22話 騎士志願者たち

エルネ城の城壁沿いの脇道を進むエステルたち。城はかなりの大きさなので当然その敷地は非常に広大である。門番に聞いた話では裏手の方に回り込むらしい。「城の裏側……ここからでも結構遠いな。もうあまり時間がないから走るか」「おっけ〜!」そして二人は一旦立ち止まってから前屈みになり……ドンッ!!ドンッ!!と、踏み込みの大きな音を響かせて瞬時にトップスピードに乗る。そして衝撃波すら伴ってあっという間にその場を走り去ってしまった。たまたま朝の散歩をしていた老紳士が、驚きのあまり腰を抜かしてへたり込むのに彼らは気が付かなかった…… ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「おっと!!あそこみたいだぞ!」「いっぱい人が集まってるね!!」走り出してからそれほど経たないうちに、多くの人集りが二人の行先に見えてきた。帯剣した若者たちの……その出で立ちや雰囲気からして、騎士志望者の集団で間違いないだろう。ザザーーーッッ!!!あっという間にそこに近付くと、集団の直前でエステルたちは急制動をかけて止まる。あまりの勢いだったものだから、もうもうと盛大に土煙が舞った。ド派手な二人の登場に好奇の視線が集まる。特にエステルは、その美少女ぶりも相まって無数の視線が突き刺さるが、当人はどこ吹く風である。さて……彼らがやってきた場所は、門番に聞いた通り城壁に沿ってぐるっと城を回り込んだ裏側。かなりの広さを持つ広場だ。石畳に覆われて街路樹なども整備された王城前広場に対して、こちらは土がむき出しの地面という殺風景な場所である。ここは王国騎士団の騎士や衛兵たちが大規模な訓練を行うめの演習場で、その王城寄りには王国騎士団本部の建物が建っていた。本部というだけあって、かなり大きな建物だ。ここには事務所、作戦会議室、屋内訓練場、宿舎、食堂などがあり、騎士団の活動に必要な機能が備わっている。「もし合格すれば……ここで俺たちも働くことになるかな?」「そだね〜、がんばろっ!!」「おいおいおい、冗談はよしてくれ。お前たちみたいな田舎モンのガキどもが合格出来る訳ないだろ?」エステルたちが話をしていると
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第23話 試験開始……?

「時間だ!!騎士志望の者たちは集まれ!!」他の受験者たちと一緒に暫くその場で待っていると、数人いた試験官の騎士らしき人物の一人が声を張り上げた。どうやら時間になったようだ。ぞろぞろと試験官の下に集まる受験生たち。エステルとクレイもそれに合わせて移動する。「よし、集まったな。これより王国騎士団登用試験を始める訳だが……先ずは試験の流れを説明しよう」そう言って試験官の騎士は説明を始めた。まず最初に本人確認。正規の手続きが行われた当人であるのかを確認する。当然飛び入り参加は不可だ。続いて筆記試験。一般常識、教養や倫理観を問うものが出題される。騎士は脳筋には務まらないのだ。(……筆記試験があるなんて聞いてないよ!?)(……デニス様から説明があったし、手続きするときにも言ってたぞ)もちろん聞いてないし、聞いてたとしても覚えてないのがエステル・クオリティだ。(え〜……どうしよう、自信がないよ……)(大丈夫だろ。お前だって勉強が出来ないわけじゃないだろ?)彼らは読み書きはもちろん、王都の初等〜中等学校で習うようなことはジスタルやエドナ、村の長老たちから教えてもらっている。エステルはこう見えても成績は優秀である。……一般常識については些か不安が残るが。「そこ!!無駄話はするな!!」「「はい!!すみません!!」」怒られた。次に面接。騎士たる者、人格面でも優れていなくてはならない。時に身分の高い要人の護衛任務などもあるため、腕っぷし自慢なだけのゴロツキを採用するわけにはいかないのだ。そして最後に実技試験だ。何だかんだで、やはり騎士の評価は戦闘能力が大きなウェイトを占める。騎士団には事務職員も多くいるが、それは採用枠が別だ。「ガイダンスは以上だ!!何か質問がある者はいるか!?……………大丈夫そうだな。それでは、受験者の確認を行うから、列を作って順番に並ぶんだ。王都地区出身者はここ、北部地域はこっち、西部地域は…………」スムーズに確認するため、どうやら出身地域別に列を作って並ぶようだ。「えっと、私達は西部地域で良いんだよね?」「そうだな。俺たちも並ぼう」
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第24話 試験会場……?

エステルは別会場での試験という事で、案内してくれる者が来るまでその場で待機していた。次々と受験生が騎士団本部の建物の中に入っていくのを、彼女は暇そうに、ぼ~……と眺める。(う~ん……?何で私だけ別なんだろ?……あぁ、もしかして男女別なのかな?)実際、入団希望者は男性が殆んどであるが、少ないながらエステルの他にも女性はいる。しかし、彼女たちが男性と同じように騎士団本部へ入って行くのをエステルは何度か見かけた。(……まぁ、いいか。ちゃんと試験は受けられるみたいだし)考えても分からないことは考えても無駄……と、エステルはそれ以上は気にしないことにした。そして、エステル以外の受験生が全員試験会場に入った頃、ようやく彼女を案内する者が現れた。「貴女様がエステル様でいらっしゃいますね?」声をかけてきたのは妙齢の女性。彼女は王城の使用人の服……いわゆるメイド服に身を包んでおり、とても騎士には見えない。薄い茶色の髪をシニヨンに纏め頭巾を被る。瞳の色も髪に近い色合いの茶。柔和な顔立ちで優しげな微笑みを称えている。誰の目も惹くと言うほどではないが美人の部類だろう。「はい!!エステルは私です!!」「大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。少々準備に手間取ってしまい……。あ、申し遅れました……私、王城の使用人でクレハと申します。どうぞよろしくお願いいたします」「あわわ……えっとえっと、よ、よろしくお願いします?」折り目正しく挨拶されたエステルは、何と返せばよいのかと慌てふためき、何故か疑問形で返す。まるで貴族相手のような丁寧な対応をされて、相当テンパってるようだ。「では、ご案内いたします。こちらへどうぞ……」そうして、王城の使用人……クレハは案内を始めた。彼女は騎士団本部の建物の横にある小径を進み、王城の裏口を目指す。「申し訳ありません。本来はエステル様のようなご令嬢をこのような通用口からご案内するのは失礼にあたるのですが……時間がありませんのでご容赦ください」「ふにゃ……ご令嬢……私のこと?」自分を指すにしては聞き慣れない単語で、エステルは戸惑う。「はい。あ、少々手狭ですのでお気をつけくだ
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第25話 女騎士……?

後宮の敷地に再びやって来ることになったエステル。前回訪れたときは宮殿には入らなかったが、今回は中に案内される。美しい彫刻が施されたきらびやかな宮殿。その入り口の大きな扉は開け放たれ、広大な玄関ホールが彼女たちを出迎える。幾つもの魔法の明かりが灯されたシャンデリアが高い天井に吊るされ、玄関ホールを光と影で彩っていた。その暖かな光は新たに訪れた、二人分のぼんやりとした影を大理石の床に落とす。「ふぁ……キラキラだぁ……!」物語の中で見たような光景に、エステルの口から感嘆のため息が漏れた。「さあエステル様、こちらでございます。もうあまり時間もありませんので、早く支度をいたしましょう」「……支度?」「はい。先ずはお着替えを。それから…………まあ、私がお手伝いさせていただきますので、ご心配無用です」「ん〜……分かりました……??」(着替……?あぁ、騎士団が支給する鎧とかかな?ん〜……私、あまりゴテゴテした鎧は好きじゃないんだけど……これからは慣れなきゃだね〜)エステル・ブレーンは基本的にシンプル思考だが、無駄に回転が速い時がある。全く見当違いの答えを出すのが玉に瑕だ。彼女たちは玄関ホールの両側に設けられた、緩やかな曲線を描く階段の一つを登っていく。その先はホールの吹き抜けをぐるりと囲むような回廊があり、各部屋に通じる扉が並んでいた。クレハはそのうちの一つを開け、エステルに入室を促す。「さあ、こちらの部屋にお入りください」「は〜い」エステルが部屋に入るとクレハも続いて中に入って扉を閉める。部屋の中はブラウン基調の落ち着きのある雰囲気。広さはそれほどでもないが、シックな調度品の数々がいかにも高級そうだ。審美眼など持ち合わせていないエステルでさえも、その部屋のセンスの良さに感心する。大きな三面鏡を備えたドレッサーの前にエステルを座らせると、クレハは続きの部屋に向かい、暫くすると幾つかのドレスを手にして戻ってきた。「私の方で幾つか見繕わせて頂きました。お気に召さなければ他のご用意も御座いますが……先ずはこちらをお試しいただければと思います」「……え?着替えって……これ……?」 流石の
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第26話 ライバル

エステルが後宮で人生初のドレスを着て、人生初の化粧を施されようとしていた時……騎士団本部の作戦会議室では、騎士志望の若者たちが筆記試験を受けていた。人数がかなり多いので、複数の部屋を使って行われてる。その中にはクレイの姿もあるのだが……(……思ったよりは簡単だな。これならエステルでも問題ないだろ。それにしても……アイツ、この部屋じゃなかったのか)エステルが騎士団本部から離れて後宮に行ってる事など知る由もないクレイ。当然、別の部屋で筆記試験を受けているものだと彼は信じている。(……はぁ。試験は簡単だが、エステルだからなぁ……不安だ)筆記試験でトラブルが発生するなんて早々無いだろうが、生粋のトラブルメーカーである彼女が視界にいないのはとても不安を増大させる。そしてそれは、決して彼の取り越し苦労であるとは言えない。実際、既に彼女は現在進行形でトラブルに巻き込まれているところなのだから…… ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「さぁ、如何でしょうか?」「…………これ、私なの?」ドレスに着替え、クレハに化粧を施してもらったエステル。大きな姿見で全身を確認した彼女の第一声がそれだった。めかしこまなくても十分過ぎるくらいに美少女であるエステルだが、プロの手にかかって身嗜みを整えられた彼女は、まさに輝くばかりの美貌であった。ネックレスやイヤリングなどのアクセサリー類も、あまり派手になりすぎないよう、あくまで彼女を引き立てるために使われている。自身の容姿やお洒落にさしたる興味もなかったエステルであっても、流石にその変貌ぶりには驚きを隠せなかった。「わたし……綺麗……」そんな自画自賛とも言える呟きすら漏れ出てくる。これを機に、多少はお洒落にも興味が湧いたかも知れない。「はい。とてもお綺麗でいらっしゃいます。きっと、どんな殿方であっても魅了してしまわれるでしょうね……」そう言うクレハの賛辞の言葉も、どこかうっとりした響きが混じっていた。同性の目から見ても魅了されるものなのだろう。「……でも、やっぱり動きにくいなぁ。こんな格好で私、ちゃんと戦えるかなぁ?」「何をおっしゃいます
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第27話 後宮審査会

後宮のダンスホールに集う着飾った女性たち。年の頃はエステルと同じくらいの少女から、20歳手前くらいの者……うら若き乙女たちばかりだ。総じて皆、容姿も美しく纏う雰囲気には気品が感じられた。(……やっぱり、私だけ何か場違いな気がする。何かチラチラ見られてるし)先程まで闘志を燃やしていたエステルであったが、自分とは全く異なる毛色の女性たちを前にして幾分か冷静になったようで、再び違和感を覚えた。そして先程エステルに対して集まった注目。あからさまに彼女に視線を向けている者はもういないが、今でも何度も覗うような気配は感じる。神経の太いエステルも流石に居心地が悪そうで、早く試験が始まってほしい……と思っていた。そんな彼女の祈りが通じたか、乙女たちが集まるダンスホールに新たな人物が入ってきた。少し神経質そうな顔をした年配の女性である。服装は、エステルを案内してくれたクレハと似たような格好。彼女と同じ王城の使用人の一人であろう。その女性はドレス姿の集団の前までやって来ると、一礼してから口を開いた。「大変お待たせいたしました。本日はここ……エルネ後宮までお越し下さり、まことにありがとうございます。私はこの度の審査会で皆様をご案内させて頂きます、ドリスと申します。よろしくお願いいたします」丁寧な口調で挨拶をしてから、再び深く一礼する。そして、頭を上げて更に続ける。「此度の審査会は、この国の行く末を決めると言っても過言ではない非常に大切なもので御座います。どうか皆様、悔いの残らぬよう……能力、美貌、教養、人柄……皆様がお持ちになる御自分ならではの魅力を存分にお示しいただければと思います」彼女の挨拶は、そう締め括られた。すると、一人の女性が手を上げる。エステルのものよりも鮮やかな赤いドレスを着た、金髪碧眼の美少女。顔立ちからして歳はエステルより上に見えるが、そう離れてはいないだろう。だが、その起伏に富んだ成熟した身体付きはエステルとは比べるべくもなかった。「発言してもよろしいかしら?」「はい、レジーナ様。もちろんでございます」彼女の名はレジーナと言うらしい。エステルにも劣らぬ美貌、落ち着いた物腰と堂々とした態度、優雅な所作から滲み出る気品
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第28話 舞踏狂想曲

ダンスホールに優雅な曲が流れる。煌めくシャンデリアの光に照らされ、美しく着飾ったご令嬢たちが曲に乗って軽やかにステップを刻み、あるいは優雅に舞い、見事なダンスを披露する。後宮審査会の最初の課題であるダンス。王妃や側室ともなれば夜会に出席する事も多々あり、国内外の賓客の注目を浴びながら王と共にダンスを披露することになるだろう。高貴な女性の嗜みとして以上に重要なスキルと言えるかもしれない。男子禁制であるため、パートナーを務めるのは男装した使用人たちだ。エステルを案内してくれたクレハの姿も見えるが、その格好は中々様になっていてまさに男装の麗人といった趣き。中にはうっとりとして顔を赤らめているご令嬢も。相手をする使用人の人数も限られているので、ダンスは何回かに分けて行われることになった。エステルが踊るのは、最後の回らしい。さて、そのエステルと言えば……当然ながら貴族が夜会で踊るようなダンスなど全くの未経験だ。村祭で剣舞を披露したことはあるが、それは全くの別物だろう。果たしてエステルはこの課題をどうやって乗り切るつもりなのか?彼女は令嬢たちのダンスを、じっ……と真剣な表情で見つめていた。いつも能天気で、あまり物事を深く考えない彼女にしては珍しい表情だ。「1……2……3、はいステップ、ターン、くっついて……1……2……3…………」常にない真剣な様子で集中して見ながら、小さな声で何事かを呟く。普段はあまり使われないエステル・ブレーンは、これまでにないくらいにフル稼働していた。「……あ、そう言う動きもあるんだ……リズムは……1、2……1、2…………ん、分かった」どうやら、今踊っている女性たちの動きを覚えているようだ。エステル的に言えば、これは『見取り稽古』である。何と、彼女は今この場で社交ダンスの動きとリズムを覚えようとしているのだ。果たしてそんな事が可能なのだろうか……?その後、何度かグループが変わった後も、じっと見つめて……その動きを自分のものにしようとするのだった。やがて、ついにエステルがダンスを披露する番がやってきた。ダンスホールの中央へ進み出るエステル。相手を務めるのはクレハだ。曲が始まる
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第29話 消えた少女

エステルがドレスに着替えてダンスを踊っていた頃……王国騎士団本部では、登用試験の筆記試験が終了し、面接も終えて実技試験に移るところだった。なお、面接試験は受験者の人となりを見ながら、危険な思想を持つ者、人格破綻者などを篩にかける目的で行われる。簡単な質疑応答のみなのでそれほど時間はかからなかった。そして実技試験である。騎士登用試験はここからが本番……と言っても過言ではないだろう。当然のことながら、ここに集まった者たちは何れも自らの武勇を誇る者たちばかりだ。これから激しい戦いが繰り広げられるに違いない。「よし、騎士志望者は集まれ!!!」騎士団本部の建物から再び野外の演習場へ集まる若者たち。誰も彼もいよいよこの時が来た……と、やる気と自信に満ち溢れた表情である。だが、この中から騎士に選ばれるのはほんの一握り。与えられたチャンスを活かして掴み取るために必要なのは、自らの力と技……あるいは時の運だ。「これからお前達には互いに模擬戦をしてもらう。こちらで予め組み合わせは決めてあるので、呼ばれたものは前に出ろ」その説明の間、他の騎士が立て看板のようなものに対戦表が書かれている紙を貼り付けていた。「組み合わせはここに載っているので、予め確認しておくといい。準備運動もしておけよ。それから……」ルールや細々とした注意事項が説明される。武器は安全面に配慮して、騎士団が用意した木製のものを使うらしい。ごくありふれたショートソードから大人の背丈ほどもある大剣、槍や斧などもある。自身の得意武器に合わせて自由に選択が可能だ。中には弓を得意とする者もいるらしいが、彼らは受験の申込時にその旨を申請しており、模擬戦ではなく別の場所でその腕前を披露することになるらしい。「よし。では早速開始するぞ。先ず最初の対戦は……」こうして、登用試験の最後にしてメインとなる試験が開始されたわけだが……(……やっぱりアイツ、いないじゃないか!!どこへ行ったんだ!?)クレイは辺りを見回して、受験者の中からエステルの姿を探そうとするが、一向に見当たらない。(筆記試験からずっと姿が見えないから、ずっとおかしいと思っていたんだが……いったいどういう事な
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第30話 第二の課題……?

見事なダンスを披露するエステル。楽士隊が奏でる曲は佳境を迎え、彼女のステップも冴え渡る。曲調は段々と激しいものになり、それに合わせて連続ステップ、ターンを繰り返す。そしてフィナーレ。エステルは最後に大きくターンしてから、パートナーであるクレハの腕の中に収まって、ピタッ……と止まる。バッチリ決まった。ダンスが終わると二人は優雅に一礼する。エステルの挨拶はダンスと同じように見様見真似であるはずだが、堂に入ったもので実に様になっていた。驚くべき能力を発揮して、ダンス初挑戦ながら見事にやり切ったエステル。それを知るのはパートナーを務めたクレハだけだろう。その彼女も、エステルから直接聞いてなければ分からなかったはずである。(エステル様……なんと凄いお方でしょうか。この方のパートナーを務めさせて頂いたのは、とても光栄な事だったのかも知れませんね……)エステルの才能の片鱗を見せつけられた彼女の心のなかで、高揚する気分とともにそんな思いが沸き起こるのだった。「皆様、とても素晴らしいダンスを披露してくださいました。まさに、淑女のお手本となる技量の高さを示して頂きました」ダンスを終えた令嬢たちに、ドリスが称賛の言葉を送る。ここに集められた者は、何れも名家のご令嬢ばかり。当然夜会への出席なども多く、場数を踏んでるだろう。……約一名を除いて。このメンバーの中で、全く悟られないどころか最高レベルの技量を見せたエステルが異常すぎる。ただテクニックを盗むだけなら、あるいは他にも同じ事が出来る者がいるかもしれない。しかしそれだけでは人を魅了することなど不可能だ。エステルのダンスは、彼女の溌剌さが良く表現されていた。元気で明るい彼女の内面が溢れ出し、見る者を楽しい気分にさせたのだ。「さて、続いて次の課題ですが……場所を移しますので、私のあとに続いてお越しくださいませ」そう言ってドリスはダンスホールから出ていき、令嬢たちがあとに付いていく。エステルもそれに続こうとしたとき……彼女に声をかける者がいた。歳はエステルと同じくらいに見える。この場にいる令嬢たちは皆、見目麗しい者ばかりだが、彼女もその例に漏れず……白銀の髪と翠の瞳を持つ非常に美しい少女だっ
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