剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

141 チャプター

第31話 お料理対決

後宮審査会第二の課題。その実施場所として案内されたのは後宮の厨房だった。果たして、ここで行われる課題とはいったい何なのか?戸惑う令嬢たちをよそに、ドリスは説明を始めた。「皆様方には何名かのグループになっていただき……お料理を一品作って頂きます」戸惑いの空気がどよめきに変わる。それも無理からぬ事だろう。彼女たちはみな貴族……それも名家の出だ(1名除く)。毎日の料理は専属の料理人が作るのが常であり、自らの厨房に立つことは無いのである。「私達に使用人の真似事をさせるというの!!馬鹿にしているわ!!」その時、怒りをあらわにした令嬢の一人がドリスに食ってかかった。他にも何人か彼女に同調して詰め寄る。「馬鹿になどしてはおりません。これはれっきとした審査なのです。ご了承頂けないようでしたら、残念ですがこれ以上はお引取り頂くことになります」怒れる貴族令嬢たちに詰め寄られても、萎縮することなくドリスは淡々と言う。使用人の立場では貴族に強く出られれば、そうそう抗うことなど出来そうもないが……彼女は中々の胆力を持っているようだ。「くっ…………だけど、私……料理なんてした事ないわ!!」「私もよ!!」「こんな審査……意味がないわよ!!」審査終了をチラつかされて幾分かトーンは落ちたものの、尚も言い寄る令嬢たち。その様子を見て、ため息をつきながら小さな声で呟く者が。「ふぅ…………彼女たちは、この試験の意図が分かって無いようね……」「え?レジーナ様はお分かりに……?」呟いたのはレジーナ、それを聞いて問うたのはミレイユ。二人は王都の社交界で面識があり友人と言っても良い間柄だ。「推測ではありますけど。後宮に住まうのが、どういう者なのか……それを考えれば自ずと答えはでます」「えっとえっと……みんなで力を合わせて頑張ろう!!って事ですよね!!」二人が話しているところに、エステルも加わった。エステル的にはミレイユはもう友達だから。「あ、あなた……人の話に勝手に入って……」「あなたはエステルさんでしたわね。先程のダンスはとても見事でした」ミレイユは突然話に入ってきたエステルに文句を言おうとするが、
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第32話 食材選び

何人かのグループに分かれての料理対決と言う事だが……これまで料理をしたことが無いであろう高位貴族のご令嬢たちが作る料理は、果たしてどんなものになるのか想像もつかない。プロの料理人がアドバイスしてくれるとは言え、何を作るのかを決めて、実際に調理を行うのは彼女たちだ。先程まで文句を言っていた令嬢たちも、今は不安そうな表情だが……どこか興味深そうにしている様にも見える。そして各グループにサポートのための料理人が付くが、やはり全員が女性だった。エステルたちのグループにも若い女性の料理人がやって来て挨拶をしてくれる。茶褐色の髪をショートヘアーにして白いコック帽を被り、同じく白のコックコートを着たいかにも料理人と言った清潔感のある雰囲気だ。「今回、皆様方のサポートをさせていただきます、王城付き料理人のカテナと申します。直接手を出すことは出来ませんが、分からないことがありましたら遠慮なくご質問ください」「よろしくお願いいたします」「頼りにしているわ」「エステルです!よろしくお願いします!」カテナの自己紹介を受けて、レジーナ、ミレイユ、エステルもそれぞれ挨拶を返す。「さあ、早速ですが……あちらに食材や調味料をご用意しておりますので、ご覧になって作りたい料理をイメージして頂ければ……と思います」カテナが示した場所にはかなり大きめの調理台が置かれ、その上には肉や野菜などの食材が山となって置かれている。『この世の食材は全てここに!!』……というのは大げさだが、実に様々な種類のものがあり、あらゆる料理に対応出来るであろう。令嬢たちも興味津々で近付いて、サポートの料理人にあれこれ質問をしている。文句を言っていた令嬢たちもすっかり夢中になって確認していた。「こんなに沢山の食材を見る機会はなかなかありませんわよね……これは何でしょうか?」「そちらは白芋ですね。生では食べられませんが、煮たり蒸かしたりするとホクホクとした食感となります」「これは何かしら?」「橙長根ですね。生でも食べられますが、少し苦味があります。火を通すと甘みが出て食べやすくなります。白芋も橙長根も、様々な料理に使われる基本的な食材の一つです」丸のままの野菜など目にし
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第33話 れっつ!くっきんぐ!

様々な食材を確認しながらカテナのアドバイスを受けてエステルたちが作ることにした料理。それは……「ズバリ、シチューを作りましょう!!」と言う事である。シチュー……要するに煮込み料理であるが、今回作るのはホワイトシチューだ。これに決めた理由としては、比較的シンプルで特別難しい技術も必要ない……と言うのが大きいだろう。平民にも貴族にも馴染みのある料理であるし、エステルも大好きな料理である。「切って、煮込んで、味付けする……楽勝ね!!」「確かにそれほど難しくはない料理ですが……注意すべきポイントは幾つか御座いますよ」ミレイユが意気込みを見せるが、アドバイザーのカテナはやんわりと注意する。「では早速始めましょうか……先ずは野菜を切るところからですね……包丁を握るのは初めてです」「私も……大丈夫かしら……」「私は、切るのは得意です!!」エステルは一人で料理を作ることは出来ないが、食材を切るのは得意である。いや、得意ではあるのだが……「まあ、エステルさんは普段お料理をされるのですか?」「あ、普段からお母さんの手伝いをしてるだけです。見ててくださいね!!」そう言って彼女は……何と、空中に野菜を放り投げたではないか!それも一つではなく、幾つもの同時にだ。そして包丁を構えたエステルは、目にも止まらぬ速さでそれを振るった!!落ちてきた野菜に無数の斬撃が刻まれ……包丁とは逆の手に持っていたボウルの中に、全ての野菜が落ちていく。「はい、こんな感じでどうですか?」エステルが差し出したボウルの中を見ると、綺麗に皮が剥かれ、均等にブロック状に切り刻まれた野菜が。「「「…………」」」レジーナとミレイユ、カテナの3人はまたもや唖然として声が出ない。剣聖の娘エステル、こんなところで本領発揮である。「え〜と……私のイメージする料理とは、ちょっと違う気がするんですけど」何とか言葉を捻り出すレジーナ。ミレイユはまだ立ち直っていない。「ふ、普通でないのは確かです……ただ、ちゃんと綺麗に切れてますね。もう少し分量が必要かと思いますので、お二人もこれくらいの大きさで切って見
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第34話 たくらみの裏側

エステル達が後宮の厨房にて料理を作っている頃、国王の執務室にて……「陛下、どういう事なのですか?」今日も今日とて書類仕事に忙殺される国王のもとに、これもいつもの事である宰相閣下の苦言が飛び出していた。ただ、彼が少し怒っている口調なのは中々無い事ではあった。「どういう事……とは、どういう事だ?」「とぼけないで下さい。後宮審査会のことですよ」「ああ……あれか。何やら|手違い《・・・》があったようだな。残念な事に」宰相フレイの追求に、大袈裟にため息をつきながら態とらしく嘆いて見せる国王。しかしフレイは目を細めて尚も言い募る。「よくもまあ抜け抜けと……どうするおつもりなのです?まさか……平民の娘を後宮に迎えるなどと仰るつもりではないでしょうね?」「……何が問題ある?平民だから何だと言うのだ?」それまではフレイの言葉にのらりくらりと返していた国王は、『平民の娘を〜』という言葉を聞いて明らかに怒りの感情を見せる。「……失言でした。ですが、実際どうするおつもりなのです?あの娘……エステルは騎士志望だったはず。本人の意志を無視してこんな強引な方法を取るなど……陛下らしくもない」フレイは失言を認めて詫びるが、引き下がるつもりは無いようだ。そして彼の言う事は全くの正論である。「俺らしくない、か……それはどうかな?立場を笠に着て強権を振るう……元々そんな男だったのかもしれんぞ?」 彼は自嘲気味にそんな事を言った。フレイはそれを聞いて、少しトーンを落として言う。「陛下がそのような方ではないのは、我々臣下は良く分かっております。ですから、尚更今回の件が不可解なのですよ」その声は心配の色を含んでいた。それを聞いて流石にバツが悪くなったらしい王は、真面目な顔になってその真意を明かした。「できれば、彼女を妃として迎えたいと考えてる。側室や愛妾ではなく」「……!まさか、本気……なのですか?」「ああ、本気だ」あくまでも真面目に王は答える。フレイは今回の件は単なる王の戯れで、まさか本気だとは思ってなかった。「妃の事を考えて頂けたのは大変喜ばしい事ではありますが……なぜ彼女なのです?
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第35話 模擬戦

騎士登用試験の会場では最後の試験である模擬戦が行われていた。試験に集ったのは当然何れも腕に自身のある若者たちばかり。自らの力で栄光を掴むため、持てる力を惜しみなく発揮して熱い戦いが繰り広げられている。裂帛の気合の声と剣を打ち鳴らす音が幾度となく響き渡り、試験官の宣言が無情にも勝者と敗者を分かつ。そんな中にあって、クレイは模擬戦の様子を視界に入れながらも気もそぞろに別の事を考えていた。(エステル……別の会場で試験を受けてるだと?考えられるのは師匠の娘って事が分かって……特別待遇って事か?)かつて名を馳せた剣聖の娘。クレイからすれば理由はそれくらいしか思い浮かばなかった。まさか今頃……貴族令嬢と力を合わせて料理を作ってそれを堪能しているなど、想像できるはずもないだろう。(……まぁいい。ちゃんと試験を受けてるってんならそれで。わざわざ特別待遇にするくらいだし、あいつの実力なら合格は間違いないだろう。これ以上心配しても無駄だ。とにかく、今は自分が合格することだけを考えよう)クレイはそう気持ちを切り替えて、初めて目の前の模擬戦に集中し始める。模擬戦は一回きりではなく、何度か対戦が組まれている。そして審査としては、勝利する事が重要である事に違いはないが、敗けたからといって直ちに不合格となるわけではないらしい。試合の内容もある程度見られるとのことだった。クレイ自身も既に一度対戦を行い、集中力に欠きながらも全く危なげなく勝利を収めていた。(……こんなものか。油断するつもりはないが、これなら…………ん?アイツは確か)暫く模擬戦の様子を見ていたクレイは、自分の脅威となりそうな相手は多くなさそうと感じていたが、ある男が試合に現れるとそれに注目する。その男は筋骨隆々の大男……試験開始前にクレイとエステルに絡んできた男だった。(さて……エステルの評価は『そこそこ』と言う事だったが、どんなものかな)エステル評の『そこそこ』は、一般的には相当な強者となる。シモン村の自警団メンバーの多くがこれに当たるのだ。因みにエステルの評価ランクは下から順にこんな感じだ。『よく分かんない』『あんまり強くない』『まあまあ』『そこそこ』
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第36話 剣聖の弟子の戦い

騎士登用試験の模擬戦は着々と進み、対戦表が次々と消化されていく。そして、クレイの戦う番がまたやって来た。「次!!クレイ、ギデオン、前へ!!」立会の騎士に呼ばれた二人は対戦の場に進み出る。クレイと対峙するギデオンは、ニヤリと笑みを浮かべ……「よく怖じけずに来たな。痛い目を見る前に降参するなら今のうちだぞ?」などと挑発の言葉を放つ。だが、それを受けたクレイはあくまでも冷静に言う。「いつまでやってんだ、それ?そんな事をしなくても、俺はちゃんと本気で戦うぞ?」「……気が付いていたのか?」クレイの言葉に、意外そうな表情でギデオンは聞いた。どうやら彼は敢えて挑発を繰り返していたらしい。「そりゃあな……お前ほどの実力を持ってるなら、俺らの実力を見誤る……なんてことはないはずだ。俺が本気で戦うように仕向けようとしてたんだろ?」「何だ、最初から全てお見通しだったのか……」(いや、エステルの評価を聞いたのと、さっきの戦いぶりを見たから気が付いたんだが……まぁ、それは黙っておこう)彼もまだ少年なので良い格好がしたい年頃なのだ。「だったら話は早え。最初から全力で行かせてもらうぜ!!」「あぁ……来い!!」「……よし、準備は良いようだな」二人の話が終わるのを待っていてくれたらしい立会の騎士が双方に確認する。もしかしたら、この場での立ち居振る舞いも見ていたのかもしれない。「それでは、始め!!」クレイvsギデオンその戦いの火蓋が落とされた! ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆先ず初めに動いたのはギデオンだ。大剣を大きく振りかぶりながら、先の戦いと同じように一瞬で間合いを詰める!!しかし、それはスピードもパワーもさきほどとは比べ物にならない程の一撃だ!!「はぁーーーっっっ!!!」(やっぱりさっきは本気じゃなかったか。そうこなくちゃな)刹那の間にもクレイは冷静に大剣の軌道を見極める。そして……!!ガァンッッ!!!木剣とは思えないような凄まじい衝突音
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第37話 剣聖の娘は……?

クレイが模擬戦でギデオンに勝利を収め、その後も圧倒的な強さで全ての試合に勝利、騎士団登用試験の合格を確実なものにした頃。何故か後宮審査会に参加することになったエステルと言えば……第一、第二の課題をこなしたあとも様々な審査課題を受けていた。第三の課題は、貴族女性の嗜みの一つである刺繍だった。もちろんエステルは刺繍などしたことはないが、母の手伝いで繕い物などはしたことがあるし、手先は非常に器用なので、見様見真似でチャレンジしてなんとか完成させた。他の令嬢たちが綺麗な花や鳥などをモチーフとする中、エステルがモチーフに選んだのは何故かドラゴンだった。どれだけドラゴン好きなのだろうか?その出来栄えはお世辞にも上手とは言えなかったが、デフォルメされたドラゴンはゆる~い感じで味があって、奇妙な可愛らしさもあり、意外にも令嬢たちに大人気だった。第四の課題は芸術。楽器を嗜んでいる者はそれを披露したり、歌を歌ったり、自作の詩を朗読したり……もちろんエステルにそんな高尚な趣味は無い……と思われたが、母から教わった女神の神殿で歌われる賛美歌を披露することで乗り切った。……というかエステルに色々仕込んでる母エドナが偉大すぎる。彼女の歌う歌は、透き通った美声と豊かな表現力で令嬢たちを感嘆させ虜にした。終始そんな調子なものだったから、令嬢たちの間には益々誤解が広がっていく。つまり、未だ社交界で見たことはないものの、美しさと教養を身に着けた高貴な令嬢である……と。レジーナやミレイユは近くでエステルの振る舞いを見て、その本性の片鱗に触れていたので、少し怪しいな……とは思っていたが、確証に至ってはいなかった。そしてその後もエステルは様々な課題をクリアしていき、その間に彼女は持ち前の謎コミュ力を発揮していつの間にか他の令嬢たちとも仲良くなっていく。果たして、今回の件を画策した者はそこまで予想したのだろうか?そして、全ての課題を終え……「皆様お疲れ様でした。審査会はこれにて終了となりますが、結果が出るまでには数日のお時間を頂きたく存じます」ドリスがそう締めくくり、これで審査会は終了となった。
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第38話 寛ぎの空間

騎士の登用試験を受けに来たはずが、何故か後宮に泊まることになったエステル。平民がそんなところに泊まることになれば気後れしそうなものであるが……我らがエステルは全く気にしない。エステル・ハートは鋼で出来ているのだ。「こちらがエステル様のお部屋になります。ごゆっくりお寛ぎ頂ければと思います」「ふわぁ……凄く広い……」クレハに案内されて宿泊する部屋へやって来たエステル。そこは彼女が今まで泊まっていた宿などとは比較にならない豪華な部屋だ。扉を開けて中に入ると、先ずは広々とした玄関が迎える。ここだけでクレイと一緒に泊まっていた宿の二人部屋と良い勝負である。更に玄関奥の扉を開くと、三人が並んで歩けるくらいに広々とした廊下が伸びる。廊下の突き当りに大きな扉があり、左右にも幾つかの扉が並んでいた。「突き当りの部屋が居間、続きに寝室や浴室などが御座います。左右にあるのは使用人の控え部屋やキッチンなど……私達がエステル様のお世話をするための部屋となってます」クレハが各部屋の説明をするが、あまりのスケールの違いにエステルは目を白黒させている。「……え~と、クレハさん、ここに何人泊まるんですか?」「こちらはエステル様お一人のためのお部屋です。あ、私も使用人控室は使わせて頂きますね」「ふわぁ……」流石に豪胆で物事を深く考えないたちのエステルであっても、驚きのあまり感嘆のため息しか出てこないようだ。そして、案内されるままに廊下奥の扉から居間に入ったエステルだが……「ふぇ~……」またもや驚きの声が漏れる。とにかく広い。一人で使うような空間とは思えないほどだ。10人ほど集まってパーティをしても十分な余裕があるだろう。部屋を入って突き当りの壁は大きなガラス張りの窓になっていて、更にその先はバルコニーに出られるようだ。部屋の中は魔法の照明で照らされて非常に明るいが、窓の外はもう夕暮れ時で暗くなりつつあった。部屋の右手の扉は寝室や衣装部屋、お手洗い、浴室に続いているとの事。(うわぁ……こんなところに泊まれるなんて……騎士って凄いんだぁ!)そんなわけあるか。誰か早く彼女に説明をしてください……
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第39話 お喋り

後宮で宿泊する部屋に案内されたエステル。ドレスから動きやすいワンピースに着替えた彼女は居間で寛ぎながら、クレハに淹れてもらったお茶を堪能していたのだが……「え〜と、クレハさん?」「はい、何でございましょうか?」お茶を飲み終わるタイミングを見計らってカップを下げに来たクレハに、エステルは声をかける。「あの……後宮の中って探検してみても良いですか?」少し遠慮がちなのは、クレハに余計な負担をかけないかな……と思ったからだ。エステルは他人の好意にはあまり遠慮したりはしないのだが、気遣いは出来る娘である。しかし「散歩」ではなく「探検」なあたり、エステルらしい。「他の方の部屋以外でしたら、もちろんご自由に散策していただいても大丈夫ですよ。|談話室《サロン》や遊戯室等も御座いますし……どなたかいらっしゃれば晩餐までお話されるのもよろしいかも知れませんね」「良かった〜。暇だから誰かとお話したいかも」「では、私もご一緒させていただきますね」「え?でも、忙しいんじゃ……」「本日の私の仕事は、エステル様のお世話をする事ですので。ご遠慮なさらずに、ここではお好きなようにお過ごしくださいませ」それが仕事だ……と言われればエステルが遠慮する理由はない。彼女は早速クレハを伴って後宮探索を開始するのだった。エステルの部屋は2階にある。部屋を出た彼女たちは、長い廊下を歩いていく。後宮の構造は、上から見ると「ロ」の字型になっていた。審査会の会場となったダンスホールや厨房などの施設は玄関側に、エステル達が泊まる部屋が集まる居室区画はその反対側にある。談話室は後宮内の何箇所かにあるらしいが、その内の一つ、居室区画から近いところに向かっていた。そしてやって来たのは、「ロ」の字型の角の部分にあたる場所。衝立で仕切られてはいるが、扉などは無くオープンなスペースとなっている。カーペット敷の部屋の中央にはゆったりとしたソファが輪を描くように配置され、壁際にも椅子が何脚か置かれており、10人程度が座って話をできるようになっていた。そこには先客がいた。後宮審査会で会った、エステルも見知った顔である。一人で寛いでいた彼女に、エステルは元気よく声をかけた。「あ、ミレミレ〜!!」「誰なの!?それは!?」ミレミレこと、ミレイユ・ミレーは即座に鋭いツッコミを入れる。中々ノリの良い娘のよ
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第40話 国王との出会い

談話室でミレイユとお喋りを楽しんだあと、晩餐の時間が近付いたため、エステルは再び自室へと戻った。「皆と一緒に食べるんですか?」「はい、折角皆さまお集まりの機会でございますので、交流のためにも……とのことです。それから、この後宮の主……国王陛下もいらっしゃるとの事です」「え!?王様に会えるの!?」「はい。ただ……陛下はお忙しい方ですので、それほどお時間は取れないそうです」少し残念そうな雰囲気でクレハは言う。彼女としては、せっかくエステルが王にアピールする機会があまり取れそうにないことを残念に思っているようだ。「そっか〜、残念。(手合わせしてもらう時間は無いってことだよね……)」そして、エステルが残念に思う理由は、クレハとは全く異なるものだった。やがて、晩餐会の時間がやって来た。エステルは再びドレスに着替えさせられ、会場となる一階の大食堂へと向かう。また着替えることに少しばかり辟易とする彼女であったが、これも騎士の務めと自分に言い聞かせる。……本当に、まだ気が付かないのだろうか?大食堂の中に入ると、既に何人かのご令嬢が着席し談笑していた。エステルを見かけると、「ごきげんよう」と挨拶の声をかけてくる。エステルもその都度、「ごきげんよ〜」と返しているのだが、その挨拶の言葉は令嬢たちの真似をして覚えたのだろう。しかし、随分と仲良くなったものである。貴族令嬢にはいないタイプだから、それが魅力的に映るのだろうか?晩餐のテーブルは細長い長方形で部屋の入口から最も奥が上座……王が座る席であり、その両側に家格の高い者から順に着席するのが通例である。そして大抵の場合、その通例に従って予め席次が決められている。通常であれば平民であるエステルは最も下座である入口付近の席になるはずなのだが……「エステル様のお席はこちらになります」そう言ってクレハが案内したのは、何と王に最も近い席であった。クレハに椅子を引いてもらい腰掛けるエステルを見ながら、令嬢たちは『やはり、只者ではなかった』と、更に誤解を深める事となる。実はこの席次を決めたのは王ではない。宰相フレイの『丁重にお迎えするように』という言葉をドリスが忠実に実践した結果である。それから晩餐会場に次々とご令嬢たちがやって来て着席する。そして、エステルの近くの席にやって来たのは……エステルの対面にレジーナ、
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