All Chapters of こちらギルドの調査員: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話 初めての共同作業2

 陽が落ちた廃村の全体を、ざっと見回す。 家はどれも朽ちてはいるが、焼け跡や血痕は見当たらない。  魔物に襲われて、滅んだ感じじゃなさそうだ。 ……雰囲気だけは、最高に不気味だな。 ナックの足跡は、村の奥の小屋へと続いている。 小屋の前に立ち、呼吸を整える。  聴覚を強化――息遣いは、ない。「おいナック、死んでねぇよな」 ゆっくりと扉を押し開け、中を覗き込む。 誰もいない。  ただ、床一面に積もったほこりに、足跡が刻まれていた。  行ったり来たり、何かを探してうろついた形跡。 視線が止まる。  ベッドの下に、不自然にこすられた跡。「ベッドの下?」 身をかがめ、覗き込む。  誰もいないし、何もない。 ……ナック、お前まさか。 怖くてベッドの下に隠れてただけか?  わずかな可能性を想像して、落胆する自分が嫌になる。 だとしたら、何を見て怯えたんだ?  立札のところに戻って、足跡を改めて確認する。 ……さっきの新しいやつは「何かを見た後」の動きだ。「古い足跡は……あれか」 少し薄れているが、村の奥へ続く跡がある。  その先に目を向けると、そこにはいかにもな古井戸がぽつんと残っていた。 ……なるほど。 そこで何かを見て、慌てて聖水をぶちまけて、小屋に逃げ込んだ――。 うん、ナックらしいな。 古井戸に近づく。  縁のほこりに、手をかけた跡が残っていた。 ……ナックだな。間違いない。覗いたんだ、ここを。「さて……何を見たんだ、ナック」
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第32話 初めての共同作業3

 あのアホ野郎!! おいおい、よりによってアンデッドに恨まれて逃げるとか、どんな業務だよ。「その裏切り者のナックと何か約束したのか?」 「ナック、ウソツキ。アルディン……アイツ、コロス……コロセ」 やばい。  完全に殺意が溢れ出してるじゃねぇか。「とりあえず、考えておくよ。それより――困ってたから、そのナックとかいう奴に頼んだのか?」 ラヴァナイトが、じっとこちらを見つめる。  ガイコツと凝視合戦って、傍から見たら間違いなくやべぇ。「アルディン……優しい?」 うーん、返事に困る質問だ。  どう返してもツッコまれそうだし、そもそも優しいって何だ。「受け取り方は人それぞれだな。で、ナックとかいうクソ野郎は何を約束したんだ?」 ラヴァナイトはしばらく言葉を探すようにして、それからぽつりと言った。「ナック……腕輪」 「腕輪?」 聞き返すと、ラヴァナイトは慎重に口を開いた。  声はあの冷たい調子のままだが、言葉は丁寧だった。「壊す」 ……えっ? 壊すって。 一瞬、意味がわからなかった。「壊す? 腕輪を壊して欲しいのか?」 ラヴァナイトは小さく頷いた。 その仕草だけで、こいつが復讐とか怨念の連鎖、そんな面倒くさい理由で動いてるんだと分かる。  腕輪を壊す——聞こえは単純だが、こいつ相手にそれをやるのは簡単じゃない。 胸の奥で、どうしようもない予感がざわついた。  これがラヴァナイトの未練の核なら、放っておけば誰かが傷つく。 ……どうすっかな。「具体的になんだ? その腕輪って、今どこにある?」
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第33話 初めての共同作業4

 靴底が冷たい石に触れる。 底に降り立った瞬間、空気がさらに冷えた気がした。「さて、腕輪はどこだ?」 光るくず魔石を掲げて底を見回す。 そこで目に入ったのは、白骨化した遺体だった。 近づいて確認する。 頭蓋骨の形状――細長い耳の痕跡。 エルフだ。 間違いない。 しかも頭部はひどく陥没していた。 当時はまだ水が溜まっていただろう。 殴られたあとに、この井戸へ投げ込まれた。 そう考えるのが、自然だ。 ……胸糞悪いぜ。 骨の腕には、腕輪型の魔道具がはめられていた。 最近よく出回っている禍々しい造り――これも奴らの仕業か。 こんな形のやつ、倉庫街でも見たばかりだ。 さらに目を凝らすと、骨ばった指には小さな指輪が残っていた。 内側には、かすれながらも読める文字。 ――リースへ愛を込めて。 ……恋人には、ちゃんと愛されていたんだろうに。 それが、こうして朽ち果てた井戸の底で骨になってるなんて、あんまりだよな。 遺体をそっと結界で覆う。「……これで崩れないはずだ」 肩に担ぎ、井戸をよじ登る。 冷たい石壁を押さえながら上がるのは骨が折れたが、なんとか外へ出られた。「よっ、待ったか?」 井戸の縁に立つラヴァナイトの瞳――いや、光る眼窩に、憎悪の色が宿っていた。 目が合うと、ぞわりと背筋を冷たいものが走る。 ……おぉ、こわっ。 この腕輪、相当お嫌いなようで
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第34話 俺の同僚1

 夜が明けた。 俺は廃村の井戸のそばで、灰になった骨を見送ったままぼんやり突っ立っていた。 正直な話、アンデッドと夜通し語り合うなんて予定表のどこにも書いてなかった。 ついでに言えば、花嫁姿の悪霊と共同作業で井戸を探索するなんて、ギルドの研修にも出てこない。 マニュアル外どころか、誰が想定できるんだよ。  想定外って言葉は、こういう時のためにあるんだろうな。 リースは無事に還った。  腕輪も壊した。  そこまではいい。    だが、問題は残ってる。  もちろん、ナックだ。 あいつ、ここに来てリースに泣きつかれて、約束を反故にして、逃げ出した。 おかげで俺が夜通し付き合う羽目になったわけだ。 この理不尽、どこに請求すりゃいいんだ。  あいつ本人には、何のダメージも入ってないのが腹立つんだよな。 しかもだ。 俺が命の危機に直面していたその頃、当の本人は……まあ、想像するまでもない。 ギルドに戻って報告?  いや、そんな殊勝な真似をするタマじゃない。  かといって、肝が据わってるわけでもない。 つまり―― あいつは今頃、海沿いの村で鼻水垂らして震えているだろう。  ◇ ◆ ◇  さて、ここからどうするかだ。  ギルドに戻って報告を上げるか、それともナックを迎えに行くか。 正直、どっちも気が進まない。 ギルドに戻れば課長の目に捕まる。  そうなりゃ、仕事が二つ三つは積み増し確定。 一方でナックを探しに行くとなれば、あのポンコツを保護者目線で追い回す羽目になる。 どっちにしろ俺の安息はない。  なんて理不尽な二択だ。 ただ、それ以上に引っかかることがある。 この廃村のことだ。 リースはラ
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第35話 俺の同僚2

  海沿いの村へ続く山道をとぼとぼ歩く。 坂道なんて好きじゃないが、行き先が決まってる以上は足を動かすしかない。 ようやく緩い坂を登りきったところで、視界がぱっと開けた。 青い海だ。 朝日に照らされてキラキラ光ってる。 潮風もほどよく涼しい。 ……うん、景色だけは最高だな。 仕事抜きなら拍手喝采してやるところだ。 ただ残念なことに、俺はいま観光客じゃなくて調査員だ。 リゾート気分で海を眺めてたら、間違いなく課長に殴られる。 視線をずらすと、海岸沿いに民家がちらほら。 白い煙が立ちのぼり、どうやらちゃんと人が住んでるらしい。「……あれか」 目標が見えた瞬間ってやつは、本来なら安心すべきなんだろう。 だが、俺の経験上、事件の延長線上にある場所ってのは、めんどくさい案件が待ってる場所って法則ができあがってる。 今回も例外じゃないだろうな。 村の入り口に近付く。 こういうときの基本は情報収集だ。 まずは村長の息子、ラスの行方を押さえたい。 ただ、いきなり「村長の息子出せや」って乗り込むのは喧嘩を売るのと同じだ。 だから、ここは丁寧にいこう。 調査員、仕事モード。 近くで網を直していた男に声をかける。「あのぉ、すみませ~ん」「はい?」「ラスって人物を知ってる人に、心当たりありませんか?」 ……自分で言っててアレだが、めちゃくちゃ探偵ごっこみたいだな。 いや実際それが仕事なんだけど、口にすると妙に間抜けに聞こえるんだよな。「ラス?」
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第36話 俺の同僚3

「それで、何の用かね?」「廃村の件で少し。あそこの村長の息子さん――ラスについてお聞きしたいんですが」 俺が事情を切り出すと、村長は短く息を吐き、網を置いてゆっくり腰を上げた。 ……さて、このご老人、話しやすいのか、それとも一筋縄じゃいかないタイプか。「ラスさんか……真面目で正義感の強い人じゃった」 村長の顔に、一瞬だけ懐かしむような色が浮かぶ。  どうやら人柄については、悪い印象じゃなかったらしい。「聖王国へ向かったらしいんですが……その後をご存じですか?」 問いかけると、村長は小さく首を横に振った。「……さすがに知らないか」 思わず独り言が漏れる。  まあそうだよな。 スマホもない。 手紙もろくに届かない世の中で、五年前に出て行った人間のその後なんて把握できる方がレアだ。 連絡先知ってますか? って感覚で聞いた俺が悪い。「あのぉ、ではあそこの住人の方々はどこに行ったかご存じですか?」 俺がそう切り出した瞬間、村長の顔色が変わった。  眉間に深いしわが刻まれ、さっきまでの穏やかさが消える。 ……おっと、地雷を踏んだか?「あんた、調査員じゃな?」 「はい、そうですが……」 村長の声が、さっきまでより低くなった気がする。  部屋の空気が少しだけ重くなる。「聖王国の方か? それとも、ペテルか?」 ……どういうこった。 ペテルか聖王国かだって?  どういうこった。 ただの確認にしては、随分とトゲのある聞き方だ。  つまり、どっちかだと都合が悪いってことか。  いや、両方なのか。
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第37話 俺の同僚4

  ひと通り話を聞き終えて、村長に礼を言い、家を後にした。  結局、核心には届かなかったが、まぁゼロよりはマシだろう。「さて……次は桟橋の馬鹿だな」 足を向けながら視線をやると、遠目にもわかる情けないシルエットが目に飛び込んできた。 鼻水垂らして背中を丸め、魚のあたりを待っている男。 ……ナック。 生きてるだけでありがたい、なんて言葉は、今のお前にはもったいないな。 桟橋に近付くと、どうやらナックは釣りに夢中になっていた。  今まさに魚と格闘中。  竿をしならせて、必死の形相で踏ん張っている。「おい、ナック」 声をかけた瞬間――「うわっ!」 驚いて手を滑らせ、竿は桟橋の上を転がった。  その拍子に、必死で引き上げかけていた魚は悠々と海に帰っていった。「あ~、飯が……」  ナックは呆然とした顔で、逃げていく魚影を見送っている。 生きてりゃ腹は減る。 そこは理解できるが、今この状況で優先すべきことが魚釣りって時点で残念な奴だ。「おい、お前仕事サボって何やってんだ?」 声をかけると、ナックは竿を拾い上げながら顔を上げた。「お、アルディン。今な、飯を調達してんだ」 胸を張って言うあたり、サボりの自覚はゼロらしい。 ……いや、魚逃がした時点で飯も調達できてないんだがな。「そうか。じゃぁな、俺は戻るぞ」 くるりと背を向けると、背後から慌てた声が飛んできた。「まてまてまて、俺も行くから!」 桟橋をドタバタ走る足音。 ……うん、こういう時だけ反応はやたらいいんだな。
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第38話 愛され馬鹿はここに眠る1

「ナック、おめぇは――誰だ?」 俺の問いに、ナックは一瞬ぽかんとした顔をした。  そして次の瞬間、胸を張って親指で自分を指す。「誰って……俺だよ! お前の相棒、泣く子も笑うナックさんだろ?」 はい出ました。  いつもの調子。  こういう時だけは元気だよな。 ……いや、元気すぎる。 声も動きも、確かにいつものナックそのもの。  けどな、どうにも薄っぺらい。  舞台役者が台本通りに演じてるみたいな、そんな感じがするんだ。 おかげで背中を冷えた汗が伝う。  こっちは笑えねぇんだよ。「ビビッて、漁村に逃げるまではいつものお前だ」 「何言ってんだ?」 ナックが眉をひそめる。  だが、俺の中ではもう確信に近い違和感が膨らんでいた。「だけどな――そこで必死こいて、ラヴァナイトを助けようとしないところがお前らしくない」 「ん? ああ、お前も会ったのか? よく逃げれたな」 ……軽い、軽すぎる。 本物のナックなら「助けようとしたけど無理だった」って泣き言を並べるはずだ。 この空っぽな反応は、やはりおかしい。「ラスを探そうと思わなかったのか?」 「ラス? 村長の息子だろ? 漁村を見て回ったけどいなかったぞ」 その言葉を聞いた瞬間、俺は剣を握る手に力を込めた。  漁村を見て回っただと?  それを信じろと?    鼻水垂らして竿握ってるのが精一杯だったくせに――。 「だがなぁ、ナック。俺を見つけた時、いつもならこう言うはずだ」 俺はナックを睨みつける。 「――アル、大変だ、ってな」  何も説明せず、泣きつくように縋ってくる。
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第39話 愛され馬鹿はここに眠る2

 虫だ。  いや、虫の形をした何か。  無数の脚が、肉の隙間を蠢いている。「ああ、それも知ってる」 吐き捨てる声は自然と低くなった。  見慣れすぎて、嫌でも覚えてしまった光景だ。  ……こいつらに慈悲は必要ねぇ。 「霧の魔女直伝だ……灰も残さねぇぞ」  俺は短く息を吐いて、詠唱を紡ぐ。 普段なら冗談混じりに茶化す俺だが、こればかりは遊びじゃ済まない。  噛み間違えれば、俺ごと焼かれて終わりだ。 古き言葉が紡がれるとき、火の王は門をそっと開く。 「掛けまくも畏き、火の底に鎮まり給ふ冥き王よ。今ここに、我が身我が言もて、門を開き奉らん。焔の御名を称へ、灰燼の冠を掲げ、すべての罪穢を焼き尽くし給え。いざや、地の奥より出でませ、死の業火よ」 詠唱を終えると林が息を潜めた。  葉擦れの音が消え、鳥も虫も声をなくす。  そして――地の底から、低い唸りが這い上がってくる。 風が逆流し、空気がきしむ。 その圧が限界に達した瞬間、掌から炎が噴き上がった。 黒き炎。 闇が燃え、光を呑み、熱だけを撒き散らす異質の火。 黒炎は土を焼き、石を溶かし、地面をガラスのように変えていく。 蠢いていた影は一瞬で飲み込まれ、虫の形をした何かは声をあげる暇もなく崩れ去った。  全てを焼き尽くす黒炎だが、護りを張っている俺だけは焼けることはない。  術の結界内にいる限り、黒炎は処すべきものにしか牙を立てないからだ。 やがて黒炎が収まった。  残ったのは、黒く平らな斑模様の地面だけ。 死体も虫も、何もかも灰どころか痕跡すら残さない。「終わりだ」 
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第40話 愛され馬鹿はここに眠る3

 再び漁村に戻ってきた。 ついさっきまで狂信者と斬り合ってたのに、今度は漁師のおっちゃんに再インタビューだ。 俺の人生、ハードワークにもほどがある。「すみませ~ん」 「ん? あれ? また、あんたか。どうしたんだ?」 「桟橋にいた調査員って、昨日の夜もいました?」 「いや、夜はわかんないな。俺は家の中にいたし」 「そうですか。ありがとうございます」 他にも数人に聞いてみたが、どれも同じような内容だった。 やはり、夜中に桟橋でナックを見た人間は、やっぱり一人もいないってことだ。 だがまぁ、おかげで確信は深まった。  本物のナックは、この漁村のどこかにいる。 魔力感知を発動―― ……駄目だな。 人が多すぎて、ノイズまみれだ。  漁村みたいな人混みじゃ、特定の魔力なんて探せるわけがねぇ。 何かナックの持ち物でもあれば、そこから痕跡を辿れるんだが……。 ……ん? 見覚えのある釣竿が、立てかけてあるじゃねぇか。 ナックの魔力と、さっき斬った狂信者の魔力。  どっちも、もう薄れてやがる。 けど狂信者はもういない。  導く先は、ナックだけのはずだ。 あ~、疲れんなこれ。 ……で、示した先は――あっちか。 視線の先には、漁村の外れにポツンと建ってる小屋だ。「すみません。あそこにある小屋ってなんですか?」「ん? あそこは漁に使う道具が保管してあるけど……ほとんど物置小屋みたいなもんだな」 「見てもいいですか?」 「……別にかまわないけど、珍しい物なんてないぞ」 よし、許可は出た。  こういうのは無許可で突っ込むと、あとでトラブルの元になるんだよな……経験談だ。 さて、なにが
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