こちらギルドの調査員

こちらギルドの調査員

last update最後更新 : 2026-06-17
作者:  月城葵剛剛更新
語言: Japanese
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故事簡介

異世界ファンタジー

アクション

コメディ

転生

隠し身分

ハンター

俺は冒険者じゃない、ギルドの調査員だ。 地味で、胃に悪くて、割に合わない仕事ばかり。 だが、その裏にはいつも人間の欲と秘密がある。 見なかったことにできれば楽だった。 けれど、気づいてしまった以上、放ってはおけない。 これは、冒険者じゃない俺が、冒険より厄介な事件に首を突っ込む話だ。 泣けるか笑えるかは知らんが――まぁ、付き合ってくれ。

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第 1 章

第1話 石橋を叩いて壊す者1

「おらぁ、もういっちょ!」

「グギィィィ」

 逃げ惑う魔物を、後ろから容赦なく切り捨てる。

 情けなんてかけている場合じゃない。

「お前、逃げんなっ」

 全力で投げた石ころが、ガツンッ! とゴブリンの側頭部を打ち抜く。

「ギャッ!」

「はぁ、キリがねぇ」

 一体、何匹いるんだか。

 反対側は、ナックが踏ん張ってるからいいとして……。

 え? 何やってるかって?

 どっかの馬鹿な冒険者のせいで、絶賛、山の中をゴブリンと大運動会中だ。

 定時は過ぎてんだけどな。

 このまま帰ったら、ゴブリンじゃなくて、俺の首が飛びかねない。

 だったら、やるしかないだろ?

「こなクソォ~!」

 ヤケクソ気味に森の中を疾走中、異様な光が目に入った。

 近寄ってみれば、ひしゃげた金属の残骸だった。

「魔道具か?」

 証拠は確保。

 何かは知らん。

 今は、それどころじゃねぇ。

 あとで調べりゃいいだろう。

「チッ! まだ、いた」

 ……こりゃ、徹夜だな。

 ◇ ◆ ◇

「あぁ~、眠ぃ、胃が痛ぇ」

 よりにもよって、朝っぱらからだ。

 冒険者の英雄様が魔物をぶっ倒す裏で、誰が後始末してると思う?

 そう、俺。

 ギルド所属の調査員だ。

 冒険者に依頼を出したり、冒険者がやらかした後の尻拭いが、俺の仕事。

 つい先日も魔物の群れのボスを先に排除しちまうもんだから、雑魚は逃げるわ、逃げる。

 近隣に被害が出る前に運動会よろしく、山の中を駆け回ってたところだ。

 つまり――事件が片付くころ、俺の胃はだいたい死んでる。

 もうちょい考えて討伐してくれ……ほんとに。

 なんで、そんなことしてるのかって?

 話すと長いわりには、大したことないから手短にするぞ?

 人生ってのは思ったよりも短い。

 二度目の人生ともなれば、なおさらだ。

 この世界に産まれ落ち、あっという間に二十年経った。

 前世? まぁ社会人やって、気がついたらこっちの世界でガキになってた。

 ありがちな話だろ。

 しかも拾ってくれたのが霧の魔女。

 世間じゃ恐れられてるらしいが、俺からすれば忘れっぽい母ちゃんだ。

 ……飯はまともに作れないし、古臭い口調でのじゃのじゃ言うし。

 まともに母親かって聞かれると、返答に困るけど。

 そんなこんなで育てられた俺は、気がつきゃ冒険者になって、最年少で中級までいって、怪我で引退したことになっている。

 今はギルドの調査員。

 ようするに裏方だ。

 冒険者に夢見てるやつらからしたら、地味で退屈に見えるかもしれない。

 だが俺からすれば、これが案外ちょうどいい。

 事件の裏側が、ちょいとばかし見える気がするしな。

 ……さて、今日も石橋を叩いて壊して、自分で架ける仕事の始まりだ。

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11 章節
第1話 石橋を叩いて壊す者1
「おらぁ、もういっちょ!」「グギィィィ」 逃げ惑う魔物を、後ろから容赦なく切り捨てる。 情けなんてかけている場合じゃない。「お前、逃げんなっ」 全力で投げた石ころが、ガツンッ! とゴブリンの側頭部を打ち抜く。「ギャッ!」「はぁ、キリがねぇ」 一体、何匹いるんだか。 反対側は、ナックが踏ん張ってるからいいとして……。 え? 何やってるかって? どっかの馬鹿な冒険者のせいで、絶賛、山の中をゴブリンと大運動会中だ。 定時は過ぎてんだけどな。 このまま帰ったら、ゴブリンじゃなくて、俺の首が飛びかねない。 だったら、やるしかないだろ?「こなクソォ~!」 ヤケクソ気味に森の中を疾走中、異様な光が目に入った。 近寄ってみれば、ひしゃげた金属の残骸だった。「魔道具か?」 証拠は確保。 何かは知らん。 今は、それどころじゃねぇ。 あとで調べりゃいいだろう。「チッ! まだ、いた」 ……こりゃ、徹夜だな。 ◇ ◆ ◇「あぁ~、眠ぃ、胃が痛ぇ」 よりにもよって、朝っぱらからだ。 冒険者の英雄様が魔物をぶっ倒す裏で、誰が後始末してると思う? そう、俺。 ギルド所属の調査員だ。 冒険者に依頼を出したり、冒険者がやらかした後の尻拭いが、俺の仕事。 つい先日も魔物の群れのボスを先に排除しちまうもんだから、雑魚は逃げるわ、逃げる。 近隣に被害が出る前に運動会よろしく、山の中を駆け回ってたところだ。 つまり――事件が片付くころ、俺の胃はだいたい死んでる。 もうちょい考えて討伐してくれ……ほんとに。 なんで、そんなことしてるのかって? 話すと長いわりには、大したことないから手短にするぞ? 人生ってのは思ったよりも短い。 二度目の人生ともなれば、なおさらだ。 この世界に産まれ落ち、あっという間に二十年経った。 前世? まぁ社会人やって、気がついたらこっちの世界でガキになってた。 ありがちな話だろ。 しかも拾ってくれたのが霧の魔女。 世間じゃ恐れられてるらしいが、俺からすれば忘れっぽい母ちゃんだ。 ……飯はまともに作れないし、古臭い口調でのじゃのじゃ言うし。 まともに母親かって聞かれると、返答に困るけど。 そんなこんなで育てられた俺は、気がつきゃ冒険者になって、最年少で中級までいって、怪我で引退したことになってい
last update最後更新 : 2026-06-12
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第2話 石橋を叩いて壊す者2
 自由都市ペテルの朝は、いつも騒がしい。 ギルドの大扉が開けば、酒臭い冒険者が二日酔いで転がり込み、その横で新米が「今日こそは!」と張り切って受け付けに並んでる。 受付嬢のカエデは笑顔でさばいてるが、目だけは笑ってない。 あれが本当の営業スマイルってやつだ。 奥の掲示板にはクエスト用紙がぎっしり貼られていて、どれも「ゴブリン討伐」「魔物の巣駆除」「護衛依頼」……。  毎度のことだ。 そんな喧騒を背に、俺は机で報告書をまとめている。 二十歳そこそこの若造が書き物してりゃ浮くのは当然だが、俺は調査員。  依頼の成否を判断するのが仕事だ。 ……まぁ、俺自身、周りと同じノリをやる気もないけどな。「あの、アルディン先輩……この依頼、危険度三でいいんですかね?」 隣の机に腰掛けたのは、入ったばかりの新米調査員。 緊張で声が裏返ってる。 俺はちらりと用紙をのぞいて、首を横に振った。「魔物の出没地点が街道沿いになってるだろ。通行人を襲うリスクを考えれば、最低でも五だ。金額も上乗せ」「あ、そ、そうなんですか……!」 こいつら新米は、危険度を魔物の強さだけで決めようとする。 本当は地形や人の往来、季節の影響だって無視できない。 石橋を叩いて壊すくらいで、ちょうどいいんだよ。「さすがっすね、アルディン先輩。やっぱり元冒険者だから、現場慣れしてるんですね」 ……おい、その噂どこから漏れてんだ。 冒険者時代の話は、正直あまり触れられたくない。 冒険者は怪我で引退した──そういうことになっている。 本当の理由? それは……まぁ、胸の奥に仕舞っておくさ。 いちいち説明するのも面倒だし、知ったところで誰も得しないしな。 書類仕事を終えてギルドを出れば、そこはいつものペテルの街並みだ。 石畳の大通りには、屋台の匂いと人の声が入り乱れている。 通りの角では、赤毛のテッタが店先で大声を張り上げていた。 テッタは「今日もおまけつけとくよー!」なんて笑顔を振りまきながら、冒険者相手に鍋いっぱいのシチューを売りつけている。 元気なのは結構だが、あれは半分押し売りだろう。 向かいの酒場に視線を向ければ、準備中の看板を設置しているジョナスが見える。 胸元に蝶ネクタイなんか締めて、今日もダンディにしているが──あの人、酒に弱い。 客のグラスを眺
last update最後更新 : 2026-06-15
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第3話 面倒事は勝手にやって来る1
 翌朝。 はい、今日も元気にお勤めです……いや、元気なのは街の方で、俺じゃないけどな。 ……また、ひどい顔だ。 鏡の中で、眠れぬ夜を引きずった目がこちらを睨み返していた。 黒い髪も乱れ放題。 どう見ても「仕事ができる人間」には見えないね。 支度を済ませて宿舎を出ると、すでに通りは人でごった返していた。 パン屋の小僧が火魔法で窯に火をつけ、大工は風魔法で木屑をぶっ飛ばしている。 向かいの主婦は水魔法で桶に水を張りながら、隣と世間話。 戦場じゃ殺し合いに使われる力も、ここじゃ炊事洗濯の延長。 便利だよなぁ。 俺の世界にも欲しかったよ。 で、石畳を抜けてギルドへ。 朝っぱらから大扉全開、冒険者たちの笑い声が耳に突き刺さる。 あれを「活気」と呼ぶか「騒音」と呼ぶかは、人による。 少なくとも俺は後者だ。 カウンターにはカエデ。 笑顔満点で「おはようございます、アルさん」ときた。 はいはい、おはようございます。 相変わらず営業スマイルが完璧だな。けど、俺に向けるときだけ、ちょっと柔らかくなるのは、気のせいじゃないはずだ。「昨日の件、報告されていますよ」「魔道具の残骸のことか」「はい。今、ウィザーズギルドで確認中だそうです」 ……あぁやっぱり。うちじゃ手に負えなかったんだな。 魔術師ギルドに鑑定を依頼する事態。つまり、面倒事確定ってことだ。 奥から俺を呼ぶ声がする。「お~い、アル! ちょっと来い」 丸眼鏡のマルセル課長が、机の上の依頼書を手に呼んでいる。 いつもはのほほんとしてるのに、こういう時の声だけは、やけに通るんだよな。「南の集落から調査依頼が来ている。家畜が繰り返し襲われているらしい」「……魔物か、獣か」「そこを確かめてきてくれ。お前ひとりでいい」 はい出ました、おひとり様確定。 まぁ、気楽でもある。「了解」 依頼書を受け取って肩をすくめる。 ……へいへい、いってきま~す。 ◇ ◆ ◇ まずは腹ごしらえより先に準備だろ、ってことで道具屋へ。 カウンターの奥からタマ婆さんが、「いらっしゃい」と顔も上げずに声をかけてくる。 ここの挨拶は、半分罵声みたいなもんだ。「上薬草、まだ残ってるか?」「あんたも運が悪いねぇ。昨日、どっかの阿呆が、しこたま買い込んでったよ」 チッ、やっぱりか。 ちなみ
last update最後更新 : 2026-06-15
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第4話 面倒事は勝手にやって来る2
 南へ歩くことしばし、見えてきたのは小さな集落。 家が十軒そこら、寄り添うように建っている。 煙突からは白い煙がのぼり、子供たちが追いかけっこをしている。  平和に見えるが、依頼書の被害報告はここのことだ。「お~い、ギルドの人かい?」 声をかけてきたのは、腰の曲がった農夫。  顔色は冴えない。 俺が頷くと、村人が集まってきて口々に説明を始めた。「最初は豚だ。一昨日の晩にやられた」 「うちじゃ翌日に山羊がやられてな」 なんとかしてくれ。  今にも、そんな言葉が出てきそうだ。 それを調査しに、来ただけなんだが……。  そう思って、辺りを見渡す。 ……死骸がないな。やっちまったか?「死体はどうしました?」 「血まみれで……いや、もう死骸は片付けちまった」 はい、現場検証する前に証拠隠滅完了。  ありがちだ。 村人にしてみれば当然か。  放っておけば腐るし、匂いが獣を呼ぶ。 こっちとしては、「せめて骨くらい残しておいてくれ」と言いたいところだが。「柵も壊されちまって……」 案内された家畜小屋をのぞく。 なるほど、木の柵が横倒し。  釘はまだ新しいのに、根元からへし折られている。 俺はしゃがみ込み、折れ口を指でなぞる。 刃物じゃない。噛み跡もない。  力で押し倒した感じか……。 つまり、何かデカいものが通ったってことだ。  さて、面倒ごとの匂いがしてきたぞ。 まずは血痕。 ……おっと、やっぱり残ってるな。 地面にこびりついた赤黒い染みを指先でこすってみる。  乾いてはいるが、まだ数日は経っていない。 その近くに、毛が数本落ちていた。  山羊の毛より固くて短い。  色も違う。 狼にしては短すぎる。  犬でもない。  じゃあ、何だって話だ。 視線を落として、柵の外の地面を確認。 山羊の小さな蹄跡に混じって、別の足跡がある。  幅広で、爪痕が深い。「……野犬じゃねぇな。狼でもない」 この辺りでよく出る獣といえば大猪。  けど、あいつら家畜なんざ襲わない。 草木や畑を荒らすのが専門だ。  山羊も豚も、食う習性はない。 となると……。 溜息をひとつ。「ワイルドボア……かよ」 猪に似た魔物だ。  体格は馬並みで、突進力は洒落にならない。  大猪と違って雑食、時には人間さえ襲う厄介
last update最後更新 : 2026-06-15
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第5話 面倒事は勝手にやって来る3
 森に入ると、空気がひんやりと冷たくなった。 まだ昼前で陽は高いのに、枝葉が重なり合って光を遮っている。 木漏れ日がまだらに揺れて、なんだか犯人探しにぴったりの舞台装置ってやつだ。 足元にはさっきの蹄跡。  土が柔らかいせいで、くっきりと残っている。 だが、それも長くは続かない。  奥に進むにつれ、草木がやたらと生い茂ってきた。 足跡そのものは見えなくなったが──代わりに、踏み倒された草の方向が目印になっている。 葉が擦れた痕、枝が折れた角度。  でかい獣が突っ切った通り道ってのは、素人でもわかるほど派手だ。 俺は枝をかき分けながら苦笑する。「……まるで自分で『こっちです』って案内してるみたいだな」 ありがたいっちゃありがたいが、追いやすい獲物ってのは大抵、追った先でろくでもない目に遭うんだよな。 進んでいくと、はい出ました。デカい糞。 新鮮じゃない、乾きかけてる。  つまり数時間前に、ここを通ったってことだな。 ……ってことは、もう縄張り圏内に足突っ込んでるわけだ。 俺は、腰袋から小瓶を取り出す。  タマ婆さんの店で買った匂い消し。 蓋を開けると、鼻が曲がりそうな刺激臭が広がった。 婆さん曰く「獣には効くけど人間には不評」らしい。  全くもってその通り。 仕方なく自分に振りかける。  背中、腕、足元。  ついでに服も少々。 うん、最悪だ。  これで森の中で遭難しても、誰も助けに来てくれないだろうな。「さて……馬鹿猪はどこだ」 呟きながら、俺は足跡の先へと視線を向けた。 風の流れが重くなり、枝のざわめきが止まる。  どうやら、ここから先が本番らしい。 耳を澄ませ、鼻も利かせる。 ……お、来たな。 かすかに地面を踏む音。  ただの足音じゃない。 ドス、ドス、と重たい衝撃が混じってる。 俺は息を整えて魔力を巡らせる。 身体強化。  聴覚も、ちょっと底上げ。 地面を伝って響く震えが、はっきりと耳に届く。 ……おかしいな。数が多い。「おいおい、ワイルドボアは群れねぇだろ」 馬鹿猪どもは、基本単独行動だ。  繁殖期ならつがいになることもあるが、せいぜい二匹。 今は春。  アイツらの繁殖期は冬だったはずだ。 つまり──計算が合わない。 奥の茂みがガサリと揺れた。 出てきたのは、まご
last update最後更新 : 2026-06-15
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第6話 面倒事は勝手にやって来る4
 胃がきゅっと縮む音が、自分で聞こえた気がした。 先頭の一匹が鼻を鳴らした瞬間、地面が揺れた。  ドドドッと一直線、丸太みたいな胴体が突っ込んでくる。「っとと!」 ほいっと身をひねって避ける。  掠める風圧で背中が熱くなる。 柵どころか、家一軒くらい簡単に持っていきそうな勢いだな、これ。 振り返る間もなく、二匹目が蹄を掻き鳴らす。  完全に突進モード。 ……匂いじゃねぇ。こいつら、こっちを見て狙ってやがる。「夜行性じゃなかったのかよっ!」 昼間からギラついた目で狙ってくるワイルドボアなんざ、教本に載せたら赤点食らうレベルのイレギュラーだ。 二匹目の突進も、ギリギリで横へ飛んでかわす。  足元の土がえぐれ、土煙が舞った。 ゴロゴロ、ゴロゴロ、だんご虫か俺は。 息をつく間もなく、三匹目と目が合った。  真っ赤に充血した眼。その視線が、獲物を射抜くみたいに突き刺さる。「やっべぇ」 背筋が凍った。  三匹目が吠えたかと思った瞬間、突進してきた。 さっきより速い。  やっぱり目がイカれてる分、加減を知らねぇ。「っと、こっち来んな」 避けざまに腰の袋から粘着玉をひとつ。  カランと投げつけると、ベチャリと音を立てて割れ、前足が地面に張りついた。「ふぅ……」 ……攻撃が直線的なのは変わらないか。 ワイルドボアの倒し方、その一。  突進を止める。 ああ、間違っても正面から止めるなよ。  パワーは馬鹿になんねぇ。 岩や、でかい木なんかを背にして、避けちまえばいい。 最初の一匹目が再び、鼻息荒く突進してきた。「そらよっと」 ドゴォンッ! という大音量とともに木に激突。    な? 簡単だろ。 が、喜んでる暇はなかった。  避けた先で、もう一匹が前足を振り上げて待ち構えていた。 でだ、ワイルドボアの倒し方、その二。  背後に回り込む。 出来ればでいいぞ。  無理して狙うな。  基本は一を繰り返せばいいんだが……。「めんどくせぇ!」 潰される寸前、身を低くして股下をくぐり抜ける。  俺は体制を立て直し、ワイルドボアを正面に捉える。「こいこい……」 振り向いたワイルドボアが、怒り狂って突っ込んでくる。「ご苦労さん」 それをさらりと避ける。  と、次の瞬間── ドガァンッ! 背後で鈍い
last update最後更新 : 2026-06-16
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第7話 面倒事は勝手にやって来る5
   戦意は十分。  獲物を狙う赤い目が、俺を睨む。 ……ま、降参なんてしないわな。 巨体は粘着玉に足をとられながらも、強引に突進してきた。 よろけてるくせに、速度だけは落ちていない。  完全にブレーキがぶっ壊れた車だ。「よっと、すれ違いざま──もらった!」 刃を横に薙ぐ。 カツンッ! 確かに当たったはずなのに──「くっ!」 手ごたえが石壁みたいに重い。  剣が弾かれ、腕に痺れが走った。 普通のワイルドボアなら、肉を裂く感触があるはず。  なのに、こいつは鎧でも着込んでんのか、ってくらい硬い。 ……おいおい、おかしいだろ。 土煙の中で向き直り、再び睨み合う。  充血した真っ赤な目が、ギラつきながら俺を射抜いてくる。 どうやら、ただの馬鹿猪じゃ済まなそうだ。 ……考えてる暇はねぇ。「──貫け!」 即座に手を地面に叩きつけ魔力を流し込むと、地面がうねり、無数の土の槍が牙をむいて突き上がる。 巨体の下から一斉に、串刺しにする勢いで伸び上がった。 だが。 ガキンッ! 嫌な音とともに、槍は次々と折れていった。  あの巨体、皮膚が鋼鉄かってくらい硬い。 土の槍が弾かれて砕けるのを見て、俺の口から思わず声が漏れる。「……マジかよ」 直後、ワイルドボアが天を突くように咆哮した。 鼓膜が震え、胸まで響く。  圧が強すぎて、肺の奥がひゅっとすぼむ感覚すらある。「腹下は弱点だろうが……」 溜息まじりに呟くしかなかった。 森の中で火なんざ使えねぇ。  森ごと燃やしたら、依頼どころじゃなくなる。 ……じゃあどうするか……って、くっそ! 巨体が突進してくる。  俺はギリギリで身を翻した──はずだった。 ズザァッ! ワイルドボアが急停止。  土煙を上げて、あり得ねぇ角度で方向転換しやがった。 避けた俺の方へ、ほぼ直角九十度って具合にだ。「お前、頭いいじゃねぇかよ!」 冗談じゃねぇ。  馬鹿猪のくせに学習してんじゃねぇよ! とっさに腕をかざす。  空気が圧縮され、目の前に半透明の壁を展開させる。 ワイルドボアがぶつかった瞬間、衝撃が弾け、轟音とともに風圧が炸裂した。 ゴロゴロと地面を転がり、体ごと吹き飛ばされたが、なんとか受け流す。 ……お~、腰がいてぇ。 視線を外さず、立ち上がる。  耳鳴
last update最後更新 : 2026-06-16
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第8話 面倒事は勝手にやって来る6話
 ワイルドボアは無事退治。  なんで調査員が戦闘してるんだっての……。 とはいえ、ここでのんびり感傷に浸ってる場合じゃない。  獣の血の匂いは、別の魔物を呼び寄せる。 俺は袋からタマ婆さん印の消臭粉を取り出し、死骸にばさばさと振りかけた。「さてと。こいつらの宴会場になられても困るんでな」 鼻にツンとくる独特の臭い。  これでしばらくは持つはずだ。 だが、こいつは一体なんだ? 手袋越しに毛をつかむと、びっくりするほど固い。  毛がまるで小さな棘の集合体みたいだ。 皮膚を押してみる。 弾力は普通の獣のそれだ。  外見はワイルドボア、だが何かが違う。「次に会ったら殴り殺すしかねぇな、こいつは」 半分自嘲で呟く。  そういう相手だった。  斬るより打撃だ。 血をチェックする。  指先で取って匂いを嗅ぎ、色を確かめる。 ……赤黒い。 普通の獣の鮮血とは違う。  目もまだ血走ったままだ。 こりゃ、下級冒険者じゃ、返り討ちもあり得るな。  中級クラスでも油断は禁物だ。 証拠はあったほうがいい。 小瓶を取り出して血を詰める。  蓋をきっちり閉め、袋にしまう。  これは、ウィザーズギルドで精査してもらう材料だ。 ……ふぅ、こっちは解決だな。 最後に仕留めたワイルドボアに視線を向ける。 家畜を襲ったのはこいつだ。  蹄の大きさと、ここまでの足跡が一致する。「犯人はお前だ!」 ……よし。 あとは、こいつを放置できるかって話だ。 血と死骸の匂いは、他の獣を引き寄せる。  集落のそばで、それは困る。 手際よく周囲を見回し、簡単な結界を描く。 地面に指で円を引き、魔力を流し込むだけの即席の拘束結界。  飛び火や、魔素の拡散を抑える程度のものだ。 結界のラインが微かに光るのを確認してから、着火。  拳大に丸めた乾いた枯葉と小枝を、火であおって炎を大きくする。 森の火は危険だ。  風魔法で炎の行き先を制御しつつ、結界の内側だけをじっくり炙る。 火を点けたのはいいが、燃え尽きる前にちょっと確認。 痕跡ってのはだいたい、煙と一緒に消えてなくなるからな。 結界の外をぐるっと回ると──まず目に入ったのは、木の幹に引っかかった毛。 さっき触ったガチガチの毛と同じ。  しかも
last update最後更新 : 2026-06-16
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第9話 調査員の胃は休まらない1
  街道をトボトボ歩きながら、片手にテッタの弁当。 仕事帰りに食うメシってのは、やっぱ格別だな。 まずは、おにぎりをひと口。「……うまいな」 塩気がちょうどいい。 噛むたびに米の甘さが広がって、胃袋がやっと人間に戻った気がする。 次は唐揚げ。「……これもうまいな」 衣はカリっと、中身はジューシー。 テッタの飯は裏切らない。  戦いの後のご褒美ってやつだ。 しかも、前回よりも美味くなってる。 冒険者たちの胃袋を、掴んで離さないのもうなずける。 だが、弁当を食い終わる前にふと視線が袋へ向く。 中には南の森で拾った、あの黒焦げの金属片。 見なきゃよかった。 どうせ気になるに決まってんだから。 仕事終わりのいい気分が台無しだ。「……しゃーねぇ、ゼットの店に寄ってくか」 腹は満たされても、頭の中はモヤモヤしたまま。 こういう時の嫌な予感は、大抵当たる。 晴れない気分のまま、南門に到着。 見えてきたのは、いつも通りの門番二人。 槍を肩にのっけて、暇そうに立っている。「おう、アル。散歩は終わったのか?」 皮肉返しかよ。 俺が森で汗かいてた間、お前らは門で日向ぼっこ。 まあ、仕事だから仕方ねぇが。「ああ、散歩の後のテッタの弁当は最高だったぜ。あの唐揚げ、もう売り切れてるかもな」 にやりと告げると、門番たちの顔が微妙に引きつる。 昼飯前の兵士に
last update最後更新 : 2026-06-17
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第10話 調査員の胃は休まらない2
 ギルドの扉を開けると、相変わらずの雑多な喧騒。 冒険者どもは昼間から酒をあおり、受付嬢はげんなりした顔で相手をしている……まあ、平常運転だ。 奥の部屋に入ると、マルセル課長が書類とにらめっこしていた。目の下のクマも健在。「戻りました」「どうだった?」「ワイルドボア三体、処理済みです……ただし、いくつか異常がありました」 課長のペンが止まる。 俺は指を折りながら、淡々と報告した。「一つ、集団行動していた。二つ、夜行性のはずが昼間に活発だった。三つ、そのうち一体は明らかな異常個体」 机に小瓶を置く。 中には赤黒い血と、布に包んだ金属片。「証拠はこれです」 課長が瓶を手に取り、眉をひそめた。「……またか」「昨日も似たような残骸があったでしょう? おそらく同系統です」 わずかな沈黙のあと、課長の口元がわずかに歪む。「あとでウィザーズに回しておく」 課長がそう言って、瓶を机の端に置く。 ……ん? なんか朝より顔が疲れてねぇか? 気のせいか?「課長、さっき、またって言いましたよね?」「ん? ……ああ」 課長が、ペンをトントンと机に叩きながら答える。「さっきナックがすっ飛んで帰ってきてな。西の森でゴブリンが見つかったってな」「ゴブリン? まあ珍しくもないけど」「偵察で六体だ」「……ふ~ん」
last update最後更新 : 2026-06-17
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