「……はい、一条です。はい、垂水様。 お世話になっております。 ……はい、新規事業発表会の準備の件ですね。 スケジュールを確認いたします。 少々お待ちください」神崎役員への説明から数時間後、垂水と名乗る男性から電話を受けた。(準備は垂水と話してくれ)新規事業発表会に来るよう指示した神崎役員は、確か、そう言っていた気がする。「はい、本日午後は16時以降であれば打ち合わせ可能です。 場所は・・・いえ、そんな、送迎など、お気になさらず・・・はあ、では、お言葉に甘えさせていただきます。16時に弊社1階車寄せでお待ちしております」電話を切った瞬間、ドッと疲れが出た。(・・・一体、何が始まるんだろう・・・)見当も付かない、大きなことに巻き込まれているーーそんな気配を、凛は感じていた。***「間もなく到着いたします」垂水と名乗る初老の男性は、朗らかに凛に伝えた。黒塗りの高級車の後部座席。革張りのシートに包まれて、凛は居心地の悪さを感じていた。(ば、場違いだよー!!)足元に視線を落とす。リクルートスーツにフラットシューズ。しかも、靴底は剥がれかけていた。(ははは・・・もう、なんとでもなれ!って感じだわ)今朝、会議室で見かけた役員の姿を思い出す。4、5歳程度年上であろうか。同年代なのに、堂々としていた。(ああいう人は、こういう車で移動するんだろうな)そう思うと、革張りのシートの輪郭も掴めてくる。(あれ?この振動・・・)「この車、ガソリン車でも、EV車でもないですよね?」凛は唐突に話しかけた。「左様です。」垂水は少し嬉しそうに答えた。「燃料は水素でございます。初速が違いますよ」「へー。水素燃料車は初めてです!」凛は、これからの未来にワクワクして来た。(せっかく抜擢いただいたんだもの。やれるだけやってみよう!)……小一時間後。凛は後悔していた。(待って、待って、待って!どういうこと?!)鏡の中には、淡いピンクのドレスワンピースを着た自分が映っていた。垂水は満足そうに頷いた。
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