神崎グループ本社最上階。会長室。大きな窓の向こうには、朝の雲城市が広がっていた。神崎蓮は執務机に向かい、報告書に目を通している。その向かいには神崎怜が立っていた。「青海財閥との業務提携は保留にするのか?」「はい」怜は資料を閉じた。「条件は悪くありません。ただ、気になる部分があります」「NDAは結んであるんだろう?」「はい。私の権限で」蓮は小さく頷いた。「まあ、用心に越したことはないな」その時だった。コンコンコン。扉が叩かれる。「会長、社長がお見えです」蘇我美玲の声だった。「新任のIT推進部長のご挨拶を、と」怜が僅かに眉をひそめる。「IT推進部長……」そんな人事異動が発令されていただろうか。蓮も首を傾げた。「初耳だな。通してくれ」扉が開く。「失礼します」神崎次郎が入室した。その後ろに一人の男が続く。「次郎、異動の発令は事前に——」蓮の言葉が止まった。怜もまた言葉を失う。朝日が差し込む会長室。そこに立っていたのは。「紹介します」次郎は穏やかに言った。「新任のIT推進部長、白石悠真です」白石は一礼する。「白石です。どうぞよろしくお願いいたします」静寂。蓮はただ白石を見つめていた。「白石……」その眼差しは温かかった。まるで長い冬を越えて差し込む朝日のように。だが、それ以上の言葉は出て来ない。白石もまた黙っていた。怜は二人の様子を見守り、次郎へ視線を向けた。次郎は小さく頷いた。「白石君、外で待っている。話が終わったら声を掛けてくれ」「……承知しました」怜も立ち上がる。「失礼します」扉が閉まった。会長室に残されたのは父親と実の息子ーーその二人だけだった。しばらく沈黙が続く。蓮は言葉を探した。しかし、なかなか見つからない。やがて蓮は観念したように本心を告げた。「……綾子は元気か?」「はい」白石は答えた。「母は元気です。苦労もしましたが」蓮は小さく頷く。「そうか」そして続けた。「君は?」白石は少しだけ笑った。だが、いつもの木漏れ日のような笑顔ではない。「……ご覧の通りです」「そうか……」蓮は噛み締めるように言った。「そうか」再び沈黙が落ちる。やがて蓮は静かに尋ねた。「君は、これから何をしたいんだ?」「え?」白石は僅かに目を見開いた
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