夜。雲城市を一望できる高層ホテル。最上階のステーキハウス。「こちらでございます。」案内されたのは、一番奥の個室だった。磨き上げられた木の扉。窓の向こうには、夜景が宝石のように広がっている。部屋にはすでに神崎次郎が座っていた。「やあ、白石君。」穏やかな笑みを浮かべる。「役員就任、おめでとう。」白石は静かに一礼した。「ありがとうございます。ですが、私のような若輩者が役員など……正直、困惑しております。」「君らしいな。」次郎は声を上げて笑う。「座ってくれ。」白石は勧められるまま椅子へ腰を下ろした。テーブルには、ナプキンとプレート、銀食器が燦々と輝いている。やがてウェイターがメニューを運んできた。次郎はページを開きながら笑う。「この店はね。個室を使う時には結構注文しないといけないんだ。」(最低1,000ドルだな。どうやったら2人でそんなに食べられるんだよ。)白石は冷ややかな眼差しを向ける。「今日は、じゃんじゃん頼もう。」次郎は迷うことなくシャンパンを注文する。「前菜は……シーフードの盛り合わせ。これが好きなんだ。あと、キャビアも。ああ、キャビアも盛り合わせがあるのか。じゃあ、それも。」白石は淡々とその様子を眺めていた。(……悪趣味だ。)料理を楽しみたいわけではない。金を使うこと、そのものが目的なのだろう。そう思えた。シャンパングラスがサーブされ、シャンパンが注がれる。きめ細かい泡が立ち上がっては消えた。沈黙を溶かすように。「白石君。」「なんでしょう。」「君は、神崎家が嫌いだろう。」唐突だった。白石は答えない。次郎は笑みを崩さない。「もちろん、私のことも嫌いだね?」白石は次郎を真っ直ぐ見た。数秒。沈黙が続く。やがて白石は静かに答える。「ええ。」その返事には一切の迷いがなかった。次郎は小さく笑った。「うんうん。素晴らしい。」白石は眉一つ動かさない。「……どういう意味でしょう。」次郎はグラスを持ち上げる。「では、改めて。役員就任に乾杯。」グラスが静かに触れ合う。小さな音だけが個室へ響いた。次郎は一口シャンパンを飲み、満足そうに息を吐く。「さて。」グラスを置く。「今日、君を呼んだのは祝いの席だけではない。」白石は何も言わない。次郎はゆっくりと微笑んだ。「私に、
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