「だから——神崎は、君や綾子に恨まれて当然だと思っている。」「え……」白石は思わず目を見開いた。「白石所長は、神崎の事業のために沢山のものを背負った。神崎は……彼を守ることが出来なかった。世論からも、遺族からも、彼自身が自分を責める気持ちからも。」(世論……)白石は自分がメディアに追われた時のことを思い出す。(好意的なニュースでさえ、本人の精神的負担は相当なものだ。まして、大事故の責任者ともなれば——)「報道を制限することは出来なかったのですか?」「われわれも死力を尽くしたがね——あれほど大きな事件の前では、無力だったよ。」次郎の皿には、ステーキがまだ半分以上残っていた。「——彼が生身の人間だということを、四角い箱の中では、みんな忘れてしまうんだろうな。」「……。」白石は黙って話を聞いていた。「この街の有力者というのはね、多くのものを背負って生きている。責任も。期待も。そして、痛みも。——時々、背負い過ぎではないかと思うこともあるくらいだ。」次郎は静かに笑った。「外から見れば、身勝手な話に聞こえるかもしれないが、兄も、私も、それぞれ違う形で、この街に人生を使ってきた。」その声に、冗談はなかった。「だがね、白石君。正直に言うと、君には、そういう人生は送って欲しくはないんだ。」次郎は白石を真っ直ぐ見つめる。「神崎家を救いたい。事業のために人が自分の命を削るような生き方は、私たちの世代で断ち切りたいんだ。」その声はどこまでも澄んでいた。(……本心ではあるのだろうな。)白石は静かに尋ねる。「……私に、何をさせたいのですか。」次郎は微笑む。「君を抱き込もうとか、利用しようとか、そういう気持ちは毛頭ないよ。私の仕事は、私がやる。」静かな眼差し——しかし、瞳の奥には堅い決意があった。「君に対しては、ただ応援したいんだ。君が成そうとしていることは、きっと皆を救うことになる。私は、そう確信しているよ。力になれることがあれば、何でも言って欲しい。」
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