澪はれっきとした妻なのに、世間から見れば、紗耶のほうがよほど征司の正式な相手に見える。「申し訳ございません。森宮社長はただいま外出しておりますので、本日はお会いいただけないかと存じます」受付の女性は社長室に電話をかけたあと、完璧な笑顔を浮かべて答えた。征司は本当に不在なのか、それとも自分を取り次がないよう指示されているのか、澪には判断がつかない。「いつ戻りますか?」澪は簡単に引き下がるつもりはない。受付の女性は一瞬ためらってから答えた。「申し訳ございません。林秘書から、森宮社長は今日は恋人の方とお過ごしになるため、日を改めていただきたいとのことです」その言葉で、澪はすべてを察した。征司が電話に出ないのも無理はない。恋人と過ごすのに忙しく、自分に邪魔されたくないのだろう。面会を申し込む際には名前を伝えた。健太は、澪が下で待っていると知りながら通さなかったのだ。そのうえ、征司がどこで何をしているのかまでわざわざ知らせてきた。たぶん、彼女に恥をかかせるか、それとも「空気を読んで引き下がれ」という意味だろう。もちろん澪は受付の女性を困らせるつもりはない。彼女の判断で面会を断っているわけではないからだ。森創のビルを出てから、澪はふと気づいた。もしかして、自分は門前払いされたのだろうか。離婚の条件として征司から森創の株まで譲られたというのに、その会社に足を踏み入れることさえできない。不倫相手でありながら、恋人として堂々と出入りできる紗耶のほうが、よほど自由だ。征司と連絡が取れない以上、澪にも打つ手はない。二回目の入金も、離婚届受理証明書も、ひとまず待つしかなかった。すっかり出鼻をくじかれて戻ったら、澪のもとに宇一から電話がかかってきた。「宇一さん?」電話の向こうで、宇一は一瞬黙り込んだ。「澪、もう少し気楽に呼んでくれないか。そんなによそよそしくする必要はないだろう」澪は呼び方にこだわっているわけではない。ただ、これまで宇一とは仕事上の付き合いしかなく、その呼び方がすっかり癖になっているだけだ。「今日は時間ある?」宇一は無理に呼び方を変えさせようとはせず、穏やかに尋ねた。澪は時刻を確認した。「ありますよ。今日はちょうど休めます」もう一週間も征司との家には帰らず、働き詰め
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