その瞬間、澪の上から征司の重みがふっと消えた。征司はすぐに身を起こした。あの酒の影響がまだ抜けていないせいで、足取りがおぼつかないが、それでも一度も振り返らずに部屋を出ていった。澪のほうを見ることさえなかった。あまりにも突然で、澪は何が起きたのか理解できないままその場に取り残された。まるで幻でも見ていたような、ひどく現実味のない出来事だった。それでも、彼女の胸の鼓動はまだ激しく、落ち着く気配がない。部屋にはアロマキャンドルの艶めいたローズの香りが漂い、その中に征司の残したモミの木の香りもかすかに混じっている。意識が朦朧として、まともに歩くことさえできない状態でも、紗耶のこととなれば、征司は迷わず我に返った。足元もおぼつかないほど薬が回り、欲望に呑まれかけていた。それでも紗耶のためなら、征司は残った理性をかき集めて、彼女のもとへ向かえた。澪は無造作に目尻の涙をぬぐった。口元に皮肉な笑みが浮かんだ。もう、この部屋にはいられない。外が土砂降りでも構わず、彼女は服を整え、バッグを手に取ると、そのまま部屋を出た。雨で視界が悪く、二時間以上かけて、澪は結局二人の家に帰った。ほかに身を寄せる先などなかったし、何より、今夜ここに征司が帰ることはないと分かっている。今ごろ、彼は紗耶のことで手一杯のはずだ。朝斗が二日間外に出られることになった。紗耶に裏切られたと知って、彼が黙っていられるはずがない。二人が顔を合わせれば、穏やかに済むはずもない。薬が回った状態でさえ、征司は紗耶を守るために無理をして去っていった。本当に一途なこと。愛する女のためなら、征司はここまで無茶ができるのだ。澪はその思い知らされた。あの酒がどういう狙いで用意されたものなのかも、澪にはおおよその見当がついていた。宗一郎の誕生日会で起きたことなら、そう簡単に表沙汰にはできない。たとえ何かあったとしても、揉み消すしかない――美佐子はそう踏んだのだろう。澪が帰って間もなく、美佐子から電話がかかってきた。「澪、どういうこと?あそこまでお膳立てしたのに、どうして征司を引き留められなかったの?またほかの女に取られるなんて」美佐子は明らかに腹を立てており、その口調は完全な詰問だ。「征司を縛っておけるわけじゃないでしょう。おばあ様
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