森宮社長、奥様は娘を連れて離婚します의 모든 챕터: 챕터 271 - 챕터 280

317 챕터

第271話

瑞穂メディカルは征司が所有する企業だ。その圧倒的な資金力の前では、アカリ製薬など歯が立たない。瑞穂メディカルは紗耶のために独立したプロジェクトチームを新設し、その全権を彼女に委ねていた。他部署にも、紗耶のチームを全面的に支援するよう指示が出ている。これでは、紗耶はすでに社長夫人も同然の扱いだ。「瑞穂メディカル側からも連絡があった。チームの件なら、今後はすべて向こうと話をしてほしいそうだ」知之の言葉に、澪はすぐに意図を察した。これは明らかな報復だ。アカリ製薬で紗耶が受けた屈辱を、一つ残らず晴らしてやるつもりなのだろう。澪は冷笑した。「征司はアカリ製薬に二百億円も出資しているのに、プロジェクトが成功するかどうかも、投資した金が無駄になるかどうかも気にしてない。紗耶の恨みを晴らすことしか頭にないんでしょうね」人材の引き抜き一つにも、征司の紗耶への愛情がこれでもかと表れている。「私が交渉に行くわ。これは私への当てつけだ」澪はきっぱりと言った。仕事のこととなれば、彼女は私情を持ち込まない。知之は心配そうに言う。「向こうは、君を困らせるつもりだろ」「大丈夫。向こうの出方を見に行くだけ。話ができるならするし、無理なら無理で構わない。うちだって、あの二人にこだわる必要はない」そう言うと、澪はすぐにバッグを手に取り、都心のオフィス街へ向かった。今回、澪がチームに迎えようとしていたのは、半導体チップ開発において名の知れた二人の専門家だ。瑞穂メディカルも半導体技術に強い。手術支援ロボットの開発にもチップは欠かせない。いずれにしても、一度は向こうと話をしなければならない。瑞穂メディカルに着いて、澪は、和田専務との面会を申し込み、上の階へ案内された。和田は征司の部下で、瑞穂メディカルの経営を担う幹部の一人だ。今回の件を話すには、最も適した相手だ。ところがエレベーターを降りると、大勢の社員がこちらに向かってきた。紗耶はその中心にいて、まるで星々に取り囲まれる月のようにチヤホヤされている。優雅な笑みを浮かべ、常に顎を少し上げたその態度は、一見すると親しみやすいようでいて、その実、傲慢さに満ちている。和田もそこにいる。澪に気づくと、すぐに笑顔で声をかけてきた。「朝比奈さん、お待ちしておりました」澪は
더 보기

第272話

しかも、招待状は一人ひとりに宛てて送られるものだ。つまり彰人は、本当に澪のために席を用意したということになる。それが紗耶には気に入らなかった。彰人と蓮は征司の親しい友人なのだから、いつだって自分の味方でいるのが当然だ。今の現状が変わることなど、紗耶は望んでいない。彼らは、これからもずっと自分の味方でいてほしい。彰人は紗耶の表情に気づかず、手にしたペンを弄びながら言った。「アカリ製薬が開発した心血管・脳血管疾患向けの新薬は、かなり注目を集めてる。賞を取ってもおかしくないほどの成果だし、澪はその筆頭開発者だ。招待しないほうが不自然だろ」そこに彰人自身の思惑もあることは、あえて口にしなかった。その話を聞いた途端、紗耶の表情がわずかにこわばった。アカリ製薬の新薬がどれほど価値のあるものか、紗耶は誰よりもよく分かっている。新薬の開発はただでさえ難しい。ひとたび成功すれば、それは研究者として途方もない栄誉となる。それなのに澪は、自分の成果に便乗して、まんまとその全てを手にしたのだ。だが紗耶は、それ以上何も言わず、そっと彰人の表情をうかがった。話自体はもっともだが、最近の彰人は以前とは違い、妙に澪を気にかけている。澪のこととなると、以前よりずっと根気よく向き合うようにもなった。それが紗耶の胸をざわつかせた。「彰人さん、少しお話があるのだけど」紗耶は何かを思いついたように、慎重に言葉を選んだ。「何だ?」彰人が彼女を見た。紗耶の目に、一瞬冷たい光がよぎった。ー瑞穂メディカルとの交渉はまとまらなかったが、澪は特に惜しいとも思わない。あの二人がいないと開発を進められないわけではない。アカリ製薬に戻り、薬理分析室に入ったところでスマホが鳴った。隆一からだ。玲衣に何かあったのかと思い、澪はすぐに電話に出た。「柴崎先生?」隆一は麻雀の真っ最中らしい。電話の向こうで、勢いよく「六萬!」と叫ぶ声が響いたかと思うと、何でもないことのように尋ねてきた。「K医大から連絡は来たか?」澪は思わず笑った。「どうしてK医大が連絡してくるのですか?」隆一は鼻を鳴らす。「推薦状はもう送ってある。あなたが最近開発した新薬、国の重点研究プロジェクトからも高く評価されてるんだぜ。副作用を最小限に抑えて、効果は従
더 보기

第273話

医学サミットは、K市の有名なホテルで開催されることになっている。西洋医学と和漢医学、双方の分野から、ニュースでしかお目にかかれないような大物たちが多数出席する。アカリ製薬にも招待状が届き、当日の午前、知之が澪を迎えに行って、二人で会場へ向かった。澪は出席者のほとんどと面識がない。ここ数年は地方の医療現場で働き、学会の中心にいる人々とはほとんど接点がない。唯一身近にいるのが、師であり家族同然の隆一だ。そのため、いきなり大勢の大物たちと交流しなければならないことに、彼女はさすがに緊張している。その様子を察した知之が、からかうように言った。「准教授になるって人が緊張するのか?実績なら十分すぎるほどだろ」「……それとこれとは別でしょ」澪はじろりと知之を見た。「知之だって、教頭先生の前じゃ緊張するくせに」あの大先輩たちの前では、自分なんてヒヨッコも同然だ。実力はあっても、経験やメンタルの強さはまるで違う。知之は澪の性格をよく分かっている。そこで彼女の腕を引き、そのまま会場へ入っていった。「せっかく来たんだから、顔くらい出しておけよ。これから先、彼らとは頻繁に会うことになるんだから、オドオドすんな。先輩だからって、みんなが若手をかわいがるわけじゃない。こっちが堂々としていないと、なめられるぞ。若い人間に追い越されるのが気に食わない人もいる。柴崎先生みたいな人ばかりじゃないからな」引き立てるという行為は、この業界では大抵、利益の交換でしかない。澪が本物の実力を持っているからこそ、今ここに立てているのだ。ほかの者なら、後ろ盾やコネに頼るしかないだろう。 知之は賢一の息子ということもあり、会場には彼に一目置く者が少なくない。声をかけられるたび、知之は澪を積極的に紹介しようとした。「こちらはアカリ製薬の研究責任者で――」「森宮社長?」紹介が終わらないうちに、そばにいる誰かが驚いた声を上げた。知之とは親しげに挨拶を交わすものの、見慣れない澪にはろくに目も向けなかった。そんな人々が、こちらへ歩いてくる征司にはすぐに気づいた。そんな態度にも、澪は別に驚かなかった。この場にいるのは、誰もが自分の実績に強い自負を持つ人間ばかりだ。名も知られていない若手に、わざわざ関心を向ける者などいない。澪
더 보기

第274話

澪には、蓮が突然やってきて嫌味を言った理由が分からなかった。「誰のこと?誰が人の恋人を奪ったって言うの?」あまりに率直に問い返され、蓮は言葉に詰まった。澪が恥じるどころか、平気で話に乗ってくるとは思わなかった。蓮は眉をひそめ、紗耶のほうをさりげなく一瞥した。こんな場でわざわざそんなことを口にするとは、澪は本当にわきまえがない。だが、澪に分からないはずがない。後ろ暗いことをしたのは自分ではない。正面から問い返されて、答えられる者などいるはずもない。人の男を奪ったと言うなら、紗耶こそが誰よりも堂々とやっているではないか。紗耶は不快そうに顔を曇らせた。澪は遠回しに自分を当てこすっているつもりなのだろう。言いたいことがあるなら正面から言えばいいのに、小賢しい真似をするなんて、実にみっともない。紗耶はそのまま澪を無視し、蓮に声をかけた。「こちらは田中社長。私が開発している受診案内ロボットに、とても興味を持ってくださっているの。蓮さんも少しお話ししてみない?」この点において、彼女はかなりの自信を持っている。蓮はアカリ製薬への出資を取りやめ、自分のプロジェクトに投資している。佐伯家は名の通った家柄だ。彼が出資したと知れば、それに続こうとする者も自然と増える。蓮が出資しているという事実そのものが、何よりの宣伝になるのだ。先ほど澪に当てこすられたことなど、紗耶はわざわざ相手にする気もない。なにしろ蓮も彰人も自分の味方なのだから、澪が何をしようと気にする必要はない。自分はプロジェクトのことで忙しいのに、澪はいまだに男を巡って自分と張り合うことに夢中で、本業はそっちのけだ。そもそも二人の間に共通の話題などあるわけがない。 蓮はそこで田中社長に挨拶をした。征司は澪を無関心そうに一瞥すると、電話に出るためその場を離れた。初めから終わりまで、澪に声をかけることはなかった。二人が七年間も夫婦だったとは、誰にも想像できないほどよそよそしい態度だ。幼い頃から澪を知っている知之には、彼女がこんな扱いを受けることがどうしても我慢ならない。「もし離婚届受理証明書が取り上げられたままじゃなくて、玲衣のことも片がついていたら、今ここで紗耶が愛人だとばらしてやるのに。そうなれば、紗耶だって今みたいに笑っては
더 보기

第275話

紗耶は最初、面食らったように少し動きを止めた。しかし、彼女が日頃から医療系の番組や特別インタビューに度々出演していることを思えば、すぐに納得がいった。 こうした医学界の大物たちが、関連する番組に目を通していることは十分にあり得る。当然、賢一も自分のことを知っているはずだ。もしかすると、高く評価してくれているのかもしれない。そう思うと、紗耶の胸は高鳴った。賢一のもとで学ぶという目標にも、また一歩近づけた気がした。「私のことをご存じだったとは、光栄です。医療に携わる者なら、誰もが先生のような方からご指導いただきたいと思うものです」すると賢一は、なぜか笑みを浮かべた。「律樹は、君の弟ですね。先月、俺のオフィスで大暴れして、大事なものをいくつも壊してたんですよな」完璧な笑顔を浮かべていた紗耶の表情が一瞬で凍りついた。 彼女は思わず硬直した。その一件なら、彼女はすっかり忘れていた。その後、特に問題になることもなく、紗耶自身が何かを失ったわけでもない。そのため、いつの間にか頭の片隅からも消えていた。それを今になって持ち出され、紗耶の心臓は大きく跳ねた。征司は動じることなく、賢一に目を向けた。「律樹は家族に甘やかされて育ったので、お恥ずかしい限りです。ところで、先日瑞穂メディカルから病院に納めた医療機器ですが、使い勝手はいかがですか?」その言葉で、澪も当時のことを思い出した。以前、紗耶とK大の大学院生が「手違い」で律樹に誤った薬を投与し、危うくアカリ製薬がその責任を負わされるところだった。その件を収めるため、征司はS総合病院に最先端の医療機器を一式寄贈した。その総額は二十億円を超えている。S総合病院の幹部はそれと引き換えに、紗耶の不始末が病院の信用問題にまで発展しかねなかった一件を不問にした。当然ながら賢一の記憶にもその一件は鮮明に残っている。それでも、品のある穏やかな笑みは崩さない。「森宮社長が率いる瑞穂メディカルといえば、医療機器業界でも有数の企業ですからね。海外の病院にも数多く導入されていますし、今回入れ替えていただいた機器も、患者さんから好評ですよ」そう言って紗耶に目を向けると、眼鏡を軽く押し上げた。「森宮社長のお話で思い出しましたが、白石さんがあのとき起こした問題も、決
더 보기

第276話

賢一は紗耶を拒むような態度をまったく見せなかった。それが紗耶にはうれしくてたまらない。律樹の件もあり、賢一から何か言われるのではないかと思っていたのだ。まさか、賢一がこれほど話しやすい相手だとは思わなかった。やはり彼は私情を挟まず、能力を正当に評価できる人物なのだろう。「榊院長、がっかりさせないようしっかり努力いたしますわ」紗耶は自信に満ちた、心からの笑顔を見せた。誰が見ても、彼女の明るく気さくな人柄に好感を抱くだろう。賢一はもう一度眼鏡を押し上げ、何も答えなかった。なにせ、博士課程への出願などというものは、本来は条件を満たしていれば個人の自由である。賢一もわざわざ「お断りだ」などと言うはずもない。 立ち去る間際、賢一はさりげなく征司を一瞥した。征司は前に出ようとせず、紗耶を引き立てることに徹している。これほどまでに抜きん出て優れた才能と圧倒的な実力を持つ若い世代が、よりによって筋の通らない盲目的な男であるとは!澪はこれほど美しく、誰にも負けないほど優秀だというのに。目の前に極上のご馳走があるのに見向きもせず、わざわざ鍋底の焦げかすを宝物のように大事にしている。それが賢一にはまったく理解できない。賢一が去り際に向けたその複雑な視線を、征司はもちろんしっかりと捉えた。蓮が不思議そうに尋ねた。「榊先生、何かお前に不満でもあるのか?今、睨まれたような気がしたけど?」蓮自身も、見間違いではないかと思っていた。賢一は温厚な人柄で知られている。その揺るぎない地位にありながら決して威張ることもなく、誰に対しても険しい顔など見せたことがないのだから。 「そう?」征司はわずかに眉を上げただけで、特に気に留めていない様子だ。蓮も、やはりあり得ないと思い直した。「まあ、俺の見間違いだろうな」征司のような男を嫌う年長者などほとんどいない。むしろ、年頃の娘を持つ親なら、誰もが征司との縁談を望むほどだ。世間で「東の森宮、西の穂積」と並び称される征司と宇一は、家柄が釣り合う家にとって、申し分のない婿候補だ。「榊院長って、いい方ね。前のことも根に持っていないみたい」上機嫌な紗耶は思わず賢一をかばった。賢一にはやはり人を見る目がある。自分の才能を見抜いてくれた。それに比べ、隆一
더 보기

第277話

彰人を見ると、澪は反射的にその場を離れようとした。彰人は慌てて追いかけ、不満そうに声をかけた。「澪、俺が見えなかったのか?」ここまで露骨に避けられると、彰人も面白くない。「見えてたけど」澪は仕方なく足を止めた。「それなら、なんで逃げるんだ?」「疫病神がいたら、普通は避けるでしょう」「……」彰人も自分で口が悪いほうだと思っていたが、澪も負けず劣らずだ。どう接すればいいのか、彰人にも分からなくなってきた。「今日来てる人の中には、スマート医療に関わっている人も多い。アカリ製薬がどうしてもあの見込みの薄いプロジェクトを続けるつもりなら、できるだけ多くの人と話をして、意見を聞いておいたほうがいい」彰人としては、親切心から言ったつもりだった。ところが澪は、思わず笑った。「どうして最初から見込みが薄いって決めつけるの?親切のつもり?それとも、ただけなしてるだけ?」彰人は言葉に詰まった。また言い方を間違えたのだろうか。澪はこれ以上言い争う気もなく、背を向けて立ち去った。彰人は眉間を指で押さえ、何とも言えないもどかしさを覚えた。紗耶がやってきたとき、彰人はまだ澪の後ろ姿を見つめている。先ほど彼は自分を無視してまで澪を追いかけたのだ。そのことが紗耶の心に得体の知れない不安を抱かせた。「彰人さん?澪さんと何を話してたの?」彰人はようやく我に返り、紗耶に目を向けた。「別に何も」それ以上、彼は詳しく話すつもりはないらしい。紗耶は寂しげに目を伏せた。「この前、瑞穂メディカルで、話したいことがあるって言ってたけど、覚えてる?」彰人も思い出した。「結局、何でもないって言ってたじゃない?」あのとき、紗耶は最後まで何も話さなかった。彰人もあえて聞き出そうとはしなかった。紗耶は澪のいる方向をちらりと見た。「本当は、話すべきかずっと迷ってたの。彰人さんを傷つけたくないし。でも、澪さんにいいように騙されてほしくなかった」「どういうこと?」彰人の眉間に、ゆっくりとしわが寄った。紗耶は小さくため息をつき、困ったように口を開いた。「妹さんから穂積社長を奪おうとしているのは……澪さんかもしれない」彰人の気の抜けたような表情が、一瞬で鋭くなった。「何だって?」紗耶は言いにくそうに口ごもった。「数
더 보기

第278話

彰人自身も、今の頼みがあまりに無茶だとは分かっているのだろう。彼は煩わしそうに眉間を揉むと、怒りを通り越して笑った。「澪は本当に、次から次へと厄介な問題を持ち込んでくれるな。宇一をたぶらかしたのがどこの女かと思っていたら、まさかこんな身近にいるとは――」だが、すぐにその言葉は不適切だったと彼は思い直したらしい。何しろ、征司はどうであれ澪と長年連れ添った夫なのだから。彰人は征司の顔を見た。先ほどから無茶な頼みばかりしているのに、征司は腹を立てる様子もなければ、少しも動揺していない。澪が宇一をたぶらかしたと聞いても、あまりに冷静だ。征司は何も言わず、別の方向へ目を向けた。彰人も思わず彼の視線を追った。大勢の人が行き交う会場の中をしばらく探して、ようやく澪の姿が目に入った。征司が見ているのは澪だ。彰人は思わず感心したように言った。「よくあの人混みの中から見つけられたな」「別に、難しい話じゃないだろ」征司は淡々と答え、彰人の言葉には取り合わなかった。彰人は征司を見て言った。「じゃあ、離婚を引き延ばしてくれるか?俺のために、当分離婚しないでくれないか?」彼が立て続けに尋ねても、征司は答えなかった。代わりに、ゆっくりと口を開いた。「宇一は、結婚しないまま娘がいることを、これまでずっと隠し通してきた。それが最近になって急に表に出たのなら、理由はいくつか考えられる。その一つは、宇一が意図的に娘の存在を明かしたということだ。最初から、藤堂家と縁組するつもりなどなかったんだろう。娘の存在を表に出し、そちらから婚約を取り下げさせるつもりだ」彰人の眉が、ぴくりと動いた。認めたくはないが、その可能性と向き合わざるを得ない。征司の言うことは……確かに筋が通っている。さっきは妹のことだと思って冷静さを失い、そこまで考えが回らなかった。征司に言われて、ようやく気づいたのだ。宇一は、すべて承知のうえで娘の存在を明かしたのかもしれない。穂積家と藤堂家は長年の付き合いがあり、二人の婚約も、曾祖父の時に正式な書面を交わして決めたものだ。両家ともそうした体面を重んじる家であり、いくら婚約破棄するにしても、それなりの代償を払うことになる。一言で簡単に片付く問題ではないのだ。だからこそ、宇一も今まで動けな
더 보기

第279話

彰人は先ほど怒りに任せて、澪をその場で問い詰めるところだった。何しろ澪は、婚約者のいる男に手を出そうとしているのだ。征司はそれを聞いても、特に驚いた様子はなかった。彰人は目を細めた。「でも、澪は必死に後ろ盾を探してるんだな。宇一もまさか本当に相手にしてるとは。多分、澪の最初の結婚相手がお前だってことは知らないんだろう。知っていたら、さすがに手を出すとは限らないが」澪は、征司と結婚していたことを宇一に隠したまま付き合っているのだろう。穂積家にしても、一人の女のために森宮家と揉めるつもりはないだろう。彰人としては、澪がまだ征司の妻であることを今すぐ宇一に伝えたい。だが、そのとき紗耶がこちらへ向かってくるのが見えた。だが今、征司は公の場でも、紗耶と恋人同士であるかのように振る舞っている。そんな状況で、澪がまだ征司の妻だと宇一に明かすわけにもいかない。二人のもとへ来ると、紗耶は彰人の表情を探るように見つめた。先ほど話を聞いて、彰人は怒りを抑えきれない様子だった。ところが今は、すっかり落ち着いているように見える。紗耶は、彰人ほど誇りの高い人間なら、妹がこんな形で裏切られるのを黙って許すはずがないと思っている。少なくとも、大勢の前で澪に恥をかかせるか、会場から追い出すくらいはするだろうと考えていた。しかし、何事もなかったかのように静かだ。「二人で何を話してたの?」紗耶は胸の内を隠し、何気ない様子で尋ねた。征司は紗耶に目を落とした。「向こうに、病院向けの案内システムを手がけている会社の人がいる。挨拶した方がいいと思う」紗耶はそちらに目を向け、征司が気を配ってくれているのだと理解した。ー海外からの専門家を瑞穂メディカルに引き抜かれたことは、澪にとって確かに残念なことだったが、それでも、ほかに道がないわけではない。K医大の准教授に特例採用される話も進んでいるため、自ずと人脈も広がりつつあるのだ。澪が優秀な人材を探していると知って、賢一はその日の夕食の席で、すぐに何人か紹介してあげた。いずれも和漢医学研究センターの地方拠点に所属し、過去数年の採用試験でそれぞれ首席となった優秀な研究者だ。「おまえはもうすぐ、K医大の准教授になる。その立場になれば、ほかの研究者にも協力を頼みやすくなる。この人た
더 보기

第280話

征司もその話を聞いていたが、特に驚いた様子はなく、軽く顎を上げて落ち着いた口調で言った。「まだ時間はある。焦る必要はない」その言葉を聞いて、紗耶は彼に何か策があるのだとすぐに察した。彼のその一言だけで、紗耶はずいぶん安心した。征司は自分を支え、進むべき道を示してくれる存在だ。彼さえいてくれれば、どんなことでも必ず思いどおりになる。今は少し焦りを感じていたものの、それでも胸の高鳴りを抑えきれず、口元には甘い笑みが浮かんだ。そんな紗耶の表情を見て、蓮は小さく笑った。それでも、どうにも腑に落ちない様子で言った。「和漢医学研究センターがどれほど厳しいところかは俺たちもよく知ってる。榊院長も年のせいで、何が大事か分からなくなったのか?」自分の息子のために、これほど堂々と便宜を図るなんて、これまで築いてきた評判に傷がつくとは思わないのか。征司はわずかに目を細めた。「アカリ製薬の切り札は、まだ公開されていないはずだ」研究員を派遣してもらえるのも、賢一が便宜を図ったからとは限らない。そこで蓮は眉をひそめ、さらに続けた。「もう一つ、聞き込んだ話がある。澪がアカリ製薬の脳神経外科手術支援ロボットに直接参加しているらしい。社内でも、かなり特別扱いされてるそうだ」紗耶の顔が一瞬にして曇った。だが、すぐに気を取り直した。「アカリ製薬のあのプロジェクトは、技術的な壁を乗り越えられず、どうせ失敗するわ。彼女が加わっていようがいまいが、結果は同じよ」和漢医学の鍼灸術を取り入れて、出血を正確に止血するなんて、実現できるとは到底思えない。しょせんは夢物語だ。どれだけ資金をつぎ込んだところで、無駄に終わる。征司は何も言わなかった。澪の話には、さほど興味がないようだ。ーここ数日、澪は息つく暇もないほど忙しかった。家にももう一週間帰っておらず、チームメンバーとともに朝から晩まで会社に詰めきりだった。その間、房江からほぼ毎日決まった時間に電話がかかってきた。遠回しに早く帰るよう促されていたが、仕事が忙しいから帰らないとはっきり告げると、彼女も不満そうにしながら諦めた。征司があの家に帰っているかどうかなど、澪には興味がない。和漢医学研究センターから研究者が加わったことで、開発は順調に進んでいる。そのぶん、
더 보기
이전
1
...
2627282930
...
32
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status