瑞穂メディカルは征司が所有する企業だ。その圧倒的な資金力の前では、アカリ製薬など歯が立たない。瑞穂メディカルは紗耶のために独立したプロジェクトチームを新設し、その全権を彼女に委ねていた。他部署にも、紗耶のチームを全面的に支援するよう指示が出ている。これでは、紗耶はすでに社長夫人も同然の扱いだ。「瑞穂メディカル側からも連絡があった。チームの件なら、今後はすべて向こうと話をしてほしいそうだ」知之の言葉に、澪はすぐに意図を察した。これは明らかな報復だ。アカリ製薬で紗耶が受けた屈辱を、一つ残らず晴らしてやるつもりなのだろう。澪は冷笑した。「征司はアカリ製薬に二百億円も出資しているのに、プロジェクトが成功するかどうかも、投資した金が無駄になるかどうかも気にしてない。紗耶の恨みを晴らすことしか頭にないんでしょうね」人材の引き抜き一つにも、征司の紗耶への愛情がこれでもかと表れている。「私が交渉に行くわ。これは私への当てつけだ」澪はきっぱりと言った。仕事のこととなれば、彼女は私情を持ち込まない。知之は心配そうに言う。「向こうは、君を困らせるつもりだろ」「大丈夫。向こうの出方を見に行くだけ。話ができるならするし、無理なら無理で構わない。うちだって、あの二人にこだわる必要はない」そう言うと、澪はすぐにバッグを手に取り、都心のオフィス街へ向かった。今回、澪がチームに迎えようとしていたのは、半導体チップ開発において名の知れた二人の専門家だ。瑞穂メディカルも半導体技術に強い。手術支援ロボットの開発にもチップは欠かせない。いずれにしても、一度は向こうと話をしなければならない。瑞穂メディカルに着いて、澪は、和田専務との面会を申し込み、上の階へ案内された。和田は征司の部下で、瑞穂メディカルの経営を担う幹部の一人だ。今回の件を話すには、最も適した相手だ。ところがエレベーターを降りると、大勢の社員がこちらに向かってきた。紗耶はその中心にいて、まるで星々に取り囲まれる月のようにチヤホヤされている。優雅な笑みを浮かべ、常に顎を少し上げたその態度は、一見すると親しみやすいようでいて、その実、傲慢さに満ちている。和田もそこにいる。澪に気づくと、すぐに笑顔で声をかけてきた。「朝比奈さん、お待ちしておりました」澪は
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