森宮社長、奥様は娘を連れて離婚します의 모든 챕터: 챕터 291 - 챕터 300

317 챕터

第291話

紗耶は澪をちらりと見た。自分に負けた女など気にするまでもない。二人が出ていくと、澪はすぐに用件を切り出した。「お金はいつ振り込まれるの?離婚届受理証明書はいつ返してくれる?」彼女は一切の無駄口を叩かなかった。それを聞いて、征司は目を細めて澪を見た。これだけ怪我をしていても、彼女の目には入らないらしい。金の催促ばかりで、まるで押しかけてきた借金取りのようだ。征司はスマホの画面を消し、指先でその表面をひと撫でしてから、冷ややかに口を開いた。「俺の条件を呑めば、明日には振り込まれる」澪は理解できなかった。最初は話がまとまっていたはずなのに、支払いの段階になって、また条件をつけるというのか。「フェイのWAKANナビのデータベースを、瑞穂メディカルのプロジェクトでも使えるようにして、瑞穂メディカルのチームと提携してもらう」澪は唇を引き結び、平然としている征司を見つめた。腹立たしさのあまり、笑いがこぼれた。結局のところ、やはり紗耶のあのプロジェクトのためなのだ。紗耶のプロジェクトにデータベースを使わせたいがために、アカリ製薬への支払いまで止めるとは。これでは話し合いも何もない。金を盾に、無理やり条件をのませようとしているだけだ。今はプロジェクトが本格的に動いている。いかなるミスも許されず、中断もできない。時間は待ってくれないのだ。征司は澪のあらゆる反応を静かに観察しながら言った。「受け入れるなら、明日契約を交わしに行く。金もその場で振り込む」澪ははっきりと分かった。征司は最初から、アカリ製薬にほかの選択肢を与えるつもりがない。反論するのも、断るのも無駄だろう。愛する女のために、知恵を絞り、あらゆる手を尽くして成功させようとしている。そんな男を、誰が止められるというのか。征司がここまで紗耶のために手を尽くすのは、森宮家に二人の結婚を認めさせるためでもあるのだろう。紗耶が実績を上げて有名になれば、森宮家も彼女を認め、結婚のことを反対しなくなるはずだ。よく考えたものだ。これ以上何を言っても無駄だと思って、澪は答えた。「アカリ製薬で検討するわ」彼女はその場で承諾はしなかった。自分には決定権がないと皆が思っているのだから。澪は身を翻して立ち去ろうとした。征司は彼女の
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第292話

その様子を見て、蓮は慌てて声をかけた。「まだ怪我が治ってないんだから、そっとしておいてあげなよ」蓮は今日になって征司が入院しているのを知って、駆けつけたばかりだった。医師からは、かなり危険な状態だったらしい。紗耶が勢いよく抱きつきそうになったので、思わず注意したのだ。そう言われて、紗耶は仕方なく動きを止めるしかなかった。少しがっかりしたが、少なくともずっと気にかかっていた問題は解決したのだ。征司がうまくいくと言ったのなら、絶対に間違いはない。蓮は感心したように言った。「さすが征司だね。どんな話でもまとめてしまうんだから。アカリ製薬はこれまで、WAKANナビのデータベースを他社に使わせたことがないんだよ。著作権はずっとアカリ製薬が握っているんだ」それを聞いて、紗耶はますます顔をほころばせた。フェイのデータベースを初めて他社に使わせた製品となれば、それだけで話題になる。自分の製品への注目もさらに高まるはずだ。あの膨大なデータベースを使って成果を出せば、自分も世間から一目置かれる存在になれるはずだ。そうなれば……森宮家の人間も自分を受け入れざるを得ないだろう。少なくとも、征司との結婚は今よりずっと認められやすくなるはずだ。フェイのデータベースは想像を絶するほど膨大で奥深い。紗耶は以前から本人に会いたいと思っていたが、知之は紹介してくれなかった。まずはWAKANナビのデータベースを手に入れ、その中身を知るところから始めるのも悪くない。ー澪はアカリ製薬に戻ると、知之にこの件を話した。「これ以上やり合っても時間の無駄だと思う。紗耶に使わせるといっても、ただで提供するわけじゃないし、使用料はきちんと払ってもらう。主導権もこちらにあるんだから」実際、そのとおりだ。これまで利用を認めずにいたのは、紗耶への恨みもあるからだ。しかし、事業を成し遂げるためには、そんなことに縛られていてはいけない。相手はあくまで提携先で、お金を払ってデータベースを使うだけだ。著作権は、いつまでも自分のもとにある。知之にも異論はなかった。「開発者の君がいいと言うなら、俺はもちろん構わないよ」澪も、この件でこれ以上思い悩むのはやめた。何よりもまず、征司からの支払いを確保することが最優先だ。翌日。澪が会社に着く
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第293話

澪が同席している手前、紗耶はたとえ値引き交渉をしたくても、そうもいかなかった。これ以上、澪をいい気にさせるわけにはいかないと思って、紗耶は冷ややかに笑ってから、知之に向き直った。「では、そういうことで。榊社長、これからよろしくお願いします。発売が近づいたら、ぜひフェイにお会いできるよう、ご紹介お願いしますね」知之は口元に拳を当てて軽く咳払いをし、澪をちらりと見た。「ああ、もちろんです」紗耶は契約書にサインした。澪はその署名を一瞥したが、何の反応も示さなかった。紗耶は契約書を手に立ち上がると、座っている澪を見下ろした。「いくら邪魔しようとしても、アカリ製薬はあなたの思い通りにはならないのよ。利益になる提携はあなたには止められない。澪さん、そんな無駄なことに力を注ぐより、自分磨きでもしたら?」そもそも、澪が裏で手を回していなければ、この提携はとっくに実現していたはずだ。あれこれ画策したところで何が決められるというのか。フェイも、アカリ製薬も、澪の一存でどうにかなるものではない。結局、自分が成功するのを黙って見ているしかないのだ。一人で必死になって、笑っちゃうわ。紗耶はそれだけ言い残すと、笑みを浮かべて出ていった。知之は澪に親指を立ててみせた。「やるね。うまいところで挑発して、よくあんな厳しい条件をのませたね。紗耶も、君の前では格好をつけずにいられないからね。これで失敗しても、逃げ道はないんだ」これまでの二人のいきさつを考えれば、紗耶が澪の前で面目を失ったり、みっともない姿を見せたりするのを嫌がるのは分かりきっている。そして、契約を結んだ以上、紗耶はいかなるミスも許されない。失敗すればプロジェクトが潰れるだけでなく、支払った多額の使用料も一円も返ってこない。澪も、なかなか容赦がない。先ほど口を挟んだのも、紗耶が引けなくなると承知のうえだったに違いない。澪は肩をすくめた。「無理に契約させたわけじゃないよ。私のデータベースを使えばどれだけの利益をもたらすか、彼女自身が一番よく分かってる。名声と利益を求めて飛びついてきたから、こっちが安くしてあげる必要なんてないわ。それに資金の一部は征司が出している。あれほどの資金源があるんだから、こちらも利益をしっかり計算しておかなければ、自分が損をするだけだ」
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第294話

宇一も招かれているとは、澪は思ってもみなかった。彼女は言葉に詰まり、千鶴子に送った返事をもう一度見下ろした。いっそ送信を取り消して、なかったことにしたい衝動にさえ駆られた。だが、行くと答えた以上、今さら断るのも失礼だろう。千鶴子ほどの人が直々に誘ってくれたのだ。それだけでも、十分すぎるほどの厚意だ。「宇一さんは行くって返事したの?」「もちろん。このタイミングで断ったら、藤堂家とは縁を切るつもりだって思われるでしょ。こういう家同士の付き合いって、何をするにもよく考えないといけないの。表向きだけでも、礼は尽くしておかないと」澪はまた黙り込んだ。彼女がためらっているのは、この前宇一の「プロポーズ」が気になっているからだ。この件がもう忘れ去られたのかどうか、彼女には確信が持てない。もちろん、宇一とは何もないし、二人でその後のことを具体的に話し合ったわけでもない。それでも、妙な噂が千鶴子の家族の耳に入れば、面倒なことになる。誰もが気まずい思いをするだろう。澪は結局、あの日のことを伊織に話した。宇一はあくまで、その場を収めるために助けてくれただけだと念を押した。伊織はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。「兄さんって、そんなに優しかったっけ?」そんなの聞いたことがない。その場を収めるため?だからといって、プロポーズまでするだろうか。澪は少したどたどしく答えた。「う、うん。本当に冗談だったの。あれから二人とも、その話には一度も触れてないし。本気にするようなことじゃないから」伊織はにんまりした。「いっそ、本気で考えてみたら?兄さんだって、もともと藤堂家のお嬢さんと結婚するつもりはないのよ。それなのに、何年も婚約だけが宙ぶらりんになってるんだから。それに、あなたたちにはかわいい玲衣ちゃんがいるでしょ。こんなに強い絆まであるんだから、もう運命としか思えないでしょ?」面白がって話を大きくしようとする伊織に、澪は取り合わなかった。「そういうことじゃないでしょ」伊織は不満そうにぼやいた。「もう、一度ひどい男に引っかかったからって、いい男までみんな遠ざけなくてもいいじゃない。パーティーのことなら、そんなに心配しなくていいよ。娘さんが行方不明なのは、本当に気の毒だけど、だからって婚約を理由に兄さんを縛りつけるのも無理が
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第295話

征司から、約束どおりの日時に全額が振り込まれていた。澪は鼻で笑った。紗耶の望みが叶い、抱えていた問題が片づいた途端、ずいぶん早く振り込んでくれたもんだ。紗耶のためなら何でもするという姿勢を隠そうとしない。ともあれ、入金されたのなら、もうあれこれ気を揉む必要はない。征司の見舞いにもそれきり行かなかった。彼のそばには心配してくれる人が大勢いる。自分の居場所はないし、わざわざその輪に入るつもりもない。そして、パーティーの日がやってきた。澪は車で藤堂家の別邸へ向かった。藤堂家は資産がすさまじい規模を誇っている。広大な敷地の中に佇む別邸は、それだけで途方もない広さがある。澪が着いたときには、すでに多くの客が出入りしている。伊織が先に来ていて、入口で待っている。澪を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。「兄さんはまだ会議中で、少し遅れるって。先に入ろう」澪はうなずいた。今日のパーティーには、大勢の客が顔をそろえている。もともと藤堂家の影響力は絶大だが、何より千鶴子が音頭を取っているだけあって、彼女と知り合いになりたい人は多い。誰もが彼女の持つ膨大なリソースを狙っている。澪も中へ入っていくうちに、見覚えのあるエリートたちを何人も見かけた。「雅彦さんは見当たらないね……」澪は振り返った。「雅彦さんって?」伊織は声を落とした。「千鶴子さんの息子、藤堂雅彦(とうどう まさひこ)。彰人のお父さんよ。藤堂家もいろいろあるの。彰人のお母さんは、子どもの頃から藤堂家で育った。将来は息子の嫁に、っていうつもりもあったみたい。雅彦さんとは、お似合いの夫婦だって評判だったんだけど、まさかあんなにこじれるなんてね。娘さんを産んですぐ、その子を連れて家を出て、それっきり行方が分からなくなったの」「二人の間に、何があったの?」伊織は少し考えた。「若い頃は仲がよかったのに、結婚して四年も経たないうちにうまくいかなくなったんだって。かなりの騒ぎになったらしいよ。千鶴子さんなんて、怒って実の息子を海外へ追い出したくらいだから。ここ一、二年になってようやく帰国を許されたけど、危うく勘当されるところだったみたい」澪は驚いた。実の息子と縁を切ろうとするほど、千鶴子はその嫁さんを大切にしていたのだろう。具体的な事情については、彼女
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第296話

千鶴子は相手の都合などお構いなしにものを言う人だ。まして、紗耶はどうやら征司の不倫相手らしいから、なおさら愛想よく接する気にはなれなかった。千鶴子の姿を見て愛想よく微笑んでいる紗耶も、その言葉に笑顔をこわばらせた。彼女には、千鶴子がなぜ自分に対してこれほど冷たいのか理解できない。征司とはまだ結婚していないとしても、それは自分たちの問題だ。自身の行動や能力に何の非もないし、千鶴子の機嫌を損ねた覚えもない。なのに、どうしてわざわざ面目を潰されなければならないのか。幸い、周囲に人はそれほどいない。征司は紗耶よりずっと落ち着いている。彼はさりげなく澪を一瞥し、口を挟む気がないのを確かめてから、淡々と答えた。「妻は忙しくて」その一言で、妙な沈黙が落ちた。澪は呆れて笑いそうになった。今度は妻がいること自体は否定しないが、その妻がすぐ隣に立っていることは認めるつもりはないらしい。紗耶も最初、征司があっさり妻の存在を認めたことに驚き、不満を覚えた。だが、すぐにその理由が分かった。千鶴子は征司が既婚者だと知っているから、堂々と否定はできなかったのだ。妻がいると認めただけで、それが澪だとは言っていない。紗耶は澪をちらりと見た。その目には、隠す気もない嘲りが浮かんでいる。結局のところ、澪の方がよほど哀れではないか。すぐ隣に立っていても、妻だと紹介してもらうことさえできない。自分こそが征司に連れ添われている女なのだと、黙って見ているしかないのだから。千鶴子も、他人の家庭事情に首を突っ込むつもりはない。ただ、妻がいながら別の女を連れ歩くのは気に入らないだけだ。彼女は紗耶にそれ以上目もくれず、再び澪に顔を向けた。「澪さん、今日は研究開発に携わってる方も大勢来てるの。時間があったら、一緒にお話ししない?」澪は驚いた。「はい、ぜひお願いします」紗耶は眉をひそめた。驚くと同時に、ますます訳が分からなくなった。千鶴子は、澪に業界の人たちを紹介するつもりなのか。こんな身分の高い人が、どうして澪のような取るに足りない相手のためにそこまでするのだろう。征司も澪に目を向けた。そのまなざしからは、何を思ったのか読み取れない。千鶴子は主催者として、いつまでもここで話しているわけにはいかない。澪にひと言念を押
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第297話

宇一と澪の一件を、彰人は忘れていない。彼はそのまま澪の進路を遮った。「うちには結構広いアーチェリー場があるんだ。アカリ製薬の仕事につながりそうな方も大勢来てるから、一緒にどう?」澪は少し考えた。今日の客は医療関係者ばかりだ。これほどの人たちと知り合える機会は、そうそうない。「いいよ」澪が応じると、彰人は征司たちに顔を向けた。「みんなで行こう」そして、紗耶にも声をかけた。「今のうちにいろんな人と知り合っておけば、プロジェクトを進めるうえでも役に立つだろう」彰人が自分のことを考えてくれているのが分かり、紗耶は嬉しくなった。千鶴子に人を紹介してもらえなくても、彰人とは親しい。彼が力になってくれるのだ。澪は彼らのことなど気にしなかった。ビジネスの世界は、それぞれの実力次第だ。だが、伊織は不満そうに口をとがらせた。「大丈夫。兄さんが来たら、いろんな人を紹介してもらおう。アカリ製薬には向こうからいくらでも仕事の話が来るよ」やがて、アーチェリー場に着いた。敷地の一角に設けられた屋外の射場は広々として、室内より開放感があり、楽しめそうだ。すでに何人もの客が話しながら弓を引いている。財界の人々がこうして付き合うのは、澪にとって珍しい光景ではない。どこと手を組むか、互いに何を提供できるか。そうした話は、必ずしも堅苦しい商談の席で決まるわけではない。こうして遊びを楽しみながら、話がまとまることもある。ただ、そこに着いてすぐ、思いがけない人の姿が目に入った。少し離れた場所で聡祐が誰かとグラスを合わせ、楽しそうに話しているのだ。ふと顔を向け、聡祐は澪を見て驚いた。そして、ためらわずにこちらへ歩いてきて、熱っぽい目で澪の姿を上から下まで眺めながら尋ねた。「何度もメッセージ送ってるのに、どうして返事くれないんだ?」人前だからといって遠慮するつもりはないらしい。男として、その程度のことにこだわる必要もない。聡祐の言葉はあとから来た征司の耳にも届いた。征司は、ゆっくりとこちらを一瞥した。蓮に至っては、この状況が全く理解できない。 澪に言い寄るのは思っていた以上に条件のいい男ばかりだ。しかも、どの男もずいぶん熱心だ。いったい、澪のどこに惹かれているのだろう。澪は聡祐と藤堂家
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第298話

澪にあっさり突き放されたが、聡祐は腹を立てる様子はない。何度もそっけなくされるうちに、すっかり慣れてしまったらしい。人前で冷たくあしらわれたことも気にしていないようで、そのまま澪の隣に立ち、ズボンのポケットに手を入れた。「分かったよ。返したくなったら返してくれればいい」伊織は、少し警戒するように聡祐を見ている。何せ澪は自分の兄がプロポーズした相手だ。ここにいる男たちは誰一人として信用に足るとは思えず、自分の兄だけが唯一頼りになる存在だと彼女は信じている。征司に至っては――伊織は思わず、そちらを振り返った。征司は少し身をかがめ、紗耶の耳打ちを聞いていて、澪のほうなど見てもいない。ほかの男に取られるかもしれないと、少しも思っていないようだ。伊織はかっとなった。部外者の彼女でさえ、こんなに腹が立つのに。澪は表情一つ変えなかった。華やかな社交の場に一緒にいても、征司とはまるで他人同士のようだ。彰人が近づいてきて、何気なく澪をちらりと見てから、皆に声をかけた。「せっかくそろってるんだし、何回か勝負しない?」紗耶はすっかり興味を惹かれた様子だ。「ルールは?」聡祐も笑いながら口を挟んだ。「みんな腕前が違うんだから、苦手な人にも勝ち目があるようにしないとな」彰人がアーチェリーで勝負するつもりなのは、聡祐にも分かっている。彰人は片眉を上げ、弓を一本手に取って具合を確かめた。「だから、二人一組にして、くじで組み合わせを決めるんだ。それなら不公平だとは言えないだろう?今日は田中社長や谷口社長、それに都庁の方も来てる。優勝すれば、仕事の話を持ちかけるいいきっかけにもなるだろう。そこはみんな、腕の見せどころだ。負けたチームは罰として酒を三杯。どうだ?」澪は辺りを見回した。千鶴子の顔を立ててか、今日は有力者が何人も来ている。その中には都庁の幹部もいる。何とか知り合いになりたいと思っている人も多いはずだ。この業界において、こうした遊びを通じてリソースを分配するのは珍しいことではない。澪も異議を唱えなかった。それを聞いた蓮が、面白がって口を出した。「二人一組なら、紗耶と征司は一緒でいいんじゃないか?二人を引き離すのも悪いだろう。ほかの人がくじを引けばいい。みんな、そのくらいは気を利かせようよ。恋人同士を
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第299話

やがて全員がくじを引き終え、組み合わせが発表された。澪は自分ボールには「1」が書かれているのを見て、さらに征司の手のひらにあるボールにも同じ「1」があるのを目にし、黙り込んだ。その場の空気がたちまち気まずくなった。紗耶の顔からは笑みが消え、信じられないという表情になった。蓮も聡祐も顔色を変えた。蓮はすぐ澪に言った。「じゃあ、紗耶と代わってくれ。紗耶が征司と組んで、澪は陸原さんと組めばいいだろ」征司と組むことに気が進まないが、それでも彼の命令のような口調には鼻で笑った。どうして、そんな指図を受けなければならないのか。伊織はさらに腹を立てた。「だったら、何のためのくじ引きよ。最初から不倫カップルを指名して組ませればいいじゃない」人前で澪に譲れと迫るなんてふざけないでよ。いったいどちらが征司の本当の妻だと思っているのだろう。蓮のひと言で、伊織はすっかり頭に血が上っていて、何があっても澪を守るつもりらしい。紗耶も面白くないが、ここで強引に組み替えを求めるわけにはいかない。彼女は顎を上げ、征司に声をかけた。「征司、じゃあ勝負ね。手加減しないでよ?」彼女は組み合わせなど気にしていないという顔で、皆の前でいちゃついてみせた。征司は目を上げ、ゆったりと答えた。「いいよ」二人が別々の組になり、周囲が残念がったのも束の間、その後のやり取りはまるでイチャイチャしているようにしか見えない。澪は冷ややかな目でそれを見ると、背を向けて弓矢が置かれている台に向かった。聡祐は深く眉をひそめた。まさかこんな組み合わせになるとは思わなかった。澪が征司のことを好きだと聡祐も知っている。二人を組ませてしまえば、澪がまた征司を好きになってしまうのではないかと、不安になった。彼は思わず彰人に目を向けた。彰人も晴れない顔をしている。先ほどの手違いで、箱の中に仕込んでおいた順番が狂ってしまった。あれさえなければ、こんなことにはならなかったのに。皆が決まった位置につき、百メートル先には、動く的が設置されている。澪は、アーチェリーにあまり慣れていない。伊織と一緒にクラブで何度か遊んだことがあるだけで、腕前はせいぜい初心者程度だ。負ければ、酒を飲まなければならない。澪は酒に弱い。だが、勝てば、アカリ製薬のために有力者の協
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第300話

紗耶は冷たい声で澪をとがめた。その口ぶりには、征司は自分のものなのだという主張もさりげなく込められている。まるで澪が、人の恋人にすり寄って誘惑しようとしている女のように。紗耶の声を聞いて、何人かが離れた場所からこちらを見た。澪は征司を見ず、その胸に手を当てて押し返し、距離を取った。紗耶が澪を悪者にしようとしていると気づき、伊織はすぐに前へ出て、冷ややかな笑みを浮かべて言った。「白石さんはどういう立場でそんなことを言ってるのですか。みんなにも分かるように説明してくれませんか?」不倫相手のくせに、何様のつもりで澪に指図しているのか。どう答えるか、見ものだと伊織は思う。蓮がこちらを見て言った。「気をつければいいだけだろ。そんなに大げさにすることはないじゃないか」澪は思わず笑いそうになった。また自分たちが大げさに騒いでいることにされたのか? そもそも、先に突っかかってきたのは紗耶のほうだ。伊織が不倫のことを持ち出そうとしているのは、紗耶にも分かっている。だから彼女はそれには取り合わず、蓮に向き直った。「私はただ、誤解されるようなことはしないほうがいいって、ひと言伝えたかっただけよ。ちょっとした言動で変な噂が立ったら困るでしょう?女性が職場でやっていくのはただでさえ大変なんだから」伊織は呆れ返った。今度は、澪の評判を心配しているふりなのか。長年連れ添った夫婦だというのに、彼女の「親切心」など必要あるものか?すると蓮が言った。「せっかく気を遣っても、伝わらないんじゃ仕方ないな。嫉妬してるだけだと思われてるんだから」紗耶は首を振り、軽く笑った。「ただのゲームなのにね。そこまで悪く受け取られたら、私にはどうしようもないわ」こういうことにかけては、澪も紗耶の巧みさを認めざるを得ない。彼女がほんの少し言葉を交わしただけで、すっかりこちらが悪者にされてしまった。恋人のいる男に手を出したうえ、親切な忠告にも逆ギレし、そのうえ、征司をめぐって紗耶に張り合っていることにまでされてしまった。自分がそんな女だというのだから、呆れるしかない。「澪、いったんこっちに来い」聡祐も険しい顔で割って入り、それ以上の言い争いを遮った。先ほど、澪と征司がぴたりと寄り添っているところは、聡祐も見ていた。あのと
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