紗耶は澪をちらりと見た。自分に負けた女など気にするまでもない。二人が出ていくと、澪はすぐに用件を切り出した。「お金はいつ振り込まれるの?離婚届受理証明書はいつ返してくれる?」彼女は一切の無駄口を叩かなかった。それを聞いて、征司は目を細めて澪を見た。これだけ怪我をしていても、彼女の目には入らないらしい。金の催促ばかりで、まるで押しかけてきた借金取りのようだ。征司はスマホの画面を消し、指先でその表面をひと撫でしてから、冷ややかに口を開いた。「俺の条件を呑めば、明日には振り込まれる」澪は理解できなかった。最初は話がまとまっていたはずなのに、支払いの段階になって、また条件をつけるというのか。「フェイのWAKANナビのデータベースを、瑞穂メディカルのプロジェクトでも使えるようにして、瑞穂メディカルのチームと提携してもらう」澪は唇を引き結び、平然としている征司を見つめた。腹立たしさのあまり、笑いがこぼれた。結局のところ、やはり紗耶のあのプロジェクトのためなのだ。紗耶のプロジェクトにデータベースを使わせたいがために、アカリ製薬への支払いまで止めるとは。これでは話し合いも何もない。金を盾に、無理やり条件をのませようとしているだけだ。今はプロジェクトが本格的に動いている。いかなるミスも許されず、中断もできない。時間は待ってくれないのだ。征司は澪のあらゆる反応を静かに観察しながら言った。「受け入れるなら、明日契約を交わしに行く。金もその場で振り込む」澪ははっきりと分かった。征司は最初から、アカリ製薬にほかの選択肢を与えるつもりがない。反論するのも、断るのも無駄だろう。愛する女のために、知恵を絞り、あらゆる手を尽くして成功させようとしている。そんな男を、誰が止められるというのか。征司がここまで紗耶のために手を尽くすのは、森宮家に二人の結婚を認めさせるためでもあるのだろう。紗耶が実績を上げて有名になれば、森宮家も彼女を認め、結婚のことを反対しなくなるはずだ。よく考えたものだ。これ以上何を言っても無駄だと思って、澪は答えた。「アカリ製薬で検討するわ」彼女はその場で承諾はしなかった。自分には決定権がないと皆が思っているのだから。澪は身を翻して立ち去ろうとした。征司は彼女の
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