女性は警戒して、澪の手に乱暴に爪を立てた。澪の白くきめ細かな肌に、たちまち何本もの赤い爪痕が走った。それでも男性の手首をしっかりと掴んで離さなかった。澪は厳しい顔で脈を診ていて、やがて鋭い視線を女性に向けた。すると、女性は逃げるように目をそらした。「急性の脳梗塞です。まだ治療が間に合うというのに、こんなところで時間を無駄にするなんて……命がかかってるんですよ。いったい何を考えているんですか?」アカリ製薬の薬とは何の関係もない。澪の冷ややかな表情と有無を言わせぬ口調に、女性はすっかり気圧された。澪は知之を振り返って指示を出した。「鍼を持ってきて。応急処置をするから。それと、すぐに救急車を」澪は手際よく動き、手を止めることなく、いくつかのツボを刺激して応急処置を施している。ほどなくして、男性の体がピクリと動いた。澪は迷いのない手つきで次々と鍼を打っていった。その気迫に女性も騒ぐのを忘れ、やがて救急車が到着する頃には、先ほどまでの騒動はぴたりと収まった。集まっていた人々も次第に散っていく。知之が澪に除菌シートを差し出した。「手を拭いて」そして、ほっとしたように続けた。「君がいてくれて助かったよ。あのまま騒ぎが大きくなっていたら、うちも大変なことになる」澪は師のもとで、十年以上にわたって医学を学んできた。持ち前の才能もあり、いくら立派な経歴を持つ医師であっても、彼女ほど患者を治せるとは限らないほどの実力を持っている。だが、澪は眉をひそめた。「この件、何かおかしいと思わない?」会社の入り口であれだけ騒ぎ立てるとは、アカリ製薬を潰しに来たようなものだ。自分が治療できなければ、今日はただでは済まないだろう。病院でも製薬会社でも、こうした騒ぎは決して珍しくない。だが、一度起きてしまえばその悪影響は計り知れない。たった一つのトラブルが会社全体の信用を揺るがしかねないことなど、誰もが痛いほど分かっている。知之は考え込んだ。「どういうこと?」澪は首を横に振った。「まだ何とも言えない。でも、ひとまず最悪の事態を防げたのはよかったと思う」詳しい事情は、あの女性から直接話を聞かなければ分からないだろう。知之も、それは承知している。この業界では似たようなことが何度も起こる。しかし、ごく一部の人間に嫌気
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