All Chapters of 婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました: Chapter 21 - Chapter 30

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第21話 縁談の真実

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第21話 縁談の真実  十一月の半ば、梓から驚愕の情報が届いた。 「澪、すごいこと判明した。電話できる?」  澪はすぐに折り返した。 「何があった?」 「聞いて。蒼真さんが縁談をしていた財閥系、あれが鷹司グループ関連だったの、知ってた?」 「……薄々は」 「薄々って! なんでそんな落ち着いてるの。蒼真さんが『財閥の縁談』と言ってたの、実は鷹司グループの分家筋の人だったって話が回ってきた。しかも先方から断られた理由が、蒼真さんの業績悪化だって確認が取れて」 「……そうか」 「そして澪は今、鷹司グループのDX推進室にいる。元彼が縁談を求めた一族の会社に、今元彼に別れを告げた女が正規社員として入って活躍してる。これ、運命とかそういうレベルの話じゃない?」 「偶然の連鎖だよ」 「偶然にしてはでき過ぎてる! 澪、鷹司さん本人はこの辺の繋がり、知ってると思う?」  澪は少し考えた。「……たぶん知ってる」 「え、そうなの?」 「採用するときに、私の前職を調べたと言っていた。前職がオーシャン商事で、退職理由が何であれ調べれば出てくる。縁談の話も、グループ内の誰かが知っていてもおかしくない」 「それを知った上で、採用したってこと?」 「知ってたかどうかは分からないけど。採用の理由は、あくまでGitHubのコードを見て、技術力を評価してくれたから」 「それは間違いないと思うけど……澪、鷹司さんに直接聞いてみた?」 「聞けるわけない」 「なんで!」 「仕事の関係で、そんなプライベートなことを」 「プライベートじゃないでしょ。蒼真さんとの関係が鷹司グループと繋がってた話は、採用判断に関わるかもしれないじゃない」  澪は少し沈黙した。梓の言うことは、一理あった。 「……機会があれば、聞いてみる」 「絶対聞いて。というかね、私が一番気になるのはそこじゃなくて」 「何が気になるの」 「鷹司さんが澪を採用したの、単純にGitHubだけが理由なの? っていうこと」 「梓」 「だって、ふたりでこんなに共鳴して、夕食も行ってるでしょ。違うの?」 「仕事の同僚として」 「ほんとに?」 「……ほんとに」
last updateLast Updated : 2026-06-15
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第22話 蒼真からの連絡

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第22話 蒼真からの連絡  十一月下旬、澪のスマートフォンに久我蒼真から着信があった。  名前が画面に浮かんだ瞬間、澪の胸に何かが引っかかった。怒りではなかった。懐かしさでもなかった。どちらかというと、「来たか」という感覚に近かった。  コール四回で、澪は出た。 「もしもし」 「……澪、俺だ」 「わかってる」 「急に電話してごめん。ちょっと、話せるか」 「内容による」  蒼真は少し黙った。 「……鷹司グループに入ったって、本当か」 「本当」 「そうか。……元気そうな声だな」 「元気だよ」  また沈黙。蒼真がこんなに言葉を探している声を、澪は初めて聞いた気がした。いつもは自信満々で、饒舌で、沈黙することなんてなかった。 「KBCの件、俺のとこ来なかった?」 「来ていない」 「……でも、KBCの担当者が、鷹司グループのDX推進室からのデータ分析が出てきたって」 「私がやったことかもしれないし、別の人かもしれない。私は何も言えない」 「お前がやったんだろ」 「仮にそうだとしても、それはここの仕事だから」 「そうか……」  蒼真の声が少しかすれた。 「澪、一度会えないか」 「用件は何?」 「……話したいことがある。お前のこと、誤解してた部分があったと思って」 「誤解?」 「お前の仕事のこと。正直に言う。俺は過小評価してた。お前が居なくなってから、それがよくわかった」  澪はしばらく黙っていた。  謝罪に近い言葉だ。蒼真がこういうことを言うとは思っていなかった。 「……蒼真、一つ聞いていいか」 「何だ」 「会いたいのは、謝りたいから? それとも、何かお願いがあるから?」  沈黙が落ちた。  澪は答えを待った。蒼真の呼吸が聞こえた。 「……両方、かもしれない」  正直な答えだった。少なくとも、嘘ではなかった。 「両方ね」澪はゆっくりと言った。「謝りたい気持ちは受け取る。でも、お願いには応じられない」 「まだ話も聞いてないのに」 「聞かなくていいから言える。私のシステムのことでも、KBCのことでも、今の職場に関わることなら何も協力できない」 
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第23話 崩壊・第六段階──社長辞任

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第23話 崩壊・第六段階──社長辞任  十二月初旬、オーシャン商事の北野社長が辞任した。  ニュースリリースは「一身上の都合による辞任」という簡素な文面だったが、業界内では「株主からの強い辞任要求」が実態だという話が広まった。  株主総会で集中砲火を浴びた後、北野社長は取締役会でも厳しい評価を受けた。「ガバナンス上の重大な欠陥」「個人に依存したシステム管理」「リスク管理の不在」。これらの問題を放置していた経営責任が問われ、最終的に辞任を選んだかたちだ。  後任の社長には、取締役の中から内部昇格するという発表があった。ただ、誰が就任しても、業績の立て直しは容易ではない見通しだった。  梓から連絡が来た。 「社長辞任、ニュースで見た?」 「見た」 「社内、どうかというと……思ったより静か。みんな半分わかってたから。ただ、今後の人員削減とかリストラとかって話が出始めてて、それで皆さんざわついてる」 「梓は大丈夫?」 「人事は逆に仕事増えてる。採用より離職防止や組織再編の仕事が増えてきた。私は当面大丈夫だと思う。でも……澪、蒼真さんが本当にやばいことになってる」 「どう?」 「課長候補から外れたのは確実で、今期の評価が最低水準になったって話が出てる。あの人、今まで会社で成功体験しかなかったから、完全に自信を失ってるみたい。最近、表情がなくて怖いくらい」  澪は静かに聞いていた。 「……蒼真から先週、電話があった」 「え、本当に? 何て?」 「謝ってた。お願いもしてた。断った」 「そっか」梓は少し安堵した声になった。「よかった。引きずられなくてよかった」 「引きずられないよ。もう決めたから」 「うん。……澪、あなたが辞めてから、会社がここまで崩れるとは思ってなかった。正直、びっくりしてる」 「私も、ここまで早くなるとは思ってなかった。でも、積み上げてきたものが全部消えたら、一気に崩れるのは当然かもしれない」 「積み上げてきたもの、って澪が作ったシステムのこと?」 「それだけじゃなくて、データも。私のAIが二年間積み上げてきた顧客データの分析、購買パターンの学習結果。あれは私の個人サーバーに入っていたから、退
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第24話 大プロジェクトの始まり

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第24話 大プロジェクトの始まり  十二月の第二週、鷹司から全体会議への参加を求められた。  DX推進室の室員だけではなく、グループ本社の役員も出席する大きな会議だ。澪が入社してから初めての、経営層を交えた場だった。 「白石さんにも出席してもらいます。発言の機会があります」 「私が……役員の方々の前で?」 「あなたにプロジェクトのリードをお願いしたい。そのための紹介も兼ねています」  澪は少し緊張した。入社してまだ三ヶ月も経っていない。 「……私でいいんですか。もっとベテランの方が」 「あなたがいい」鷹司は迷いなく言った。「物流子会社のプロジェクトを見ていました。技術力だけでなく、現場との調整力、優先度判断、報告の明確さ。すべてにおいて適任です」  澪は黙った。 「委縮しなくていい。あなたが適任だという判断は、私が責任を持ちます」 「……プロジェクトの内容は?」 「グループ横断のデータ統合基盤。十七社の子会社が持つデータを一元管理し、経営判断に使えるリアルタイムダッシュボードを構築する。期間は約一年。これが完成すれば、グループのDX基盤が完成する、という位置づけです」  澪は息を呑んだ。  十七社のデータ統合。それは今まで澪がやってきたどのプロジェクトより大きい。一社の物流データを統合するのと、十七社のデータを横断的に繋げるのでは、複雑さが桁違いだ。 「……失敗したら?」 「失敗しないようにサポートします。ただし、一定のリスクは存在します。それを承知の上でリードできますか」  澪はしばらく考えた。  怖い、と思った。本当に怖かった。自分に本当にできるのか。失敗したら、鷹司の信頼を裏切ることになる。  でも、怖いからといって断るのは、また「私は裏方だから」という逃げ方だ。 「……やります」 「よかった」 「ただ、一つ確認させてください。私が判断を下したとき、それが覆されることはありますか」 「役員からの横槍ということですか」 「はい。以前の職場では、決めようとすると上から覆されることが多くて」 「私が室長として、あなたの判断を守ります。もし役員と調整が必要なら、私がやります。あなたは技術
last updateLast Updated : 2026-06-15
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第25話 クリスマスの夜

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第25話 クリスマスの夜  十二月二十四日、クリスマスイブの夜だった。  澪はオフィスに残っていた。グループ横断データ統合基盤の設計書を仕上げようとしていたが、集中できない自分に気づいていた。街からはずっと賑やかな音が聞こえてくる気がした。  室員たちは今日は早めに退社していた。「クリスマスイブくらい早く帰れ」と鷹司も言っていたのに、澪は「あとほんの少しで」と残ってしまった。  (私、何してるんだろ)  苦笑いしながらコーヒーを淹れに立ち上がったとき、エレベーターが開く音がした。  鷹司だった。 「……戻ってきたんですか」 「帰ろうとしたんですが、白石さんの灯りが見えたので」 「見えた、って」 「ビルの下から確認しました」  澪はほんの一瞬、間を置いた。 「……ストーカーみたいですよ」 「そうですね」鷹司は少しだけ困ったような顔をした。「表現が悪かった。灯りを見て、帰ったのかと思っていたら電気がついていたので気になって戻ってきた、というのが正確です」 「気になって」 「はい」  澪はコーヒーメーカーの前で止まった。 「コーヒー、一緒に飲みますか」 「いただきます」  ふたりは窓際のテーブルに向かい合って座った。外の夜景が、クリスマスのイルミネーションで飾られていた。いつもの夜景より少しだけ賑やかで、温かかった。 「白石さんは、クリスマスに予定はなかったんですか」 「梓と夕食の約束があったんですが、彼女に急遽彼氏との予定が入って」 「なるほど」 「鷹司さんは?」 「私は特に」 「家族と?」 「両親は海外にいます。弟は友人と。私は特に用事がない年が多い」  澪は少しだけ意外に思った。「財閥の御曹司でも、クリスマスはひとりなんですか」 「ひとりが多い。パーティーに呼ばれることはありますが、気の乗らない場所に行くより家にいるほうが好きで」 「気の乗らないというのは」 「見栄の張り合いが多い集まりです。誰がどのブランドを持っているとか、誰がどの学校の出身かとか。それより、あなたと設計書の話をするほうが有意義です」  澪は思わず笑った。「今日は仕事の話をするつもりじゃなかっ
last updateLast Updated : 2026-06-15
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第26話 年が明けて

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第26話 年が明けて  新年が明けた。  澪は元旦を、実家で過ごした。両親は澪の転職を最初から応援してくれていた。「やっと自分の力が活かせる場所に行けたね」と母は言い、父は「鷹司グループって大手だな、すごいじゃないか」と言った。どちらもシンプルな喜び方で、澪にはそれがちょうどよかった。  正月三日、梓と初詣に行った。 「今年の目標は?」と梓が絵馬を書きながら聞いた。 「グループ横断プロジェクトを成功させること」 「仕事のことしか書かないの」 「今は仕事が一番大事だから」 「恋愛は?」 「……仕事が大事」 「逃げてる」 「逃げてない」 「クリスマスイブに鷹司さんと残業したって、梓に報告しないつもりだったの?」  澪は絵馬を持ったまま固まった。 「……誰から聞いた」 「あなたのオフィスのビルの警備さんから聞くわけないじゃない。あなたが少し顔に出てたの。年末年始、なんか顔が違うって思ってた」 「顔が違う?」 「目がちょっと、柔らかくなってる。良い意味で。何かあったか、何かを期待してるときの顔」  澪は絵馬を境内の木に結んだ。 「……特に、何もなかった」 「でも何かあった」 「コーヒーを飲みながら、話しただけ」 「どんな話?」 「仕事のこと、プライベートのこと、少し」 「少し、って?」 「……気にかけてくれてると、思った」 「鷹司さんが澪のことを?」 「うん」 「どんなふうに?」 「帰ろうとしたのに、私の電気がついてるから戻ってきたって」  梓が動きを止めた。おもむろに澪のほうを向いた。 「……それって、完全に好きじゃん」 「梓!」 「好きでしょ! ビルの下から電気確認して、戻ってくるって、完全にあなたのことが気になってるじゃない!」 「仕事の心配かもしれないし」 「クリスマスイブに!?」 「梓、参拝者に聞こえる!」  ふたりは少し離れた場所に移動した。梓は小声だが目が輝いている。 「澪はどう思ってる? 正直に」 「……正直に」 「うん」 「鷹司さんのことは、ずっと気になってる。一緒にいると落ち着く。彼が言うことが信頼できる。それ
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第27話 蒼真の懇願

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第27話 蒼真の懇願  一月の中旬、久我蒼真はまた澪に連絡した。  今度はメッセージだった。 「直接会いたい。お願いだから一度だけ」  澪はしばらくメッセージを見つめた。断ろうと思った。でも次の言葉が来た。 「会社が本当にやばいことになってる。俺だけの問題じゃない。坂本たち後輩にも影響が出てる。それを話したい」  坂本。  その名前を見て、澪の手が止まった。  坂本は澪を慕ってくれていた若手だ。「白石さんがいなくなったら不安」と言っていた。その子が影響を受けている、と言われると、切り捨てられない自分がいた。  でも。 「今の状況を澪に聞いてもらいたい、それだけだ。システムのことも、会社のことも、お前に何か頼むつもりはない。ただ話を聞いてくれたら」  系アプローチは予想通りだった。「何もお願いしない」と言って会って、そこで何かを頼む。それは容易に想像できた。  澪は梓に転送した。 「これ、どう思う?」  梓からはすぐに返信が来た。 「罠に決まってる。坂本くんのことを出してくるのは、澪が断れないとわかってるから。賢い」 「そう思う」 「でも行きたい気持ちもあるでしょ、正直なところ」 「……坂本くんのことは、心配してる」 「それはわかる。でも澪が行って何ができる。会社を助けることはできないし、システムを戻すことはできない。結局、蒼真さんの気持ちの整理に付き合わされるだけよ」 「うん」 「行かないほうがいい」 「うん、わかった」  澪は蒼真に返信した。 「会えない。坂本くんのことは心配しているし、申し訳ないとも思う。でも会っても、私に何も変えられることはない。あなたの状況を聞いても、何もしてあげられない。だから、会うことが誰の助けにもならない。ごめんなさい」  返信はしばらく来なかった。  二時間後に来た。 「わかった。ありがとう」  それだけだった。澪は画面を見つめた。「ありがとう」という言葉が、どんな意味なのか、しばらく考えた。  梓に知らせると「よかった」と言ってくれた。  翌日、澪はプロジェクトの最初のヒアリングを行った。グループ内の食品子会社に出向き、データ管理の
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第28話 プロジェクト加速

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第28話 プロジェクト加速  二月になり、グループ横断データ統合基盤のプロジェクトが本格的に動き出した。  澪がリードする形で、DX推進室の五人のメンバーがアサインされた。データエンジニアの松本、インフラ担当の中村、フロントエンドの田島、プロジェクト管理の大野、そして小山がデータサイエンスを担う。  最初のキックオフで、澪は役割分担と方針を説明した。 「このプロジェクトの成否を決めるのは技術より人です。各社の現場が使いたいと思えるものを作れるかどうか。そこを常に意識して進めましょう」  メンバーたちが頷いた。 「技術的な判断は私とチームで行います。現場調整は私と大野さんで。困ったことは必ず共有してください。一人で抱えないように」 「白石さん、マネジメント経験は?」と松本が聞いた。 「ほとんどありません。ただ、一人でやってきた経験は長い。今はチームでやれるので、むしろ助けてください」  その正直な答えに、メンバーたちの空気が少し和らいだ。  プロジェクトが始まると、課題が次々と出てきた。  一番困ったのは、各社のデータのクオリティだった。表記揺れ、欠損値、フォーマットのバラつき。「データクレンジング」と呼ばれる前処理作業が、想定の三倍かかることが判明した。 「白石さん、これは計画を見直す必要があるかもしれません」と松本が言った。 「わかった。どの部分で一番時間がかかってる?」 「製造子会社のデータが特にひどくて、入力の粒度がバラバラなんです。担当者が変わるたびに書き方が変わってて」 「じゃあそこを分離しよう。製造は最後のフェーズに回して、まずデータクオリティが比較的いい物流と食品を先に進める。全部を並行させなくていい」 「それだと最終的なスケジュールが」 「バッファを使う。ただし役員への報告ラインは崩さない。やり方を変えるのではなくて、順番を変えるだけ。わかるかな?」 「……はい。了解しました」  こういう判断を、澪は日々繰り返した。以前なら、変更を提案することへの不安があった。でも今は、問題を発見したらすぐに話し合い、最善の方法を選ぶことが自然にできた。  夕方、鷹司が澪の席に来た。 「プロジェクト、
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第29話 浅野部長の来訪

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第29話 浅野部長の来訪  二月の下旬、澪のスマートフォンに知らない番号から着信があった。 「はい、白石です」 「……白石さん、浅野です」  澪は少し間を置いた。オーシャン商事の浅野部長だ。 「お久しぶりです」 「あ、あの……急に連絡してごめんなさいね。番号は、梓さんに聞いて。怒らないでほしいんだけど」 「怒っていませんよ」 「そうか。よかった……」浅野部長の声は、以前の威圧感のない、しょんぼりとした声だった。「白石さん、直接会えないかな。一度だけ。話がしたくて」 「内容を聞かせてもらえますか」 「……お詫びを言いたくて。あと、少し相談も」 「相談の内容は?」 「会社の情報システム部が、今ほぼ機能していなくて。外注費が嵩んでいて、それでも追いついていなくて。正直、まずいことになってる。白石さんに……どうすればいいか、聞けたらと思って」  澪はしばらく考えた。 「システムの再構築のご相談ですか」 「そう。もしコンサルとしてでも、有料でも構わないので、少し話を聞いてもらえないかと」 「わかりました。三十分なら時間が取れます。ただし、今の職場の案件には関係がないことを前提に」 「もちろん。白石さんの今の仕事に口出しするつもりはないから」  翌週の土曜日、澪はカフェで浅野部長と会った。  浅野部長は見た目がずいぶん老けていた。二ヶ月ほどしか経っていないのに、白いものが増えて、目の下に深いクマができている。 「来てくれてありがとう」部長は頭を下げた。「本当に、ありがとう」 「……顔色が悪いですよ」 「そりゃそうだよ。毎日大変で……社長辞任して、後任もどたばたしてて、外注費は膨らんで、株主からはまだ言われていて」 「経緯はある程度、梓から聞いています」 「そうか。……白石さん、俺はお前に本当に悪いことをした」  澪は黙った。 「余計なことをするなって言った。目立つなって言った。お前がせっかく提案してくれたことを、何度も蹴った。俺がちゃんと評価していれば、こうはならなかったと思う」 「……はい、そう思います」 「そうだよな」浅野部長は肩を落とした。「怒ってるよな」 「最初は怒っていま
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第30話 距離が縮まる夜

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第30話 距離が縮まる夜  三月、プロジェクトの第一フェーズが完了した。  物流子会社と食品子会社のデータ統合が完成し、本社の経営陣がリアルタイムでダッシュボードを見られるようになった。役員会での反応は好評で、「続きを急いでほしい」という声まで出た。  その夜、チームでささやかな打ち上げをした。  近くの居酒屋を貸し切り、DX推進室の全員とプロジェクトメンバーが集まった。鷹司も参加した。  珍しく私服の鷹司を見て、澪は少し驚いた。シンプルな黒のセーターだったが、スーツよりも少しだけ柔らかい印象だった。 「鷹司さん、私服だ」と小山が言った。 「今日は仕事が終わってからなので」 「鷹司さんて、スーツしか着ないのかと思ってました」 「休日はそうでもない」  乾杯が終わり、澪はチームメンバーたちと話した。松本が「次フェーズはもっと大変だろうな」と言い、田島が「でも楽しいですよね」と返した。 「白石さん、最初緊張してましたよね、マネジメント」と大野が言った。 「今も緊張してます」 「でも全然見えないですよ。判断早いし、的確だし。どこで経験積んだんですか」 「前の職場で、一人で全部やってきたので」 「一人で?」 「はい。誰も頼れなかったので、全部自分で決めてきた。その分、人に任せることがまだ慣れていないくらいで」 「なるほど。白石さんがリードしてくれて、私はやりやすかったですよ。明確だし、行き詰まったとき助けてくれるし」  その言葉が、澪の胸に温かく入ってきた。  少し酔ってきたころ、鷹司が澪の隣に座った。 「白石さん、今夜はどうですか」 「楽しいです。こういう場に来るの久しぶりで」 「楽しめているなら、よかった」 「鷹司さんは、こういう場は好きですか」 「……正直なところ、得意ではない。大勢でわいわいする場は、何を話せばいいかわからなくなる」 「でも来てくれた」 「チームの打ち上げですから。私がいなければ、気を遣わせてしまう可能性もある」 「それも計算した上で来てるんですか」 「半分は」 「もう半分は?」  鷹司は少し間を置いた。 「あなたがいるので」  澪はコップを
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