All Chapters of ボスの密やかな秘密 ~冷酷なボスは私にだけ甘すぎる~: Chapter 21 - Chapter 30

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第021話

「何て言い訳するつもり?」「それは……」どうやら喜燦が尾行していたことまでは気づかれていたらしい。少なくとも大学で一度や二度見られたわけではない。"毎日夜中まで"そう言われた以上、本当は全部知られているのかもしれなかった。「言い訳でも考えてるの?バレるとは思わなかったんだ。」いくつか言い逃れは頭に浮かんだ。だが、口にできるほどもっともらしいものは一つもない。下手なことを言えば、ただの間抜けになるだけだ。道赫はひとまず口を閉ざした。朱夏がもう少し何か言えば、その時また考えよう。「私、一度見た人の顔ってあんまり忘れないんだよね。どれだけ離れてても、分かっちゃうの。」そんな特殊能力みたいなものがあるなんて。事前に分かるはずもなかった。「……それで?」「え?」「何か言うことあるでしょ。」その通りだった。道赫はさっきから一言も返せていない。ここまで言葉に詰まるなんて、いつ以来だろう。運転にもまるで集中できない。自分でも何を考えながらハンドルを握っているのか分からなかった。身体だけが勝手に動き、頭の中はぐちゃぐちゃだ。とりあえず口を開く。「その……夜道は危ないし。」……そうだ。夜道は危ない。大学から家まで大通りだけとはいえ、夜中の二時だ。悪くない言い訳だ。そう自分に言い聞かせる。「ちゃんと話したほうがいいよ。可愛がってあげる気、なくなるかもしれないし。」――土曜日。その一言で、道赫の頭に真っ先に浮かんだのは、それだった。「可愛がってあげる。」その約束だけが頭から離れ
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第022話

「なんで?」「え?」「なんで坊やが払うの?私が自分の奴隷にご飯くらい食べさせるって言ってるの。外車は買えなくても、それくらいなら払えるし。」「……」これはときめく場面なのか。それとも呆れるべき場面なのか。道赫には判断がつかなかった。自分にご飯をご馳走したいと言ってくれる相手なんて初めてだ。しかも、一度たりとも会計をさせてくれない。新鮮、なんて言葉では足りなかった。「その代わり。坊やはコーヒーね。」「……わ、分かりました。」結局、朱夏のお気に入りだという人気店で二十分も並び、ようやく昼食にありついた。誰かと二人で食事をするために列へ並ぶ。そんな経験も初めてだった。それでも。並んでいる間じゅう、朱夏は楽しそうに話し続けてくれた。その時間が心地よかった。彼女が話したことは、一つ残らず頭へ刻み込む。大学では今、模型を作っていること。一人では作業量が多すぎるから、みんなで手分けするため毎日大学へ通っていること。一人でもできなくはないけれど、家に置く場所がないから結局大学でやるしかないこと。その模型は卒業前に展示されること。話は次から次へと溢れてきた。――なるほど。こんなに忙しかったのも、少しは納得できる。「じゃあ、もう模型は作り始めてるんですか?」「うん。設計は前期で終わってるから。」「じゃあ今日見て回ってたのは?」「卒業論文も書かなきゃいけないの。」大学生って、本当にやることが多いんだな。そんなことを思いながら、道赫は口へ料理を運ぶ。……朱夏はこういう味が好きなんだ。和食の丼を食べながら、そんな情報まで一つずつ積み重ねていく。「どう?」「ええ。
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第023話

朱夏は思わず苦笑した。丼ぶり二杯分より高いアメリカーノを片手に、ソウルの街並みを見下ろしている。あまりにも現実味がなくて、笑うしかなかった。コーヒーを奢れと言ったのは、こんな意味じゃない。さすがにそれくらいは分かっていると思っていた。……そう思ったのに。目の前の道赫は、まるで何もおかしいと思っていない顔をしている。本当に分かってないのかもしれない。普通の大学生だった朱夏は、ホテルのラウンジでコーヒーなんて飲んだことがない。だからこそ、この状況をどう受け止めればいいのか分からなかった。「……普段から、こういうところでコーヒー飲むの?」「じゃあ、どこで飲むんです?」本気で分からないという顔だった。朱夏は何も言わず、もう一口コーヒーを飲む。……本当に知らないの?そう考えかけた時だった。道赫がまた口を開く。「ここなら、可愛がってもらうにも丁度いいじゃないですか。」そう言って笑う顔を見て、朱夏は確信した。――やっぱり。わざと連れてきたんじゃん。少しでも騙された自分が悔しかった。それでも顔には出さない。こんな食えない男に隙なんて見せるものか。「さあね。可愛がる価値があれば、だけど。」途端に不満そうな顔になる。その反応を見て、朱夏はようやく少しだけ胸を撫で下ろした。……と思った次の瞬間。道赫が不意に立ち上がり、そのままぐっと距離を詰めてきた。彼のほうから、こんなにも近づいてきたのは初めてだった。けれど。威圧するためじゃない。本当に納得がいかない、そんな顔をしている。「大人しくコーヒーまで奢ったのに、それはひどくないですか?」
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第024話

「まぁ……連中……じゃなくて、会社の連中と飲んだ時とか。家が遠いんで、たまに?」実際は酒を飲んでも迎えの車でちゃんと家へ帰ることのほうが多い。それでも、ごくたまにホテルへ泊まることはあった。もっとも、親族の集まりがほとんどホテルで開かれることまでは言わなかった。とはいえ、嘘でもない。「聞きたいのはそういうことじゃない。」「じゃあ、何です?」親族の話を知っているはずもない。他に何を聞きたいのか分からず、道赫は聞き返した。だが、朱夏は答えなかった。「……何でもない。」その時、エレベーターが到着した。乗り込んだ朱夏の表情は、どこか微妙だった。……白道赫って、馬鹿じゃないの。心の中でそう呟きながら、朱夏の後を追って道赫も乗り込む。「あ。そういうことか。」「もういい。」「正直に言うと、初めてなんです。」「何がか分かってから言って。」呆れたように振り返る朱夏。さっきまで理解すらしていなかったくせに。いつの間にか道赫はいつもの調子で笑っていた。……ちゃんと分かったんだ。そう確信した途端、道赫が言う。「女の人とホテルに来るの。」「嘘つくなら、もうちょっとそれらしくしなよ。ほんと図々しい。」「本当ですよ。」あまりにも悔しそうに眉を下げて訴える。それでも朱夏は信じなかった。隠し事が多すぎるから。……いや。それを抜きにしても信じられなかった。この場所があまりにも似合う。金もあって、顔も良くて。そんな男が「初めてだ」と言うほうが、よほど不
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第025話

「もうこんなことになってるのに。」服を着ている時から存在感を主張していた彼の性器を見下ろしながら、朱夏は少し呆れたように言った。こうして露わになってしまえば、ただ可愛がられるだけで済む状態ではないことは一目瞭然だった。「あぁ。こいつはご主人様の前じゃいつもこうなんで。今さらですよ。」道赫は、自分ではどうにもならないことについては諦めることにした。大人しくすることもできる。跪くこともできる。ご主人様と呼ぶこともできる。でも。勃たないようにすることだけは無理だった。朱夏を見ているだけでこうなる。だから。ここまで来たんだから。「すごくぴくぴくしてる。」「可愛がってほしくて甘えてるだけですよ。」図々しい返事に、朱夏は思わず小さく笑う。その笑顔を見て、道赫はようやく少しだけ安心した。どうして安心したのか、自分でも分からない。ただ。彼女が笑ってくれたことが嬉しかった。――そう思った次の瞬間。何も考えられなくなる。指先で示していただけだった朱夏が、そのまま彼の性器をぎゅっと握ったからだ。「っ……!」「本当はもっと可愛がってあげるつもりだったんだけど。少し反省してもらわなきゃいけないから。今日は手だけ。」「……反省?」「普通の人はね。尾行なんてしないの。」言い返す言葉はなかった。もしこれが"反省の時間"なのだとして。その時間があることで朱夏が離れていかないのなら。どれだけ長くても構わなかった。朱夏は大人しくなった道赫を見て、ゆっくりと手を動かし始める。今日は、この言い訳で押し切るつもりだった。尾行が自分を傷つけるためじゃなか
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第026話

「ぁ……っ! ……っ!」思わず手が速くなってしまったのか。道赫は苦しそうに頭を仰け反らせた。……やばい。こんなに早くするつもりじゃなかったのに。なんでこんなに色っぽいの。今さら「やっぱり最後までしてあげる」なんて言いたくはない。朱夏はぐっと奥歯を噛み締めた。どれだけ道赫が甘えてきても。どれだけ心を揺さぶられても。ここで隙を見せるわけにはいかない。だから。今さら言葉を覆すことなんて、絶対にしない。――本当は。もう一度、抱きたくなっていたとしても。「そうだったの?言えばよかったのに。」……言ってたら。逃げなかったのかな。意識が霞む中でも、道赫はそんなことを考えていた。普通の女子大生と、どう接すればいいのか。それが彼にとって一番難しい問題だった。彼女の日常を壊したくはない。でも。遠く離れていたいわけでもない。その境界線を見つけて守ることは、想像以上に難しかった。だから近づきすぎないように。尾行なんて結論を出してしまった。知りたいことは山ほどあった。それでも、しつこく付きまといたくはなかった。……結果としては、そのほうがよほど悪かったのだけれど。「……可愛がって、ください。」言えと言われたから。勢いのまま、一度だけ本音を口にしてみた。その瞬間。朱夏の瞳が、ほんのわずかに揺れる。そんな表情をする彼女を見るのは初めてだった。それだけで。道赫は危うく達してしまいそうになる。もしこれが病気なら。
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第027話

「お呼びでしょうか、ボス。」「代表。」「あ、はい。白代表。」最近は組の連中も、呼び方を変えるのに必死だった。こうして時々訂正されるたび、慌てて言い直さなければならない。いつまでこんなふうに優しく訂正してもらえるのかは分からなかった。「住所を一つ送るから――」写真を撮って来い。そう言おうとした、その時だった。突然スマホが鳴る。道赫はすぐに画面へ目を落とした。その様子を、成哲は珍しそうに見つめる。道赫に急ぎの連絡が入ることはほとんどない。本当に緊急なら、誰かが直接駆け込んでくるからだ。話を途中で止めるほどの連絡。一体何なんだろう。そう思うのも無理はなかった。しかも。画面を見るだけじゃない。そのままスマホを手に取ったのだから、なおさらだ。「行っていい。」「……え?」成哲は、以前泰圭から聞いた話を思い出した。――兄貴の言葉を聞き返したことがある。そんな馬鹿な話があるかと思った。なのに今、その馬鹿なことを自分がやっている。「行け。」「あ、はい、兄貴。」……何だ?何だったんだ?住所?何か大事な用を言いつけるために呼んだんじゃないのか。連絡一本で終わり?成哲は慌てて立ち上がる。だが頭の中は混乱したままだった。一方の道赫は、スマホを見つめたまま。成哲のことなど目にも入っていない。仕方なく彼は、事情も分からないまま部屋を出ていった。その頃。道赫は朱夏から届いた新しいメッセージを見ていた。朱夏からだと分かった瞬間、すぐに画面を開く。もしかして、一緒に行くってことか。
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第028話

【二十分です。】そこまで飛ばして来ることを、朱夏が望むとは思えなかった。【気をつけて来て。】返事はそれだけだった。「この時間からどちらへ?」そんな周囲の声を背に、道赫は車へ乗り込む。代わりに運転します、と駆け寄ってくる者もいた。それでも気にしない。迎えに来て。たったその一言が、どうしてこんなにも嬉しいんだろう。運転する手に、少しだけ汗が滲んだ。別に何かを期待しているわけじゃない。ただ朱夏に会える。それだけで十分だった。夜九時なんて、本当なら彼女が帰るにはまだ早い時間だ。疲れた。その一言だけでも、少し心配になってしまう。【北門まで来て。】【もういる。】信号を一つ渡ればすぐ。停車中に送ったメッセージへ、すぐ返信が返ってきた。少しだけ気持ちが逸る。それでも道赫は落ち着いて車を走らせた。この距離なら、もう朱夏からも見えているかもしれない。だから。人も車も、乱暴には見られたくなかった。「はぁ……眠い……」車が止まるなり。朱夏は慣れた様子で助手席へ乗り込み、背もたれへ身体を預けた。正直、少し身構えて呼んだ。でも、派手なスポーツカーじゃなかっただけ気が楽だった。もっとも。この黒いセダンがどれほど高価なのかまでは、朱夏には分からない。「忙しかったみたいですね。」「ちょっとね。思ったより早かった。家、分かるよね……」声にも疲れが滲んでいた。道赫は横目で彼女を見る。今にも閉じそうな瞼。うっすら浮かぶ隈まで見えてしまう。「目、閉じててください。」
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第029話

ある日などは。部下たちと会議をしている最中に、"充電器がない。"そんなメッセージが届いて、思わず苦笑したこともあった。周囲が驚いて見ていることなど気にも留めず。彼はまた車の鍵を手に取る。「え、どちらへ……?」ついさっきまで話していた部下が、慌てて顔を上げて尋ねる。だが道赫は、「急ぎだ。」それだけ言い残して部屋を出ていった。そんなことが何度も繰り返された。それでも。朱夏がもう一度"ご褒美"をくれることは、しばらくなかった。まるで最初からそうだったかのように。彼を当たり前に使うようになっていた。それでも。「ありがとう。」その一言だけは、毎回ちゃんと伝えてくれた。【同期と行くところがあるんだけど、今来れる?】……同期?道赫はしばらくそのメッセージを見つめた。朱夏と会う時。他人が一緒だったことは、一度もない。彼女はまるで、自分の存在を隠したがっているようだった。大学へ迎えに行く時も。いつも人目の少ない場所へ呼び出す。そんな彼女が。他人のいる場所へ自分を呼ぶ。その意味を、少しだけ考えてしまう。【もうすぐ出なきゃなんだけど、タクシー全然つかまらなくて】返信を迷っている間に。珍しく朱夏から続けてメッセージが届いた。道赫は、【二十分。】そう返すと、また車の鍵を手に取る。最近では。道赫が突然いなくなっても、不思議がる者はいなくなった。「またお忙しいんだろう。」そう思う者だけが残っていた。それくらい。同じことが何度も繰り返されていたから。「荷物、多いですね。」
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第030話

「じゃあ、お二人で話してください。」その気遣いに、朱夏はちらりと道赫を見た。彼は何事もないように前だけを見つめ、運転へ集中している。いつもなら運転中でも何度もこちらを盗み見る人とは思えないくらいに。朱夏は少しだけ迷ってから、素静へ声を掛けた。「発表資料、全部持ってきたよね?」「え? あ、うん! たぶん……! もう一回確認する!」素静は慌ててバッグを開け、中を探し始める。ファスナーの音。紙が擦れる音。何かを出しては戻す慌ただしい音。そんな物音が続いたあと。「っ……!」小さく息を呑む声が響いた。「どうしたの?」「……PPT印刷したやつ、持ってきてない……!」「え?」「机の引き出しに置いたままだ……!」朱夏は勢いよく後ろを振り向く。素静は今にも泣き出しそうな顔をしていた。すぐに前へ向き直り、時間を確認する。……戻る時間はない。着いてから印刷できる場所を探す時間すらない。提出用の資料がなければ、発表そのものができない。受け取ってもらえないからだ。「ど、どうしよう……ごめん……!今から戻ったら間に合わないよね……?」「それは……」朱夏も答えが出せずに迷っていると。そこにいることすら忘れそうなくらい静かだった道赫が、初めて口を開いた。「資料って、今メールで送れますか?」「え?あ、うん……送れるけど……時間が…&
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