All Chapters of ボスの密やかな秘密 ~冷酷なボスは私にだけ甘すぎる~: Chapter 51 - Chapter 60

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第051話

『見ました? 昨日すごくお似合いだったので』「誰が勝手にこんなの送れって言ったの?」ブランドなんて詳しくない人が見ても分かる、有名ブランドのロゴだった。紙袋を開けた瞬間、昨日試着したワンピースだとすぐ分かった。着ていた時は、そんな高価なものだなんて思ってもいなかった。でも考えてみれば、あんな場所で高級ブランド以外の服を試着できるほうがおかしい。行ったことがなくても、それくらいは気づくべきだった。『お気に召しませんでしたか?』「そこじゃないでしょ」朱夏の声が思った以上に冷たくなったせいか、道赫はしばらく黙ってしまった。朱夏は返事を待たず、そのまま言葉を続ける。「私、買うなんて一言でも言った? 何で勝手に買ったのって聞いてるの」『……プレゼントくらいは、俺の好きにしてもいいんだと思ってました』ようやく絞り出した声には、隠しきれない寂しさが滲んでいた。それくらいの関係でもないんですか。そう問いかけているようだった。少し傷ついたような声を聞いて、朱夏は思わず息をのむ。プレゼントをくれた相手に、いきなり怒りすぎたかもしれない。「プレゼントするなって言ってるんじゃないの。坊やが勝手に決めてするなって言ってるの」道赫がデパートのVIPだろうと、お金が有り余っていようと、そんなことはもうどうでもよかった。それも含めて受け入れると決めて、この関係を続けることにしたのだから。でも、そのお金を彼の独断で自分へ使われるのは嫌だった。お金は、力でもある。プレゼントという名目で、自分の選ぶ権利まで失いたくはなかった。「私にはそういうことしないで。プレゼントって、もらう側が嬉しくな
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第052話

【家に着いた。もう寝るね。返信しなくていいから】深夜一時。車の鍵を手に取っては置き、また手に取っていた道赫のもとへ、そんなメッセージが届いた。「連絡しないこと」が罰だと言っていたくせに、今度は返信まで禁止された。結局道赫は、そのメッセージを何度も読み返すことしかできなかった。何かあったわけじゃない。それが分かっただけでも十分安心できた。それでも、指先がむずむずして仕方がない。大したことを言いたいわけじゃない。ただ、いつも通りに「おやすみ」と一言送りたいだけだった。けれど彼は我慢する。朱夏の言うことを聞くことだけは、昔から一番得意だった。翌日。土曜の朝からずっと機嫌の悪い道赫を見て、基燦はできるだけ刺激しないようにしていた。最近の道赫は、時々機嫌が沈むことはあった。だが、ここまで長引くことは珍しい。普段はむしろ、上機嫌な日のほうがずっと多い。ここまで恋愛絡みだと分かりやすいのに、誰一人疑わないことのほうが不思議だった。もちろん、長い間ずっと独りだった道赫だ。異性関係で感情を表に出したことなど一度もない。だから気づかないのも無理はない。それでも、「今日は機嫌が悪いですね」くらいにしか思わない周囲を見ていると、基燦だけがもどかしくなる。「……」一日中、スマートフォンを持っては置き、自分が話しかけても上の空。そんな道赫を見て、基燦は報告を諦めて席を立った。これ以上話しても、まともな返事は返ってこない。…&
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第053話

その頃。道赫がそんなふうに過ごしている一方で、朱夏もまた、ほとんど日常に集中できずにいた。毎日迎えに来てくれていた存在がいない。それは思っていた以上に大きかった。いつもは何気なく交わしていたメッセージも、なくなると妙に寂しい。罰を与える側も、思っていたほど楽じゃなかった。それでも朱夏は連絡しない。ぼんやりして何も手につかなくなったり、道赫との出来事を何度も思い返したり。そのたびに気持ちを立て直した。「朱夏ー! 何ぼーっとしてるの?」「え? あ、ごめん。何? 何か渡せばいい?」誰かに呼ばれていたことにも気づかず、肩を揺すられてようやく我に返る。その日は結局、まだ七時にもならないうちに大学を出た。残っていても、課題なんて手につきそうになかった。一人で家まで歩いていると、また道赫のことを思い出してしまう。朱夏は小さくため息をついた。意地を張って連絡してこない。……いや。ちゃんと我慢している道赫が、少しだけ偉く思えてしまう。坊やに忍耐力なんてないって、誰が言ったんだっけ。自分で考えておきながら、朱夏は少しおかしくなった。本当は難しいことじゃない。連絡できないのは道赫だけで、朱夏には制限なんてない。一方的に話しかけてもいいし、返事していいよと言ってしまうことだってできる。でも、これは躾と意地の間にある何かだった。歩きながら、もしかして近くにいるんじゃないかと辺りを見回してしまう。何やってるんだ、あたし。そう思った途端、朱夏は慌てて家へ駆け込んだ。夕飯を
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第054話

道赫は迷うことなく、吸い寄せられるようにズボンへ手を差し入れた。朱夏を思い浮かべて勃起したことなら数え切れないほどある。それでも、自慰をしたことは一度もなかった。けれど今日は、そうでもしなければ耐えられない気がした。目を閉じたまま、朱夏と体を重ねた夜を思い返す。最近の朱夏は、彼の上で笑っていることが多かった。最初の頃のように、気だるそうに腰を振るだけではなく。彼とのセックスを楽しんでいる、そんな笑顔だった。特に、道赫が余裕を失っている時ほど、彼女は悪戯っぽく笑う。その笑顔が、たまらなく好きだった。思い浮かべただけで、反応していたものがぴくりと震える。朱夏の笑顔だけで、いつもこうなる。だからもう、どちらが挿れるとか、そんなことは実はどうでもよくなっていた。もちろん、挿れたくないわけじゃない。そんなことは絶対にないけれど。「……はぁ」朱夏。その名前を思い浮かべるだけで、体が熱を帯びる。本当に、どうかしている。……いや。おかしいのは体だけじゃない気もする。けれど道赫は、気づかないふりをした。全部認めてしまうには、まだ心が追いつかなかった。朱夏とすることは、何もかもが初めてだったから。結局、彼は果てることなく手を止めた。途中で、そんな気分じゃなくなってしまった。正確に言えば、朱夏への渇きを、こんな形で紛らわせたくなかった。
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第055話

朱夏が送ってきた場所は、都心の繁華街にある大きなショッピングモールだった。土曜日。昼時。時間帯が時間帯だけに、道中はずっと渋滞していた。道赫は焦るしかない。いっそ車を捨てて走って行きたいくらいだった。このままでは、駐車するだけでもかなり時間を取られてしまう。そう判断した彼は、誰かへ一本電話を掛けた。ショッピングモールの近くへ部下を待機させ、着いたら車を預けるつもりだった。ショッピングモールにいるのか。……いや。ただの使い走りかもしれない。それでも、用事が終われば顔くらいは見られるんじゃないか。見られなくても、それでもいい。信号で車が止まるたび、道赫はまた朱夏のことを考える。心臓だけじゃない。手の甲の脈まで打っている気がした。緊張しすぎて。傍から見れば、二年ぶりに会う相手のところへ向かうような勢いだった。長い運転を終え、モール近くの路肩へ車を寄せる。近寄ってきた部下へ車の鍵を放り投げると、そのまま急ぎ足でショッピングモールへ入った。とはいえ、今すぐ何かできるわけではない。次の指示がない。大人しく彼女からの連絡を待って五分ほど。スマートフォンが震えた。【見つけても話しかけないで。十歩後ろから見てて。】道赫は勢いよく顔を上げ、辺りを見回した。七階建ての広いショッピングモール。地下まで含めたら、どれほど広いのか見当もつかない。週末の人混み。道赫は周囲を見渡すのをやめ、大股で歩き始めた。話しかけられなくても、見つけさえす
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第056話

朱夏の予想通り、道赫はふと持ち上がった彼女のトップスへ視線を向けていた。もっとも、彼はここがショッピングモールだということをかなり意識していた。人が多すぎる。別に朱夏を閉じ込めて、自分だけのものにしたいわけではない。それでも、あまり他人には見せたくなかった。とはいえ、髪を結び直す時間は思ったよりずっと短い。道赫はすぐに落ち着きを取り戻した。朱夏の後をついて歩くのは、想像以上に楽しかった。いつの間にか、それ自体を楽しみながら歩いていた。──ある男が割って入るまでは。「……」朱夏が雑誌を立ち読みしていた時だった。見知らぬ男が彼女へ声を掛けた。その瞬間、朱夏の表情へ強い警戒が浮かぶ。知り合いじゃない。そう判断した途端、道赫は無意識に一歩だけ朱夏へ近づいていた。……何だ、あいつ。男を静かに見据える。朱夏と同じくらいの年頃だろう。少し照れたように頬を赤らめながら、何かを話しかけている。罰の最中じゃなければ、とっくに朱夏の前へ立ち、あんな青二才くらい一瞬で追い払っていた。だが今は、自分が出て行っていい場面なのか判断できない。「すみません」男の声までは聞き取れなかった。けれど、朱夏の声だけははっきり聞こえた。道赫は静かに、もう一歩後ろへ下がる。ここは週末のショッピングモール。人目も多い。少なくとも、あの鬱陶しいガキが朱夏へ危害を加えることはないだろう。朱夏自身も、冷たい表情できっぱり断っている。
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第057話

翌日。道赫はまた、ほとんど徹夜のような状態で朝を迎えた。朝七時にはもう身支度を始めている。九時に行けば十分だ。それでも家にいる気にはなれなかった。だから朱夏の家へ着いたのは、まだ八時十分。もちろん、五十分待つくらい何でもない。三日間耐えたのだから。九時になったら送るメッセージを考えながら、スマートフォンを握る。書いては消し、また書いては消す。何を送るか、最後まで決められない。そんな時だった。朱夏が家から出てきた。「……!」道赫は慌てて車を降りる。朱夏は、彼がプレゼントしたワンピースを着ていた。あまりにも似合っていて、三日間罰を受けた甲斐があったと、本気で思える姿だった。服を見れば、罰が終わったことくらい何となく分かる。それでも念のため、スマートフォンを見る。まだ八時五十九分。何も言えず立ち尽くしていると、朱夏が笑いながら近づいてきた。……ボスだからなのかな。変なところまで律儀なんだから。そう思うと、笑わずにはいられなかった。「ちゃんと反省した?」その質問に答えることは禁止されていない。そう思った道赫は、もう時間を気にするのをやめた。「はい」真面目に頷く。「勝手にプレゼントを買ってしまって、すみませんでした。もうしません」あまりにも真剣に謝るので、朱夏は少し気まずそうな顔になりかけた。けれど堪える。せっかく躾がうまくいったのに、今さら隙は見せられない。
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第058話

【うん。三千円まで。】わざとその金額にした。道赫のお金の使い方を考えれば、絶対に物足りなく感じる金額だから。きっと相当悩む。そう思うと少し可笑しかった。返信を送ると、朱夏は上機嫌でスマートフォンを置き、再び課題へ集中する。どうしてあんなに急いで帰ったのか。その理由が分かっただけで、気持ちはずいぶん軽くなっていた。一方、道赫は「三千円以内」という条件を前に、本気で頭を抱えていた。今の物価を考えれば、三千円の花束なんて、きっと小ぶりで質素なものだ。片手で持てるくらいの大きさ。別に、一番高いものを贈ろうとしていたわけではない。それでも、かなり悩む金額だった。だからこそ、その範囲でできる限りのものを選ぼうと決める。「みんな動かすか」『えっ、代表、何かあったんですか?』「都内の花屋で三千円の花束探してこい。十束以上」泰圭は突然、それも久しぶりの指示に驚き、続く命令でさらに目を丸くした。それでも、「承知しました、代表」と落ち着いて答える。電話はすぐ切れた。すると三十分以内に、写真を全部送れという指示がメッセージで飛んでくる。泰圭は慌てて何人かへ指示を回した。そして、別件で忙しく動いていた成哲のところへ向かう。「ボスの彼女さ……ちょっと変わってるかも」「は? 彼女? 何言ってんだ?」成哲は仕事をしながら、生返事を返す。組の者たちは、道赫の前では「代表」と呼ぶ。だが裏では今でも普通に「ボス」だった。「いや、彼女できたじゃん。あ
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第059話

「会議の途中で急に出て行ったのも!?」「夜中の二時に出掛けて、また戻ってきたのも」「電話だって急に途中で切り上げて消えたじゃないですか!?」「この前ずっと機嫌悪かったのも」一つずつ数え上げる泰圭を見て、成哲は呆れたように首を振った。基燦は、「はは……」と気まずそうに笑う。あの日、衝撃を受けて帰った相秀は、いまだに信じられずにいた。「世の中おかしくなったに違いない」そう言いながら、どれだけ道赫が怪しい行動をしても、無理やり別の理由を探して納得しようとしている。頭では全部分かっている。ただ、心が受け入れられていないだけだった。「十束集まったし、とりあえず送りますか」泰圭は花束の写真を十枚まとめ、道赫へ送信した。ほとんどがバラ中心の花束だ。正直、泰圭には全部同じにしか見えない。基燦も、色が少し違うくらいにしか思わなかった。二人とも、道赫だって大して変わらないだろうと思っていた。「……送り直せって」適当に一つ選ぶだろうと思っていた道赫は、花束選びだけは異様に真剣だった。別に細かい注文があるわけでもない。届いたメッセージは、たった一言。【もう一回。】泰圭はさらに人数を増やして指示を出す。今度は、さっきよりずっと種類の多い花束が集まってきた。黄色。ピンク。白。青。花の名前なんて相変わらず分からない。それでも、選択肢が増えたことには満足した。「……また送り直せって」
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第060話

「ちゃんと三千円ですよ」朱夏が何を考えているのか分かっているように、道赫はそう言った。朱夏は少し照れくさそうに、「ありがと」と返す。三千円だとしても、ここまで理想的な花束を見つけるのは、思った以上に時間が掛かったはずだ。「でも、ご主人様が持つと花まで照れてしおれそうですね」「そんなことも言えるんだ」せっかくの褒め言葉に、朱夏は少し驚いて聞き返した。別に考えてきた台詞じゃない。なのにそんな反応をされると、道赫は少し拍子抜けして笑ってしまう。朱夏が褒め言葉を素直に受け取らないことくらい、よく知っている。それでも、ここまで驚かれるとは思わなかった。「いつも『ちんこが破裂しそうです』とか、そんなことばっかり言ってるから、言えないと思われてたんですか」「最近、おべっか上手になったね」「本気ですよ」「はいはい」朱夏はまったく信じず、花へ顔を寄せて香りを確かめる。はっきりした香りはしなかった。それでも、男性から花を贈られたのは、高校の卒業式で父にもらった時以来だった。だから、悪い気はしない。道赫から見ても、朱夏はかなり気に入ってくれたように見えた。その様子を見て、彼は心の中でそっと安堵する。あれだけ悩んで選んだ花だ。喜んでもらえて本当によかった。「選ぶの大変だったでしょ」「思ったより気に入るのがなくて。四十個の中からやっと選んだんですよ」「花束四十個も見たの?」朱夏は目を丸くする。道赫は何でもないことのように答えた。「たぶん花屋を、ですね」「……え? "た
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