All Chapters of ボスの密やかな秘密 ~冷酷なボスは私にだけ甘すぎる~: Chapter 1 - Chapter 10

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第001話

 ジュハは、新学期初日からかなり酒を飲んでいた。 五年制の建築学科も、いよいよ最後の後期。 卒業制作の展示会も終わり、あとは卒業論文を書くだけ。 長かった学生生活も、ようやく終わる。 そう思うと、なぜだか無性に酒が飲みたくなった。 大学生活四年半の間、ここまで飲んだことは一度もない。 建築学科は酒を飲む人が多いイメージだったが、ジュハ自身は酒を好まなかったため、そこまで飲む機会もなかったのだ。 だから、その日の彼女は珍しく酔っていた。 道で大柄な男とぶつかったとき、何も考えず軽く頭を下げて謝ったのも、そのせいだった。「謝り方にしては、ずいぶん適当だな?」 そう言われ、ジュハは男をじっと見上げた。 初対面でため口か、と文句を言うには、どう見ても自分より年上だ。 もっとも、そんなことはどうでもよかった。 生まれてから今まで実際に見た人間の中で、  目の前の男が一番大きくて、一番整った顔をしていたからだ。「じゃあ、土下座でもしましょうか?」 どう見ても酔っている顔なのに、  目を細めて問い返す声は妙に冷たかった。 皮肉めいた言い方でもある。 怖いもの知らずな表情、声、態度。 酔えば誰だってそうなるものだ。 たとえ相手が彼だったとしても。 ドヒョクも、自分が少し酒を飲んでいたせいで余計な一言を口にした自覚はあった。 だから適当に流して立ち去るつもりだった。 ――そのはずだった。 しかし、足は動かなかった。 目の前の女と視線が合った瞬間、  何年も沈黙していた身体が反応を始めたからだ。 ドヒョクもまた、ジュハと同じように目を細める。 ジュハはその目をまっすぐ見つめ返した。 酔っているせいか、不思議と威圧感は感じなかった。「それで、どうしろって言うんですか?」 ジュハの声を聞きながら、  ドヒョクは彼女の背後へちらりと目を向けた。 重低音の音楽が鳴り響くクラブの前。 酔った口調や視線でなければ、  未成年と勘違いしていたかもしれない。 化粧っ気のない顔に、ラフな服装。 あまりにも幼く見えた。 周りに女と呼べる存在なんてほとんどいなかったが、 自分が思い描いていた「普通の女」とは、まるで違っていた。 少しだけ吊り上がった目尻は、  狐のようでもあり、兎のようでもある。 その不思議な顔には、  
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第002話

「まあ、この辺ならホテルなんていくらでもありますし」 この辺りはラブホテルだらけだった。 ドヒョクはジュハの言葉に、小さく周囲を見回す。 生まれながらの坊ちゃん育ちで、こんな場所に来たことは一度もない。 もっとも、今さら二人でタクシーに乗ってホテルを探すというのも、それはそれで妙な話だった。「ふーん」「手でしかしませんけど。  それでもいいなら」「……何?」 ずいぶんと肝が据わっていた。 自分より倍は大きな男に向かって言う言葉とは思えない。 世間知らずなのか。 それとも、何か根拠のない自信でもあるのか。 酒に酔っているはずなのに、その瞳だけは不思議なほど生き生きとしていた。 そんな目をしたまま、初対面の男をラブホテルへ連れ込み、「手だけで」と平然と言ってのける。 そのこと自体が、妙におかしかった。「俺も……  それがちょっと気になっただけだから」 そう言ってジュハは、ドヒョクの脚の間を指先でそっと示した。 ぴくり。 指されたそれが、また反応する。 今ここで引けば、すべてなかったことになる気がした。 だから、ドヒョクは引かなかった。 あとは部屋に入ってから口説けばいい。 そんな程度の話だ。 つまりこれは、ジュハが酔っていて、ドヒョクも少し酒が入っていたからこそ起きた、奇跡のような偶然だった。 どこから湧いたのかも分からない勇気に背中を押され、ジュハは本当にラブホテルの部屋へ入ってしまう。 素面だったら。 いや、一杯でも酒が少なかったら。 初対面の男と、こんな場所へ来ることなど絶対になかった。 どれだけ目の前の男が格好よくても。 ズボンの中の"それ"が、どれほど大きくても。 「脱いでください」「俺だけ?」「手でするって言いましたよね。  嫌なら別にいいですけど」  ここまで来て何を今さら。 そう思いながらも、ドヒョクは文句ひとつ言わず服を脱ぎ始めた。 そのときになって初めて、ジュハは彼がスーツ姿だったことに気づく。 路地が暗かったとはいえ、本来なら見落とすはずもない。 ただ、それどころではなかっただけだ。 シャツを脱ぐと、鍛えられた身体と無数の傷跡が現れた。 それを見ても、ジュハは緊張しなかった。 酒に酔っていたからだ。 ただ静かに、その身体を眺めていた。 ホテルへ来るまでに少し落
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第003話

「もう、今にもイきそうですけど?」「そんなわけない」 軽い挑発のつもりだった。 平然と言い返したつもりなのだろうが、その声は少しも格好よくなかった。 思った以上に震えていたからだ。 緊張しているようには見えなかった。 それでも、その声を聞いた途端、ジュハは少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。「そうですか?」 その一言が、ひどく挑発的に聞こえた。 どこまで耐えられるか試してみる、とでも言いたげに。 ドヒョクは少し意地になった。 だが、酒の入った身体は意思とは裏腹に勝手な反応を始める。 ここ数年、まともな性行為から遠ざかっていたせいかもしれない。 ――いや。 そんなものは、ただの言い訳だと本人が一番よく分かっていた。 酒を飲んだからといって、こんなことは今まで一度もなかった。 組の連中が陰で「あっちの方はサッパリらしい」と噂していることも知っている。 だが、誰に対しても欲情したことなどなかった。 数年前の経験だって、ほんの些細な好奇心からだっただけ。 本当に性欲がない人間なのだとしても、それで困ることはないと思っていた。 性欲がないこと自体は、不便でも何でもない。 そのぶん他のことに力を注げばいいだけだ。 ただ、その力を注ぐ相手が少し足りなかっただけで。 結局、ドヒョクは長くは耐えられなかった。 終わった瞬間、慌てて言い訳を並べ始める。 酒のせいだ。 今日は寝不足だったからだ。 ちゃんとすれば違う。 そんなふうに必死でジュハを引き止めようとしたが、彼女は「もう帰ります」と肩をすくめるだけだった。「頼む。 手でもう一回。 な? 今のはノーカウントだ」 その大きな身体で、どうしてこんなに情けないのか。 ジュハは少し呆れながらも、「分かりました」と小さく頷いた。 終わる前と後では、まるで別人だった。 怖そうだった刺青も。 大きな身体も。 低い声も。 もう何も怖くない。 最初は、男なんてみんなこれくらいで終わるものだと思っていた。 だが、ドヒョクがあまりにも騒ぐものだから分かった。 どうやら、かなり早くイってしまったらしい。 さっきは「何もしなければ半分くらいは保った」と言っていたくせに。 ジュハは先ほどより興味を失ったまま、どこか気だるそうに手を動かした。 その表情を見て、ドヒョクは思わず
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第004話

 ドヒョクは、その十一桁の電話番号をじっと見つめていた。 名前を登録しようにも、何と保存すればいいのか分からない。 昨夜は、酔い潰れるほど飲んだわけではない。 それでも朝になると、ようやく頭が冷えてきた気がした。 そもそも、なぜ番号を聞いたのか。 自分でもはっきり覚えていない。 あの女と、この先どうするつもりだったのか。 昨夜のことは、ちょっとしたハプニングとして終わらせればいい。 そう自分に言い聞かせながら、ベッドを降りた。 もしかすると、昨日を境に性欲が戻ってきたのかもしれない。「兄貴! いらっしゃいますか? 入ってもいいですか?」「何だ」 そのままシャワーを浴びようとしたところで、扉の向こうから声が聞こえた。「昨日、急にいなくなったじゃないですか。車もそのままでしたし……誰かが部屋に入ったとは聞いたんですが、戻られたか確認しに来ました」「タクシーで帰った。ちょうどいい。車を取ってきてくれ。鍵ならここだ」 ドヒョクは扉を開け、車のキーを放り投げた。 訪ねてきたソンチョルは片手で受け止めると、開いた隙間からしばらくドヒョクの様子を観察する。 見た限り、いつもと変わらない。 酒の席を抜け出したことなど今まで一度もなかったから不思議ではあったが、パンツ一枚で眠っていた身体にも新しい傷は見当たらず、表情も普段どおりだった。「分かりました」 そう言ってソンチョルは去っていく。 ドヒョクはシャワーを浴びながら、昨夜の出来事を思い返した。 あの女の声。 顔。 話し方。 そして、あの夜の空気まで。「あ……」 思わず股間へ目を落とし、すぐに顔を上げた。 やはり、おかしい。 主治医に診てもらうべきなのか。 それとも、あの女にも
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第005話

「どう? 家族の借金は少しあるけど、学校の先生だ。 悪くないだろ?」 何が「どう」なのか。 ドヒョクはソンミンの手から酒瓶を取り上げ、自分でグラスへ酒を注いだ。 そして、一気に飲み干す。 少し酒が入れば、昨夜と同じ状態になるかもしれない。 そんな考えが頭をよぎる。「今までとはちょっと違うタイプを集めてみたんだけど?」 だが、ドヒョクの隣へ座った相手は、目を合わせることすらできず小さく震えていた。 別にここで誰かと関係を持つつもりで来たわけではない。 ドヒョクはグラスを置き、小さく息を吐く。 一晩だけ。 それで確かめられれば十分だった。 彼は、自分をちらちらと窺っている者たちと、一人ずつ視線を合わせていく。「…………」 そのとき、ふと思った。 ――俺はここで、何をやってる。 昨夜のことは、ただのハプニングで終わらせると決めたはずだった。 それなのに、こうして確かめようとしている。 こんなことをするくらいなら、気になっている相手に電話をかけたほうが早かった。「ちょっと失礼」 ドヒョクは部屋を出ると、スマートフォンを取り出した。 そして、一日中頭から離れなかった十一桁の番号を押していく。 名前も登録しないまま、覚えてしまった番号を。 だが。 呼び出し音が鳴るより早く、その理由は分かった。 着信拒否されていた。「…………」 一日中悩んでいたことが、急に馬鹿らしく思えた。 どうせ最初から、繋がるはずなどなかったのだ。 ドヒョクはそのまま部屋へ戻ると、一直線にソンミンの前まで歩いていく。「な、何だよ?」 大柄なドヒョクに見下ろされ、ソンミンは思
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第006話

「ソンチョル」「はい、兄貴!」 突然名前を呼ばれても、ソンチョルは動じなかった。 いつものように、大きく威勢のいい声で返事をする。「片づけはどうなってる」「そ、それが……」 だが、その一言でソンチョルは固まった。 慌てて隣に座る者へ視線を送る。 何の片づけですか、とは聞けない。 かといって黙っているわけにもいかず、言葉を濁すしかなかった。 周囲へ必死に助けを求める視線を送るが、集まった誰一人として「片づけ」が何を指しているのか分からない。 結局ソンチョルは、おそるおそる聞き返した。「兄貴……何のことか、もう少し詳しく……」「ジジイがやってた仕事だ。 全部片づけろって言っただろ」 ソンチョルは数秒、ぽかんと口を開けた。 ドヒョクの言う『ジジイ』とは、祖父のことだった。 つまり、この組を作った初代組長である。 父親から組を継ぐことが決まった頃から、ドヒョクは昔ながらの仕事をすべて整理するつもりでいた。 時代は変わっている。 いつまでも昔と同じやり方ではいられない。 そう考えていたからだ。 一年ほど前、確かに部下たちへ命じた。 だが、その後一度も進み具合を確認しなかった。 一度も。 自分でも命じたことを忘れてしまうほどに。「あ、ああ……! そ、その件ですか! もちろん順調に進んでます! ははは……!」 ソンチョルはわざとらしく笑った。 どうせ今日を過ぎれば、また聞かれることなどない。 ここで正直に「何もやってません」と言うほど馬鹿ではない。 ドヒョクはその返事を聞くと、今度は別の名を呼ぶ。「テギ
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第007話

 オ・ジュハ。 二十三歳。 誕生日は十一月十七日。 現在、ハンソ大学建築学科五年制の最終学期。 卒業制作はすでに終え、卒業後は就職予定。 家族は両親と、高校生の妹が一人。 家族は地方に住んでおり、本人は大学近くのワンルームで一人暮らしをしている。 両親はごく普通の会社員。 どこにでもあるような身の上だった。 ただ事実を並べただけの紙切れ。 本来なら感情が入り込む余地などない。 それなのに、読み進めるたびにジュハの顔が浮かぶ。 あの気だるそうな表情が、目の前にちらついて離れなかった。「オ・ジュハ」 口に出して名前を呼んでみる。 心臓が、どくりと落ちた気がした。 思わず拳を握り締め、それからゆっくり開く。 ようやく血が指先まで巡ったような錯覚がした。 胸の奥を何かで引っかかれるような感覚もある。 どうしてこんなにも心が乱されるのか。 答えは、まだ見つからない。 ジュハを思い浮かべるだけで、呼吸まで乱れる。 息苦しいような。 不快なような。 それでいて、どこか震えているような気もする。 何が震えているのか、自分でも分からなかった。「……はぁ」 何度読み返しても、ジュハはどこにでもいる普通の女子大生だった。 ドヒョクが生きてきた世界とは、あまりにも遠い。 だからこそ、関わらないのが正しい。 このまま忘れてしまえば、それで終わる。 ずっとそう思っていた。 それなのに、紙から手を離せない。 ……どうかしてる。 そう思ったところで、ドヒョクは認めることにした。 もう狂っているということでいい。 いつだったのかは分からない。 だが、越えては
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第008話

「俺たち、いい感じだったじゃないか」『あなただけでしょう』 言われてみれば、その通りだった。 とはいえ、少し納得がいかない。 セックスを断ったのはジュハのほうだ。 二人で「よかった」と思う機会が、そもそもなかっただけなのだから。「今どこだ」 何を話せばいいのか分からなかったはずなのに。 気づけば、ごく自然に言葉が出ていた。 まるで昔から知り合いだったかのように。 その違和感は、向こうも感じたのだろう。 受話器の向こうは、また長い沈黙に包まれた。 背後のざわめきが聞こえていなければ、電話が切れたのかと思ったほどだ。『聞いてどうするんですか。 今、忙しいので』「言わなくても探せるけど」『……大学です。 来ないでください』 黙っていて勝手に来られるくらいなら、自分で言ったほうがまし。 そう判断したのだろう。 ドヒョクは、ジュハには聞こえないほど小さく笑った。「この番号、登録しとけ。 昨日のは仕事用だから」『昨日の番号で登録します』「そっちは着信拒否しただろ」『……解除すればいいだけです』「やっぱり着信拒否してたんだ」『…………』 また沈黙が流れる。 だからこそ、余計に会いたくなった。 今どんな顔で黙っているのか。 想像するだけでも楽しい。 きっと実際に見たら、もっと面白い。「今日は何時に終わる」『何がですか』「忙しいの」『卒業制作なので。 卒業しないと終わりません』 今日の何時、などという答えは最初から与えるつもりがないらしい。 どこまでも素っ
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第009話

 ジュハは、あの日のことを思い返しかけた。 だが、しょんぼりしたドヒョクの顔を見て、その思考を途中で止める。 正直、着信拒否までしたのだ。 まさか別の番号から連絡してくるほど執念深いとは思ってもいなかった。 忙しいからと適当にあしらえば、そのうち諦めると思っていた。 それなのに、大学にまで来た。 その時点で、考えを改めるしかなかった。 もっとはっきり断らなければ。「だから、おじさんともう会うことはありませんって」「一回食って捨てるなんて、ひどいじゃないか!」 ……このおじさん、本当に頭がおかしい。 ジュハは慌てて周囲を見回した。 幸い、こちらを気にしている人はいない。 だが、誰かに聞かれたら誤解されても仕方のない言い方だった。 一体どっちが誰を食い捨てたというのか。「いい歳した大人が何言ってるんですか? 一回手伝っただけでしょう。 そういうのは他でやってください。 私、卒業制作で忙しいんです」「ひどい。 俺はもう、ご主人様じゃないと駄目な身体になったんだ。 責任取ってよ」 気の強い口調も。 澄ました顔も。 それはもういい。 だが――"ご主人様"だけは理解できなかった。 誰が勝手にご主人様なんだ。 そう聞きもしないのに、ドヒョクは全部察したような顔で言う。「だって、俺の身体がご主人様にしか反応しないんだから。 それなら、ご主人様以外に何て呼べばいい? 俺の身体の主人になっちゃったってことだろ」 滅茶苦茶だった。 ジュハは短くため息をつく。 どうすれば、この男を諦めさせられるのか。 頭の中で必死に考え始めた。 だから何で酔った勢いで、見ず知らずの男なんか相手にしたの。 心の中で自分を責めながら、答え
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第010話

「あとどれくらい我慢すればいい?」「何をですか? 私じゃないとイけないんでしょう。 続けてください。 疲れ果てるまで。 それでも駄目なら、ご主人様でも何でも認めますから」「そんなことして、俺のが擦り切れたらどうする? ご主人様が責任取ってくれる?」「擦り切れる寸前でやめればいいでしょう。 うるさいから、さっさと始めてください」 ジュハは面倒くさそうに手をひらひら振った。 ドヒョクは素直に手を動かし始める。 言い訳なら、もういくらでも考えてあった。 あとはこの状況を楽しめばいいだけだ。 正直なところ、ジュハの顔を思い浮かべるだけで反応してしまうのに、その本人を目の前にして一人でするのだから、我慢できるほうがおかしい。 そんなことを考えているドヒョクを、ジュハはまるでどうでもいいものでも見るような目で見下ろしていた。 呆れているようにも見える。 生まれて初めて向けられる視線だった。 なのに、その目に見つめられるだけで、全身に電流が走るような感覚になる。 その痺れは、手の中まで伝わってくる気がした。 彼はあっという間に反応し、その先は真っすぐジュハへ向いている。 ジュハはさらに呆れたような顔になった。「一人でも十分やっていけそうですね。 そんなに簡単に反応するなら、私なんて必要ないんじゃないですか」 皮肉たっぷりの声だった。 ――やっぱりね。 そう言っているような響き。 どうしてそんなものにまで惹かれるのか。 ドヒョク自身にも分からない。 分かっていることは一つだけ。 彼女のすべてが、自分を狂わせるということ。 もう狂っているのだから、今さらだ。 そう思うしかなかった。「っ……ご主人様が見てるから…… 身体が言うこと聞かないんだ……
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