All Chapters of ボスの密やかな秘密 ~冷酷なボスは私にだけ甘すぎる~: Chapter 71 - Chapter 80

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第071話

「大したことじゃない。ただの噂だし。事実でもないんだから、腹を立てる必要ないと思って言わなかった」やっぱり。珠葉なら、そう言うと思った。こんなことを聞かされても黙っていた理由なんて、一つしかない。彼女は、自分自身の名誉なんて少しも気にしていない。あれだけ聞こえよがしに騒がれていたんだ。今日初めて耳にした話なわけがない。何日もそんな声を聞きながら、何事もなかったように大学へ通っていた。そのことを、自分は何も知らなかった。それが、たまらなく腹立たしかった。けれど。怒る相手は、決して珠葉じゃない。それくらい、道赫にも分かっていた。「何であれ、ご主人様の許可がなければ、俺は何もできません」「じゃあ、しなきゃいい」「他のことは考えなくていいです。せめて、俺の名誉だけは守ってください」もちろん、それは口実だった。自分の名誉なんて気にしない珠葉だからこそ、わざわざ持ち出した口実。彼は、ご主人様の許可がなければ動けない自分を知っている。だからこそ、理由が必要だった。珠葉はそっと下唇を噛む。大学にも通っていない彼に、守るべき名誉なんてあるのか。そんな考えが一瞬よぎる。けれど同時に。自分と同じように、彼まで「金で人を買った男」にされてしまったこと。そのことには、まったく思い至っていなかった。彼だって、何も悪くない。しかも、こうしてちゃんと許可まで求めている。たった一言。それだけでいいと言っている。難しいことじゃない。それでも。彼が何をするつもりなのか分からない以上、簡単には頷けなかった。「……暴力はダメ」「はい」返事は驚くほど早かった。まるで、その言葉を待っていたかのように。
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第072話

「ディルド代わりに使ってあげる」『……』受話器の向こうから返事はなかった。思わず笑いそうになる。いや、もう少し漏れてしまったかもしれない。その小さな笑い声を、道赫は聞いていたのかもしれなかった。それでも彼は、しばらく何も言わない。やがて、一段低くなった声が返ってきた。『土曜日……ですか? 十二時に?』いつの間にか。「ここは郊外だから、タクシーは家の前まで来ません」そう伝えるつもりだったことすら忘れていた。今、自分が何を考えているのか。それすらよく分からない。ただ、頭の中は真っ白だった。彼女の言葉を、本当に正しく理解できているのかさえ怪しい。それでも。――とても、とても大事なことを言われた。その事実だけが、頭に残っていた。「うん」『……分かりました。お待ちしています』土曜日まで、あと二日。その二日がどれほど長く感じられるのか。このときの道赫は、まだ知らなかった。ただ、きっと長い時間になる。そんな予感だけがあった。珠葉は電話を切ると、長く息を吐いた。本当にこれでよかったのか。そう自分へ問いかけても、すぐには答えが出ない。こんな勢いで決めるために、今まで引き延ばしてきたわけじゃない。それでも。さっきの道赫の反応を思い返せば、きっと後悔はしない。たかがセックス。珠葉はそうやって自分へ言い聞かせる。けれど、「たかが」の一言だけで納得できるほど簡単でもなかった。だからもう一度、道赫のことを思い浮かべる。どんな意味であれ。自分へ本気で向き合ってくれる、あの整った顔の男を。そして彼へ言った通り、自
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第073話

「人んちのボ……いや、代表のお名前を、そんな気軽に呼ぶもんじゃねぇよ」――やっぱり。あのバカ。人が来るって言ってなかったのか。珠葉の機嫌は一気に急降下した。この男は今、危うく「ボス」と言いかけた。そのうえ初対面の自分にいきなりタメ口。けれど珠葉はぐっと気持ちを抑える。怒られるべき相手は、こいつらじゃない。そう思った。「どうやって知ったのかは知りませんが、お引き取りください」「じゃあ、ここで合ってるってことね?」「だから、お帰りくださいって」こんな場所までタクシーで来る押し売りがどこにいるっていうんだ。珠葉は冷静に考えながらスマホを取り出した。あのとき会った"職場の人"たちの名前でも知っていればよかった。それもない以上、証明できそうなものは一つしか思いつかない。「これしか証明できるものないんだけど」「おじさん? それがどうし――」「……代表の番号じゃねぇか、それ」『おじさん』と登録された道赫の番号。そして何度も残っている通話履歴。二人は顔を見合わせ、小声で何か話したあと、結局また首を横に振った。「いや……どっかで名刺でも見て番号登録したのかもしれねぇし」「ちゃんと見て。こんなに何回も電話してるでしょ」「……いや、それでもな。うちの代表は、だからって家まで来れば会えるような人じゃねぇんだ」口調はさっきより少し柔らかくなった。それでも態度は頑なだった。珠葉は小さくため息をつく。道赫とのメッセージ履歴。あれを見せれば、自分たちの関係くらいすぐ証明できる。でも。あんな私的なやり取りを他人へ見せるなんて嫌だった。名刺には載っていない個人用の番号
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第074話

基燦は、そろそろ道赫に言われていた仕事をしようと門へ向かっていた。だが、まだ着く前に。炳浩と万植が、誰かを悪しざまに罵っている声が耳に入る。「世の中、とんでもねぇイカレ女っているもんだな」「誰の話です?」「いや、見た目は普通のお嬢ちゃんだったんだが、ボスの名前を平気で呼び捨てにしてよ。"最後のチャンス"がどうとか――」まだ約束の時間までは一時間ある。少し世間話でもしてから門へ行こう。そう思っていた基燦だったが、その話を聞いた瞬間、慌てて腕時計へ目を落とした。「……え? いつですか!?」「五分くらい前か?」「やべぇ……。どうしました? 中へお通ししましたか?」「はぁ!? 何でお通しするんだよ? 追い返したに決まってんだろ!」炳浩は呆れたように聞き返す。あんな小柄なお嬢ちゃんを、わざわざ"お通し"する理由がどこにある。どう見ても様子のおかしい人間だったのだから。だが、その返事を聞いた途端。基燦の顔から血の気が引いていく。ごくり、と唾を飲み込んだ。……何でこんなに早く来たんだ。まだ時間あるのに。まずは状況を把握しなければ。炳浩も万植も、珠葉のことなど知るはずがない。よりにもよって、この二人だった。きっと、ろくな口を利いていない。今日に限って道赫が仕事を理由に大勢外へ出してしまい、門番が足りなかったのが運の尽きだった。炳浩と万植は、大田の仕事を片づけたばかりで待機中だったのだ。「……くそっ。ボス、今どちらです?」「寝てるんじゃねぇか?」だから連絡がつかなかったのか。基燦は震える手を落ち着かせるように、大きく息を吸う。「タクシーで来られました?」「ああ。タク
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第075話

「朝から今まで、一度も連絡ひとつ寄こさなかった人?」「そ、その……兄貴が仕事の都合で朝方に寝ちゃって……。いえ、それより、その……申し訳ありません。俺が……」本当のところ、仕事だったのかどうかなんて基燦にも分からない。ただ必死で、自分のボスをかばっているだけだった。謝るべきなのは自分じゃない。それでも、とにかく頭を下げる。今この場で彼女の怒りを少しでも和らげられるのは、自分しかいないのだから。「私が門の人たちに『連絡してきたら二度と会えない』って伝えたのに、その人が今まさに電話してきてるんだけど?」珠葉は鳴り続けるスマホの画面を基燦へ見せる。基燦は心の中で悪態をついた。――あのクソ野郎ども……!伝言があるなら、真っ先にそれを伝えろよ!そう怒鳴って、頬でも引っぱたいてやりたかった。普段なら下剋上もいいところだ。だが、どうせこのあとボスに殺される身だ。今さら何の意味もない。「つ、伝言がうまく伝わってなかったみたいです……。本当に申し訳ありません」珠葉は、ひたすら謝り続ける基燦を見つめる。全部が全部、この人のせいじゃない。少し八つ当たりをしている気分になった。もちろん、任された仕事をちゃんとしていなかった基燦にも責任はある。彼が門で迎えてくれていれば。こんな長い塀沿いを、最悪な気分で歩き直すこともなかった。珠葉は冷え切った表情のまま電話へ出る。その声は、基燦の背筋が凍るほど冷たかった。「もしもし」『ご主人様……! 来られたんですね? 俺、昨日寝るのが遅くて……。いえ、それより伝えること全部伝えられてなくて、本当に――』慌て
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第076話

「……ご主人様、何ておっしゃってた?」「え、あ、その……何だったかな……。『今すぐここへ来て土下座しなかったら殺す』って……」「……くそっ」道赫は手近にあった服を掴み、慌てて着始めた。普段は下着一枚で寝ている。だから着替える時間すら惜しかった。部下たちは、まだ伝えなければならないことがあった。けれど。怖すぎて声が震える。ここまで怒った道赫を、最近の彼らは見たことがなかった。「あ! そ、その、それとボス……。『連絡も会いにも来るな』って……」その言葉に、道赫の動きが止まる。……連絡は、もうしてしまった。でも、ご主人様は電話には出てくれた。だったら、まだ完全に見限られたわけじゃないかもしれない。今から行って土下座すれば。許してもらえるかもしれない。「……そ、それを破ったら……二度と……会わないって……。これが……最後の……チャンスだって……」「……この、クソ野郎どもが……。こんな所までわざわざ来る客なんかそういるか? たった一人の客もまともに迎えられねぇのかよ……!」道赫は堪えきれず、二人の脛を蹴り飛ばした。顔は殴らない。もし珠葉が戻ってきたとき、目立つ傷なんてあってはいけない。それだけが、辛うじて残っていた理性だった。けれど。珠葉がどれほど冷たくなれる人なのか、一番よく知っているのも彼だった
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第077話

「言い訳はありません。全部、俺が悪いです」こういうときは、とにかく頭を下げるのが一番だ。道赫は少しでも彼女の機嫌を損ねないように。少しでも怒りが収まるように。ただ、それだけを考えていた。「もう二度と会わないって言ったのに、電話までしてきたよね?」「本当に申し訳ありません」部下が伝言を伝えなかっただとか。そんな言い訳をするかと思っていた。けれど彼は潔く謝るだけだった。その姿に、珠葉の怒りはほんの少しだけ和らぐ。彼はもう知っている。珠葉が、見苦しい言い訳を嫌うことを。何度も怒られたわけではない。それでも彼女の裁定はいつだって冷静で、容赦がなかった。「ふーん」「悪かったです」道赫は作戦を変えた。甘える。この作戦は大抵うまくいく。珠葉は思っているより、そういうのに弱いからだ。膝立ちのまま少し近寄り、彼女の太ももへ頬をそっと擦り寄せる。珠葉は指先で道赫の額を軽く押し返した。「坊や。本気でそれが効くと思ってるの?」「申し訳ありません。叱ってください。ね?」効かないと言いながらも。道赫には分かった。彼女の表情が少しずつ柔らかくなっていることが。だから、もう少しだけ甘えてみる。珠葉は少し考え込んだ。どう考えても、叱られるべきなのは道赫だ。本人も甘えながら「叱って」と言っている。もちろん叱るつもりではいる。でも、それだけじゃ終わらない。「でも、叱られるのはあんただけじゃないよね?」「……え?」「さっきのおじさんたち」「あ……」道赫は一瞬だけ言葉を失った。部下たちを彼女の前へ連れてきたくない。まし
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第078話

「ご主人様……」「静かに。あんた、この人がいなかったら最低でも二週間は会えなかったよ」「……はい」珠葉の言葉に、道赫は素直に口を閉じた。一週間くらいだと思っていた。まさか二週間も会えない予定だったなんて。もし本当に基燦がそれを止めてくれたのなら、感謝しなければならない。どうやって彼女の気持ちを変えたのか。それはあとで聞けばいい。「行って」「あ、ありがとうございます」基燦は深々と頭を下げ、本心から礼を述べると、振り返ることもなく逃げるように去っていった。庭に残ったのは、珠葉と道赫。そして炳浩と万植だけだった。珠葉は何事もないように彼を呼ぶ。「坊や」「はい、ご主人様」「……っ」もちろん。炳浩と万植にとって、その呼び方は初耳だった。唯一知っている基燦は、とっくに謝り倒して免除されている。二人は息を呑んだ。まだ、自分たちが何を見せられているのか理解できていない。「叱られないとね?」「はい、ご主人様。叱ってください」「部下の前で恥ずかしい?」「いいえ。ご主人様の命令なら、何であっても、誰の前であっても恥ずかしくありません」道赫はいつも以上に姿勢を正し、静かに、はっきりと言い切った。この機会に部下たちへ教えるつもりだった。誰が上なのかを。普段なら軽口の一つでも叩いただろう。だが今日は、それをしなかった。「うん。いい子。それに服は脱がせてないでしょ」「ご配慮、ありがとうございます、ご主人様」「坊やの体は、私だけが見ればいいから」……何をするつもりなんだろう。服を脱がせる?
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第079話

「悪いことしたなら、あんたたちも罰を受けるべきでしょ? 何言ってるの。座って、ちゃんと目を開けて見なよ。あんたたちのボスは、あんたたちのせいで私に叱られるの。それを最後まで見届けるのが、あんたたちへの罰」もちろん、一番悪いのは道赫だ。それは珠葉も分かっている。それでも。目の前で絶望している二人を、もっと絶望させるために。――全部、お前たちのせい。そう、わざと釘を刺した。そのほうがよく効くから。正直、最初はこんな罰にするつもりじゃなかった。ただ、ふと。これが一番効くだろうと思いついただけだ。実際、ここまで取り乱しているのを見ると。間違っていなかったらしい。……容赦ないな。道赫はそんな珠葉を見ながら、心の中だけで苦笑した。同時に少し安心もする。その鋭い刃が、自分へ向いているわけではなかったから。「俺たちが代わりに受けます! どうか許してください……!!」「お願いします……!!」「坊や。まだ部下の教育、ちゃんとできてないんだ?」目の前で部下たちが泣き叫んでいても。珠葉の表情はまったく変わらなかった。道赫は思う。これでは、どちらが組織のボスか分からない。そう思いながらも、部下たちを鋭く睨みつけた。集合の前に「ちゃんとしておけ」と釘は刺していた。だが、細かく説明する時間まではなかった。「申し訳ありません、ご主人様。この野郎ども、座れ。本当に――」「うぅ……ボス……! 本当に申し訳ありません! お願いします!」「俺たちなら一晩中しごかれても構いません! 何でもします!!」道赫の声を聞いた途端、二人は余
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第080話

「今からでもちゃんと座らないなら、あんたたちのボス、この土の上に頭までつけてもらうよ。それでもまだ口答えするなら、今度は下着まで全部脱がせるから。裸で叱られるところでも見たいみたいだし」「ひ、膝をついて……座っています……!」「ちゃんと……座っています……!」「しっかり見ています……!」この場で白道赫を“全部”脱がせられる存在。どれだけ懇願しても、それ以上の罰となって返ってくるだけの人。表情ひとつ変えず、淡々と不機嫌そうに口にするだけなのに、背筋が凍るほど恐ろしかった。さっき道赫が走っていったあと、基燦が「あの人は人じゃない何かを見ているみたいだった」と言っていた。あんな小柄な女の子相手に、大げさだと思っていたのに。今なら、その意味がよく分かった。「じゃあ始めて、坊や。さっき考えてた回数の倍ね」「一。ご主人様、申し訳ありませんでした」珠葉の言葉に従い、道赫は腕立て伏せを始める。数を数えながら、言われた通り反省の言葉も口にした。この程度は、彼にとって何でもない。部下たちも、それくらいは分かっている。衝撃を受けているのは、自分たちのせいでボスが罰を受けているという、その事実だった。珠葉が来るまでは、この場所で絶対だったのは道赫だ。唯一無二の存在と言ってもよかったのだから。「うっ……」「二。ご主人様、申し訳ありませんでした」「ひっ……」「三。ご主人様、申し訳ありませんでした」淡々と罰を受ける道赫の声に混じって、すすり泣く声が何度も聞こえてくる。「……っ」「さっきから泣いてるの、誰?」
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