責任だからか。 病んだ妻を見届ける義務だからか。 いや、それだけではないだろう。 では、何だ。 愛しているのか、と問われたら、いまのヴィルレオはもう否定しきれなかった。否定しきれないどころか、その言葉を胸の内で転がすたび、遅すぎるほどにしっくりきてしまう。彼女がいなくなった屋敷は、どこもかしこも少しずつ息が浅い。食卓も、寝室も、帳簿も、香りも、人員配置も、全部がずれていて、そのずれを見つけるたび、自分は彼女の不在だけを思い知らされる。 それを愛ではないと言い張るのは、もう無理があった。 だが、今さらその言葉を握りしめて南へ向かうことが、果たして彼女のためになるのか。 彼女ははっきり言った。 あなたの愛など要りませんので、と。 その声音は怒りでもなければ、当てつけでもなかった。もっと静かで、もっと決定的だった。いまさら受け取れば、足りないまま死ぬのがつらいから。好きだからこそ、飢えたまま死にたくないから。そう言っていた。 ならば今、自分が南へ行くことは、その飢えをまた呼び起こすだけではないのか。 会わないことが優しさなら、追わないほうがいいのかもしれない。 だが、その理屈をどれだけ整えても、体はまったく納得しなかった。 追わないでいられるほど、自分は冷静ではなかった。 追わねばならぬほど、彼女はもう遠くなりかけている。 それだけだった。 後悔か、と問う。 たしかに後悔はある。痛いほどある。もっと早く見ていれば。もっと早く声をかけていれば。もっと早く、彼女が食卓で何を感じていたのか考えていれば。そんな“もっと”が無数にある。 だが、後悔だけでここまで足は動かないだろうとも思う。 責任か、と問う。 妻だから。病んでいるから。自分が支えるべき相手だから。もちろんそれもある。だが、責任だけなら王都の屋敷にいながら医師とアイダへ指示を送り続けるだけで足りる。こうして自分で行く必要はない。 執着か、と問う。 その語がいちばん近いようで、いちばん言いたくなかった。執着と言ってしまえば、彼女の人格よりも、自分が失いたくないものへしがみついているだけのような響きになる。だが実際、そういう醜さが自分の中にあることも否定しきれない。 愛か、と最後に問う。 胸の中でその言葉を転がすと、そこだけは奇妙なほど静かだった。否定しなくてもいいのだと
Terakhir Diperbarui : 2026-08-08 Baca selengkapnya