「……今日も、外へ出られるかしら」 何気なくそう言うと、アイダは一瞬眉を上げ、それから苦笑した。「先生にお訊きしてからでございます」「そうでしょうね」「でも、昨日ほどお疲れは見えません」 その言葉に、胸の奥で小さな灯りがともる。 無理は禁物だとわかっている。わかっているが、こうして身体が少しだけ持ち直す気配を見せると、また何かをしたくなる。大きなことではない。ただ庭へ出て、風に触れ、少しだけ土の匂いを吸い、咲いていくものを眺める。それだけでよかった。 ◇ 午前中、診察に来たクレメンス医師は、聴診器を当てながらやや慎重な顔をしたものの、最終的には「今日も短い時間なら外へ出てもよろしいでしょう」と言った。「ただし、立ちっぱなしは駄目です。昨日より少し風がありますから、日向で、座っていられるように」「はい」「咳が増えたらすぐ中へ」「はい」「それから」 医師は少し間を置いて、眼鏡の奥から彼女を見た。「今日は“何かをする”より、“ただ外にいる”ことを覚えてください」 その言葉に、リュゼリアは目を瞬いた。 ただ外にいる。 花を植えるでもなく、歩き回るでもなく、見て、吸って、座っているだけ。 そんなことが“覚える”対象になるのかと、一瞬不思議に思う。だが、自分がまさにそれを知らずに生きてきたことも、すぐ理解した。「……努力いたします」 そう答えると、医師は小さく頷いた。「努力しすぎぬように」 やわらかな釘だった。 リュゼリアはその言葉を胸へしまいこみ、昼前の陽が少し高くなったころに、アイダに付き添われて庭へ出た。 昨日と同じ南側の花壇。石垣に守られた陽だまり。今日の風はたしかに昨日より少しだけ強いが、そのぶん空がよく晴れていて、土の匂いが乾いた草の香りと混じっていた。 花壇の前には、もう苗を植えるための道具はなく、かわりに低い籐椅子が二つと、小さな卓がひとつ置かれている。ミナが気を利かせて、薄い毛布と温かい茶の用意までしてくれていた。「今日は、眺める日でございますよ」 ミナがそう笑い、リュゼリアも頷く。「ええ。今日は眺めるだけ」 椅子へ腰を下ろすと、昨日植えた苗がちょうど目の高さに入った。白いマーガレットの葉は、昨日よりほんのわずかにしゃんとして見える。青いネモフィラは風に頼りなく揺れていたが、根元の土はしっか
Terakhir Diperbarui : 2026-07-29 Baca selengkapnya