朝の光が、今日は少しだけやわらかかった。 前日までの白く乾いた光とは違う。冷たさはまだ残っているのに、窓辺へ落ちる色の奥へ、かすかな蜜のようなぬくもりが混じっていた。南の別邸へ移ってから三日目の朝。リュゼリアは長椅子の上で毛布を膝にかけ、開いたままの本を手元へ置きながら、その光をぼんやり眺めていた。 ここへ来てから、朝の時間は不思議なほど長くなった。 王都の屋敷にいた頃は、目を覚ました瞬間から一日の輪郭が先に決まっていた。何時に起き、何を着て、誰と会い、どの書類へ目を通し、どの客へ返書を送り、どの部屋へ花を替えさせるか。何もかもがすでに自分を待っていて、寝台の中でさえ、心だけが先に食堂や執務室へ向かっていた。 だが、ここでは違う。 朝はただ朝としてやってくる。 まだ温まりきらぬ空気。湖の水の匂い。湿った土の気配。遠くで鳴く水鳥の声。窓の外の低木を渡る風の細い音。それらが、誰のためでもなく、ただそこにある。 最初の朝は、その名前のない静けさが落ち着かなかった。誰の顔色も窺わずにいていいことが、かえって恐ろしかった。だが三日目の今朝は、その落ち着かなさが少しだけ変わっていた。まだ完全に慣れたわけではない。それでも、静けさがただの空白ではなく、自分の呼吸を取り戻すための場所なのかもしれないと、ようやく思えるようになっていた。 窓の外には、小さな庭が見える。 王都の屋敷の庭とは比べものにならぬほど控えめな庭だった。きっちりと幾何学に整えられた花壇も、季節ごとに色を変える温室も、噴水もない。低い石垣に囲まれた土の区画がいくつかあり、館の壁際には若いハーブの列が並び、奥のほうにはまだ葉の少ない果樹が二本ほど立っている。庭というより、暮らしのための小さな畑と花床を、きちんと整えて人目にもやさしくしたような場所だ。 けれどその素朴さが、リュゼリアは少し好きだった。 ここでは花も、見せるためだけではない。香りを楽しみ、乾かして薬へ使い、食卓へ添え、窓辺へ飾り、季節の移ろいを知るために咲いている。王都の温室で咲く花たちのように、社交の場で人の目を奪うために磨きあげられた美しさとは違う、生きることの延長にある花だった。「奥様」 薬の入った小さな盆を持って、アイダが寝室へ入ってくる。「お目覚めでいらっしゃいますか」「ええ、とっくに」 そう返すと、アイダは
Terakhir Diperbarui : 2026-07-24 Baca selengkapnya