《誕生日の夜、恋人と家族に見捨てられ、偽物の姉に人生を奪われた本物の令嬢は、復讐のために生き直す》全部章節:第 61 章 - 第 70 章

109 章節

第61話

深夜、九条家の書斎。 修の目の前のデスクには、三つのファイルが整然と並べられていた。 数日間にわたる調査を経て、九条家の調査部門が望月鷹斗に関する第一次報告書を提出してきたのだ。 報告書A:某私立大学MBA夜間コース学籍照会結果――『該当者なし』。 修の口元がわずかにつり上がる。 学歴詐称。やはりあいつは詐欺師だったか。 報告書B:望月鷹斗。母子家庭。母親は望月葵、四十三歳。職業記録では某クラブ勤務のホステス。 修の瞳がわずかに細くなる。 母子家庭、水商売の母、貧しい生い立ち――彼が思い描いていた「詐欺師像」に、寸分違わず当てはまっていた。 報告書C:身元調査。望月鷹斗の戸籍異動、出生証明書、小学校から高校までの学籍には異常なし。しかし十九歳から現在まで、経歴に明らかな空白期間が存在する。正式な就労記録は確認できず、三か月前にヒマワリ森沢へ介護士のアルバイトとして勤務を始めるまでの足取りは不明。 修は三つの報告書を机に叩きつけ、目の前に立つ調査部門の責任者へ言い放った。 「詐欺師だ。間違いなく詐欺師だよ。学歴を偽り、経歴は不明、母親は夜の街のホステス。そのうえ高級介護士を装って身寄りのない老人に近づいている。これが詐欺師じゃなかったら何なんだ」 責任者は眉を寄せた。 「坊ちゃん、現時点では彼が詐欺行為を行ったという具体的な証拠は確認できておりません。被害届もなく、金銭トラブルもなく、苦情の記録すらありません。学歴や家庭環境だけで詐欺師と断定するのは難しいかと」 修は鼻で笑った。 一語一語を噛み潰すように言う。 
last update最後更新 : 2026-07-21
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第62話

澪はというと、利弘が手を出す前に病院の警備員へ通報したり、廊下には監視カメラがあることをさりげなく告げたりする役目を担っていた。 そんなやり取りが何度か続くうちに、利弘も分が悪いと悟ったのか、次第に病院へ姿を見せる回数は減っていった。 その一部始終を、理奈はすべて見ていた。 彼女は一度も「ありがとう」と口にすることはなかった。 それでも、二人に対する態度は少しずつ柔らかくなり、やがて自分から部活の様子を尋ねるようにまでなった。千尋がしどろもどろになりながら答えても、以前のように苛立つことはなく、最後まで辛抱強く耳を傾けてくれる。 もともとは赤の他人だった三人は、この数日間を通して少しずつ距離を縮めていった。 退院の日。 理奈は病院の正面玄関に立ち、大きく深呼吸をした。 振り返ると、後ろにいる澪と千尋を見て、ぱっと笑う。 「あー、息が詰まりそうだった!ねえ、焼肉でも食べに行かない?」 千尋は目を丸くした。 「退院したばかりなのに、もう焼肉ですか?」 「病院のご飯がまずすぎて、豚の餌かと思ったわ!ずっと我慢してたんだから。ほら、行くわよ。今日は私のおごり!」 理奈は二人が断る暇も与えず手を挙げてタクシーを止め、そのまま二人を引っ張るように乗せてしまった。 焼肉店は病院からそれほど離れていなかった。 商店街の二階にある店で、暖簾をくぐった途端、炭火で焼ける肉の香ばしい匂いがふわりと鼻をくすぐる。 席に着くなり、理奈は牛タンを三人前、カルビを二人前注文した。 「先輩、
last update最後更新 : 2026-07-22
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第63話

「つまり……A子は嵌められたってことか。彼女を嵌めたのは……」 千尋はそこで言葉を切った。その名前は、もう口にするまでもなかったからだ。 理奈はグラスの烏龍茶を一気に飲み干し、顔を上げて澪を見つめた。 「公開処刑みたいな告発に、根も葉もないでっち上げ……このやり方、どこかで見覚えない?澪が演劇部でやられたことと、まるっきり同じじゃない」 それを聞いた千尋は、ぎゅっと拳を握り締めた。 「僕、校内SNSに書き込んでくる!澪のために、あの噂は全部嘘だって説明する!」 しかし、澪は静かに首を横へ振った。 「無駄よ。噂話が好きな人たちは、最初から真実なんて求めていないもの。興味があるのは、どれだけドロドロしていて、どれだけ刺激的な話か、それだけよ」 千尋は焦りを隠せなかった。 「じゃあ、どうするんだよ?何もしないまま、やられっぱなしなんて駄目だろ?」 理奈も真剣な面持ちで澪を見た。 「澪、どうするつもり?あの女がこれで引き下がるとは思えないわ。絶対まだ、とんでもない切り札を隠してるはずよ」 澪はゆっくりと焼き上がった肉を理奈の取り皿へ取り分けながら口を開いた。 「もちろん、黙ってやられる筋合いはないわ。でも気づかなかった?A子の件も、演劇部の件も……綾音って、いつも自分だけは一番安全な場所にいるの」 千尋は頬を膨らませながら勢いよくうなずいた。 「そうそう!僕もそう思ってた。汚れ役も面倒なことも全部他人に押しつけて、自分だけは綺麗なところに隠
last update最後更新 : 2026-07-22
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第64話

綾音は照れたように甘えた声でたしなめ、それから今初めて澪に気づいたように振り返り、にっこりと笑った。 「もう、お母様ったら。まだ何も決まっていませんわ。それより今回、澪にも大事な役をいただけるようにお願いしておいたんですよ」 深雪も澪へ目を向けた。 「澪、せっかくのチャンスなんだから、ちゃんと頑張りなさい。運が良ければ芸能界の大物の目に留まるかもしれないわよ」 澪は淡々とした表情のまま答えた。 「芸能界には興味ありません」 その一言で、リビングの空気が一瞬にして静まり返る。 澪は三人を一瞥することもなく、そのまま真っすぐ物置部屋へ向かって歩き出した。 昴は手にしていた新聞を下ろし、鋭い目で彼女を睨みつけた。 「止まれ。こっちへ来い。お前が何に興味を持っているのか、聞かせてもらおう」 澪は数秒黙った後、振り返って数歩近づいた。 「私はただ、一生懸命勉強して、いい大学に入りたいだけです」 昴は鼻で笑った。 「大学だと?お前が?学年百位に入ったくらいで、自分は大したものだとでも思っているのか」 澪は何も答えなかった。 昴は新聞をローテーブルへ叩きつけた。 「綾音がお前のためにわざわざ機会を作ってやったというのに、感謝するどころか恩を仇で返すとは!稽古にかこつけて綾音をいじめるなど、神崎家からこんな恩知らずの屑が出るとはな!」 「いじめてなんか――」 「口答えするな!」 昴は勢いよく立
last update最後更新 : 2026-07-23
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第65話

昴は、澪がここまで頑なに反抗するとは思ってもみなかった。 一見か弱そうに見えるこの娘は、竹刀で十数回も打たれ、下唇を噛み切って血を流しながらも、最後まで一度たりとも悲鳴を上げなかった。 ましてや、土下座して謝るなどあり得るはずもなかった。 昴も打つ手を失い、結局、屋敷の西側にある離れへ澪を軟禁するしかなかった。食事は与えず、学校へも行かせない。反省して謝る気になったら出してやる――そういうつもりだった。 深雪は見かねて二人を取りなそうとしたが、父娘は意地の張り合いのように、どちらも一歩たりとも譲ろうとしなかった。 それ以上何も言えなくなった深雪は、翌日の昼、人目を避けて鈴を廊下の角へこっそり呼び出した。 そして千円札を握らせると、外のコンビニで食べ物を買い、誰にも気づかれないよう澪へ届けるよう頼んだ。 もともと澪に同情していた鈴は、もちろん二つ返事で引き受けた。 その夜、屋敷中が寝静まった頃、鈴は人目を忍んで離れへ向かい、昼間買っておいたおにぎりやパン、サンドイッチ、水を窓の隙間から差し入れた。 そして夜明け前、まだ薄暗いうちに再び離れを訪れ、食べ終えたゴミを回収して屋外のゴミ捨て場へ捨てた。 そんな日々が三日続いた。 昴は、さすがの澪もそろそろ限界だろうと考え、円香に離れの様子を見に行かせた。 その日の早朝、離れへ向かった円香は、ちょうど鈴がビニール袋を提げて外へ出てくるところに鉢合わせた。 「待ちなさい。何をしているの?」 鈴の肩がびくりと震えた。 円香は数歩後ろに立ち、狐のように目を細めながら、鈴を頭の先から足元までじろじろと眺め回した
last update最後更新 : 2026-07-23
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第66話

昴が二階の主寝室へ踏み込んだ時、深雪はちょうど浴室から出てきたところだった。 濡れた髪を肩に垂らし、無地のナイトガウンを羽織っている。 「ずいぶんと肝が据わったものだな」 部屋へ入るなり、昴は有無を言わせぬ口調で詰め寄った。 深雪は突然のことに目を丸くした。 「あなた……急にどうなさったの?」 「誰の許しを得て、毎日澪に飯を運ばせている」 深雪は一瞬きょとんとしたが、すぐに何が起きたのか悟った。 「昴、違うの。話を聞いてちょうだい――」 「話だと?何をどう言い訳するつもりだ!」 予想どおりの反応に、昴は怒りで全身を震わせた。 「深雪、お前は俺の目が節穴だとでも思っているのか。俺の目の届く場所でこんな真似をしておきながら、一生バレないと本気で思っていたのか!」 深雪はなおも必死に説明しようとした。 「昴、お願いだから落ち着いて。そんなつもりじゃないの。ただ、同じ家族として、一つ屋根の下で暮らしている以上――」 「何が家族だ!誰があの小娘と家族だと言った!」 昴は深雪の手首を乱暴に掴み、そのまま壁際へ突き飛ばして、自分の体で逃げ道を塞いだ。 「深雪、お前が一番よく分かっているはずだ。あの小娘は俺の血など一滴も引いていないとな。 胸に手を当てて考えてみろ。俺に逆らってまで澪を庇うのは、あの小娘が可哀想だからか? それとも――あいつが、お前の想い人の血を引いているからか!」 
last update最後更新 : 2026-07-24
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第67話

澪は離れに三日間閉じ込められ、学校も三日続けて無断欠席していた。 その三日間、修は毎日演劇部で日が暮れるまで澪を待ち続けた。しかし、彼女の姿は影も形もなかった。 最初は約束をすっぽかされたのかと思っていたが、綾音に尋ねて初めて、澪が父親の逆鱗に触れ、自宅で謹慎させられていることを知った。 修は居ても立ってもいられず、綾音について神崎家へ様子を見に行くことにした。 綾音は断らなかった。 神崎家へ向かう車中、彼女は終始積極的に修へ話しかけていた。 演劇部の稽古の進み具合、学食に新しく登場したスイーツ、新調したスカートの話――。 その一つ一つが、修の意識を「澪」という存在から逸らそうとする、計算づくの話題だった。 しかし、修の上の空な様子は隠しようがなかった。 彼は前方の道路をぼんやり見つめ、膝の上で苛立たしげに指先を打ちながら、綾音の話にはどれも生返事しか返さなかった。 神崎家のリビングへ入るや否や、綾音は円香を呼び、新茶を淹れるよう命じた。 「修、このお茶を召し上がってみてください。極上の玉露ですのよ――」 「澪はどこだ」 修は彼女の言葉を遮り、単刀直入に尋ねた。 ティーカップを差し出そうとしていた円香の手が宙で止まり、綾音の笑顔も一瞬だけ強張る。 だが次の瞬間には、何事もなかったように優雅な微笑みへ戻っていた。 「お父様が離れで反省させておりますので、今は少々お会いになるのは難しいかと――」 「離れはどこだ」 「修、ま
last update最後更新 : 2026-07-24
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第68話

修は眉をひそめ、一歩前へ踏み出す。古びた床板がぎしりと軋んだ。 「三日も学校を休んだから、何かあったのかと思ってな」 修は澪の顔をじっと見つめた。 差し込む夕日が赤く潤んだ目元を照らし、その姿はどこか儚く、思わず守ってやりたくなるほど弱々しく見えた。 その瞬間、胸の奥を見えない手で強く鷲掴みにされたような感覚が走る。 修は小さく喉を鳴らし、必死に言葉を探した。 何とか慰めようとして、ようやく口を開く。 「事情は全部綾音から聞いた。演劇部の件は、もともとはお前にも落ち度があったんだろ。綾音に頭を下げて謝れば、それで済む話じゃないか。どうしてわざわざ……自分をそこまで追い詰めるんだ」 澪は修を見つめ、皮肉げに口元を歪めた。 「今でもまだ、私が綾音をいじめたと思ってるの?」 修は苛立たしげに前髪をかき上げた。 「そんなこと言ってないだろ!お前がわざとやったんじゃないことくらい分かってる!あれはただの事故だ。悪気のないミスで――」 「あれは事故なんかじゃない!」 澪は堪えていたものが切れたように、修の言葉を遮った。 その瞳には冷え切った怒りが宿る。 「あれは綾音が周到に仕組んだ罠よ。あの人がわざと私を陥れたの」 修は、冗談でも聞いたように鼻で笑った。 「陥れた?綾音が? 何のためにだよ。わざわざお前を陥れて、あいつに何の得がある? お前たちは姉妹だろ。家族じ
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第69話

空気が、一瞬にして凍りついた。 澪は聞き間違えたのかと思い、もう一度問い返した。 「……今、何て言ったの?」 「だから」 修の声は先ほどより落ち着いていた。その響きには、どこか開き直ったような覚悟さえ滲んでいる。 「俺の彼女になれって言ってるんだ。親父さんには俺から話をつけてやる。あっちのことは、全部俺に任せろ」 そう言い切ると、修はわずかに口角を上げた。 まるで、相手から感謝の言葉が返ってくるのを待っているかのようだった。 だが澪は、道化でも見るような冷めた目で彼を見つめると、ただ一言だけ返した。 「寝言は寝て言って」 修は苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。 だが、その反応も想定内だったのか、怒りを爆発させることはなく、代わりに別の条件を口にした。 「いいだろう。彼女になるのが嫌なら、一回だけキスさせろ」 両手をポケットへ突っ込み、どうでもいいことのような態度で続ける。 「どうだ。これくらいなら簡単な条件だろ」 今度は、澪はすぐには拒まなかった。 眉をきつく寄せ、何かを秤にかけるように黙り込む。 「三つ目の選択肢はないの?」 「ないな」 修は数秒待っても彼女が決断できずにいるのを見て、肩をすくめた。 「断るのは自由だ。でも、お前がこのままここに閉じ込められてたら、演劇部の稽古にも行けないし、あの療養施設の
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第70話

修はゆっくり顔を近づけ、その唇を塞いだ。 ずっと焦がれ続けてきたものを、ようやく手に入れた。その柔らかく甘い感触に、理性が揺らぐ。 最初は、軽く触れるだけのキスだった。 だが次の瞬間、さっき読んだ手紙の内容が脳裏によみがえった。無意識のうちに、力が入る。 修は大きな手で澪の後頭部を掴み、自分の胸元へ強く引き寄せた。指先が髪の奥へ滑り込む。 澪の身体がびくりと強張った。 これは、彼女が理解していた「一回だけのキス」ではない。 修は明らかに約束の一線を越えていた。 澪は彼の胸を押し返そうとした。 しかし、その身体は壁のようにびくともしない。 「修……もういいでしょ……!」 澪は耐え切れず声を上げた。 だが言い終わるより早く、乱暴に床へ押し倒されていた。 背中が畳へ叩きつけられ、鈍い音が響く。 その拍子に段ボール箱が倒れ、中の便箋が床一面へ散らばった。 修の全身から、獣じみた荒々しい気配が立ち上っていた。 彼は有無を言わせず澪の両手首を頭上で押さえ込み、足をばたつかせて抵抗する彼女を意にも介さず、その唇を再び塞ぐ。 抗議の声は喉の奥へ押し込められた。 暴君のような唇と舌が、彼女の歯列をこじ開け、貪るように唾液を奪っていく。 その瞬間――。 舌先へ鋭い激痛が走った。&nbs
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