「それはこっちのセリフだ」 修の表情が一気に険しくなった。 隣に立つ佐藤へ顔を向ける。その声には、抑え込んだ怒りがにじんでいた。 「佐藤、どういうことだ」 佐藤は澪の姿を見た途端、あからさまに動揺した。 手に持っていた台本を無意識のうちに丸め、何度も強く握り締める。 「えっと……利弘くんが、理奈さんがヒロインをやってくれるって言うから、それで……」 「だからって、約束を反故にするのか」 修の声が鋭く響き、佐藤はびくりと肩を震わせ、一歩後ずさった。 「しゅ、修さん……」 利弘はパイプ椅子から立ち上がると、取り繕うような笑みを浮かべた。 「俺が勝手にやったことっすよ。佐藤さんには関係ないっす。演劇部の舞台で人手が足りねえって聞いたから、理奈を連れてきて力になろうと思っただけで、別に他意はないっす」 「お前に聞いていない」 修は利弘を一瞥することすらなく、氷のように冷たい声で言い放った。 利弘の顔から血の気が引いた。 それでも彼なりの意地がある。無意識に理奈の手首を掴み、小声で言った。 「理奈、帰るぞ。こんなくだらねえ舞台劇なんかやる必要ねえよ。うまいもんでも食いに行こうぜ――」 「帰るわけないでしょ」 理奈の声は、鋭く部屋に響いた。 彼女は一歩前へ踏み出す。
最後更新 : 2026-07-11 閱讀更多